襲来・前編
不景気なときは不景気が続くというもので、目ぼしい依頼はこのひまわり亭を訪れたときから全く入ってこない。 給仕をしたり、街の妖精から手を貸してと頼まれ、力仕事をやったりと冒険者としては地味な仕事ばかりが続いた。 いや、自分がソロだからPTじゃないと危険すぎる依頼をこなせないというだけか。 PTを組んだプレイヤーが依頼を手にとって、出かけていくのを今までに何度か見ている。
そういえば他のプレイヤーから聞いた話だが、今回の大会はシルバーが率いていたPTが優勝したそうだ。 グラッドはまた苦汁を舐める事になったな。
ともかく、そんなアルバイトのような生活が数日続いた。 これはこれで面白いものがあったが、流石に駆け出しの冒険者じゃあるまいし、多少の給金が貰えているとはいえ、つまらなくなってきているのも事実。 そろそろ他の町へ旅立とうか、そんなことを考えていた日だった。彼女が訪れたのは。
その時の彼女は、顔まで隠す外套を身につけてふらっと訪れた。 そしてこちらを見ると、すすすすすっと近づいてきた。
「お客様、まだ当店は酒場として営業しておりませんが……どちら様でございますか?」
一応当たり障りのない言葉で様子を見ることにした。 顔まで隠しているという部分でかなり警戒を無意識でしている自分がいた。
「貴方は……冒険者……よね……?」
ぼそぼそと自分だけに聞こえるぐらいの音量で話しかけてくる。 声はかなり若いが……妖精族の影響でもう歳を声で計るのは諦めている。
「本業はそうですが」
それぐらいなら別に言っても構わない。 そう思って素直に答える。 が、彼女のはそう聞いたとたんに、いきなりこっちの服の袖を掴んでぐいぐい引っ張り出す。
「お、おい! 一体何事だ」
無言で引っ張られてはたまったものではない。 つい声を出すと、ひまわり亭の女将さんも店の奥から出てきた。
「何の騒ぎだい? 酔っ払うには早すぎるよ!」
女将さんはそういいながら出てくると、袖を引っ張られている自分を見る。
「何事だい?」
女将さんはそう聞いてくるが、
「こちらも訳がわからないんです、こら、ひっぱるなって!」
と返答するしかない。 そうすると外套を着ていた彼女は手を離し、小さい紙切れを取り出してなにやら文字を書き始めた。
「依頼。 それなら……いいでしょ……」
と、小さいくぼそぼそと喋りながら、一枚の紙を女将さんに手渡す。 女将さんはその紙を眺めた後に、こちら側に手渡してくる。
[直接指名依頼 この人の戦闘を見たい 料理を食べたい 報酬 3000グロー]
そういえば、名前が特に売れてくると直接指名された依頼を受けることがあるってWikiにあったが、これもその1つかね? 報酬は安いが、まあ良いだろう、鈍っていた体を動かせる。
「了解、この依頼を受けよう。 それで納得するんだろう?」
そう、外套を着て顔を隠す彼女に聞くと、一回だけ頷く。
「女将さん、今日は忙しい日じゃないから抜けていいかな?」
女将さんは「ほら、早く行っといで!」と送り出してくれた。
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「では確認だが、この付近に居るハイ・ラビットを2匹、それに釣られたシーフ・バードを自分1人で倒して、その肉を使った料理をあんたに振舞えば依頼達成と言うことなんだな?」
最終確認を取ると、彼女は頷く。
「うん……それで間違いない……私はここで見てる……邪魔しない……」
なんともまあ、つかめない子だがまあいい、依頼内容を確認できればそれでいいのだから……。 久々に弓を手に持ち、ハイ・ラビットを探す。 早速1匹目を見つけたので草むらに入る。
「久々だから念入りに……〈隠蔽〉」
〈隠蔽〉で姿と気配を隠してから……〈ホークショット〉でハイ・ラビットの頭を狙う。 狙い違わず放たれた〈ホークショット〉がハイ・ラビットの頭を打ち抜き……即死させた。 そういえば弱点を打ち抜くとたまに即死させるんだったな、久々だったので忘れていた。 とりあえず後1匹狩ればいい。
探す事30秒ぐらいか、もう一匹を見つけたので再び〈隠蔽〉からの〈ホークショット〉でスナイプしたが、今度は即死しない。 まあ早々ぽんぽん即死効果が出たら強すぎるからな。 そう考えて走り寄ってくるハイ・ラビットを〈ツインファングアロー〉で打ち抜いて瀕死に追い込む、そうすれば……。
ピーロロロロロー!
