コウモリの世界の図解

整理と極論。 詳しくはこちら→ http://bit.ly/19KISEw

僕と彼女とはてな

僕と彼女とインターネット

僕のネット歴は浅い。

そもそもネット接続のできないボロ家に住んでいたことも理由だけれど、悪口で他人を不快にさせても平気な人たちのいる世界には入りたくないと思っていたことも大きな理由だ。ほとんどネットを使わない僕にとって、インターネットは悪口の世界というイメージだったのだ。

だから僕は2chを使ったことがないし、Twitterも登録してあるだけで殆ど使っていなかった。

一方、うちの彼女は幼少時からインターネットに触れてきていた。

ネットで知り合ったひとと親友になったり、ネットで知り合ったひとと付き合ったり、僕よりもインターネットに親しんで生きてきたらしい。

僕とはてな

そんな彼女と同棲を始めて以来、僕もインターネットの利用時間が増えるようになった。特に増えたのは、「はてなブログ・はてなブックマーク」というサービスの利用だ。*1

僕が気に入ったのは、はてなというサービスの利用者に面白いひとが多いことだった。自分の知らないことを知っているひとがたくさんいて、優れた知見がたくさん得られる場所だと思った。そして中には、古くからの友人のように思える人もいた。彼らの多くは、ある時点まで僕と同じような人生を歩み、ある時点で違う道へと歩みを進めた、自分の人生の片割れのように思えた。

僕には、はてなという場所でやりたいことが生まれた。

彼女とはてなの楽しい時間

そんな僕につられた彼女も、はてなのサービスをよく使うようになった。僕のブログに付いたブックマークコメントを見る。『増田』と呼称されるはてな匿名掲示板で僕のハンドルネームを検索する。いつしかそれが、彼女の日課になっていた。僕についてネットで話されていることに、彼女の方が早く気付くことが多くなった。

コウモリの彼女は美人だ、というようなコメントを見つける度に、彼女は嬉しそうにそれを教えてくれた。小躍りする、という表現は彼女のためにあるのではないかと僕は思った。けれども実際にはそういう機会は少なくて、彼女からの報告の多くは「また増田で悪口を言われてるけど、見た?(-_-#)」というものだった。

それでも彼女にとって、はてなは楽しい時間の方が多かった。それは、はてなで知り合った人と直接話したときのおかげでもある。オフ会準備のために集まりお酒を飲んでいる席に、彼女も参加させてもらったのだ。彼女はたくさん話を振ってもらい、ときおり挟んだジョークで笑ってもらえた。

来日してから向けられ続ける、「外人だー」という奇異の眼差し。ときには指をさされたり、陰でこそこそと言葉を交わされたり。それらに辟易した彼女は、常にマスクを付けて隠れるように生活していた。そんな彼女にとって、シャイな自分を解放して楽しむ機会は少なかった。だから、まともな大人と話して楽しませてもらったその飲み会は、彼女にとってとても素敵な時間だったようだ。

それから彼女は、エゴサーチ(というか彼氏サーチ)を楽しむだけに留まらず、はてな上で自分から発言するようにもなっていた。

僕が書いた記事に付けた彼女のコメントが、人気になったこともある。
 → 相談:彼女がトイレをのぞいてきます - コウモリの世界の図解
彼女は、大はしゃぎしていた。
「やったー!!!私のコメントにスターがたくさん付いたよ!見た!?」
「うん、見たよ」
「1位のコメントになったよ!すごいでしょ!?やったー!!!」
「もう(笑)」
「もっとスター欲しい!(笑)」

日本に来てからというもの学業とアルバイトで忙しく、遊ぶ時間のほとんどない彼女にとって、そこは初めて出来た「日本での居場所」だったように思う。

僕とはてなとオフ会

だから、僕がはてなのオフ会でプロポーズしたとき、彼女は怒ることなく受け入れてくれたんだと思う。
それはプロポーズとは名ばかりの、はてなユーザーのためのミニコントだった。
 → 今からプロポーズしてきます - コウモリの世界の図解

「初めて会ったとき~」「付き合っていちばん嬉しかったのは~」
そういう、普通のプロポーズに入っているだろう台詞など全く存在しなかった。

「はてなのおかげで~」「IDコールで目が覚めて~」
僕が並べたのは、そんな台詞ばかりだった。いったいどこのプロポーズに「IDコール」という単語が入る隙間があるというのだろうか、自分でも驚くくらいだ。

