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とあるおっさんのVRMMO活動記 作者:椎名ほわほわ

VSドラゴン、後半

「よくもやりおったな!」

 〈7つの落星〉を食らったと言うのに、グリーン・ドラゴンは勢い良く立ち上がる。 さすがはドラゴン、アレを食らってなおぴんぴんしている。 だが鱗の隙間からは血は流れ出しているし、ダメージは間違いなく通った。

「人のことを散々吹き飛ばしておいて、自分が痛い目にあったらそれか? 他者に対して牙を向けたなら、自分が噛み切られる覚悟もしておけってんだ」

 これを案外わかっていない人は多い。 ある漫画じゃないが、他人に対してナイフでも銃口でも拳でも向けたら、それが自分に対しても向けられると言う事をまさに『覚悟』をしていなければならない。 それが嫌なら他者に対してやるなと言う警告、この世界はゲームゆえにそれが特に分かりやすい。 冒険者としてモンスターに剣を向けることが許されているのは、モンスターに体をぶち抜かれる事をプレイヤーが無意識に認めているからだろう。

「おのれえ……」

 こちらを睨みつけてくるグリーン・ドラゴン。 だがブレスは吐いてこないか……よっぽど強化オイルで口内を焼かれたのが効いたと見える。 ドラゴンが様子見をしているうちにレア・ポーションを飲んでHPを回復させておく。

「誇り高いのと、傲慢は別物だぞ?」

 相手を怒らせるのは一長一短なのだが、あえて今回は怒らせる。 現実では使えない手段だが、こっちの世界では別だ。 攻撃力などは怒りに任せて振るうようになるからより上がるかもしれないが、最初から一撃でも直撃を貰った時点でこっち側はお終いなのだ、大した問題ではない。

「貴様!」

 再び突進してくるグリーン・ドラゴン。 だが、冷静さを欠いているためか突進のタイミングが良く分かる。 その上ダメージを受けているため、先ほどに比べてスピードの乗りが悪そうだ。 〈大跳躍〉で突進をジャンプで回避しつつ、チェーン・ウィップを適当に振り下ろす。 ダメージを取るためではなく、回避してやったぞと思い知らせるためだ。

「やはり〈7つの落星〉のダメージは隠しきれないようだな、明らかに動きが鈍くなっているぞ」

 更に挑発を重ねる。 もっとだ、もっと派手に勢い良く突っ込んでくるか、もう一度ブレスを吐かせたい。 そう思っていたが、グリーン・ドラゴンはゆっくりと上昇して行き、一定の高さでホバリング状態に入る、来るか……。

「この高さなら、あの爆発は届くまい!」

 ほう、怒り狂っている状態に近くても、それぐらいの判断力は残っていたか、これはちょいと不味いな……。

「人族にしてはてこずらせてくれたが、これで終わりだ!」

 そういってブレスの体勢に入りだした。 なので、届かないのは分かった上で強化オイルを2本、全力投球でグリーン・ドラゴンめがけてぶん投げる。 口内を焼かれた恐怖がよみがえったのか、届かないはずと分かっていたグリーン・ドラゴンも一瞬動きが止まる。

「上手く行ったらお慰み、芸人の仲間入り……は無理かな~」

 緊張をほぐすためにわざと抜けた声を出してから弓を構える。 狙いは宙に舞った二本の強化オイル。 狙いを定め……射抜く。 空を舞っていた強化オイルの二本の内の一本に矢が突き刺さり、爆発し、近くにあったもう1本の強化オイルも誘爆を引き起こした。 そしてぎりぎりクールタイムが終わっていた〈ウィンド・ブースター〉を再発動。

「っ、虚仮脅しか!」

 グリーン・ドラゴンは強化オイルの爆発で一瞬ひるんだものの、口にためていたエネルギーを吐き出し、強烈な風のブレスを発動する。 そのブレスの中に含まれる多数の風の刃が扇状に広がり、ブレスの効果は届く場所にある草や岩などを容赦なくバラバラにしていく。 ブレスが終わった後に残ったのは、綺麗にそこだけ草も何も無い更地。 その更地にゆっくりとグリーン・ドラゴンは降りて行く。

「──お、終わったか……? 人族の癖に付け上がるからこうなるのだ……」

 グリーン・ドラゴンの横暴さがはっきりと表に出ていた。 いくら話し合いとはいえ、ドラゴン族の力は圧倒的で、他の種族は基本的に脅えることになる。 例外は戦争を仕掛けていたときの妖精族ぐらいである。

 そんな恐怖の存在が目の前に居て話をしてきたらどうなるだろうか? 他の種族にとっては、殺されないのなら儲け物と言う話になってしまう。

 ドラゴンにとって一方的に都合のいい話ばかりを持ち出しても、圧倒的な力をもつ存在が相手では、他の種族はうかつに反対も出来ない……下手に機嫌を損ねたら種族丸ごとを、ドラゴンの力で踏み潰されてしまう可能性があるからだ。

 そうやって恐怖による話し合いの解決が続いた結果、グリーン・ドラゴン達が自分達は話術で平和的にかつ、いい条件を引き出せたんだと誤解をする者が増えてゆく。 それが横暴、傲慢になるのに時間は掛からない、そんな部分は悲しいほど人間とそっくりだった。

(──よし、こっちには気がついていない)

 一方、アースはどこにいるのかと言うと、グリーン・ドラゴンの後ろに居た。 あの時、強化オイルを投げて射抜いた後に、〈ウィンド・ブースター〉を発動して前方に全力で走ったのだ。

