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とあるおっさんのVRMMO活動記 作者:椎名ほわほわ

番外編、かつてのクソ餓鬼側

 ──叩きのめされた。 まさか、最弱と言われている人族なんかに。 喧嘩を売ってきたから半殺しぐらいにはしてやらんとと思っていたのに、こちらの攻撃は全て避けられ、向こうの攻撃は全て当てられた……一発一発はなんてこと無かったはずなのに、気がつけばこの体がぼろぼろになっていた。

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 かつて、俺は自分自身を最強だと思っていた。 ちょっとしたおやつの取り合いが切っ掛けで喧嘩をした事が始まりで、相手を簡単に叩きのめせた事が俺自身の強さを理解させた。 強い者はすばらしいとされるこの国では、双方の同意があれば街中での戦いは認められている。 もちろん殺すのは論外だが、そこまで行く前に引き際と言うものは心得ているし、万が一に供えて密かに監視している者もいる。 監視の存在を知ったのはつい最近なのだが。

 喧嘩のような決闘を繰り返し、成長によって体も大きくなり何時しか俺は少しずつ横暴になった。 その横暴さが原因でなんどお上の方々に迷惑をかけたことか。 あの時の自分は本当にクソ餓鬼だった。 徒党を組んで練り歩き、恐喝紛いの事を何度やっただろうか。

 何時しか、一が武がとても狭く感じるようになって、二が武、三が武にも俺は出向いて決闘を繰り返した……ドイツもコイツも俺から見てみれば雑魚の様にしか思えなかった。 二、三回どつけば戦意を失いやがるし、歯ごたえも全くねえ。 そんな毎日を繰り返し、俺は何時しか自分でも気が付かぬうちに横暴さをより増していった。

 四が武、五が武、六が武にも出向いた。 流石につええ奴がごろごろいた。 しばらくはそいつらとの決闘が楽しかった。 だが、それもほんの数ヶ月だった……何時しかそいつらすらあっさりと叩きのめすことが出来るようになってしまっていた。 戦おうぜと誘っても、お前とはもうやらねえと言われてしまえば決闘はできない、いくら強さを尊重する国とはいえ、無理強いは下種げすだとされている。

 毎日イライラする日々が始まった。 八つ当たりに外でうろついている獣達を殴りつけたことなんて数が知れない。 そいつらを持ち帰って金に換金し、酒を飲む、そんな日々が続いた。 たまに決闘を吹っかけてくる奴もいたが、軽くぶっ叩けばあっさり負けを認めやがる……満たされない日々を送った。

 そんなある日、決闘で返り討ちにした奴がこう言った。

「けっ、どうせ『龍の儀』に出る度胸が無いからここで八つ当たりしてるんだろ?」

 そいつにもう一発蹴りを入れて気絶させた後、俺は気がついた。

(そうだ、『龍の儀』があったじゃねえか! アレを乗り越えれば国の外に出てもっと強い連中と戦える! どうせ『龍の儀』だって今の俺なら楽勝だろうしな!)

 後先も考えず、六が武をでて、龍城を目指した。

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「そうですか、では貴方様は『龍の儀』をお受けにいらしたのですね」

 龍城の門番は丁寧にこちらに聞いてきた。 こちらはお構い無しに、そうだと返答するとではこちらへどうぞと案内された。 案内された先は広い場所に結界が張られている闘技場だった。

「ほう、お主が挑戦者か」

「なんだよ、相手はババアか……つまらない事になりそうだぜ」

 闘技場の中央にいたのは、1人のしわくちゃのババアだった。 服だけは立派だが、中身は残念だな……まあいい、決闘ならば相手を殺さなければお咎めはねえ。 さっさとぶっ飛ばして、『龍の儀』を終了させちまおう。

「そうか、そうか……わらわがババアに見えたか。 それはおぬしの心根よ!」

 そうババアがでかい声を上げたかと思うと、一瞬にしてババアが一匹のでかい成龍に変身しやがった!

