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とあるおっさんのVRMMO活動記 作者:椎名ほわほわ

食べ歩いた先で

 翌日ログインし、龍の国一が武、その街中をのんびり散策する。 実装されたばかりのために人が非常に多い……そして食べ物屋の屋台がかなり多い。 団子に始まり、寿司、和菓子、うどんに蕎麦、おでんなど色々である。 ここで何で寿司の屋台があるんだよ? と言う人も居るかもしれないが、もともと江戸時代の握りずしは屋台が中心だったのだ。

(せっかくだし、少しずつつまんでみるか)

 屋台にはいり、1番小さいサイズを頼み、色々な屋台の食事を楽しむ。 肉系統の屋台が少ないのも江戸っぽい部分だ。 明治まで肉食を殆ど日本人はしていないなどと言う説もあるが、実際は狸汁など肉は食べられていたりする。 ピカーシャも色々な料理を食べてご機嫌のようだ。

(次の蕎麦屋で最後にしようか)

 いい感じにおなかも膨れているし食べ歩きとしてはもう十分だろう、今までの味からして、醤油なども売っているはずだ、後で仕入れよう。 焼き鳥で一杯なんてリアルではすぐに酒がまわってしまうし、健康的にも高カロリーは少々厳しいからできない……。

「いらっしゃい」

 そういって出迎えたのはガタイがいいが元気があまりなさそうな男だった。

「蕎麦を1つ」

「160グローだよ」

「あいよ」

 160グローを払い、蕎麦があがってくるのを待つ……30秒ほど茹でて、多少の具が乗っかれば完成のようだ。 長々と茹でるのは蕎麦じゃないからな。

「おまちどう」

 そういって出される蕎麦。 それを遠慮なくすすりつつ、ちょっと聞いてみた。

「店主、すまないがちょっと質問良いですか?」

 途端に、蕎麦屋台の店主がピクッと反応する。

「『龍の儀』って何なのかご存知ですか?」

 そう問いかけると店主はこちらを向く。

「──ああ。 『龍の儀』とは、龍族、つまりこの国で生まれた俺達が生涯に2回、あんたたち外の世界から来た人達が生涯で3回だけ挑める戦いの儀式だ」

 ふむ。

「それは何処で受けれるのでしょうか?」

 店主は右手を広げて静かに上から下に下ろす。

「そう慌てるな。 ──外から来た人たちは、まずは通行手形を松にすることが必要だ。 これは色々な仕事をこなし、実力を証明すればいつかはなれるから問題はないはずだ、実力があればな」

 ずぞぞ~……。

「そして、松ランクの者だけが入れる龍城の前で龍神様を相手に仲間達と戦う、それが『龍の儀』だ、仲間は6人までに絞る必要があるがな」

 ごっくん。

「そして、その戦いで『龍に勝つか、認められる』事で、『龍族は完全な龍に変化できる』ようになって、外からの訪問者は『龍の如き力を手に入れることが出来る』とされている」

 ふむ。

「なるほど。 ルールそのものは単純ですね……それ故にごまかしも小細工も一切効かないか」

 顎を撫で始めた自分に店主が続ける。

「ああ、戦う相手の龍神様には毒などの小細工は一切無駄だ、純粋に自分の力を見せるしかない」

 ふうむ、それがプレイヤーにとっては1つのこの国における到達点か。

「で、店主は挑んだことがあるんですか?」

 途端に店主が嫌な顔をする。

「──昔話をしよう、ちょいと昔の事だ……」

 あるところに力だけは人一倍あるクソ餓鬼が1人いた。 そいつは有り余る力を振るって暴れまくった……悪餓鬼を集めて徒党を組んで練り歩いた事も数知れず。 そして決闘と言う名の喧嘩も数知れず。 そのクソ餓鬼は喧嘩に一度も負けなかった。 喧嘩した相手が後から武器と人数をそろえて逆襲に来ても、返り討ちにして半殺しにしてきた。