そればかりか僕は、笑い欲しさに、他の女性(と思しき匿名はてなユーザー)の名前を比較対象として挙げることさえもした。他の女性の名前を挙げるなど、本来のプロポーズであれば最もやってはいけない行為だろう。

けれどもそれは、僕にとって仕方のないことだった。

僕は、いつのまにかオフ会の準備委員の中心として関わることになってしまっていたからだ。炎上を餌にして開催まで盛り上がってきたはてなのオフ会に、その経緯に相応しい幕引きを用意しなければならない立場になっていたのだ。

はてなオフ会

「この世界では、知られないことは存在しないことと同じだ」

たとえ平穏無事にオフ会が終わったとしても、そんなつまらない結末はネット上で拡散されず、誰にも知られずに終わるだろう。えーはてなオフ会って本当にやってたんだー、そう言われるのが関の山だ。

今回のオフ会は、はてなブックマークで300以上をかき集めるような炎上記事で注目を集めてきたのだから、同じように300以上のブクマが集まるようなことをしなければ、オフ会自体がなかったことにされる。爆心地の近くで火の粉を浴び続けていた僕は、こう考えていた。

「このオフ会が成功するための前提条件は、オフ会後の関連記事が300ブクマを超えることだ」

そうして僕は、自分の人生を削る提案を出すことにした。うちの彼女は、心が広い。そして、はてなのことを好きになってくれている。だからきっと許してくれるはずだ。

オフ会を一週間後に控えたミーティング。
「他にやりようがない状況なので、オフ会のオチ前にプロポーズをしようかと考えています」
この提案に対して、他委員から「いいの?」と心配の声が上がる。
「僕はいいですよ。。。ただdora-kouさんの件もあったし、私物化するなという批判も出ると思います。だからもう1つの案として、うちの彼女と齊藤さんにフランス流の親睦である頬キスをしてもらうという案も考えているんですが…」
弱いとは思いつつ、最低でも二案は出さなければいけないと思った僕は、プロポーズ案のデメリットと共に2つめの案を出した。このオフ会はお祭りなんだから300ブクマに届くくらい爆発力のあることをしなければならない、という考えは、あくまで僕個人の見解だからだ。
けれど、他委員も僕と同じ見解のようだった。
「それはgdgdになってつまらないから、プロポーズ案でいこうよ」
「私物化とか気にする必要ないって」
…やはり、行くしかないのだ。「分かりました」そう答えながら、僕は覚悟を決めた。
「色々と言われると思うけど、頑張って」「はい」

こうして僕は、自分をはてなオフに売ると決めた。
それからの一週間、彼女に向けても最大限のフォローをした。
 → プロポーズを確実に成功させるための8つのこと - コウモリの世界の図解

はてなオフ会の当日

迎えた当日。
はてなユーザーのためのミニコントでしかないプロポーズを、彼女は笑って受け入れてくれた。それは、あのとき笑ってくれた多くのはてなユーザーと同じように、彼女も1人のはてなユーザーになっていたからに他ならない。

そして、彼女も僕と同じように、会場にいる(そしてネット越しにいる)はてなユーザーに楽しんでもらえることが嬉しかったからに他ならない。

会場でもスカイプでもツイキャスでも、けっこう盛り上がってもらえたようだった。
 → ツイキャス

翌日からのこと

ただ、その翌日。
ある男性参加者が書いた記事の心無い言葉に、彼女は怒っていた。
その記事にはこのように書かれていた。
『公開プロポーズは準強姦のようなもので、彼女が可哀想だ』
 → はてブオフに行ってきたけど… - とある青二才の斜方前進
彼女が可哀想だという意見は明らかに事実ではないので、僕は彼女のために反論した。するとその男性は、こうコメントした。
「彼女とはてなの親和性が悪すぎる。コウモリさんもはてな向けではないけど、彼女がメタ構造な思考を得るにはもうちょっと訓練が必要だと思う。まして、人気のある人並みにが叩かれる体験に素人は耐えられない」
彼女は心底、その男性を嫌いになった。

その翌日。
参加も動画視聴もしていない男性が、このような記事を書いた。
『はてなのオフ会に、そのコンテキストと無関係なプロポーズを持ち込まれて腹が立つ』
 → はてブオフのコンテキストがブっ壊されたこと - mizchi's blog
コンテキストどころかテキストすらまともに読めていない状態で事実誤認をばら撒いている記事だったが*2、その男性が腹が立ったということは1つの事実として受け止めなければならない。たとえどんな経緯があったとしても、それは事実だからだ。僕は、粛々とコメント欄で謝罪した。
彼女は、最初は怒っていた。けれどもそれは、次第に悲しみに変わった。その日、彼女はご飯を食べられなかった。
「見てもないし何も知らないひとが、勝手に決めつけて文句を言う。。。なんでかな?」
「仕方ないよ、それがインターネットなんだよ」
夜の間、彼女はずっと泣いていた。

