製薬会社と医師、病院のもたれ合いは深刻な問題である。患者と国民を食い物にする癒着を断ち切る方策が必要だ。

 製薬大手ノバルティスの高血圧治療薬ディオバンをめぐる論文不正問題で、東京地検は会社と元社員を起訴した。

 会社ぐるみの不正だった疑いがきわめて濃厚になったが、起訴の罪名は薬事法の虚偽広告などでしかなく、罰則も軽い。

 会社は不正で巨利を獲得し、医師らにもその一部が回る。そうした構造を土台から崩す仕組みづくりを、厚生労働省を中心に急がねばならない。

 製薬会社による研究不正は、次々に明らかになっている。

 国内トップの武田薬品工業は高血圧治療薬の臨床研究に、組織的に不適切な関与をしていたと発表した。研究結果と異なる学会発表資料をまとめ、販売の宣伝に転用していた。

 協和発酵キリンも貧血治療薬の臨床研究で、販売促進の目的で研究計画をつくったり、データを解析したりしていた。ブリストル・マイヤーズ社員による不適切な関与も見つかった。

 ひとを対象にした臨床研究で不正をし、製品を不当に売り込むのは、患者に対する裏切りであるだけでなく、健康保険の財政を傷める。つまり国民からの詐取行為といっていい。

 最も注意を要する個人の病気に関する情報が、製薬会社側に漏れていたケースもあった。

 なのに、同時に得た大量の副作用情報は、厚労省への報告義務を無視していた。社会的倫理の欠如というほかない。

 一連の問題は、法規制の緩い医師主導の臨床研究が、製薬会社と医師の癒着の道具に成り下がる危険性を示している。

 ディオバンの研究で中核となった5大学への奨学寄付金は、02~12年の総額で約11億3千万円。一方、ディオバンの売り上げは単年で約1千億円だから、ノバルティスが不正で得た利益はけた違いに大きい。

 これに対し薬事法違反の罰金は200万円以下に過ぎない。

 不正利得を許さない法制度は何としても必要だろう。米国では近年、製薬会社が30億ドルの和解金を払ったこともある。

 医師の不正関与を防ぐには、奨学寄付金など不透明な資金提供をやめ、製薬会社の委託研究として実施するべきだ。

 患者が各病院を信頼し研究に協力する以上、信頼を裏切った病院に組織としての責任を問う制度も検討が必要だ。

 医療の発展は阻害せず、しかし不正は許さない。そんな仕組みをしっかりつくりたい。