愚痴
クィーンとの対談も終わり、後は体の回復を待ってからこの国を出て行き、ファストの街に戻る。 そう予定を立てていた……いや、まだ後一箇所だけ旅立つ前に行っておかなければならない場所があったな。
「ぴゅい」
会談にはそこそこの時間を使っていたはずなんだが、ピカーシャは待ってくれた、けれど。
「ごめんな、もうお前に乗せて貰うことは……出来なくなってしまったよ」
クィーンから今までの事に対する物品を貰った以上、これ以上言い訳ができない。 もう『お客様』の時間はおしまいと言うことだ。 もう目立つのは構わない、そこは今後ふっ切る事にするが、本来ピカーシャはそうぽんぽんとプレイヤーが乗せてもらえる存在じゃないのだから、そろそろこのへんも線引きをしないといけない。 そうしないと何時までもピカーシャに甘えてしまいかねない。
自分がそんな事をしていたら、クィーンにあれだけの色々と言った事に対して示しがつかない。 あいつを傷つける下手くそな立ち回りをしたのだから、こちら側もそれなりの行動をしないといけない。
「ぴゅい……」
こちらに力なく声をかけてくるピカーシャだが。
「ごめんな……本当にごめんな……」
ピカーシャに悪いところなんて一切無いのに、悲しませる事になってしまった。 でも、ピカーシャは妖精国のシンボルの1つである以上、出て行く自分がこれ以上乗せて貰い続ける訳には行かない。
クィーンとピカーシャ、両名に済まないと詫びつつ宿屋に戻りログアウトした。
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ログアウトして現実にもどって来たが……胸の奥の悲しみは消えてくれない。 クィーンとは近づき過ぎたと言う問題はあったが、まるで手のかかる妹みたいだった。 ピカーシャも可愛いやつだった。 あの世界は本当に良く出来すぎてて、いろいろ困るな……あいつらには時間を置いた後、謝らなければならない。
だがここで引退はしない。 幸い今の所、仕事のほうは就労時間が安定しているからプレイを続けていても現実の方に影響はないし、博打もやらない、タバコや酒もやらない自分はゲームが数少ない楽しみだからな……その楽しみの中にちょっとばっかり苦しいことがあったからと、ぽいっと捨てるようなことはしない。 そこでクソゲーなどと罵って捨てるのは、自分個人の主義に反する。
──クィーン関連の話は現実の人間に言っても通じない。 やはり明日向かう先で話をしたほうがよさそうだ……。
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「ふむ、指名手配された経緯はそういうことか……お前さんはよくよく巻き込まれるなぁ」
翌日ログインして、向かった先は貴族のフェンリル邸宅。 『荒髪の』ゼタンの元を訪れていた。 指名手配されていたため、会うことを断られるかと思ったが、すんなり会わせて貰えた。 武器の類はフェンリル家の執事さんに全て預けることが条件とされたが。
「すまんな、ゼタンとミーナ嬢の結婚式には参加することが出来そうにない」
どうも、ゼタンとフェンリル家のお嬢様、ミーナ嬢との結婚が本決まりしたそうで、10日後に結婚式を挙げる予定なんだとか。
「状況がそれなら仕方ねえ。 むしろこうやって面会に来てくれて嬉しいが」
約束だったからな、と返答して、出されたお茶を飲む……む、美味しいなこれ。
「ま、色々あったろうし、お前さんも頭に来たんだろうが、結果的にはやむなしの部分も多いと俺は見るぜ。 確かに一国の王がフラフラ遊びに出ていちゃ流石に困る」
そういって、ゼタン用に作られたと思われるカップでゼタンもお茶を飲んでいる。
「今思えばだが、もうちょっと冷静になれていれば……今回は悔やむ部分が多い。 こんなことを話せるのはゼタンぐらいしか思いつかなくてな、すまん……」
ゼタンは首を振る。
「なあに、誰だってそういうときはあるもんさ。 むしろそういうことを言ってくれる相手に選ばれた分、俺も捨てた物じゃねえって事か」
外見もでかいが中身もでかいな、自分の矮小さを思い知らされる。 歳はとっただけでは意味が無いと言うことだな……自分もまだまだだ。
「クィーンが普通の妖精だったら。 もしくはこっちがそれなりの位だったらもうちょっと良かったのかもしれないが。 一国のトップと根無し草、近すぎるのは問題だったな」
無意識のため息がこぼれ出る。
「ああ、その点については言っておく事がある。 妖精国の女は甘くないぜ、立ち直ったらそんな立場の差など考えられないくらい行動をしてくるぞ。 ──今回のミーナ嬢のことで俺は思い知った」
何があった、ゼタンよ。
「そ、そうか。 まあ、しばらく時間を置いてからもう1回手を取り合える時が来たら、そのときはしっかり握手できるように心をきちんと整理して置かないといけないな」
ゼタンは頷きつつ……。
「それで良いと思うぜ。 なかなか世の中ってのは上手くいかねえもんだが、だからこそ面白い、そうだろう?」
苦笑しながらもこのゼタンの意見には頷く。 ワンモアの方では上手くいくことが多い自分だが、現実は上手くいかないことばかりだ。 進学などもそうだったが、夢をいくつも諦めたし、恋愛においては失敗率100%と来たものだ。 だからこそ、仕事が上手く言っている事は僥倖だとことさら強く思える。
「そうだな……」
そう呟いた自分にゼタンが声を掛ける。
「おいおい、老け込んでるなよ。 お前の歳がいくつかは知らないが、心が老けるとあっという間だぞ? 世の中が全てセピア色に見えちまうぞ」
世界が全てが古くなった写真のようにか……。
「そいつは笑えないな」
「だろう?」
そういってお互いまたお茶を飲む。
「ゼタン、ありがとう。 口に出せただけでもずいぶんと楽になった」
「嫁さんを見つけてくれた礼とでも思ってくれればいいさ」
そろそろ行くか、ああその前に。
「これ、結婚祝いに渡しておく」
そういって2枚の鱗をテーブルの上に置く。
「何の鱗だ? ずいぶんと大きい鱗だが?」
ゼタンが浮かべた疑問の表情にニヤッと笑って答える。
「グリーン・ドラゴンの鱗だ。 早々手に入る物じゃないからお祝い代わりにはなるだろう?」
自分が答えた瞬間、ゼタンは飲んでいたお茶を吹きそうになる。
「ど、ドラゴン!? この鱗が!?」
最後に驚かせることも出来たし、失礼しようか。
「ああ、本物だ。 出所だけは言わないでくれよ?」
そういいつつ、手を振って部屋から退出する。 玄関に向かう途中でフェンリル家の執事さんから預けていた武器を受け取り、フェンリル邸から出てゆく、これで今の所は思い残しが無くなった。
最後の最後にゼタンに面会できました。
スキル
風塵狩弓Lv23 蹴撃Lv22 遠視Lv53 製作の指先Lv58 小盾Lv9
隠蔽Lv41 身体能力強化Lv41 義賊Lv28 鞭術Lv38
妖精言語Lv99(強制習得)(控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
木工Lv39 鍛冶Lv40 薬剤Lv43 上級料理Lv13
ExP 4
所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精の祝福を受けた者
二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人
状態異常 〈虚弱・中〉〈移動速度30%ダウン〉〈パッシブスキル効果弱体〉

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