馬車に揺られて
アースは新しく出来た駅馬車にのり、風景をのんびりと楽しんでいた。 妖精国が実装されてしばらくたった後に実装された駅馬車に乗ってみたかった、と言うこともある。 この駅馬車の目的地は東の砦街、代金は4000グローとそれなりにお高いが、高速で移動できてモンスターとやりあわずに済むというメリットは大きい。
「なあ、あんた、ちょっといいか?」
駅馬車は乗り合いなので、当然誰かと一緒に乗ることも十分にありえる、アースのほかにこの駅馬車には2人が一緒に乗っていた。 その一緒に乗っていた男女一組の男性のほうが声をかけてきたのだ。
「あんたが色々有名なアースさんかい?」
この問いかけにアースは苦笑する。 確かに初期で色々やってしまったからなと思い出しつつ。 お陰で散々掲示板などに名前を上げられたし、自分の知らない場所でも悪評などを多分に含んだやり取りがあるのだろう、だからこそ、あんなPvP大会に出て余計な悪評をこれ以上積み立てたくなかった。 もう名前なんかこれ以上売れなくて良いのだから。
「まあ、そのアースだ。 だがあえて言おう、人に名前を聞くときはまず自分の名前を名乗れと学んでこなかったのかい?」
このアースの反論に「うっ」と言葉が詰まる男性。 そうすると、もう1人の女性が口を開く。
「全くこの馬鹿は。 ごめんなさいアースさん。 私はリラ、この馬鹿はグレイト。 ま、名前だけが立派で中身は小さいアホだけどね。 ちなみにナニの大きさも極小……」
「ば、馬鹿、よせ、そんな事まで言う必要は一切ないだろうが!?」
なにやら危ない発言をしようとしたリラの口をグレイトが慌ててふさぐ。 リラは口を防がれてもごもごと発言がとまる。
「なるほど、二人はリアルでも知り合いって事か」
そしてそれなりに深い仲、と。
「ええ、まあこの馬鹿の保護者やってると思っていただければ良いわ。 おそらくグレイトは、貴方に今回のPvP出場を拒否したプレイヤーが貴方なのだろうと聞きたいのでしょうね」
やれやれ、この質問は本当に多い、そしてなまじ事実なだけに面倒くさい。
「ま、それについては自分じゃないと言わせてもらうよ。 確かに俺はあの死者の挑戦状にソロで挑んだことは、事実ではある」
これを聞いたグレイトは、目を輝かせる。
「そして確かに地下10階層へたどり着いたのも事実だ。 が、自分にはあのボスを倒すことが出来なかった、その理由は分かるはずだろ?」
そうして彼らの肩を指差す。 そこには彼らの契約妖精がいる。 グレイトは水のリス、リラは土のペンギンみたいな小さい子がそこにいる。
「ぼろ負けして、その後あのボスを倒した光景を写してある動画見たときは、本気で切れそうになったよ。 ふざけんなー! ってね」
そういって苦笑いを浮かべる。
「ほらグレイト、だから言ったじゃない。 アースさんは妖精がいないことでも有名でしょ。 あのボスは妖精の攻撃を当てれば大幅に弱くなる設計よ? それを妖精無しで倒すのは無茶よ」
リラがこちら側の言いたい事を上手くグレイトに言ってくれる、そういう考えが普通なのだ。 なのに、あいつならやりかねないとうわさが消えないのは、フェアリー・クィーンとの一戦の影響が抜けないからだ。
「リラの言うとおりだ。 動画を見て思ったな、試行錯誤してぼろぼろになるまで粘って負けたのに、妖精の攻撃が一発刺さったとたんあの弱体化は詐欺だろう! ってリアルで怒鳴ってしまったよ」
そういってから降参する様に軽く両手を上に上げてみせる。
「そっか……アースさんならやり遂げてもおかしくなかったんだけどな。 ちなみにどれぐらい減らせたのか教えてもらっても?」
グレイトの質問はわかるな、コンシューマーでもあるだろう、負け戦闘ってのが。 負けることでストーリーが続くというアレだ。 だがスタッフの遊び心で、その負け戦闘に勝つとストーリーが変わるということもある。 本当にキャラの強化、アイテムを駆使、装備を限界まで高めるという手間はあるが。
「あー、そのことに対する興味は分かる。 えーっと……確か6割まで減らしたのは確認しているが、そこからは必死で戦って……負けたからそれ以上は分からん、すまないね」
この発言にリラが固まっている、どした?
「実は、私もどこまで妖精の援護無しでやれるか試したんです。 ですが1割も減らせずぼろぼろにされちゃって……急いでこの子に攻撃してもらって弱体化させて、なんとか勝ったのですが……あの状態を6割まで減らしたんですか……」
グレイトもそんなリラが気になるようで、リラに問いかける。
「そんなに大変だったのか? 俺は挑戦してないから分からないけど?」
リラがグレイトを睨む。
「PvPで一回も私に勝ててないグレイトが挑んだら、30秒も持たずに殺されるわよあのボスに」
リラの殺気に似た威圧にグレイトだけではなく、自分もちょっと気圧される。
「ま、まあまあ落ちつけ。 ここで睨んでも仕方が無いぞ」
リラに声をかけてこちらの存在を思い出させる。
「あ……ご、ごめんなさい。 この馬鹿がやったことも無いくせに、他者の挑戦を軽く見ていたようだったのでつい。 東の街についてからPvPで叩きのめせばいいんですよね」
リラの発言にグレイトの顔が青くなり、自分はちょっと引く。 ああ、この子も怒らせたらやばいタイプだ、触らぬ神にたたり無しで行くか……。
「ち、ちょっとまてよ! 軽くなんて見てない、ただの質問だろうが!?」
グレイトは必死で弁解を始める……が。
「あんなへらへらとした顔で質問しておいて……街に着いたら覚悟しなさいね」
ああ、リラが笑っている……が般若の笑みだなアレは、心の中でグレイトに手を合わせておく。
「お、街が見えてきたぞ」
こんなやり取りをしているうちにずいぶんと馬車は進んでいたらしい。 東の砦街がもう視界に入り始めていた。 そして「ぎゃあああ」と絶叫するグレイト、そのグレイトを「うるさい!」とグーでぶん殴るリラ、そんな自分達を乗せて馬車は東の砦街へと入っていく。
移動中の一こまですね。
風塵狩弓Lv17 蹴撃Lv22 遠視Lv53 製作の指先Lv56 小盾Lv6
隠蔽Lv41 身体能力強化Lv32 義賊Lv26 鞭術Lv37
妖精言語Lv99(強制習得)(控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
木工Lv39 鍛冶Lv40 薬剤Lv43 上級料理Lv11
ExP 4
所持称号 妖精女王すら魅了した者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者
二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人

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