嵐が去って
「流石に疲れた……」
料理を作り終わりグリーン・ドラゴンが漸く立ち去って、自分はだらしなく机に突っ伏した。
「クィーン、こんなにドラゴンってぽんぽん出てくる存在じゃ無いはずだよな……?」
そういって視線をフェアリー・クィーンに向ける。
「ええ……そのはずなんだけど……ハズなんだけど……貴方の影響で、これからはそうはならないかもしれないわ……」
つい頭を抱える。
「もしかしなくても、ドラゴンのお嬢様に料理を与えたのは不味かったか……?」
この自分の台詞に側近の6名が一斉に頷く。
「料理で開かれる孤高の種族との付き合いって……もういい、止める方法が無い……」
さりげなく自分はとんでもない爆弾をぶん投げてしまったのではなかろうか。 料理の腕なら、現時点で、もう自分よりはるかに上の腕前を持つ料理人プレイヤーも多い。 その人達は、ドラゴン達に対して有利に付き合えるかもしれない。 その架け橋を作った、と言い訳させてもらうしかないか。
「その前に、あのグリーン・ドラゴンさんの無事を祈りましょう……」
そう言って黙祷をするクイーン。
「そりゃどういう意味だ?」
純粋な疑問。
「ドラゴン族の王はレッド・ドラゴンと言うことはもう十分分かってるよね? その王に先んじて美味しいものを口に山ほど入れちゃったからね……。 毒見と言うレベルはとうに超えているし、良くてパンチ一発、悪ければボコボコにされるでしょうね。 ドラゴン族の食欲は本当にすごいから」
殺されはしないでしょうけど。 と付け加えたが、ある意味死んだほうがマシだってぐらい叩かれるとしたら悲惨だろうな。
「今日はもう寝よう……料理を作るだけでへとへとになることが多いのは、冒険者として間違っている気がするが……」
そういって、この騒動を撒き散らした部屋を出て行こうとする。 そのとき、服の裾を掴まれた。
「でしたら、ぜひ我が城へ。 最高の寝室を提供しましょう」
満面の笑みを浮かべているクィーン。 だがその笑顔を見た自分は、体全体に悪寒が駆け巡っているのを感じていた。
「そして寝室にもぐりこむつもりか! 前科が有るからわかり易いぞ!?」
クィーンの笑顔にひびが入った。 『ピキリッ』と言うSEが聞こえたような気がする……が、あえて無視する。
「側近の方、後はお願いします」
この一瞬の硬直を生かして外へ出る、再び窓から。 飛び出した後〈フライ〉で滑空し、民家の屋根の上に着地、そのまま屋根の上を走り抜ける。 ただでさえドラゴンとの対話で疲れている上に料理までやったんだ、これ以上のどたばたは今日のところはお引取り願いますって事で。
しばらく屋根の上を走っていたが、ある程度距離を開けた所で地面に着地する。 とりあえず距離は稼げたし、後は宿屋を見つけてログアウトするだけだな。 そう思っていた時間が自分にも有りました。
「なん……だと……!?」
街の人に話を聞いて、宿屋への道を教えてもらったのだが……この東の内陸街の宿屋は一箇所に集中しているとの事で、せっかくあれだけ走ったのに、走ってきた距離と同じだけ戻らなければいけないようである。
そうなると、クィーンがどこかで待ち伏せしている可能性がある。 その上、側近にも指示を出しているかもしれない。 それでも宿屋に入ってログアウトしないと、色々な意味で危険すぎる。 止むを得ない……〈危険察知〉表示にクィーンと配下の6人を最優先表示にして行動を開始する。
しばらく歩いて宿泊街がようやく見えてくる、さて、ここからが本番だ。 狭い道に入り、〈隠蔽〉で姿を隠す。 10秒間のうちに他の小道や狭い道に入り、〈隠蔽〉を解いて休憩しつつ、少しずつ宿屋に接近する。 行動がもろ不審者なのだが、この際贅沢は言っていられない。
〈危険察知〉の機能によるレーダー反応にも注意を払う。 やっぱり城に戻らず、この宿泊街をうろついている反応が7つある。 油断すると間違いなく捕獲されるだろう、何が悲しくてこんな鬼ごっこを街中でしないとならんのだ。 しかも鬼が7人で逃げ役が一人ってバランスが悪すぎるだろうに。 どこぞのホラーゲームじゃないんだぞ。
一歩一歩確実に宿屋に近づくが、それはそのまま追跡者に近寄ると言う事と同義な訳で。 冷や汗を流しているような感覚を背中に味わいつつ、ついに宿屋の一歩手前に到着した。 問題はここからで、自分が〈隠蔽〉持ちなのは向こうも分かっている事なので、何らかの看破する手段を使ってくるだろう。 どう騙すか……。 その時、後ろからぽんぽんと不意に肩を叩かれた。
「はい、ゲームオーバーです」
その肩を叩いた本人は……クィーンだった。
「私のデコイに引っかかりましたね? では確保~♪」
と嬉しそうにクィーンは言ったかと思うと、いつ後ろを取られた!? と混乱している自分をテレポートさせ、豪華な寝室に送り込んだ。 これは……詰んだ。
「以前は逃げられましたが、今日は逃がしません。 さ、添い寝タイムですよ~♪」
流石にここまで来てじたばたするのも意味が無いので、諦めてベッドに自分から入る。 敗者の結末なんてこんなものだ、特に自分の結末はな……。 クィーンは手をわきわきさせながらベッドに入ってくる、ものすごく怖いのだが。
そしてこの後どうなったかは……抱きつかれて、頬ずりされて、胸を押し付けられつつべったりとくっ付かれ続けたとだけ言っておこう。 ログアウト寸前に見たクィーンの顔は実につやつやとしていたと言うことも付け加えておく……。 自分は羞恥心を刺激されすぎて死にそうだった、くそう。
今回は負け。
クィーンさんは溜まった物が爆発中。
スキル
風塵狩弓Lv17 蹴撃Lv22 遠視Lv53 製作の指先Lv58 小盾Lv6
隠蔽Lv41 身体能力強化Lv35 ↑1UP 義賊Lv28 ↑2UP 鞭術Lv37
妖精言語Lv99(強制習得)(控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
木工Lv39 鍛冶Lv40 薬剤Lv43 上級料理Lv13
ExP 4
所持称号 妖精女王すら魅了した者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者
二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人

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