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とあるおっさんのVRMMO活動記 作者:椎名ほわほわ

番外編、がんばれグリドラさん

なんとなく、リクエストされた気がしたので。
 私はグリーン・ドラゴン。 誇り高きドラゴン族の一人である。 我々グリーン・ドラゴン族は他のドラゴン族に比べて一回り、巨大なレッド・ドラゴン族やブラック・ドラゴン族と比べると二周りほど小さい体躯である、だが他のドラゴン族に軽視されることは決して無かった。

 その理由は他のドラゴン族が真似できない『機動力』を所持していたからである。 飛行速度、旋回速度などの機敏さはグリーン・ドラゴンが1番得意とする行動であり、ドラゴン族がまだ1つに纏まらぬ時はその機動力を持って戦っていた。

 やがてレッド・ドラゴンを頂点とする争いの終結と共に、我々の立場はその機動力を生かした使者役へと姿を変えることになった。 他のドラゴン族では、移動するための速さが出ない上に、その巨大すぎる体躯の影響で周りに恐怖しか与えないからである。 その上に我々は長い訓練を経て、外見を人族に限りなく近い姿にすることにも成功した。 使者役として必要に迫られたからだ。

 自らを変化させる能力、ドラゴンとしては力を抑制できる能力。 この能力を手に入れた我々グリーン・ドラゴン族の立場はドラゴン族の中でも上位に位置する事になった。 いくらドラゴンが孤高の存在を選んだとはいえ、全く他の存在と関わらずに生きることには無理がある。 そのときに下手に揉めずに対話できる我々の存在はとても大きかった。

「あんな小さな者など踏み潰せばよい」

 こう言って、過去に他の種族と戦ったレッド・ドラゴンが居た。 その結末は、他種族の死体が山のように積み重なったが……他の種族の意地と言うのだろうか、そのレッド・ドラゴンは小さき者と罵った多種族の者に討ち取られると言う結末を迎えた。

 この一件で、ドラゴン族は『我々は強いが、その事を驕ってはならない。 出来るだけ対話を持って問題を解決すべし』と言う考えが主流になった。 それに伴い、グリーン・ドラゴンである我々の立場はとても重要な立場になったのだが……。

(※注意! ドラゴン族は独自の言語を持ちますが、それでは話が分からなくなるので、作者が日本語へ翻訳しています。 それをご了承下さい)

「その私が、人族の作った『料理』なるものを運ぶ事になるとは……」

 フェアリー・クィーンが用意した保温魔法がついた箱の中に、あの人族の男が作った『ハンバーグ』なるものや、『スープ』なるもの、『ポーションジュース』といったものが限界まで収納されている。 お嬢様があまり食事を取らない状況を調べて来いと陛下に命令され、フェアリー・クィーンのつてを使って関ったとされる人族に出会ったのだが……。

「よりによって、ハイ・ラビットの肉などと言う低級な肉から……」

 その小ささ(ドラゴン視点です)から、数十羽ぐらい纏めて食わないと食った気がしない上に、肉の味的にも下位に順ずる肉が初めてのお嬢様の食事だったとは……つい怒りを覚えてしまったが、その肉をあの人族が与えていなければお嬢様の命がなかったのも事実。 その上悪意ではなく善意のための行動であったのも事実故に、怒鳴る事は抑えた。

「あれほどの味を出すのが人族と言う存在なのか?」

 あの人族が口走った『ハンバーグ』や『スープ』なる言葉を聞いたとき、つい反応してしまった。 料理は、今までに妖精族とエルフ族、ダークエルフ族の料理を使者として出向いた先で食したことはあったが、妖精族のは味が甘すぎる。 エルフのは肉が控え目過ぎる。 ダークエルフのは肉の量は満足したが味は好きになれなかった。 その経験上、人族の料理も大して美味くは無いのだろうが、お嬢様が食した以上、自らも食する事でお嬢様のお心を少しでも知ることが出来ると思った。

「──いかん、あれほど食ったと言うのによだれが……」

 目の前で作ってもらい、食ったときの衝撃。 焼く事で今まで知らなかった肉のうまみ。 そこから僅かに舌を刺激する心地よい僅かな痛み。 それらを上にかけてあるソースとやらが包み込み、ややくどくなりがちな味をハーブがサッパリとさせる。 そしてスープに手をのばせば、鹿の味だけではなく、ハーブやスープの味と混ざり合ったまた違う肉の味を楽しませてくれる。

 素直に認めてしまったのだ、これは『美味い』と。

 気がつけばもっと作ってくれと頼んでいる私がそこに居た。 プライドも何もない。 こんな美味い食事は今までに無かった! これが食えるなら頭なんかいくらでも下げる。 気がつけば、フェアリー・クィーン達まで夢中になって食べている、私だけではないのだ、この食べ物に魅了されているのは。

 そして、お嬢様の食欲不振の理由も理解できた、お嬢様もこれを食べたのに違いないだろう。 これを一度食べてしまったら、我々の中でも最上の肉であり食事とされてきたブル・フォルスの肉すら霞んで見えてしまう。 最下級の肉をここまで美味くできるとは……人族とは侮れぬ存在よ!!