と、シーフ・バードがチャンスとばかりに急降下してくる。 が、もうそのネタは分かっているので、脅威でもなんでもない。 降りてきて動きが遅くなる所を〈風塵の矢〉にて確実に即死させる。 ややオーバーキルなんだろうが、逃がすと非常に面倒な相手なのでオーバーキル気味でも構わないだろう。 後は瀕死のハイ・ラビットにトドメを入れて楽にするだけである。
「とりあえず狩りはこんなものかな、そちらの要望に応えられたかは分からないが」
この自分の声賭けに、「十分……」と返答してきたので、まあ狩りの方はそこそこ満足してもらえたようだ。
「次は料理か……だがその前に確認しておく、肉料理を作ってもいいのか? 戒律などで食べられないとしたら作る手間も、作るのに使われた食材に対しても申し訳が立たないからな」
この戒律とやらはかなり厄介で、気にしないで食事を取れる人間は案外少ない。 だからこそ聞いておかねばならないのだが……。
「大丈夫……むしろ狩った獲物を食べずに捨てるなどの、生に対しての侮辱のほうが……私達にとって禁忌となるから……」
とのことなので、安心して料理開始である。 内容は以前作ったウサギと鳥肉の合い挽きハンバーグ、今回は肉の割合をウサギ6.5、鳥3.5にしてある。 以前作ったのは少々バランスが不満だった事もあり、少々鳥の割合を増やした。 そして僅かに余った部分はこれまた以前作った焼き鳥に仕立てる。
料理をしているのは街の外なのだが、お陰で料理の匂いに釣られた門番の皆さんから来ている視線が痛い。 とはいえ、街中でやるとそれはそれで目立つので今回は外で行なっている。 焼きあがったら皿に盛ってからソースをかけてハーブを添える。 その横に水を添えれば完成である。
「こんな物かな……ウサギと鳥のハンバーグ、焼き鳥リド挟みって所だが」
そう彼女に告げたとたん、素早くフォークとナイフを構えて、彼女は料理にかぶりつき始めた。 いや、食べ方は丁寧で下品なところは無いのだ、無いのだが、あっという間に作った料理は大半が彼女のおなかの中に消えていった。 自分が食べれたのは焼き鳥一本だけだった……くすん。
「……満足」
一言そういってふう、とため息を吐く彼女。 そりゃアレだけ食べれば満足するでしょうよ。 3人前ぐらいあったのにそれをほぼ1人で平らげたのだから。 と、彼女がこちらをじーっとみてくる。
「……分からないけど、分かった。 貴方は、面白い」
なんだそりゃ。 言葉の意味を聞いてみたかったが、彼女は袋をこちらに差し出してくる。
「報酬。 ……少し多めにした」
袋を開けて数えてみると、4000グローほどあった。 まあ、多くなるのなら文句はない。
「時間。 ……また会いましょう……」
そういって彼女は街から離れだす。 結局外套は一回も取らないし、訳のわからん奴だった。 などと考えていると彼女がこっちに振り返る。
「言い忘れた……あと一日だけ……この街に居て……報酬を上乗せしたのはそのため……」
と言い残し、今度こそ立ち去っていく。 さっぱり訳がわからない依頼だったが、何かのイベントなんだろうか? その後はひまわり亭に戻り、給仕を手伝ってからログアウト。 この街を出て行くのは一日延期だな。
風塵狩弓Lv17 蹴撃Lv22 遠視Lv53 製作の指先Lv57 小盾Lv6
隠蔽Lv41 身体能力強化Lv32 義賊Lv26 鞭術Lv37
妖精言語Lv99(強制習得)(控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
木工Lv39 鍛冶Lv40 薬剤Lv43 上級料理Lv11
ExP 4
所持称号 妖精女王すら魅了した者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者
二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人

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