「声優のアイコ」なぜ女の姿で犯行 “変装”し男心を突く?
「声優のアイコ」を名乗る女による昏睡(こんすい)強盗事件で、東京都杉並区の無職、神(じん)いっき容疑者(30)=昏睡強盗容疑で逮捕=は女性でありながら男性として生活し、整形手術を受け、改名もしていた。
逮捕後にも数人の被害男性が訴え出たため、20件以上の強盗事件に関与した疑いが強いが、警視庁捜査1課の取り調べには否認を貫いている。なぜ、神容疑者は女性に戻って犯行を繰り返し、被害男性たちは簡単にだまされてしまったのか。
「この女に見覚えがある」。神容疑者が逮捕された今月7日以降、警視庁には新たに数人の男性がこう名乗り出た。新宿区内の飲食店の男性店員は昨年5月、客として現れた神容疑者とみられる女に被害に遭ったという。
女から「滋養強壮剤だから」といって液体入りの瓶を差し出され、飲み干した直後に意識を喪失。翌朝に目を覚ましたが、数万円の売上金が奪われていた。男性は「睡眠薬が入れられていたに違いない」と憤りを隠さない。
◆性同一性障害
一連の事件のうち数件で、被害男性宅やホテルなどに酒を飲んだコップなどが残されており、採取された微物のDNA型が神容疑者と一致。警視庁が今年4月に画像公開した「アイコ」も神容疑者の特徴と完全に合致したという。
捜査関係者が首をかしげるのが、犯行の手口だ。画像の「アイコ」はヒョウ柄のベレー帽、ピンクとベージュ色のミニスカート、茶色いブーツ姿だった。他の現場でも女性らしい服装で目撃されている。
神容疑者はインターネット上のブログで、「性同一性障害」を告白。女性扱いされることを極端に嫌がり、24年春ごろには乳房の除去手術を受け、改名して「いっき」になっていた。逮捕時には短髪でパーカ、ズボン姿だった。
東洋大学の桐生正幸教授(犯罪心理学)は「男性が女装する感覚でかつらをかぶり、スカートをはいて自分の普段の姿を偽ったのでは」と指摘。「もともと、女性として男性の下心をくすぐるしぐさや表情を知っているから、被害男性も心を許したのではないか」とみる。
◆一人称は「俺」
知人男性らによると、神容疑者は5、6年前はホストクラブで勤務しながら俳優や歌手を目指していた。話し好きで、酒を飲むとより冗舌になった。
一方で、逮捕時には無職で、生活保護を受けていた。2、3年前から睡眠薬を処方され、最近のブログの中でも鬱病やアルコール中毒だったことを打ち明けており、仕事のできない状態だったとみられる。
神容疑者の整形手術と一連の事件が始まった時期が重なっており、捜査1課は手術費用などで経済的に困窮し、犯行に及んだ可能性があるとみている。
取り調べ中も、自分のことを「俺」という神容疑者。捜査員も特殊な事情に配慮して男性として向き合っているが、容疑については一貫して否認。捜査1課は勾留期限の28日にも別の昏睡強盗容疑で再逮捕し、動機などの解明を進める。