 それだけ暴れ続ければ、お奉行様の前に何回も引っ張り出された。 しかし、百叩きなどの罰を受けても何とも思わなかった。 なぜならそのクソ餓鬼は力も体も強かったから……叩かれようが石を足に乗せられようが全く堪えなかった。

 そんな風に自分の力をもてあますそのクソ餓鬼は、『龍の儀』に挑む事にした。 大の大人が囲んで仕置きをしても堪えない体。 ちょいと力を入れてぶん殴れば簡単に相手を倒せる力。 これなら余裕だろうと気楽に考えて『龍の儀』を単独で受けた。

 ──結果は惨敗。 何も出来ないどころか、竜神の指一本に軽く弾かれた直後から記憶がない。 気がつけば倒れていた……大人が数人束になってかかってきてもびくともしなかった体はぼろぼろで立ち上がれない。 どんな相手も簡単に叩きのめせた力は、竜神の鱗に傷どころか触った形跡すらなかった。

『……たわけが。 餓鬼ゆえに周りに守られていた事も知らずのぼせ上がった愚か者よ。 お前の力などその程度よ……失せよ、お前のような龍人、殺す価値もない』

 その言葉が終わると同時に外に追い出されていた。 そして何より心を折られていた。 そのクソ餓鬼は魂が抜けたかのようにフラフラとさまよい、時間が流れ、気がつけば蕎麦屋の屋台を引いていた。

「と、言う感じだ」

 なるほどね、ここのクソ餓鬼ってのは、目の前の店主の昔の事だな。

「後1つだけ、質問があるのですが」

「なんだ?」

 一呼吸置いて、店主に切り出す。

「『龍の儀』は貴方達龍族の方なら生涯に二回受ける事ができるんですよね? そのクソ餓鬼とやらは、後一回『龍の儀』に挑戦しないのでしょうか?」

 店主は首を振る。

「無理だな……大抵の奴は一回挑戦するだけに留まる」

 では後一声だけ言って立ち去ろうか。

「ですが、そのクソ餓鬼は強かったんですよね。 ですが、そこで完全に諦めて負け犬に成り下がり続けるんでしょうか? 後一回挑めるチャンスがあるというのに。 それじゃ他の人と変わりませんね」

 店主が怒気を発し始める。

「それは……どういう意味だ」

 乗ってきたか。

「そのクソ餓鬼にはもう一度立ち上がる勇気は無いのか? と言うことですよ。 相手が強大だったから、だから尻尾巻いて逃げる弱虫だったのか? 力があるだけの小心者だったのか?」

「『龍の儀』の恐怖を知らないやつが偉そうな事を言うな!」

 まだ心の奥底でくすぶってはいるな、本当に心が折れてたら、力無く笑うはずだから。

「『龍の儀』どころか、今の状態じゃ目の前の人族にすら勝てないでしょうな」

「いい度胸だ、表に出ろ」

 これだけくすぶってるなら思いっきり煽ってやる。 夢があったのに、色々理由をつけて諦めた現実での自分のようになって欲しくない。 精一杯やって、ぶっ倒れても納得して笑えるようになって欲しいから。 そうしないと、本当の意味で前に進めない。 ピカーシャを下ろして店主に対して構える。

「殺し合いではないのだから、お互いに武器は禁止、使うのは……体から繰り出す体術のみで」

「──龍人の力は伊達じゃあない。 半殺しにされるのは覚悟しろよ」

 この喧嘩がこの国における行動方針が決まる切っ掛けになった。
喧嘩を売った理由は明日。

スキル

風震狩弓Lv10 蹴撃Lv46 遠視Lv56 製作の指先Lv78 小盾Lv14
隠蔽Lv41 身体能力強化lv61 義賊Lv33 上級鞭術Lv5 
妖精言語Lv99(強制習得)(控えスキルへの移動不可能)

控えスキル

木工Lv39 上級鍛冶Lv36 薬剤Lv43 上級料理Lv15

ExP 15

所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者

二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人

同行者 青のピカーシャ(アクア) 飛行可能 騎乗可能 戦闘可能 魔法所持
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