シリコンバレーの車とITについてよく聞かれる話
基本的に仕事のことをブログには書かないのですが、車とITの未来について米国の動向はどうなのかという話を頻繁に聞かれるようになりました。僕はあんまりこのあたり調べているというほどでもないのですがいっぱいきます。ただちょっと個別に答える時間がないので、よくある質問とその答えをまとめておきます。
- 自動運転っていけてるの?
- 車のビッグデータ & OBD IIってどうなの
- OBD II を使ったUsage Based Insurance (従量制保険)ってはやってるの?
- AppleのCarPlayとAndroid Autoってもうすぐ出るの?
1. 自動運転っていけてるの?
自動運転には、無人運転と、有人運転のアシストがあります。有人運転のアシストは果てしなく昔から研究されておりまして、実用化してなかっただけの技術がいっぱいこれから実用化されると思いますが、そこにはそんなにサプライズ要素はないと思われますし、いけていると思います。
では無人運転はどうなの?と言われると、状況は以下のような感じです。
技術は一般で期待されているほどには進んでない
Googleの自動運転エンジニアによれば、基本的に事前に道を覚えて、プログラムされたとおりにハンドルを動かしているだけで、道路工事があれば突っ込むし、他の車がぶつかってくればそのままぶつかるし、周りにあるのが人間なのかサボテンなのかもわからないらしいのですが、マーケティング担当の人の話を聞くと何でも出来るかのように聞こえてきます。つまりトップの指示で、できていない事ができたかのように報道しなければならない事情がGoogleにはあるということで。実際にGoogleのデモを見たりして現場を知っている自動車関係の人間から見ると、「さすがにあれは騙しているのに近くないか」という話がよくでてきます。
ただGoogleが発表している記事をよく読んでみると、「がんばっています」としか言っていません。よく読むと、どこにも「これができました」とは書いておらず、マーケティング用のイメージビデオなどを元に勝手に見た人が勘違いしているだけでGoogleは嘘はついていません。例えば「自動運転車が何キロ走行しました」とは書いてありますが、そのうちどれぐらいが自動の運転だったのかは書いていないし、「自動運転車は何年後に道路を走ります」と発表する時はそれが「Google敷地内の道なのか、一般道なのか」とかは決して言いません。上空から道を画像解析しているような動画とかを見ても、Googleは「こういう解析をできる」と言っているわけではなく、「取り組んでいる」としか言わないので、記事を読むと情報操作の巧妙さが勉強になります。ハンドルがない車のデモなども、別にそれ自体は何もすごくないですよね。ゴルフカートからハンドルが無くなったものと比べて何がすごいのかなど、技術的なところはさっぱりわからない告知になっており、冷静に考えると何も言っていないわけです。おじいちゃんが「ぜんぜん怖くなかった」といっているコメントを採用しているということは、なるほど一般的にはおじいちゃんが怖がっているということはわかります(笑)。
ただ僕がGoogleのトップだったらたぶん同じ事をすると思います。技術的にはもう色々できてるんだよというアピールをしてユーザーを盛り上げない限り、法制度が整わないからです。「うちはみんなの夢を実現する技術が完成しているんだけど政府がやらせてくれないんですよ~」というポジションを取るのが好都合だからです。もちろん普段はGoogleは出来てないことをできているかのように言うような事はあんまりしない会社なので、そこは法制度まわりでの苦労の裏返しではないでしょうか。
多くの車業界の人は、最近の無人運転車を作りましたみたいな発表を見ても「フーン、いいんじゃない、好きにすれば」という感じであり、「大変だ!」という車業界のリアクションを期待していたGoogleとしてもやや肩透かしだったのではないでしょうか。
法制度関連はかなり大変
運転に関する法律というのは野球よりもルールが細かく決まっており、かなり運用が完成されています。これを無人運転の法律と共存させるのはすっごい大変でしょう。事故の話だけとっても、必ず誰か死ぬのは避けられない世界を無人運転にするということは、プログラムが殺人の順番を決めることになります。突然飛び出してきたおばあちゃんを殺すべきか、おばあちゃんを殺さないように歩道に逃げて小さな子供を殺すか、それとも急ブレーキをかけながら隣の車に衝突させて隣の車が対向車線の車とぶつかって死ぬということにするか、というか運転手が死ねばいいんじゃないのとか、そういうコンピュータしか判断しえない条件下での意思決定を法制度に落とすのは至難の業だということです。そうなると、短期で自動運転技術を浸透させるにはほぼ確実に事故の直前に自動運転を解除することになる、つまり結局有人なので「はい殺したのはあなたのせい」となり、本当の意味での無人にするなら法的な部分はかなりの長期戦になるんじゃないでしょうか。ぼくはそのあたりの法律とかあんまり知らないですけど、少なくとも直感的には10年みたいな短期間で法整備が進むとは思えないのですがどうなんでしょうね?