「ようやく我らの谷が見えてきたか! お嬢様、お届けに参ります!」

 あまりに食べないお嬢様の影響で、医術に詳しいブラック・ドラゴン族は右往左往しているし、薬草を見つけ出すのが得意なホワイト・ドラゴン族も走り回っていると聞いている。 この『料理』とやらで、お嬢様が持ち直せばよいのだが……。

────────────────────────

「おお、ようやく戻ったか! 誇り高きグリーン・ドラゴンよ!」

 レッド・ドラゴンの陛下直々の出迎えとは……状況は深刻か!

「はっ、ただいま戻りました!」

 意図的に大きな声を上げる事で、他のドラゴン族にも私の声が聞こえるようにする。

「ようやくか、待ちかねたぞ! お嬢様の食欲を戻す方法が分かったのか!?」

 お嬢様を溺愛しているブラック・ドラゴンの長老もやや興奮気味に駆け寄ってくる。 どうやら向こうは今のところ成果無しと言ったところか。

「あらゆる薬草を試しましたが……お嬢様は……」

 ホワイト・ドラゴンの女長老も疲れたような声を出す。 ちなみにホワイト・ドラゴン族は女性が必ず長老になることを定めている珍しいドラゴン族だ。

「陛下、無礼を承知で申し上げます。 お嬢様をすぐここへお連れください!」

 『料理』をもたせてくれたあの人族の男は言っていた、「料理が暖かい状態で食べさせてあげて下さい。 毒を入れてなどいないことは、目の前で作ったことが証明になるでしょう?」と。 今はあの男の作った『料理』を信じる他無いのだ。


 ──そう意気込んでいたのだが……今お嬢様は私が箱から取り出す『料理』を次々と平らげていらっしゃる。 周りで見ているドラゴン族の各長老達も、驚きのためかあっけにとられている。

「も、もう一皿欲しいです!」

 そういっておかわりを要求するお嬢様。 まさにこれこそがドラゴン族の食欲と言わんばかりにお食べになられている。 もう空になって積み上げられた皿が40枚を超えた。 そろそろ持ってきた『料理』が尽きてしまうぞ……。 だが。

「おなか一杯です。 おいしかった~♪」

 そういってお嬢様は満面の笑みをお浮かべになられた。 何故かブラック・ドラゴンの長老殿が悶えている様子であるが……。

「い、一体それは何だ! 何なのだ!?」

 狼狽した様子でレッド・ドラゴンの陛下がお尋ねになられた。 なので、妖精国であったことを全て嘘偽り無く報告した。 私が山ほど『料理』を食べたということだけは除いたが。

「人族の『料理』だと……? あの時の男にそんな技術があったのか……!?」

 陛下が唸る。

「グリーン・ドラゴンよ。 まだ残っているのか? その『料理』とやらは」

 これはホワイト・ドラゴンの長老殿。 幸い僅かに残っているので、陛下と、レッド、ブラック、ホワイト、ブルー、グリーン、イエロー各自の長老に試食してもらう。

「こ、これは……!?」

「バカな!? これがハイ・ラビットの肉だと!?」

「信じられません……人族がこれを!?」

「良くわかった、お嬢様がブル・フォルスの肉すら見向きもしなくなるわけだ!」

「よもや、このような肉の味が有るとは!」

「ぐっ、もっと食べたいぞ! 本当にもう無いのか!?」

「お嬢様があそこまで食いつく理由はこれか!」

 陛下や長老たちは一様に唸る。 気持ちは良くわかる、私だって衝撃を受けたのだから。 しかしここで風向きが変わってきた。

「グリーン・ドラゴンよ。 お前の口からこの『料理』とやらの匂いがするのは気のせいかのう? しかも大量に……」

 そういってきたのはにおいに対して敏感なイエロー・ドラゴンの長老! しまったあ! 後味を楽しみたいが故に口を濯がなかったのが裏目に……!?

「……イエローよ、それは本当か? 先ほどの報告には、お前が食したとの報告は無かったのう?」

 レッド・ドラゴン陛下の言葉に全身の鱗が一気にそり立つような気分になってしまった。

「無言、故に肯定じゃな。 イエローの鼻の良さは誰もが知るところ、恐らく向こうでたらふく食ってきたのじゃろう……皆、これは罪ではないかのう?」

 静かに言うブルー・ドラゴンの長老。 まずい、本当に変な話になってしまった!

「罪じゃな」

「罪ね」

「こんな美味いものをたらふく……罪以外の何物でもない!」

「許せぬな!」

「見過ごせん、虚実の報告も含めてな」

「決定じゃ!」

 ま、まずい、お仕置きはいやだ、嫌だああああああ!!

「お仕置き部屋を使うのはしばらくぶりじゃのう。 さ、楽しんでまいれ」

 ギャアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああ!

────────────────────────

 その後、2週間後に許されたグリーン・ドラゴンである彼は、自分であの人族の料理を真似してみようと思い立った。 しかし、基本もわからず外見だけの真似をしても、それは無意味であると気がつき、もう一度あの人族に会いたいとレッド・ドラゴン陛下に訴え出る。

 が、食べ物の恨みを抱えてしまった皇帝はそれを却下。 なまじ味を知ってしまった彼の苦悩はしばらく続く事になる……、合掌。
スキル表記はありません。

こんな話はダメですかね……。
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