あるべき存在ははあるべき場所へ
ドラゴンをペットに? そりゃ横暴だよ!?
チビドラゴンは何時しかスヤスヤと眠りに着いていた。 そもそも生まれたてで、肉を食った上にアレだけスープまで飲むとは、ドラゴンとは食欲もすごいな。 このまま一緒に旅をしてみたい所だが……それは叶わぬ望みと言うものだな……。
「クィーン、すまないが今ちょっと来れるか? 来れるなら静かに来て欲しい」
あんまり借りを作るのは嫌なのだが今回は割り切ろう。 本来いるはずがないドラゴンと言う存在がいる例外状態は、長引かせるわけには行かない。
「はいはい、呼ばれて登場、貴方の愛のお相手ことクィーンちゃんです♪」
かなりイラッと来たがここは我慢だ。
「悪いが緊急事態なのでな……まずはこの子を見てくれ」
そういってレッド・ドラゴンの子供であるチビドラゴンを指差す。
「──れ、レッド・ドラゴン!? ど、どうして皇国の皇族がここに!?」
やっぱり大問題になる前兆か……このチビドラゴンを拾う事になった経緯を説明した。
「話は分かりました、正直かなり不味いですね……ドラゴン族と龍族はその強大な戦闘力から人前にはあまり顔を出さないのですが、力の制御に成功して共存を図り始めたのが龍族、制御を放棄して他と関わらない様にして被害を出さない方法を望んだのがドラゴン族です」
そんなドラゴン族の存在がここにいるってことは……。
「もう死んだ連中がどうやってここまで連れ去ってきたのかは知らないが、これは非常に不味いんじゃないか!?」
冷や汗が流れるような感触が背中に……。
「はい、もしドラゴン族の皇族がこちらに来て、子供が見つからなかったり、万が一死亡しているところを見よう物なら、近辺を全て怒りと悲しみで破壊しつくす可能性すらあります! そうなれば、私達の妖精国は、この世界の地図から消えるでしょうね……」
そういえば気になることをクィーンは言っているな。
「皇族って……レッド・ドラゴンはその、ドラゴンの皇国の主柱的存在なのか?」
それに対し、クィーンはこう返答してきた。
「はい、ドラゴンの皇国、そこは歴代のレッド・ドラゴンが国の象徴として祭られております。 人族や獣人族にはあまり伝わっていない事実ですが、他の種族がレッド・ドラゴンを見ることは非常に稀なのです。 レッド・ドラゴンは龍族でも最高の力と魔力を持ち、その強大さゆえに、外へ出ることを1番厳しく制限されている存在なのです」
もう間違いなく、今の自分の顔はおもいっきり強張っているだろう。
「ど、どうすれば被害を抑えられる!? 下手うったら本当に不味いぞ!?」
クィーンもかなり顔色が悪い。
「ともかく、先手を打つしかありませんね。 戦うなんて考えてはいけません」
そのとき、クィーン側近の1人である風属性の子が現れて、クィーンに報告を始めた。
「女王陛下、こちらにいらっしゃいましたか! 今確認しましたが、レッド・ドラゴンが2匹、こちらに高速で接近してきております! 何かごぞん……じ……」
レッド・ドラゴンの子供に気がついた瞬間、報告する声がかすれていく。
「こ、このバカ女王! よりによってレッド・ドラゴンの子供に対して手を出したのですか!?」
うわあ、女王に向かってバカと言い切ったよ。 こりゃよっぽど動転してるな。
「バカとはなによ! この子は攫われて来たのをアース様が保護しただけよ!」
言い争いを始める二人のお陰でこっちは妙に落ち着きを取り戻した、周りが慌てると逆に落ち着けるって本当だったんだな。
「で、そのドラゴンたちが来る方向って分かってる?」
言い争いをしている二人に問いかけてみる。
「向きは北東からですが……?」
言い争いを中断してこちらに顔を向けて、風属性の子が教えてくれる。 キレ気味な顔をしているのかなり怖かったが。
「なら、運んでもらえないかな? ──最後のケツ拭きまでやるのが拾った人間の役目だろう」
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今自分は、頭に寝ているチビドラゴンを乗っけて、ドラゴンが向かってきていると情報があった北東側にある開けた草原に1人でぽつんと座っている。 この場所なら上から良く見えるだろうと言う事と、着地しやすいだろうと言う事の二つの意味がある。 接触まであと2分ぐらいらしい。
「さて、交渉が上手く行けばいいけど……」
やることは単純、この子を返して、静かにお帰り願う事、これだけである。 だが相手がドラゴンとなればその恐ろしさは別だ、ちょいと機嫌を損ねればブレスで一瞬にして丸焼きだろう。 それでも逃げるのは一番の悪手であり、ここは正面から話をしたほうが1番いい方法のはずだ。
そして少しすると、風の音が変わってきた。 来たか!? と思った瞬間、赤い点が二つ見えてくる。 それは見る見るうちに近寄ってきて、レッド・ドラゴンであることが理解でした。 でかい。 8階建てのビルぐらいの大きさだ、あんなのに踏まれたら簡単にぺちゃんこだぞ……。 二匹のレッド・ドラゴンはゆっくりと着地したが、ドスウゥゥンと地響きがして、鳥が逃げるように羽ばたき、地面はゆれ、寝ていたチビドラゴンは目を覚ましたようだ。
『人の子よ! 我らが子を奪った理由を述べよ!』
これは言葉と言うより念話? 頭の中に響くような声がする。
「その質問に返答する、貴方達の子であるこの子を奪ったと予想される者たちは既にこの世にいない、故にその理由は不明! 死者に物を聞くことはできないからだ!」
変に下手に出るのはかえって相手をイラつかせる可能性が高いため、あえて強気で返答する。
『ならば、我らが子をお前は我らに返すのか!』
レッド・ドラゴンのオスと思われるドラゴンがさらに問いかける。
