この土日は九州地区国立大学附属図書館ソフトバレーボール大会ってので大分大学に出かけてました(のでいまごろ書いてる)。参加は任意にせよ、九州の各大学から図書館員が一堂に会してスポーツをするって、ふしぎな感じ。うちの部長が挨拶でおっしゃっていたように、他の地区ではなかなか見られないよなあ。近畿では毎週のように勉強会やら研究会やらが開かれていたけれど、こういうのも良いものです(結局優勝したし、由布川渓谷も湯布院も楽しかったけど、太ももが痛い)。
今回は6本中、外部原稿が5本。しかも5本のうち3本(鳥澤さん含む)が調査局関係とは……重たい……(現編集担当は元調査局だから苦にならないのかもしれないがー)。
■E1584■ 進化する学術レコードと変わりゆくステークホルダーの役割
巻頭は id:otani0083(初執筆)。自分が企画提案した記事なので事前になんども読んだ。久々に校正の過程も垣間見て、相変わらず的を射たアドバイスするなあとしみじみ思ったり。
ネタはOCLC Researchのコンパクトなレポート。学術レコードを抽象的にとらえていては実用性に欠ける。かといって具体的に(例えば従来の目録規則のように媒体別に分けるなど)しすぎると本質を見失う。そこで抽象と具象のあいだでちょうどいい塩梅のポイントを探ろうという趣旨のもの。記事ではその結果をまとめたフレームワークを中心に解説している。
後半のステークホルダーの役割については他で言及されていることとそう変わらないと感じたけれど、前半の
学術レコードのコンテンツの分類については,ジャーナルや書籍に代表される学術成果,研究過程で生成される資料,成果公開後に補足的に生成される資料の3つに分けている。研究過程で生成される資料には,ソフトウェアや実験プロトコルなどの「メソッド」,データセットなどの「エビデンス」,学会発表や研究助成金の提案書などの「ディスカッション」がある。また,公開後に生成される資料には,メーリングリスト,ブログや学会発表などの「ディスカッション」,追加の発見や誤りの修正を加えた「リビジョン」,要約や一般向けリライトなどの「リユース」がある。
という分類にはそうきたかっと刺激された。大学の機関リポジトリにしばしば「学術成果リポジトリ」や「研究成果リポジトリ」と名前がついていることからも分かるように、大学図書館では従来、主に「学術成果」というコンテンツにフォーカスしていたわけだけど、今後、それ以外のコンテンツにどこまで絡んでいるのか、成果公開時点で固定化されがちなメタデータをどこまで「成長」させていけるのか、実務的にはかなり難しいけど面白いよなあ、と思いながら。
なお、渋沢財団の松崎さんから、scholarly recordの訳出についてコメントをいただいた。recordという単語へのこだわりはアーキビストならではだなと思いつつ、そこまで意識が及んでなかったことを反省(とはいえこう訳すしかないとは思う)。
■E1585■ 「忘れられる権利」をめぐるEUの裁定とGoogleの対応
調査局の今岡さん。
このネタは先月のE1572で扱ったばかりなのにもう続編が……! 前回はEU側のはなしで、今回はGoogle側に視点を移している。忘れられる権利について自分ではほとんど追ってないんだけど、E1572の感想で疑問として述べた部分(の一側面)が解説されていてすっきり。
ただし,対象国において検索結果の削除がなされたとしても,対象国以外では,従前どおり,検索結果が表示される。ここを捉え,海外メディアは自社の記事が英国における検索結果からは削除されているが,米国では表示されること等を報じており,検索結果が削除された記事について,より注目を集める事態が起きている。
当然だけど削除申請はURL単位かぁ(裏側では名寄せされてそうで怖い)。
■E1586■ HathiTrust訴訟,第二審でフェアユースが一部認められる
CA1702でGoogle Books裁判についてレビューを書かれた鳥澤さん(調査局から異動されたんですね)。
基本的なことから丁寧に書かれていて読みやすい。こちらの裁判もまだまだ先が長そう……。記事では言及されてないけど第一審の結果についてはE1406でちらっと触れており、HathiTrust側は「a decisive victory for libraries and Fair Use」と述べている。それに比べると、今回の第二審(連邦第二巡回区控訴裁判所)では原告側に流れを戻した感じ。つまり、第一審でフェアユースとして認められた
(3)参加図書館が一定の図書等(所蔵図書等,喪失・盗難等された図書等,代替物の購入が公正な価格では困難な図書等)について作成したデジタル複製物の利用者への提供
が、今回は
代替物を公正な価格で入手できない可能性,参加図書館が所蔵図書等を喪失又は破損することにより他の参加図書館が複製する可能性などに関して,第一審裁判所がフェアユースに当たるかどうかの審理を尽くしていない
という理由で差し戻されたという結果になっている。尽くしていない、か。第一審ではどういうポイントが足りなかったんだろう。。
■E1587■ 創意工夫を促す大学図書館の取組:職員向け小額助成金制度
安原さん。
