<今週のキーワード>

tax inversion(課税逆転)

<例文>

Reaping the benefits of tax inversion isn't as straightforward as many think.(中略)The company can move early-stage product lines into new U.S.-tax-exempt subsidiaries because they don't yet generate significant overseas sales or profits, said Mr. Rosenzweig, emphasizing that he was speaking generally and not specifically about Medtronic. The company still has to pay U.S. taxes on the fair-market value of the assets, but since the products aren't generating much revenue, the company can argue the assets have little to no value and avoid a significant tax hit. (6月20日)

 (企業が海外に本社を移すことで)「タックス・インバージョン(課税逆転)」の恩恵に授かることは、多くの人が考えるほど容易ではない。(中略)ワシントン大学法科大学院のアダム・ローゼンツワイグ教授は、あくまで一般論であり、メドトロニック(米医療機器大手)のことではないと強調した上で、企業が黎明(れいめい)期にある製品群を米国の課税対象にならない新子会社に移すことができるのは、それらの海外での売り上げや利益が大きくないためだ。それでも企業は資産の適正な市場価値に対して米国の税金を支払う義務がある。ただし製品が多額の収益を生んでいないため、企業は資産に価値がないと主張することで多額の納税を免れることができる。

【キーワード解説】

 景気回復の安定化とともに今年は増勢が予想される米国企業による国際的な合併・買収(M&A)。既に製薬、ヘルスケア関連企業の海外企業買収が報告され始めているが、こうしたM&Aの裏にある現在米国企業の狙いの1つが、米国での高い法人税を軽減するための「tax inversion=課税逆転」だ。

法人税を軽減するためアイルランドのヘルスケア製品大手を買収した米医療機器大手メドトロニック AP

 米国の税法上、企業所得は海外の子会社の所得と合算して全所得となり、それに対し最高35%の税率が課される。本来、米国内での事業収益には米国の税率が適用される。

 しかし、税率の低い海外のある国に別会社を作り、米国企業がその会社の米国子会社となれば、海外での所得については米国税率ではなく新親会社の国の税率が適用され、「tax inversion=課税逆転」が起こる。

 1990年代以後、こうした海外別会社設立による「tax inversion」が流行したが、2004年に米国政府が禁止した。ところが米国企業が海外企業を買収して、その買収先を本社とするか共同で米国外に持ち株会社を設立した場合は、この禁止行為には当たらないと判断されたため、海外所得の多い米企業がこの仕組みを利用して「tax inversion」を達成する意欲が高まっている。

 しかしオバマ政権はこの新たな形で「tax inversion」を達成する取引(英語では「inversion deals」)も禁止する意向を示している。実際ルー財務長官が、税関連法案を担当する下院歳入委員会のデビッド・キャンプ委員長に(共和、ミシガン州)に対し、この取引を今年5月にさかのぼって禁止することを求めることを知らせる書簡を今月中旬に送ったことが明らかになっている。

 多くの専門家は、「tax inversion」に好意的な共和党が下院で多数を握っているためにオバマ政権が禁止法案を提出しても年内に成立する見通しはほぼないとみている。ただ、来年の税制改正ではこの取引が禁止になる可能性は残されており、課税逆転を狙ったM&Aを加速させているという。

【表現のツボ】

 今週は理由を表すbecause、since、asの使い分けの復習。例文では「海外での売り上げや利益が大きくないため」との理由がbecauseとsinceを使って表されている。

 ではなぜ最初の文がbecauseで後の方がsinceなのか。最初の文の場合、海外収益が大きくないという理由が文章の一番の力点で、読者も知らない事実だからだ。

 ところが後の文章の場合、既に読者も知っているこの事実を理由に多額の税を免れることが出来ることが筆者の力点になるためだ。

 このように理由が重要で未知の場合はbecauseを使って文章の後半に置くことが多く、理由ではなく結果が重要な時はsinceを使って文章の前半に置くことが多い。asについてもsinceに近い使い方が多用される。

【その他の表現】

reap:獲得する、得る(利益、恩恵を得るの"reap benefits"は、イディオムに近い定型的な言い回し)

tax-exempt:非課税の

fair-market value:適正な市場価値

<この表現が使われている記事>

米メドトロニック「課税逆転」が容易でない訳―租税対策の複雑な現実

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竹内猛(たけうち・たけし) フリー・ジャーナリスト兼翻訳業

 1980年より共同通信社の日本語記者として主に経済ニュースを取材。日本のバブル崩壊時に日銀・大蔵省担当を長く担当。米国のジョンズ・ホプキンズ大学高等国際関係大学院(米外交・国際経済学修士取得)を経て、1997年よりダウ・ジョーンズ経済通信で英文記者。東京支局で日本政治・経済のコラムニストを務め、ワシントン支局で国際通貨基金(IMF)などを担当。2004年より東京支局のマクロ経済・政治総括担当副支局長。2010年の退社後、日本翻訳連盟の日本語から英語への1級翻訳士に2011年合格(金融・証券分野)し、2012年に同連盟の翻訳試験の出題・検定委員。ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、国際金融機関の定期出版物などの翻訳と、このコラムの前身である「金融英語」欄を2011年6月より担当。

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