こんな記事が出ていた。
朝日新聞(ニュースQ3)「
日本のSFの厳しい現実」2014.5.21付
ふーん、という感じで、一点を除いては特にコメントなし。その一点とは、「作家たちも自立の道を探り始めた」のところ。設立50周年の各イベントが進んでいたときは、私が退会するまで他の退会者はいなかったので、この文脈はちょっと時系列がおかしい。
さて「10名ほどが退会を表明」とのことだが、実際にどのくらいの人が退会したのか、把握しているのはクラブの会員しかいないだろう。
ここに2014年4月30日現在の日本SF作家クラブの会員名簿がある。一方、『日本SF短篇50』全5巻には、2013年1月現在の会員名簿が載っているので、比較すれば誰がその後入会し、誰が退会したかすぐにわかる。私の数え間違いがなければ、以下の通り。大森望さんの入会が否決される前から退会している人もいる。
【退会者】2014年4月30日現在
・東浩紀
・上田早夕里
・榎木洋子
・笠井潔
・倉阪鬼一郎
・菅浩江
・瀬名秀明
・堀晃
・松崎有理
・山田正紀
・横田順彌
以上11名 *2014年6月20日付で更新された会員名簿をもとに、初稿時の誤りを訂正。
【入会者】2014年4月30日現在
・池澤春菜
・タヤンディエー・ドゥニ
・月村了衛
・平田真夫(森山安雄)
・藤井太洋
以上5名 *2014年6月20日付で更新された会員名簿をもとに、初稿時の誤りを訂正。
「会員数250名のうち、たかが10名くらいの退会者で騒ぐな」という意見の人もいるかもしれないが、日本SF作家クラブ編『日本SF短篇50』収録作家50名のうち、一割にあたる5名が退会していることは重視されてよいと思う。そして今後も増える可能性があるわけだ。
さて、大森望さんの入会が否決されたのは2014年4月25日の総会だが、このとき新たに入会が承認された人もいる。しかしその人の名前は4月30日付の名簿に載っていない。鏡明さんは名誉会員になることを意思表明したそうだが、名簿上はまだ名誉会員になっていない。ツイッターで退会すると明言した人でも、まだ名簿に残っている人がいる。まあ5月以降もクラブ関係のイベントが色々あったので、それが終わるまでは退会しない、という人もいただろう。
クラブの名簿管理は、私が会長時代のとき、ひとりの事務局次長がおこなっていた。兼業作家だったのでお忙しかったのだと思う。名簿の更新は遅れがちで、半年近く新規会員が登録されないこともあった。お忙しいのならサポートをつけようと私は提案したこともあったが固辞された。現在も同じ人がやっているようなので、名簿の更新は遅れているのだろう。だから現在の名簿が実情を反映しているとは限らない。ただ、日本SF作家クラブの会員になることを名誉だと考える方は、一刻も早くこうした名簿に載りたいと思うはずだし、連絡などにも支障を来す可能性があるので、名簿管理はもっと改善した方がよいと私は思う。
ところで第34回日本SF大賞贈賞式の中継も「ニコニコ生放送」で観た。今回の協賛は株式会社ドワンゴである(
公式ページにも記されている)。「ニコニコ生放送」の開始30分くらいから、株式会社ドワンゴの夏野剛取締役が挨拶しているのを聴いた。「次回はこの賞自身も私どもが関与して、この(贈賞)式自身もかなり盛り上げた演出を入れた、イノべーティブなことをやらせていただきたい」というスピーチに一抹の不安がw。
なお私は会長時代、次回以降の日本SF大賞のスポンサー探しにはいっさい関わっていない。当時の事務局長は「次は早川書房に頼めばいい」などと気軽に考えていて、呆れたことくらいか。あとは「若いクラブ会員たちを中心に、一年で根本から立て直してほしい」と東野次期会長に心からお願いしただけだ。いくつかスポンサーの狙い目も東野次期会長と話し合ったが、ドワンゴさんの名前は出さなかったし、思いつきもしなかった。星新一賞のときに苦労したので、移り代わりの激しいゲーム・IT系企業は文芸賞のスポンサーには向かないと悟っていたからだ。
ドワンゴさんがスポンサーになるらしいと私が初めて聞いたのは、2014年1月11日にゲンロンカフェで東浩紀さんや大森望さんと鼎談したとき。そこで大森さんから、
「ドワンゴさんが『とにかくSFを応援したい』と作家の野尻抱介さんに連絡してきた。野尻さんが自分(大森さん)に連絡してきたので、日本SF作家クラブを紹介し、いまその詰めに入っている段階のようだ」
といった世間話を聞いたのである。実際のところは知らない。なおドワンゴさんは日本SF大会と日本SF作家クラブの違いも知らなかったそうだ。
