番外編、弓ギルドが弓を高値で買った訳
システム的な事の話が多めです。
ここはアポロンの弓ギルドのギルドエリア。 裏ダンジョン、弓エリア攻略のための会議がクリスタル・レインの代表者と合同で行なわれていた。
「では、今のところ製作方面の進展は無し、ということですね?」
厳しい表情でアヤメが言う、例のatk29より強い弓は、いまだにお抱えの職人でも作ることが出来ないでいたからだ。
「すまないがこれ以上は、より良い木材が必要だ、と言う結論に達している……」
「それに資源ももう心もとない。 しばらくは研究を休めて資源の確保を中心にしないと」
この台詞に木工職人だけではなく、鍛冶職人も同意している。
「特殊な形状にしてしまうと、それに対応した生産者のスキルレベルがないと扱えない……妖精の旦那のような弓だな。 なのでオーソドックスな形で発展させねばならないのだが……」
そう言葉を濁す。 その言葉を濁した木工職人を慰めるように彼と契約した風の妖精が寄り添う。
「では、ギルドマスターの私からですが……新しい弓を1張買いました。 Atkは47あります」
この台詞に大半のアポロンの弓、クリスタル・レイン両方のギルドメンバーが総立ちになった。
「「「「「「まさか、第4世代!?」」」」」
彼らの発言の第4世代についても説明しておこう。 最大手の弓ギルドゆえ、弓に対する検証は常に行なわれてきた。 その人数の多さは検証するには最大の力を発揮していたのである。 そして彼らは気がついた、他の武器はわからないが、弓はAtkの数値が11の倍数に達すると威力が目に見えて上がる事を。
そのため、0~10までを0世代、11から第1世代、22からを第2世代……と言うように11の倍数ごとに第~世代と表現するようになったのだ。 そして今は33、つまり第3世代への到達が目下の目標であった所なのだが、外部の者にその更に先を行かれた事になる。
「はい、第4世代の弓です、これを見て職人持ちの皆さんから意見を聞きたいのです。 単純な話、この弓を量産できるかどうか、を含めての話です」
アヤメはそう切り出す。 この弓を量産できれば弓ギルドはより強くなれる。 完全ではなくてもある程度の模倣が出来れば、それは大きな力を得ることになる、故に30万グローの大金を出して買って来たのだ。
「──く、我々が諦めた木材と金属……これはライトメタルだが、それを両方使った弓……」
「それだけじゃねえ、これ、木材も、2種類が使われているな」
「こちらが出来ない、現時点では不可能だと決定した制作方法をあざ笑うかのようにっ……!」
レンタルで見ることが出来るようになった弓に職人が群がる。 1つでも新しい技術を得ようとする為の執着心でもあり、憎しみにも似た悔しい気持ちも含まれている。
「マスター、これは一体誰が作ったんだ!? 俺達が現時点では不可能だと結論を下した製法を使っていやがるぞ、この弓は!」
「そして我々の結論ですが、現時点では模倣は不可能です! 本来このような合成弓はこの世界ではかなり相性が悪いのです……」
「木材だけ、金属だけなら作れるけど、木材だと今のように29が限界で、金属なら33超えれるけど重量が厳しくなり過ぎるし……」
次々と上がる職人からの言葉。 単純に纏めると、現時点では製作『不可能』と言う結論である。
「そうですか……やはり裏ダンジョン攻略はこれを私が使わせていただいて、道を切り開くしかありませんね……」
アヤメはそう結論を出さざるを得なかった。 弓の出所は言えない約束だ、それを違える訳には行かない。 信用は作るのに10年、無くすのは一瞬、それを知っているからである。 この場に限りと言う行為は1番ダメだ、人の口を完全にふさぐなんていうことは不可能なのだから。 ちらりと見ればノアも言えない事がもどかしそうにしていた。
「マスターが言えないということは、何らかの理由がありそうだけどよ、その弓を作れた奴はよっぽど全ての属性に愛されているんだろうな……」
「全くです、火の属性が強い金属と、木製の木と言う相性が悪い存在同士が、一緒に同居している事が出来るとか、どんな技術ですか」
「でも、複数の木を合わせるという点は模倣できるかもしれないね~。 その辺を探ってみない?」
「そーだな、そういう合板を作れれば、今の素材でも第3世代は量産できる様になるかも知れない」
職人は職人同士で可能性を探り出し、相談を始める。 アヤメに言わせれば、この弓の技術を切っ掛けに、お抱えの職人達が第3世代の弓を量産できるようになれば、30万グローを出した出費など安い物なのである。
「そちらの研究はお願いしますね。 では、裏ダンジョンに向かうメンバーの選抜を行ないます」
新しい弓に触れた熱気が保たれたままに、新しい議題が始まる。 第4世代と言う分かり易い旗を手に入れたため、攻略に詰まっていたために重い空気に包まれていた2ギルド合同会議も、久々に熱気を持って行なわれていた。
だが、アヤメとノアは言えなかった。 弓を作ったのが職人特化のプレイヤーではないと言う事を。 そして更に言えなかった、第4世代どころか、使い手がギルドの中でも多い狩弓で、第5世代が既にその生産者によって存在していると言う事実を……。
「今は嘆いても仕方ありませんね……」
アヤメの呟きにノアが答える。
「うん、ひとまず強力な弓が手に入ったんだし、攻略できる可能性は上がったはず。 気持ちを切り替えたほうが良いよ」
この会話が聞こえた数人が『なぜ嘆くのだろう?』と疑問に思ったが、会議の熱気ですぐに忘れていった。
特化すればより上級な素材を扱えますし、その素材の能力を引き出せます。
その代わり融通が利く幅が狭くなります。
逆にアースのようにいろんな技術が使えればそれを組み合わせたものが作れますが
プレイヤー自体のひらめきが必須であり、融通が効く分難易度が非常に高いです。
また、弓そのものを使い込むと言う、表示されない熟練と言う隠しステータスもあり、熟練が十分にないと製法が正しくても失敗します。
また、長い目で見れば最終的に強い武器を作れるのは、当然特化した職人の方です
いくら複数の技術を使えるとはいえ、素材その物の差をいつかはひっくり返せなくなって行きますので。

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