「その質問への返答をする、答えは是! 私がここに居る目的は貴方達にこの子をお返しする為だ!」
次はメス側のレッド・ドラゴンが問う。
『それが真実と言うのであれば、我の足に我らが子を乗せる勇気を見せよ! そうすればお前の言っている事を事実と認めよう!』
うわー……そうきたか。 でもやらなきゃならんなぁ。 『くぉん?』と鳴くチビドラゴンに「大丈夫」と言って頭を撫でた後、前足を前に出しているメスと思われるレッド・ドラゴンに近づいていく。 一歩歩み寄るために、ドラゴン夫妻が放っている殺気のプレッシャーが本気で怖いのだが、ここで逃げ出す事は許されない。
一歩一歩、ゆっくり歩み寄って、前足を出しているメスと思われるレッド・ドラゴンの前にたどり着き、チビドラゴンをゆっくりとその足に乗せる。
『おお、我らが子よ! 本当に良かった!』
恐らく母親なのだろう、メスのレッド・ドラゴンは嬉しそうな声を上げた。
『人の子よ、お前の行動により、お前の言葉が真実であると認めよう! また、お前が恐らく我らが子に食事を与えていたと言う事も分かった! 我らが子の口から、食事をした匂いがした!」
鼻もいいのか。
『よって、お前を疑った事を詫び、そして我らが子を連れて来てくれた感謝を兼ね、何かあるのなら皇族として願いを聞いてやろう! 何が良い!』
ふむ、ならアレしかないな。
「では、遠慮なく。 今回の事、十中八九妖精族は関わっておりません! 故に今回の事に対しての妖精族への疑いを持たないことが1つ。 そしてもう1つがこの場所での出会いを無かった事にして頂きたい!」
この願いに首をかしげているオスのレッド・ドラゴン。
『妖精への疑いはお前の願いゆえ今回は無しとしよう。 だが、出会いを無いことにしろとはどういうことだ?』
なので、自分の考えを言う事にした。
「自分は一介の冒険者です。 妖精の方から聞きましたが、レッド・ドラゴンを他の種族が見ることは非常に珍しいとの事。 それを見たと知られれば、またややこしい事になりかねない。 故にお互い変な波を立たせないようにしたい、という事です」
レッド・ドラゴンのメス側がこの言葉を受けて返答をする。
『──我らに対しての敵意があるわけではないのだな。 ならばよい。 それに我らを見たと言いふらされるのは此方としても良くは無い。 その願い、聞き届けよう』
そう言ったとたん、二匹のレッド・ドラゴンと、メス側の足にしがみついているチビドラゴンが、空に浮かび上がり始める。
『では、我らはこれで国に帰る。 さらばだ』
そういい残しある程度上に浮上したかと思うと一気に飛び去って行った。 その姿はあっという間に小さくなり、見えなくなっていく……無事終わったと理解できた瞬間、腰が抜けて座り込んでしまった。
「どうやら、上手く行ったようですね」
後ろを振り返るとクィーンがそこにいた。
「ああ、なんとかな……生きた心地がしなかったぞ」
あれが、ドラゴン。 あんなのに勝てるわけが無い! あんなのを倒せるのは本当に一握りの英雄か勇者ぐらいだっての! VRだと分かっているのに、本気で怖かった!
「ですがお陰で被害を全く出さずに済みました、妖精国の女王としてお礼を言います」
まあ、それが一番の報酬だなぁ。
「情報の操作は頼んだよ、自分の存在は隠してくれてるんだろう?」
クィーンは頷く。
「はい、レッド・ドラゴンがこちらに寄ったのは攫われた子を取り返すためで、この草原で誘拐犯を発見し、奪い返したと言う事にしてあります、人族側にもそう通達されます」
完璧ではないだろうが、そんなところが落としどころか。
「とにかく、今回の事に自分が関わっていると言う事が広まらないでくれればそれで良い。 今回の事は完全なイレギュラーなんだから」
手をぷらぷらさせながらクィーンに言う。 掲示板をチラッと見ているが色々悪評も立っているからな……この上レッド・ドラゴンと関わったなんてばれたらさらに面倒になる。
「偶然とはいえ、レッド・ドラゴンの子を救っていただいたお陰で本当に助かりました」
このクィーンの言葉に、自分は苦笑するしかなかった。
「無視するかどうか悩んだがな……結果的には正しかった訳か」
本当にこの世界は油断ならない。 流石に疲れきってしまったので、クィーンと別れて北の砦街に入って宿屋に入り、そのままログアウトした。 クィーンは今回の事に対して報酬を出すと言って来たが、それは丁寧に断った。 大勢の妖精達が死なずに済んだ事自体が報酬なのだから。
容赦なく滅びる可能性が常に存在しているのもこの世界です。
例外はファストですね、スタート地点だけは滅びません。
また、滅びがあれば復興も存在します。
それから、何も無い場所でも、人通りが増えて道が出来てくると、
その途中に新しい宿泊町などが生まれる可能性があるのもこの世界です。
風塵狩弓Lv17 蹴撃Lv22 遠視Lv53 製作の指先Lv56 小盾Lv6
隠蔽Lv41 身体能力強化Lv32 義賊Lv26 鞭術Lv37
妖精言語Lv99(強制習得)(控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
木工Lv39 鍛冶Lv40 薬剤Lv43 上級料理Lv11
ExP 4
所持称号 妖精女王すら魅了した者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者
二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人

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