自動運転で人間を超えるのは大変
また、人間というのは不注意によるエラーを起こしやすい一方、例外処理能力がかなり高いので、無人運転にしたら死にやすくなるシチュエーションというのは出てきます。車というのは最も自動運転化がかなり難しい交通手段と思われますが、レールの上を走るだけの電車ですら無人運転がほとんどできていないのは、やはり人間の例外処理能力が高いため、自動運転+有人という組み合わせにせざるを得ないという事ですね。人間すごい。
というか現実に乗れといわれたら怖くねえ?
無人運転で車の中で新聞を読みたいという人はよくいます。でもねえ、実際に自分がその立場になって、はいどうぞ無人運転です、安心して新聞読んでくださいと言われても、ハンドルから手を離して新聞読む人はあまりいないと思うんですよね。例えば、僕が今飛行機に乗るとして、有人運転2万円、無人運転も2万円だといわれたら、有人運転のほうにすると思います・・・飛行機はどうせ元からほとんど自動運転なんだけど、それでもなんか誰もいないって怖いじゃないですか。例え安全が証明されていたとしても、人間がいない事に対する不安をなくすというのは、理論を越えたところで単に怖いという事実を、車の自動運転がまだ非現実的であるがゆえに見逃しているのではないでしょうかね。人間というのは合理性だけでは行動を決めないですし、放射能みたいな「よくわからないもの」は理論を越えて怖いと思うのはとても自然なことです。同じように、安全であっても誰もいないのは怖いというとても自然な反応を、技術で丸め込むのって大変そうですよね。
高いお金を払って死ぬ確率を上げるという状況を打破するところまで行けるのか
無人運転というのは難しくて、実現するのにはコストがかかります。売価はともかく最初の数万台は作るのにそのへんの1億円のスーパーカー以上にコストがかかるでしょう。高コストの状況下では検証データも少なく、その結果安全性も低い状態なので、無人運転による事故で死ぬ人はそれなりに多いと思います。そもそも1億円あったら運転手を一生雇って車の中で新聞を読めるので有人運転のほうが安くて安全になります。結局、死ぬリスクを犯してでも1億円払って車の中で新聞を読みたい人がかなり増えないと、コストも下がらないし安全性も上がらないですよね。命の危険と大きな財産を賭けてクールな人生をエンジョイしたい人がたくさんいない限りは普及する日は来ないんじゃないか説もあり、とりあえずUberでネタとして誰も乗っていない車がアイスクリームを届けてくれるといったところからコスト度外視でやってみて、他の車にぶつかって人を殺したりしないかどうか見てみましょうという事になるのかもしれません。
自動運転まとめ
というわけで、自動運転は、有人運転のアシストという意味では有望だと思います。ただ、シリコンバレーでこのあたりの話の真っ只中にいる限りでは、無人運転がもうすぐ実現できるとは思わないというか、そんなにうまくいってたらそもそもGoogleはあんなにがんばってプロモーションしないと思います。ただ、無人運転の技術にも、レーダータイプや、画像処理タイプなどいろいろあり、画像処理タイプはヨーロッパのほうが進んでいそうな感じで、無人運転全体としてはシリコンバレーしか見えていない僕から見るといろいろ見えていない世界もあると思います。そのあたり、もっと詳しい人はいっぱいいると思います。
2. 車のビッグデータ & OBD IIってどうなの