その後、星賞の調整で、2014年4月5日に3次選考委員の牧眞司さんと大森望さんと共に電通へ出向いた。その帰り、3人で喫茶店に寄った際、日本SF大賞のスポンサーのことが再び話に出た。先の星賞のこともあったので、「私が会長なら引き受けないなあ。でも会長の東野司さんや事務局長の北原尚彦さんがそれでいいと納得なさったのなら、いいのではないか」と個人的感想を述べた。まあとにかく、急いでスポンサーは決まったのだろう。ドワンゴとKADOKAWAの関係がどうなるかという点については、たぶん大森さんも東野さんも北原さんも知らなかったんじゃないかな。私も当然、どうなるかなんて知らなかった。
なお退会した私・瀬名が、たとえば牧眞司さんのような日本SF作家クラブ会員と協同で、何かSFの仕事をしていることがクラブ内にわかると、面倒なことをいってくる人が出てくる可能性があるそうだw。へんな陰謀論を妄想する人がいるのだろう。だからそうした動きはたとえあってもいわないでくれと東野さんから忠告された。東野さんがご苦労されていることはわかっているので私も了解したし、牧さんも了解した。なので2014年4月5日の会合でわたしたちが会ったことを、牧さんは当時ツイートでほのめかしたが、それ以降は私について、あくまで評論家として以上の言及はしていないはずである。
#そうだ、こんな風に書くと、また「東野会長は裏で密かに瀬名と何度も連絡して通じている」などとくだらない陰謀論を展開する人が出るかもしれないのでひと言。この後書くように、第1回星賞の受賞作・入選作が出版できそうだとなった時点で、では編者名をどうするかという話になった。詳細は省略するが、日経の名前を出す方法と、あえて出さない方策が考えられた。それで私の方から東野さんに連絡し、「こういう本が出るとき日本SF作家クラブは協力団体なので『日本SF作家クラブ編』とすることは可能か」と4月に打診したのだ。東野さんの答は込み入ったもので、それらの条件をクリアするのは無理だとわかったので、早い段階でこの案は消えた。そのとき久しぶりに東野さんと電話で話しただけである。ついでに、先のような忠告があっただけのことだ。誤解ないように。
星賞に関してはいままであえて黙っていたが、3月以降、かなり動いた。受賞作・入選作の書籍化も、あとは日経側が承諾すればすぐに出せるという段階まで某大手出版社の某有名叢書編集部と話をつけたし、ポピュラーサイエンスの有力誌に新作発表の場も持てるよう私が率先して交渉した。運営費が足りないなら、私が毎年50万円か100万円を運営費として寄附しよう、瀬名の名前はいっさい出さなくてよい、という提案まで出した!
だが日経サイドのねじれと星賞実行委員会側の力不足で、結果としては何も変わらなかった。星賞実行委員の人たちは「少しずつ星賞はよくなってきている」と主張するが、まったくそんなことはないと私は思う。実際、第2回の受賞者に対するケアも、いまはまったく決まっていない。
もし今後、星賞に応募しようかどうしようか迷っている方がいらっしゃるのなら、私個人は次のようにアドバイスする。
「星賞は運営体制が整うまで応募するな。下手に受賞してもあなたのキャリアに傷がつくだけだ。もし本当に理系文学を目指したいなら、むしろいまは創元SF短編賞かハヤカワSFコンテストを狙いなさい」 そして第1回の星賞に入選した一般部門の方は、難しいとは思うがどうか気持ちを切り替えて、他の新人賞への応募を続け、そこで受賞することで力強く羽ばたいていっていただきたい。実際、第1回入選者の高島雄哉さんは、
第5回創元SF短編賞の受賞者となった。ペンネームが別のものだったので、私は当初同一人物だとわからなかったのだが(だから審査段階で不正にプッシュしたりはしていない)、実力のある人はこうして星賞に関係なく表に出てゆくことができる。どうか頑張って欲しい。応援しています。
とにかく受賞者・入選者を大切にしない賞はだめだ。これらの思いについては、またいずれ、まとめて書くかもしれない。
追伸:遠藤慎一さん(作家の藤崎慎吾さん)が第1回グランプリ受賞者だったということは、本当に星賞実行委員会の誰も知らなかったそうだ。完全なチューリングテスト状態で審査はおこなわれた(ただし作品の本文中にご自身の職業などを書き込んでいた応募者は、最初のうち本文と一緒に予備選考委員へ情報が流れてしまった。途中でそのことに気づいた実行委員会は、本文以外の記載を消してから予備選考委員に渡すよう努力したらしい)。最終選考委員の方々も、なんと授賞式当日まで受賞者が藤崎さんだったとは知らなかったそうだ。この点に関してはいろいろ訊いて確認した。だから審査に不正が働いたということはない。
藤崎さんの小説は昔から愛読している。だから彼を囲んで、近いうちにささやかなお祝いを兼ねた食事会をしようと思っている。
追記(2014.6.20):
【退会者】2014年6月20日現在
・我孫子武丸
・小川一水
・神林長平
・図子慧
・田中芳樹
・福田和代
・森下一仁
以上7名
【入会者】2014年6月20日現在
・鬼嶋清美
・服部桂
以上2名