情報デモクラシー2014:車検情報、個人利用制限に不公平感 商業利用には道
2014年07月27日
パーソナルデータ(個人の行動に関する情報)を活用したい企業には利便性を高め、市民のアクセスは個人情報保護のために制限する−−。自動車登録情報の扱いは、簡単に言えばそういうことだ。
■原則公開の公証制度
自動車登録情報が個人情報保護法の適用外なのは、原則公開の公証制度だからだ。公証制度の目的は、情報を社会が共有し、取引の安全性を高めて個人の財産保護を図ることだ。不動産登記簿が、所有者の住所・氏名に加えて借金の担保に入っているかどうかも記し、誰でも見られるのはそのためだ。
自動車登録制度を定める道路運送車両法も「所有権についての公証」を法の目的の筆頭に掲げ、「何人も(登録事項証明書の)交付を請求できる」と定めている。車も借金の担保にすることが法的に認められており、自動車登録は車の登記でもある。国土交通省が「個人情報保護法の適用外」と説明するのはこのためだ。
■個人情報保護で制限
しかし自動車登録情報は、2006年の道路運送車両法改正で第三者が事実上取得できなくなった。犯罪目的での住所調査など悪用を防ぐためだ。請求の際にはナンバーに加え、ボンネットを開けなければ分からない車台番号が必要になり、本人や関係者以外が請求することは、事実上不可能になった。
この悪用防止措置は同時に、民間人による調査活動を妨げる。
「証拠集めが難しくなった」と民事訴訟を多く手がける崎岡良一弁護士(大阪弁護士会)は話す。離婚訴訟時の財産の特定や、浮気相手の調査などにナンバー照会は有効だったが、今は弁護士法に基づく煩雑な手続きが必要で、1カ月以上かかる。報道機関が政治家の資産を調べる時などにも有効だったが、使えなくなった。「登記と同じ制度のはずなのにおかしい」と崎岡弁護士は疑問を投げかける。
■商業利用には道
06年改正は一方で、商業利用に道を開いた。国土交通省の大橋明史・自動車情報課専門官は「民間でも情報を利用したいという要望があった」と明かす。国の審査を通った企業には08年から、自検協と全軽自協を通じて情報が有料提供されている。ナンバーのみによる照会には、提供住所を町名や大字までにとどめており、大橋氏は「個人情報保護と情報の活用のバランス点だ」と説明する。
しかしこうした情報を、コンピューターを使って他の情報と組み合わせれば、人の行動を追跡できる。単なる住所や氏名よりもプライバシーに触れる可能性がある。
国交省によれば、新サービスはガソリンスタンドが商圏調査に利用するなどしているという。ただ、民間と言っても、一般市民による利用は想定されていない。個人から審査の申請は実際、全くないという。