彼女は、はてなをやめることに決めた。
まだブログを持っていない彼女は、はてなハイクに書き込みをした。
 → http://h.hatena.ne.jp/ispahan-coeur/81793999069964823
『お疲れ様でした。
私のせいでこんな酷いことになって、来なければ良かったと今は思っています。
目立つのが嫌で、喧嘩も大嫌いなので、私のせいでこんなことになってしまって、悲しい気持ちでいっぱいです。
一ヶ月前の飲み会で止めれば良かったなーと。
私は楽しかったですが、そうでない人が殆どなので、すみませんでした。
少し落ち着いてきたら、はてなのアカウントを消そうと思います。
みなさん、ありがとうございました。』

その翌日。
あるバツイチの女性参加者が、このような記事を書いた。
 → 
『プロポーズは自慰行為と同じ。見て祝福することを強制された参加者が可哀想』
その女性参加者の記事のコメント欄で、僕は粛々と謝罪した。その女性が、自身を可哀想だったと感じたのなら、誰にもその事実を否定することは出来ないからだ。
僕が謝罪コメントを書き込む横で、彼女は「もうやめて」と縋るように言いながら、その記事やコメントを見ていた。
僕も彼女も、みんなに楽しんでもらうことが一番だと思っていた。祝えだなんて気持ちは微塵もない。そこでトピシュさん出てくるんかい!と笑ってもらいたかったし、文句を言ってもらうのも楽しみ方の1つだと思っていた。実際、空気を読める方々が参加していたスカイプチャットでは、「身を切ったネタ、面白い」「なにこれ」「こんなことに付き合わされるとは」「氏ねばいいのに」という野次を飛ばしてもらえていて、僕にはそれがとても嬉しかった。
けれど、会場では「おめでとう」の声が大きく、野次が飛ばしづらい状況になっていたようだ。そのため、「祝うように強制された」と感じられる人がいたのかもしれない。僕は、この女性参加者と同様に「祝うように強制された自分が可哀想だ」と思った参加者に対して、申し訳なく思っている。

その2日後。
彼女がはてなハイクに書き込んだコメントを見て心配してくださる方が多かったため、みんな心配してくれてるから返事してあげて、と僕は促した。彼女は、こう書いた。
『みなさん、
暖かい言葉をありがとうございます。
返事が遅くてすみません。しばらくネットから離れよーと思って。
みなさんのおかげで元気になりました。ありがとうございます。
飲み会につきましては、また後でスペースで書きます!』
 → http://h.hatena.ne.jp/ispahan-coeur/81794063781712041

それから約2週間。
今日までに至るどこかの夜で、彼女はこう言った。
「もう、ぜんぶが良い経験だったと思うしかないね。今までは、あなたがネットで色々と言われて悲しそうにしているのを見て、そんなの気にし過ぎでしょ、って思ってた。でも、今回のことで分かった。何も知らないひとから言われることでも、こんなに悲しいんだね。あなたの気持ちが、やっと分かった。今までよりも、深く、つながれたような気がする」
「ありがとう。強いね」
「そうだよ!知ってるでしょw」

僕は知っている。彼女の言葉が、まだ強がりに過ぎないということを。
今日の飲み会を最後に、彼女は、はてなをやめるそうだ。

*1:「はてな」というサービス自体は、はてな人力検索で注目を集めたことや、iSEDという研究会に近藤社長が参加していたことから、知ってはいた。ただ、僕がはてなを本格的に使い始めたのは2013年の秋からのことで、それまでROMもあまりしていなかった。

*2:1、腹が立った対象であるコウモリともふもふ社長を誤認している。2、僕の記事には謝罪を記した箇所があるのに、「形だけでも謝罪があればよいのにそれすらないので腹が立った」と誤認している。3、準強姦という言葉を使った参加者がいるのに、「会場参加者は誰も強く言えないだろうから僕がかわりに言う」と事実誤認に基づく正義感を発揮している。4、はてぶオフ会のコンテキストは複雑で、その趣旨変遷の中で一貫しているのは「皆で楽しめるお祭りやろうぜ」というものだ。そのためプロポーズ自体が「お祭り」要素としてコンテキストに合致しているとも言える。加えて、はてな要素を詰め込まれたそれは、はてぶオフというコンテキストに合わせた仕様になっていた