上を向いて・・・
てくてくと東の内陸街を目指して歩く。 南のときはゼタンに乗せてもらったから早く着いたけど、今回は純粋な徒歩になるから時間が目一杯かかるだろう。
風が気持ち良い、たとえるなら五月の中盤ぐらいな感じだろうか。 初夏直前の程よい温度の中にそよ風が来ると程よく涼しい、アレに似ている。 モンスターはちらほらと居るものの、討伐されまくっている影響なのか、本当にまばらにしか存在せず襲われる心配はほぼない。
鳥の鳴き声がたまに聞こえてくる。 シーフ・バードの鳴き声では無いが。 食料も十分にあるし、撃ち落す理由も無い、聞こえてくる鳴き声をBGMに草原を歩き続ける。 時々泡妖精たちが漂っている所も見かける、風に乗って遊んでいるのかもしれない。
そんな平和な空気の中、空腹度などが減ってきたので軽く作っておいた料理を食し、小休憩。 ここ最近本当に厄介事に求愛されたからこんなのんびりとしたプレイ時間は本当に久々だ。 普段はこれでいいんだよ、激しいのは戦う時ぐらいで、それ以外はこれ位ゆっくりとした時間を送るべきなんだ。 何が悲しくて納期寸前のようなドタバタな時間の使い方を常日頃からしなきゃならんのだ。
──そうなったのも全ては因果応報とは分かっているんだがなぁ。 料理で目立ち、弓で目立ち、そしてクィーン関連で目立ちすぎた。 それらは精一杯やった結果だから、それ自体を後悔はしてはいないが、今冷静に考えればやっぱりやりすぎていた。
そこまで動いてしまった理由としては、純粋に楽しかったんだな、体が十全に動くということが。 小さいときはそれこそ日が暮れるまで全力疾走して走り回って、転んで、笑っていたんだっけな。 それが何時しか、仕事に追われる時間が増えて、運動をあんまりしなくなったな~なんて思っていたら、その時にはもう悲しいほどに、運動が出来なくなっていた。
歳をとったから、は言い訳に出来るけど、したくない。 頭では仕方が無い事と分かっていても悲しかった。 1時間歩くぐらいは平気だけれど、以前のように走り回ろうとすると息が上がる。 どうやって長い時間走っていたのだろう? どうやってあれだけ長い時間遊び続けられたのだろう? そんなことを考えてしまう。
それならせめて、と思い立ちPCを新しくしてから飛び込んだこのワンモアの世界。 画面の向こう側に居るアバターを動かすのではない、仮想空間とはいえ、そこに映っているのは自分の手。 何時しか失ってしまっていた昔の動き、いや、それどころか今は現実では出来ない跳躍までも可能になった。 その体を全力で動かせる楽しみを思い出してしまったが故に、麻薬の様にはまってしまった結果、この世界で色々と動き回ってしまった。
そして気がつけばいろいろと首を突っ込み、柵がいくつも出来て、トラブルも一杯体験した。 それでもこの世界を離れていく気持ちにはなれない。 リアルでは運動といっても、もうバスケットやドッヂボールはもちろん、ケイドロ、もしくはドロケイと言うんだったな、そんな事をやることが出来る歳じゃなくなっちまった。 リアルではもう、体も心も、あの時のようには動いてくれないんだ……。
無意識に手を顔に当てると水滴が手についた。 ……なんだよ、結局上を見てても涙は流れるじゃないか。 そもそもなんで泣いているんだよ俺は、そんな事ぐらい分かっていた事だろう。 スポーツ選手だっていつかは引退していく、どんなに好きな選手だって何時までも輝いては居ないのだから。 それが人と言う存在の、覆せない決まりだろうに。
だめだな、今の俺には、周りが騒がしいぐらいで良いのかもしれない。 老け込みたくないという気持ちがあったのに、周りが騒がし過ぎるとなんて思っていたくせに、いざこうやって1人になると一気に老け込んでいくような気がする。 泣いてしまう自分がそこに居る、それを理解してしまった。
──それもいい、いやそれで良いのか。 変に格好つけた『大人』の格好はこの世界ではしている必要もない。 もちろん他の人に多大な迷惑をかけるようなまねは論外だが、もう少し気張らずにこの世界を楽しんだ方が色々と得なのかも知れない。 幸い、騒がしくしてくれる連中の心当たりは山ほどある。 そいつらを、これからはもうちょっと邪険に扱わない様にしてみようか。
それもこれも、とりあえずは東の内陸街にたどり着かないと始まらないな、少し急ごうか……このペースでは途中で野宿するハメになっちまう、そうなるとログアウトが難しくなる。 移動ペースの計画を練り直し、早足での移動に切り替えていく。 東の内陸街へ到着するまでにかかる移動距離は、まだまだ長いのだから。
途中に俺が入っていますが誤字ではありません。
スキル
風塵狩弓Lv17 蹴撃Lv22 遠視Lv53 製作の指先Lv57 小盾Lv6
隠蔽Lv41 身体能力強化Lv34 ↑1UP 義賊Lv26 鞭術Lv37
妖精言語Lv99(強制習得)(控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
木工Lv39 鍛冶Lv40 薬剤Lv43 上級料理Lv11
ExP 4
所持称号 妖精女王すら魅了した者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者
二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人

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