カラマーゾフの兄弟:現代の日本舞台に続編小説

毎日新聞 2014年07月28日 11時51分(最終更新 07月28日 12時19分)

ドストエフスキー
ドストエフスキー
「新カラマーゾフの兄弟」を執筆した亀山郁夫学長=愛知県日進市の名古屋外国語大で2014年7月16日、大野友嘉子撮影
「新カラマーゾフの兄弟」を執筆した亀山郁夫学長=愛知県日進市の名古屋外国語大で2014年7月16日、大野友嘉子撮影

 ◇著者は新訳で評判の亀山郁夫・名古屋外国語大学長

 ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」の新訳などで知られるロシア文学者、亀山郁夫・名古屋外国語大学長が今月、現代の日本を舞台にした同書の続編小説「新カラマーゾフの兄弟」の第1部を、文芸誌「文芸」(河出書房新社)に発表した。亀山学長は「ドストエフスキーが最後にたどり着いた世界観を、どう追究できるか考えながら書いた」と話し、未完の傑作をよみがえらせた。

 ドストエフスキー晩年の長編小説「カラマーゾフの兄弟」が書かれたのは、皇帝暗殺を狙うテロが横行した19世紀末のロシア。父親殺しをテーマに、カラマーゾフ家の父親の殺人事件を中心に展開する。続編として、「民衆の父」である皇帝の暗殺か暗殺未遂事件を書くつもりだったとされるが、亡くなったため世に出なかった。

 亀山学長は、2006〜07年に出版した新訳がベストセラーになり、ロシアのプーシキン・メダルを授与された。自身初の小説「新カラマーゾフの兄弟」は、バブル経済崩壊を経て、阪神大震災とオウム真理教による地下鉄サリン事件で混迷する1995年の日本を舞台にした。亀山学長は「19世紀末のロシアの世相と似ている」と説明し、テロリストが相次いで逮捕されたドストエフスキーの時代と95年の日本を重ね合わせた。

 また、登場人物の性格や境遇も大きく変えた。注目されるのは父親像の違いで、野蛮で抑圧的なドスエフスキー作の父親を、小説では紳士のビジネスマンに仕立て上げた。父権が失われた現代の憎むべき父親像を模索したという。亀山学長は、20代から追究してきた「無関心」というテーマを小説の核とし、「一見すると優しく温厚だが、実は他者の痛みに対して無関心な父親の冷徹さと残酷さを表現した」と話している。

 小説は、父親殺害後の兄弟の13年後をたどった「黒木家の兄弟」と、亀山学長自身の半生をモチーフにした「Kの手記」の二つの話が同時進行で展開し、やがて交差する。全4部構成。地下鉄サリン事件から20年を迎える来春、完結する予定。【大野友嘉子】

 ◇ドストエフスキー

 19世紀のロシアを代表する小説家。人間内面への深い洞察や鋭い心理描写により、現代にいたるまで世界の文学に強い影響を与え続けている。「カラマーゾフの兄弟」「罪と罰」「白痴」「悪霊」などの長編が代表作。

最新写真特集