車の中のデータがものすごく価値があるのでバラ色の世界、みたいな話がよくありまして、車メーカー内でも一部の人は車の中のデータは宝の山だと思っている人は多いようです。ただ、データ系のビジネスは、「何ができるのか」それが全てです。やはり筋がいいのは、車の中のデータをリアルタイムに見て、危険を回避することです。例えばテスラは車内のデータをセンターで観察していて、車が壊れて止まりそうであるという可能性があると、運転手に「すみませ~ん、その車たぶんあと10分ぐらいで壊れるんでそこの高速降りてください、ヘルプ向かいますんで~」と連絡してきます。そういうやつはやったほうがいいと思われますが、別にテスラは「ビッグデータでコネクテッドカー」みたいな事はモヤっとした事は言っておらず、単に壊れる前に教えてくれるというシンプルな話です。そういう問題解決の視点なくビッグデータですとかクラウドですとかコネテッドカーですとかテレマティクスみたいな事を語るのは難しいですよね。技術のキーワードではなくユーザーを見るという当たり前の話なのですが。
FordのOpenXCなどで規格をオープンにしたりハッカソンをがんばるというところが多いのは、ビッグデータはあるけど痛みがないから誰か探してちょ~と言っているわけであって、ハッカソンするということは、技術はあるけどキラーアプリがないのでオープンにしたいという事なんでしょうね。
OBD IIという、ハンドルの下についてる情報センサーのポートから車の中のデータを抜き出すと何でもできる的なことで資金調達したAutomaticというスタートアップなどがあり、これからどうするのか見ものです。ただ、ファウンダーに「Automaticって何の問題を解決するの?」と聞いたら、「いろいろだが、人によって違う」と答え、「何でハードウェア作ったの?」と聞いたら、「当時は自分で作らないとAppleがサポートしてくれなかった」など、ものすごくぎこちない返答をしていたあたり、やはりビッグデータ系は大変なのね・・・。と思わされます。OBD IIはプロトコルとしてもわりとしょぼいのもありますしね。運転を点数化したり色々していますが、どうもエンゲージメントがかなり低いようで、「ちゃんと使ってくれるユーザーはいるので私たちはそのユーザーにフォーカスします」と言っていたのですが、1万円のデバイスなのでIFTTTとかやる前にまずなぜ1万円払う人のエンゲージメントが高くできないのか、それが大事だと思います・・・。Automaticのデバイスを大量にくれたので、僕らに考えてくれという話なのだと思いますが(笑)。また、OBD IIを使ったスタートアップは今アメリカでも大量に出てきていますが、どこも大企業や保険会社など、いろいろ提案しては、「で、結局、誰がなぜ金を払うんだ」という上層部の質問に答えられず頓挫するというのがあらゆるところで繰り返されており、大変そうです。
ちなみにこのOBD IIに関しては僕はかなり詳しいので、去年の秋ごろには、自分でOBD IIのデバイスを作って、それをテレマティクス的に保険会社に提案したら面白いかな?と思っていましたが、いろいろな調査の結果、アメリカでも日本でもうまくいかなそうなのでやめました。ただで配るからということで資金調達しているステルスのスタートアップの話とかもいっぱいありながら、それでも浸透させる戦略まで到達していないので、技術ありきのOBD IIの難しさがよくわかります。
というわけで、よくOBD IIを使ったビジネスモデルの相談を受けますが、基本的には車のビッグデータは外部のデータとうまくつなげないと無価値で、つなげ方がわからないけどデータがあるのでビジネスしたいという相談を受けてもちょっとアドバイスが難しいので、少しビッグデータというところからは頭を離して、冷静に顧客にどう役に立てるのか、からはじめるのがいいと思われます。もちろん、OBD IIから取れるビッグデータが全部無価値というわけではなく、面白いと思うところもあります。単純に、アメリカのOBD II系のスタートアップも苦戦しているし、もっと顧客中心のアプローチをしないと大企業との提携などを通すのはきついと思いますよ、ということですね。
