そして取引当日
「──やれやれ、すごい勢いだったな」
アヤメさんに弓が完成したので、指定の場所に来て欲しいと伝えた所、ものすごい食いつきだった。 どうも裏ダンジョンの攻略が現在かなり行き詰っているようで、相当苦戦している様子だ。 とはいえ、裏ダンジョン専用の掲示板スレッドには、どこもきついだの、クリアへの道筋が見えないなど、どの武器も苦労している様子が伺える。 流石に自分はこのダンジョンに手を出すつもりはない……今は、だが。
「お、お待たせしました!」
走ってきたのだろう、人気の少ない家の中である待ち合わせ場所にアヤメさんが到着した。 そしてその隣にはノアさんも居る。
「出来上がったとの話で……ぜひ完成した弓を見せてもらいたく」
ノアさんもやや興奮気味のようだ、なのでレンタルでさっさと見せることにした。
木材結合式長弓 ライトメタルライン
Atk+47
製作品質7
見た瞬間2人が固まった。 そりゃそうだろうな、2周りぐらい性能が上になってるんだからな。
「──よ、よんじゅうなな……!?」
アヤメさんがフリーズから再起動したのかボソッと声が漏れる。 そのあと「「な、なにこれ~!?」」と女性2人の絶叫が響き渡った……お陰で耳が痛い。
「やかましい! 2人とも落ち着け!」
そう自分は怒鳴らざるをえなかった。
────────────────────────
それから10分ほど経過後。
「落ち着いたか? まったく、絶叫までしてくれたな……」
そういって2人を睨む。 アヤメさんはばつが悪そうに落ち着きがない。
「そ、そういわれても、アヤメの弓の能力をこうも数日でぶち抜いて行くとは予想なんて出来ませんよ!」
ノアさんはやや逆切れぎみである。 ま、それはそうだがな。
「まあいい。 で、買うのか? 買わないのか?」
その一言で二人が一気にクールダウンする。 2人がごにょごにょと相談を始める。
「ノア、悪いけど今手持ちいくら持ってる……?」
「アヤメ、まさかお金が足りないとか言い出すんじゃないでしょうね?」
「ううん、ちゃんとあるけど……あの性能の弓を8万で買ったら他の職人に殺されちゃうよ……」
「ああ、それはそうね……50万と言われても納得しちゃう性能よね、まさかあそこまで強い弓を作ってくるなんて……口先で言うならいくらでも言えるから、仮想なのに8万は高いと言ったけど……」
「うん、私もここまでいい物を作って来るとは流石に予想してなくて……」
「今私が出せるのは10万グローが限界よ? アヤメ」
「うん、じゃそれ貸して、出来るだけ早めに何とかするから」
「ううん、たまにレンタルで使わせて。 正直あの弓逃すと、2ギルド合同で勧めている攻略が……」
「買えば、裏ダンジョン攻略に光が見えて来るよね……じゃあ、お互いのギルド共同購入で……」
ごにょごにょごにょごにょ……ずいぶんと相談が長いな。 そして2人がようやくこちらを向く。
「分かりました、買わせていただきます、ですが、予想以上の性能ですのでその製作技術に敬意を表し、30万グローを出させていただきます。 8万グローで買ったなどと万が一漏れたら、お互いに危険になると言う意味も入っております」
そう、アヤメさんは申し出てきた、が、さらに追加条件を飲んでもらわないとならない。
「それに加えて、いくつかのお願いがあります。 1つ目はこの弓を作ったのが自分、アースであるとお二人が言わない事。 他の人が想像するのを止めろとは言いませんが、肯定することはお止め戴きたい」
これに2人は首を縦に振る。
「2つ目は弓の制作依頼を当分こちらに振らないで戴きたい。 これは、材料がもう作れるほど手元にない、と言う理由です」
これにも2人は納得した様子である。
「そして最後に、今の裏ダンジョンに自分を誘わない事、です。 今のメンバーでぜひやり通して欲しい、と言ったところです。 その弓があれば可能性はきっと開けるはずです」
以上ですが宜しいですか? との問いかけにも「「了解しました」」と即座に返答が返ってきた。 なので、早速取引で30万グローを受け取り、弓を手渡す。
「うん、この弓ならきっと……」
売った弓を手に持って具合を確かめているアヤメさん。 それを羨ましそうに見ているノアさん。 さて、敬意には敬意で返さねばならんな。
「さて、ではこちらも敬意を払っていただいた分を、多少なりともお返しすることにしましょうか」
そういって作っておいたツイスターアローを取り出す。
「この矢は、貫くことを最優先の目的として生み出した鏃を着けた矢です。 関節や首などの、もろい部分を狙って撃てば、裏ダンジョンの鎧を着ているタンカータイプの装甲と言えど、撃ち貫くことが出来るかも知れません。 現に、妖精国に居たウォーゴブリンズのタンカータイプの鎧なら貫きました」
この言葉にノアさんが反応する。
「そんな矢まで生産していたの!?」
その声に返答する。
「製作が手間なので、市場に流せないのが最大の欠点ですけどね。 初期の弓スキル、〈アローツイスター〉と組み合わせて使えばかなりの貫通力を生み出します、これは自分の実体験から言っています。 これを500本だけお譲りしましょう」
そう告げて、1束100本のツイスターアローが入っている矢束を5つ取り出す。
「これは……鏃が竜巻みたいに捻ってあるのですね……貫通しやすいようにしてある工夫ですか」
そうアヤメさんが感想を言う。 作るのには苦労したからなぁ。
「30万グローと言う値段を自主的につけたそちらの敬意に対し、多少なりとも協力させていただこうと思ったまで。 今回に限り無料でお譲りしますので遠慮なく」
それに効果を知れば今後も欲しくなるだろうからな。 そこでそれなりの値段をつければいい。
「ありがとうございます。 アヤメ、今日この後作戦会議! ダンジョン突破の作戦を練り直すわよ!」
「ええ! これなら可能性が上がるわ! どうも、ありがとうございました!」
言うが早いか興奮した感じで2人が立ち去っていく。 面倒な依頼だったが、何とか無事に終わってよかった、活躍できるかどうかは後はの2人しだいだ、これ以上自分は手は貸せない。 上手く行く事を祈るぐらいだな。 祈る先は神じゃなく、あの2人の諦めない意思に対してだが。
抜けていた文章追加。
スキル
風塵狩弓Lv16 蹴撃Lv22 遠視Lv53 製作の指先Lv56 小盾Lv6
隠蔽Lv41 身体能力強化Lv32 義賊Lv25 鞭術Lv37
妖精言語Lv99(強制習得)(控えスキルへの移動不可能)
控えスキル
木工Lv39 鍛冶Lv40 薬剤Lv43 上級料理Lv11
ExP 7
所持称号 妖精女王すら魅了した者 一人で強者を討伐した者 開放者 ???
二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人

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