挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
とあるおっさんのVRMMO活動記 作者:椎名ほわほわ

三十六計最後の戦法

翌日、ログインしてまず真っ先に行った事。 やはりくっ付いていたクィーンを引っぺがして……

「ジャーマン・スープレックス! ワン、トゥ、スリィー!」

 と、ぶん投げておいた。 もちろん投げスキルなんか持っていないので、派手な音はしたがダメージは全く無い。

「いきなり朝から酷い!」

 とクィーンは猛抗議して来たが、ボーナスタイムはもう終了! と宣言して黙らせる。 大人の対応なんて物はこちらの世界では米粒1つにも劣る。 いうべきところはキッチリと言わなくては伝わらないし、空気を読めと言う考えなどは相手に対しての横暴になってしまう。 

「遠慮なく人の体を遠慮なくまさぐりおって……恥じらいとかはないのか?」

 追撃をかねてそうクィーンに言ってみるが、「貴方に対してはありませんよ?」とさらっと言い返され、一瞬あっけに取られる。 いやいや、こちらがカウンターパンチを貰ってどうする。

「とりあえず、敗者の代償は払ったんだから、出て行くぞ」

 そういって部屋を後にしようとすると「もうちょっとお♪」と調子に乗って来たので、イバラの鞭をとりだし、〈拘束〉で縛り上げ、ベッドの上にぶん投げておく。 新しい鞭を買わないと。

「こういうプレイは私の好みじゃないー!」

 などとクィーンはじたばたしていたがスルーして出て行く。 まったく、他の人に対する対応みたいにそっけなく対応してくれるほうが気楽だと言うのに。

────────────────────────

 ようやく王城の外に出て(今回は素直に歩いて正門から出た)、街を散策しようと考える。 いい加減、蹴撃と鞭のスキルレベルをしっかり上げておきたい頃合いなので、まずは失った鞭を買いたい所。 そう思って町に向かおうとすると、緑髪で杖をついた一人の老人がこちらに近寄ってくる。

「失礼、アース様ですな?」

「人違いです」

 カァー カァー カァー

「そ、そんなはずは……黒髪に黒い目で弓を持っているのはアース様ぐらいだと聞いていますが」

「ですから人違いです」

 ア~ホー ア~ホー ア~ホー

 変なカラスの泣き声が聞こえてきたような気がするが、ここは全力で否定しておかねばならない。 何せこの目の前の老人がプレイヤーでも妖精でも無く……ドラゴンだと分かってしまったから。 前日に訪れたあのグリーン・ドラゴンの雰囲気が、目の前の老人からもしていたので分かったのだ。

「そもそも、他にも黒髪黒目の人は普通に多いですし、弓を持っている人もこれまた多いですよ?」

 無理やりにでも畳み掛けて押し切る。 交渉術の1つだが、ここはそれで押し切る事にする。

「ですので、私とそのアースと言う方を勘違いなされたのは致し方ないかと」

 うそつき? 卑怯者? 何とでも言ってもらおう。 ドラゴン族が来る理由はもう間違いなく料理だろう。 なのに何の報酬もないし、ハーブだって使い果たした。 これ以上ドラゴンに奉仕していたらそのうちこちらは破産してしまう。 あ、そうだった、ハーブも追加を買いにいかねば。

「では、失礼いたします」

 そういって内心は焦りつつも、表面はポーカーフェイスを保って焦らず表面はいつもどおりを装って、ゆっくりと離れていく。 ここで振り返ってもいけない、走り出してもいけない。 そういう動作1つで綻びが大きくなって相手に嘘がバレてしまう可能性があるのだから。

 それにしても伝説というか、孤高の存在であったはずの存在なのに、いつの間にか孤高の存在(笑)に成り下がっていないだろうか? プライドなんかで腹が膨れるか! と言う有名な言葉もあることだし、そういう変化がドラゴンの中に訪れているのかもしれない。 その原因は……知った事か。

