電子化対象書籍の選定基準・定義の策定の際、委員より出された選書に関する意見を紹介します。

~審査委員会委員からの意見~

永江 朗 (早稲田大学 教授)

・被災地の人びとの役に立つと出版社が考えるもの(娯楽的なものも含めて)を優先してほしい。
・品切重版未定など印刷本では入手が難しくなっているものを優先してほしい。
・ロングセラーとなっているものを優先してほしい。

 

田村 俊作 (慶応大学メディアセンター長)

1.電子化対象図書について、出版社の方の判断を縛りたくはありません。電子書籍市場の創出については、未だ試行錯誤の部分が大きいと考えていますので、多様な試みがあって良いと思います。ただし、公費による補助であることは忘れないでください。
2.電子書籍の特徴は、一度作成・提供されてしまえば、いつでもダウンロード(販売・利用)が可能となることです。紙の本と異なり、短期間に売り切ってしまうことが高収益につながるとは限りません。販売・提供方法の工夫によっては、息長く利用される本の方が、安定的な収入源となることを良くお考えになり、対象図書を選んでください。
3.対象書籍についてもう少し具体的に言えば、例えば、ノンフィクション、教養書、専門書、学術書、実用書などの中に、息長く利用され、電子書籍に向いている本がある筈だと考えています。また、子ども向けの科学の本や知識の本などの中にも適した本があるはずだと考えています。

 

堀 渡 (元 国分寺市立本多図書館館長)

1.地震、津波、原子力発電等の災害とその復興のために、さまざまな広い視点から役に立つタイトル、また被災した人間と地域を励ますタイトル

震災関連本というと、東北/地震/津波/原発などが書名にはいったストレートなものを思い浮かべがちですが、勤務した東京近郊の市立図書館では、3.11直 後から、書庫の本を含め阪神淡路、チェルノブイリ、スリーマイルから食品汚染、太陽光発電、立川断層、心のケアの本まで、実に様々な蔵書が何ヶ月も動き続 けていました。私はTVや新聞を見ながら思いを巡らし、対話し、ネットで図書館の在庫を調べ請求する市民達のイメージが常に浮かんでいました。各出版社 は、もちろんそれぞれ得意なジャンルをお持ちでしょうが、被災問題のベタなタイトルばかりでなく、我が社のかつて作ったこの本はこんな寄与をするはず、と いう広い<被災関連本>を自信を持って出してきていただければ、と思います。

2.広く東北関連のコンテンツであること

この際、各社から東北関連のコンテンツはできるだけ出されたらいかがでしょうか。かつて描かれ、研究され、紙の出版物になっていた<多様な切り口の東北主 題>が、(もちろん各社の今も使える、電子出版で在庫を持ってもいいという判断フィルターを通した上でのことですが)、電子出版では少し突出して揃う、と いうようなことがあっていいのでは。出版界のする応援は、東北関連の出版物をエントリーすることです。

3.紙の出版物の形では入手や読書が困難になっているコンテンツが電子出版でよみがえること

この促進策がなければ今の段階では電子化できない、しかし紙の出版物としては定評があり、品切れが惜しまれている、記憶に残る出版物のあれこれが各出版社から復活してくれることを期待しています。

4.この事業をきっかけに、電子出版物に紙の出版物のようなバリエーションと多くのタイトルの状況がもたらされること

出版事業の大きな美徳は、(時代状況の中で傾向性や困難性はあるにせよ)多様性にあると思う。紙の出版物には手間暇かけてじっくり編集された、そして多様な コンテンツがある(あった)。この特性は、紙の出版事業が電子の出版事業に移行しても、ぜひ引き継がれてもらいたい、そうでないと読者は本を愛せないだろ う。今の段階では促進策の手を借りても、各出版社が得意分野でさまざまな本をエントリーされて、<多様な電子出版物>という状態を出現してもらいたい。電 子出版物が魅力的なラインナップとなることを期待しています。

 

田口 久美子 (ジュンク堂 池袋店)

1.まずこのプロジェクトは、国民の税金を使って実行される、ということを忘れてはいけない。
2.紙の書物がデジタルより優れているという信念を持ちながらも、情報のデジタル化への抗しがたい社会の流れにかんがみ、デジタルの良さがより生きる出品を優先させたい。という二点を念頭に置いて、
3.在庫僅少になっているもしくは品切れ本、等で、重版をするには現在の経済状況では困難、ただ、製作費が安価になりしかも以後の在庫負担がなければ、長期間の販売として経済的に見合う本、を対象にしてほしい。

3について付記すると、私どもは大型書店ですので、店頭での「品切れ本」への問い合わせが後を絶ちません、古本屋をご案内をしているのですが、このような機会にデジタルとして提供していただければ、読者にとっても出版社にとってもメリットのあることだと思います。

 

石橋 毅史 (フリーライター)

1.「22世紀に伝えたい我が社の1点」
「100年後の人類にどうしても伝えたい本」を各社が1冊だけ選べるとしたら、という条件で申請書目を決める。1点だけ選ぶのは大変ですが、それが2点であっても5点になっても、悩むのは同じだろうと思います。各出版社のポリシーが表れると思いますし、書店や図書館にとっても、仕入れや選書、フェアなどを考えるための資料となるかもしれません。また読者にとっても、眺めて楽しい一覧表となるのではないでしょうか。

2.「電子出版をテーマとした作品」
これまでに「出版のデジタル化」がどのように考えられてきたかがアーカイブ化されていることは重要であり、その対象となる書目のラインアップが一覧できれば貴重です。これも1と同様、書店や図書館にとっての参考資料にもなるでしょうし、読者にとっても興味深いと思います。

3.現時点で「これは紙より電子で売れる」と想定する1点
2012年時点で、従来の出版各社が「電子書籍で売れる1点」 と見たのはどんなタイトルであったか? これが一覧できることも記録として貴重です。あくまで実験であり、実際の結果の良し悪しはあまり関係ない。ただし 〝陳列〟だけで終わらせず、販売促進にも取り組むほうが実験の意義が高まるかもしれません。これもまた、書店などにとっては一つの参考資料になると思いま す。

3つの提案に共通する、私の考え方は以下です。
○「緊デジ」は、「未来へ遺す記録」と「実験」に重点を置くとよいのではないか。
○書店や図書館にとっても役立つ資料とすること、読者が見て楽しめる(買ってもらうことにこだわる必要はない)一覧表作りを目指すことを重視すると、より意義のあるラインアップになるのではないか。
 また、3つの提案はあくまで「例」に過ぎず、大事なことは「なぜそれをラインアップに入れたいか」という理由があることではないかと思います。これは主催者側への提案となりますが、申請にあたっては「理由」を書く欄があるとよいのではないか。

 

仲俣 暁生 (日本文藝家協会デジタル委員)

1.単発書目ではなく、双書・選書・文庫などシリーズ/レーベル単位での全点網羅。
2.紙の本でも入手可能な新刊よりも既刊書、ことに品切れや在庫僅少本を優先。
3.広義のノンフィクションを優先し、小説などフィクションは古典を中心に最小限に。