「それでは、『龍の儀』を始める。 お主が気絶する前に、わらわを倒すか、『龍の儀』の合格にふさわしき者であると認めさせてみよ!」

 ふ、ふん、どうせでかくなっても、中身はあのババアだ、見た目だけだろう。 そう考えて俺は全力で走り出し、龍の顔めがけて跳び蹴りを放った。

『遅い』

 いつの間にか目の前に龍の指が迫ってきていた。 そこからの記憶が俺には無い。 気がつけば俺は倒れていた。 自慢の頑丈な体が全く言う事を聞いてくれず、立ち上がることすら出来ない。 俺は……負けたのか……!?

『……たわけが。 餓鬼ゆえに周りに守られていた事も知らずのぼせ上がった愚か者よ。 お前の力などその程度よ……失せよ、お前のような龍人、殺す価値もない』

 そう龍が言ったかと思うと、俺は龍城の門前に飛ばされていた。

「これにて『龍の儀』は終わりだ、言うまでもないがお前は失格だ。 お前は生涯で後一回だけ受けるチャンスが残っている、次はもっと鍛えてくるんだな」

 先ほどとは変わって一気に冷たい言葉で話しかけてくる門番。 この豹変ぶりは何だ?

「よりによって、あのお方をババアなどと言うとは……あのお方の姿は見る者によって姿を変える。 心がやましいほど、醜く見える。 後は自分で考えるが良い。 一が武へ帰るが良い」

 そうして再び飛ばされ、気がつけば一が武の隅っこに俺はいた。 俺は最強だったんじゃなかったのか? 俺は強かったんじゃなかったのか? じゃあ何故今俺はこんな場所でみすぼらしく倒れている?
 ガラガラと何かが崩れていく。 崩れていくものが何なのか一切理解できず……崩れていく何かに対して、俺は何も出来なかった。

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 それから時間は流れた。 気がつけば俺は屋台を引いて蕎麦屋を細々とやっていた。 なんでも今日からは、人族がこっちの国にも来るんだそうだ……外からの参入者か……俺には関係ないな、客が増えるかもしれないって事以外はな……。

 そうして店をやっていたが、1人の緑色をした外套を羽織って全身を隠し、妙な弓を背負った男が1人店に来た。 そいつが『龍の儀』について知りたがったので俺の過去を交えて説明してやったのに……こいつは事もあろうに……

「ですが、そのクソ餓鬼は強かったんですよね。 ですが、そこで完全に諦めて負け犬に成り下がり続けるんでしょうか? 後一回挑めるチャンスがあるというのに。 それじゃ他の人と変わりませんね」

 などと挑発してきやがった。 人族の癖に、龍族に喧嘩を売るとは。

「そのクソ餓鬼にはもう一度立ち上がる勇気は無いのか? と言うことですよ。 相手が強大だったから、だから尻尾巻いて逃げる弱虫だったのか? 力があるだけの小心者だったのか?」

 と、挑発のおかわりまでしてきやがった。

「『龍の儀』の恐怖を知らないやつが偉そうな事を言うな!」

 何時ぶりかも分からない激しい怒りが俺の中にあった。

「『龍の儀』どころか、今の状態じゃ目の前の人族にすら勝てないでしょうな」

「いい度胸だ、表に出ろ」

 ぶちのめしてやる。

 ──そう思っていたのに……俺は負けた。 人族相手に負けた、言い訳は出来ねえ、俺の攻撃は一発も当たらずに終わってしまったのだから……。 そいつは最後にこう言っていきやがった。

「こうやって戦って、すっきりしたというなら、それはそれで良い。 だがな、こうして負けた事をほんの少しでも悔しいと思う気持ちがあるなら、もう一度立ち上がって、必死に修行をして『龍の儀』をもう一回やれ。 そうしないと、多分、アンタずっと訳も分からず苦しみ続けて、死んだ目を一生していることになるぞ」

 言いたい放題言いやがって……良いだろう、乗ってやるよ、もう一回『龍の儀』を受けて、龍になって見せようじゃねえか! そのとき、てめえこそ逃げるんじゃねえぞ……!!
番外編ゆえスキル表記はありません。
最近番外が多い、申し訳ないです。
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