 強化オイルの爆炎、ならびにグリーン・ドラゴン自身が吐いたブレスがブラインドとなり、グリーン・ドラゴンはアースを見失っていた。

 そのあと、〈隠蔽〉を起動して気配を絶ち、地面に伏せて背の低い岩の後ろに身を隠していた。

(チャンスは一度。そして、本当の意味で長い間戦ってくれたX弓あいぼうを失う事になる。──すまない、お前をこんなことで殺す事になる)

 結末は分かっている。勝利できる可能性は0%である。でも、『相打ち』ならば辛うじて持っていける可能性がある。その可能性を現実にするために……相棒をここで砕く。覚悟を決めた、最後の一矢を構える。

 ──さだめは今ここに巡る

 ──苦楽くらくを共にした我が分身の命を

 ──を捨て、己の命と共に捨て

 ──ふさがりつつある明日をこじ開ける為に

 ──明日あすを後の者達に残すために

 ──意思いしの全てをこの一矢に乗せて

 ──すべてはこの最後の一矢を放つために生きてきた

 〈サクリファイス・ボウ……〉詠唱を終えた途端、弓が、矢が激しく輝きだす。その輝きで〈隠蔽〉も解除される。そして当然、グリーン・ドラゴンも気がつく。

「貴様、死んでいなかったのか!? そしてこの輝きは……貴様、初めから玉砕するつもりだったのか!?」

 当然そのつもりだ。初めからドラゴンを相手に勝てるなんて思っちゃいない、だが文字通り一矢を報いることは出来る……のぼせ上がったその頭を冷やすことぐらいはできる。

「ドラゴンとて、決して無敵ではない。この一矢にて思い知れ!」

 そして、輝く矢を射る。射た瞬間、がくんと体から力が抜ける感覚を味わう。 HPとMPの最大値が一気に減っていく……そしてHPは最大値が元の10%に、MPは0%になってしまった。これでもうアーツは一切使えないうえに、状態異常の〈虚弱〉〈移動速度90%ダウン〉〈パッシブスキル無効化〉まで発動した。 ここまで能力が下がると、リアルの本人より弱くなってしまっている。

「ぬおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 グリーン・ドラゴンは風の障壁を全力で構築し、それで矢を防いでるようだ。 まずい、これでダメージを取れなかったら、後は嬲られるだけだ……。 そう思った瞬間、気が無意識に抜けてしまったのか、倒れこみたくなってしまう。 だめだ、相棒の最後なんだ、最後まで見届けなくてはいけない、倒れるわけにはいかない。

「相棒ー! ぶちぬけえええええ!」

 震える手で弱々しい握りこぶしを何とか作り、声と共に前に突き出す。 その瞬間、まるで意思がのり移ったかのように矢が輝きを増して、グリーン・ドラゴンの障壁を貫通し、腹部辺りに突き刺さり……強烈な閃光を発しながら貫いていく。

「ぐぎゃあああああああああ!?!?!?!?」

 周りに響き渡ったのは、腹部を貫かれてゆくグリーン・ドラゴンの絶叫であった。

────────────────────────

「おそらく、これでも倒せないだろう……」

 そう、俺は予想していた。 腐ってもドラゴン、その生命力は折り紙付きだろうと。 そして、予想通りに腹部を貫かれ、ぼろぼろになりつつもまだ息の根は止まっていないグリーン・ドラゴンがそこに居た。 その姿を確認した後、相棒であったX弓が俺の手の中で光となって砕けて行くのを確認。

「ありがとうよ、すぐにあいつもそっちに送る、向こうでいい的代わりにでもしてくれ」

 長い間共に戦ってくれたX弓……相棒は今ここでその命を終えた。 人によっては笑うかもしれない、所詮それは物に過ぎないのに、と。 でも、俺だけは笑えない、笑ってはいけない。

「き……さ……ま……」

 体はボロボロで、口からは激しく吐血しているグリーン・ドラゴンが、それでもこちらをにらみつけている。

「やっぱりまだ倒れないか……こっちももう戦えない、せいぜいできることは倒れこむぐらいだ……でもな?」

 懐から強化オイルを両手にもてるだけ、限界まで山ほど取り出す、その瞬間グリーン・ドラゴンの目に脅えが走る。

「この爆発するオイルを持ったまま、お前の腹に開いた大きい穴めがけて倒れることは出来る。 お前の鱗は確かに強靭だ。 だが、体の中までは流石に強靭ではあるまい……?」

 グリーン・ドラゴンは完全に脅えだした。

「や……め……」

 止めろ、と言いたいのだろう、だが止めるわけがない。

「他者を無意識のうちに見下し続けた愚かなドラゴンよ、己の死を持って思い知るが良い……」

 そして俺は倒れこむ、最後の特攻だ。 相棒を死なせたんだ、止めはきっちり刺さないとな。 ゲームゆえに、デスペナを貰って復帰できる体ではあるのだが、この一瞬だけは。

 そして、俺は大穴が開いたグリーン・ドラゴンの腹めがけて倒れこむ。 倒れこみつつ手に持っていた強化オイルが零れ落ちてゆき……自分とグリーン・ドラゴン両者に止めを刺す事になった。
これにてドラゴン戦は終了です。

そして、妖精国から出て行くことになります。

スキル

風塵狩弓Lv23 ↑3UP 蹴撃Lv22 遠視Lv53 製作の指先Lv58 小盾Lv9
隠蔽Lv41 身体能力強化Lv41 ↑2UP 義賊Lv28 鞭術Lv38 ↑1UP 
妖精言語Lv99(強制習得)(控えスキルへの移動不可能)

控えスキル

木工Lv39 鍛冶Lv40 薬剤Lv43 上級料理Lv13

ExP 4

所持称号 妖精女王すら魅了した者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者  指名手配(妖精国)

二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人

状態異常 〈虚弱〉〈移動速度90%ダウン〉〈パッシブスキル無効化〉
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