米国のヒューストン大学図書館で2006年にスタートしたユニークな制度について、Library Innovation誌の文献にもとづいて紹介。面白い、面白い。この記事が巻頭でも良かったんじゃないかなあというくらい。
特に
図書館で試験前の深夜にパンケーキを提供する“Finals Mania”は,2008年に初めて開催されたイベントである。春学期と秋学期の最終週に学生協会等との共催で行われたこのイベントは,初回から約400名の学生が参加した。今では助成金の必要もなくなり,完全に独立したキャンパスの恒例行事となっている。2012年の春学期には1,600人の学生が参加する規模となった。
がゆるくていいw 申請プロジェクトは同館の4つの戦略目標のどれかに合致してないといけないはず。これは「(4)図書館のブランドを再構築する」なのかしら。Refで紹介されていたFinals Mania Spring 2014というFacebookのアルバムを見ると、みんなとても楽しそう。図書館でなんでパンケーキなんだろうか、とも思うけれど、大学のなかでこんな光景が見られるのなら、そんな疑問は正直どうでもよくなってくる。
これで思い出したのが先日東洋大学で行われていた「図書館de朝カフェ」という企画。そうは書いてないものの、これも時期的には試験勉強応援キャンペーンだったのだろうか。
各プロジェクトの予算については「当初の助成金の年間総額は1万8,000ドルで,一つの企画に対して支給される金額の上限は2,000ドル(のち5,000ドルまで引き上げられた)」という。日々「例えば20万あったら何がしたいかな?」と考えながら仕事をするのは意義がありそう。自分の思いつくアイディアの場合は、どちらかといえば予算よりも異動(による継続性の崩壊)のほうがネックになったりするけど……。
[http://current.ndl.go.jp/e1588:title=■E1588■ 労働者階級女性の図書館利用:ハダスフィールドの事例から
八谷さん。
今回で3本目。トリニティカレッジダブリンを扱ったE1439でも、ロンドン図書館を扱ったE1521でも、図書館利用を通じた読書傾向の実態というのがテーマになっている。
今回の舞台は、1856年ごろのハダスフィールドの女子教育機関。労働者階級には「まず読書習慣をつけることを優先すべきであるため,それが好ましくない読み物であっても」という理由で、その図書館ではフィクションを多く所蔵していて、よく貸出されていた、という。E1521で紹介されていた文献でも、「知識人(high-brows)を対象に創立されたロンドン図書館」で、当時非倫理的とされていた「フランス小説がどれほど,またどのように利用されていたか」が調査されていたのを思い出した。記事後半はこちらもE1521と同じく公的資料(貸出記録)+私的資料のはなし。このあたりが八谷さんご自身の研究テーマなんだろうか。
恥ずかしながら読書史についてはまともに本の一冊も読んだことがないんだけど、だんだん興味が湧いてきた。個人的には、
このように,中産階級を多く含む同機関の運営委員会の思惑と実際の利用とはしばしば食い違った。労働者階級女性が上からの読書指南に「反抗して」いたとする著者らの結論は少々極論であるかもしれないが,少なくともそうした指針に準拠せず,能動的に読書を楽しむ読者の姿が本論文においても描かれている。
というような「ズレ」が好み。そうか、そういう意味では読書史は選書史とも言えるのか。
調査局の帖佐さん[*1]。
調査局のモデルでもあるLCのCRSの概要についてまとめた記事。こういうのは辞書的に使えるので重宝する。1915年立法レファレンス部門→1946年立法考査局→1970年議会調査局という名称変遷をたどっていること、ウェブサービスとしてはCogress.govへと統合されていっていること、をインプット。
「2012年度では,議会に対し約70万件の調査依頼等への回答及びサービス提供を行っている」という規模にはびびった。サービス日数が不明だけど、ざっと1日あたり二千数百件になるか。でも職員が600人もいるようだから、1人あたり1日4〜5件程度という計算になり、そうべらぼうに多いわけでもないのかな。
1991年に国立国会図書館で講演したW・H・ロビンソンCRS次長は,CRSの果たす役割として「情報工場」「政策コンサルタント」「シンクタンク」の3つを挙げている。
立法サービス、かっこいいよなあ。
むかし中国出張したときにも痛感したけど、「レファレンスサービス」は、レポートをまとめてクライアントに提出するくらいのレベルまでやって初めて胸を張ってそう言えるんじゃないだろうか、という感覚がちょっとあって。きっちり調べて、正確かつわかりやすく書く。NDLなんていう組織に出向してしまったおかげか、図書館員にとって最も基本的で重要なスキルはそれだと思えてしまっていて。そのせいでこんなブログを書き続けているんだろうなあ(幸いいまの業務は調べものが多くて楽しい)。
次は8月7日(その間、8月1日には機関リポジトリ推進委員会技術WGのキックオフミーティングでNIIに行ってきます)。
*1:お名前の読み方が分からないのでぐぐってみたところ、ああ、この(大根と絡んでる)方か……、となった。