 だが、いちいち料理を提供を続けることは出来ないのが実情である。 料理人プレイをしている人ならそれも良いだろうが、自分は冒険者だ、冒険者のはずなんだ。 これ以上料理に漬かり続けるのは勘弁願いたい。 その料理も、前日あれだけお嬢様の為に作ったことだし、デザートみたいな感じで食ってもらえれば、2週間は持つだろう。 妖精族特性の保温箱みたいな物も用意してもらったのだから。

────────────────────────

 街で新しいチェーンウィップという鎖型の鞭を買い、食材店でハーブや野菜を買い込む。 連日の料理で心もとない状態だったからこれで一安心だろう。 調味料はファストで買ったのがまだまだ豊富にある。

 そもそも、自分の料理は街のレストランで食べる料理ではなく、野営の場で、その日に手に入った得物を料理して食うことが当初の目的だったのだが、気がつけばとてつもなく迷走したものである。 ──迷走と言うレベルではない気もするが考えたら負けだ。

 後は今日から泊まる宿屋を探さないといけない。 ほどほどの値段でそこそこの寝床であれば文句はない。 最悪、馬小屋で寝ることも辞さない。 以前クィーンから逃げ出した時に駆け込んだ宿屋はなかなか良い宿屋だったのだが、あれはどこにあったかね。

 よさそうな宿屋を探してうろうろしていると、城の前で会った老人と、クィーンに出くわした。 何食わぬ顔でスルーしようとしたのだが……肩をつかまれる。

「やはり貴方がアース様でしたな!」

「イバラの鞭で拘束は酷いと思います!」

 2人が左右から肩を掴んで迫ってくるが返答は1つしかない。

「人違いです!」

 すぐさま〈フライ〉と〈大跳躍〉を唱え、手を振り払ってから空に舞い上がり屋根の上に着地する。

「逃がしませんぞ!」

「待ちなさい!」

 後ろから声がするが、聞こえない、自分には何を言っているのか分からない、分かりたくない。 〈ウィンドブースター〉を使い、一気に走り出す。 宿屋がチラッと目の端っこに入ったのだ、そこに駆け込むだけである。

「宿屋に入られたら負けよ!」

「承知、取り押さえましょうぞ!」

 オマエラ、俺は犯罪者か。 心の中だけで突っ込み猛スピードで屋根の上を走り抜ける。 ダカダカダカダカと屋根が派手に音を立てる、屋根の下にいる人には申し訳ない気分だ。

「早い!」

「拙い!」

 〈ウィンドブースター〉の制限時間ぎりぎりで宿屋に飛び込むことに成功した。 驚いている宿屋の主人に対して、「ココは一泊いくら?」と質問する。 「ご、50グローだ」と驚きつつも返答してくれたので50グローを手渡し、素早く鍵を貰う。 もう一度〈大跳躍〉で鍵のナンバー204号室、つまり二階の部屋の前に飛び移りドアノブに手をかける。

「まってええ!」

「陛下にお叱りを受ける!」

 などと聞こえてきたが待つわけが無い。 そのままドアを空けて部屋に滑り込み、ドアを閉じて鍵をかける。

「勝利……っ!」

 辛うじて逃げ切った事で一気に全身から力が抜ける。 もう妖精国には居られないな、今日の事でお尋ね者扱いになるかもしれない。 明日はすぐに逃げ出さないと……。
妖精国編、そろそろおしまいです。

スキル

風塵狩弓Lv18 ↑1UP 蹴撃Lv22 遠視Lv53 製作の指先Lv58 小盾Lv6
隠蔽Lv41 身体能力強化Lv36 ↑1UP 義賊Lv28 鞭術Lv37 
妖精言語Lv99(強制習得)(控えスキルへの移動不可能)

控えスキル

木工Lv39 鍛冶Lv40 薬剤Lv43 上級料理Lv13

ExP 4

所持称号 妖精女王すら魅了した者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 指名手配(妖精国)

二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