3. OBD II を使ったUsage Based Insurance (従量制保険)ってはやってるの?
ハーバードのMBAの先輩がProgressiveという自動車保険の会社でOBD IIを使った従量制保険の担当役員だったので、しれっと話を聞いてみました。とりあえず個人的に聞いた話なのであまり書きませんが、基本的には厳しいということですね。平たく言いますと、保険会社というのは、安全運転をしてあまり車に乗らない人をカモにすること、および、余計なことをしないで運用費を下げる事、によってお金を儲けているわけで、業界としては、売り上げが下がってコストが上がるUsage Based Insuranceは本質的には筋が悪いと見られているようです。また、安全運転かどうかを見て保険料を調整するというのも実際には無駄だったようです。どうも安全運転している人が事故を起こさないという統計上の仮説が間違っていたようで、自信を持ってアグレッシブな運転をする人が事故を起こしてくれなかったとか、安全のために急ブレーキをかけると保険料が上がるみたいな話に限界があったのでしょうね。もう安全運転しているかとかは見てないようです。Progressiveの担当役員が全て正しいとは言わないにしても、この分野のリーダーであるProgressiveでこんな感じなので、他社もぜんぜん追従していないようです。ちなみに全てのモデルがうまくいかないわけではないと思いますが、そのあたりはコメントを控えます(笑)。
4. AppleのCarPlayとAndroid Autoってもうすぐ出るの?
このあたりはかなり裏情報になってくるので書けることがほとんどないんですが、まあその、わりと仕様交渉でもめてますし、特にandroid autoはGoogleらしい「データみんな出してね♪」というアプローチが業界内では微妙な感じになっており、2014年中に出ます!といっているやつが本当にいわゆる「ちゃんと出た」感じにできるのか、それとも「なんちゃって2014年に出しました」になるのかも含めて、車業界って大変なのね、と思わされます。Open Automotive Allianceについては、別に入っても入らなくても何も変わらないやつなのですが、とりあえずみんなGoogleを敵に回す必要がないので加入しているようです。例えば現代自動車あたりががんばって「ちゃんと出た」感じになったとしても、今までのカーナビがいらなくなって安くなるという期待を持ってみているユーザーに対し、値段含めてちゃんとできるかなどを見てみると楽しいと思います。
ただ、車の中でスマートフォンを使いたいという欲求は確実にあるので、CarPlayもAndroid Autoも時間をかけて浸透していくと思いますよ。市場も尋常ではなく大きいですし。単に、スピードという意味では、安全第一である車業界にAppleやGoogleもちゃんとあわせなければならないし、かかるべくして時間はかかるでしょう。AppleのCarPlayも音沙汰無いですがあまり進んでないにしてももうちょっと誇大広告をしておいたほうがいいと思います。
ちなみに、Andy Rubinが入るはずだったCloudCarを結局買収しないGoogleもやり手ですね・・・。なんかこう、大変そうです。
というわけで、「シリコンバレーの自動車×ITあるある」について、よく聞かれるような当たり障りの無い話を書いてみました。ただ、僕は記者でもなんでもなく、調べようともしておらず、現場の嗅覚のみに基づく話なので、もし間違ってたらごめんなさい。というか、ちゃんと調べてる人いたらぜひご教授・ご指導くださいませ。
それではみなさんごきげんよう。
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