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『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』を手引書に、ウェブを活かした個人レベルの総合的読書システムを組み立てる

公開日: : 最終更新日:2014/07/27

1.読書からの収穫を最大化するために求められているのは、総合的な読書システム

(1) 読書からの収穫を最大化するために必要なものは何か?

多くの場合、本を読むのは、その体験から何らかの収穫を得るためです。せっかく本を読むなら、読書からの収穫をできる限り大きくしたいと思います。

では、読書からの収穫を最大化するために必要なのは、何でしょうか。

読まれる本の客観的な価値は、読書からの収穫を決める大きな要素です。そのため、どの本を読むかの選択は、まず重要です。

しかし、これだけで読書からの収穫のすべてが決まるわけではありません。その本をどのように読むかによっても、読書からの収穫は大きく変わります。すなわち、本の読み方です。

まだあります。客観的な価値が高い本を選び、よい読み方でその本を読んだとしても、読みっぱなしにしてしまうと、読書からの価値はそれほど増えません。その本を読んだ後、どのような行動をするか。この読了後の行動も、読書からの収穫を大きくするために、大切なことです。

まとめると、読書からの収穫を最大化するためには、

  • よい本を選び、(読書前)
  • よい読み方でその本を読み、(読書中)
  • 読み終えた後、よい行動をする。(読書後)

という3つの要素が必要です。

読書からの収穫を最大化するための方法論は、一般的に、「読書術」と表現されます。

「読書術」という言葉からは、本をどのように読むか、という読書中のテクニックを連想します。しかし、「読書術」は、個別の読書テクニックではありません。「読書術」は、読書前・読書中・読書後をカバーする、総合的なシステムでなければなりません。

読書からの収穫を最大化するために必要なのは、総合的な読書システムです。このシステムを組み立てることによって、読書全体から得られる収穫を最大化することができます。

(2) 総合的な読書システムが備えるべき条件

では、このシステムは、どんな条件を備えるべきでしょうか。

まず、ここで考える総合的な読書システムは、あくまでも、普通の個人のためのシステムです。研究機関や大学教授やプロのジャーナリストのためのシステムではなく、たとえば30代の子育て中サラリーマンのような、普通の個人のためのシステムです。

普通の個人のためのシステムなので、個人レベルで実現可能なシステムでなければいけません。具体的には、それほど広い空間を必要としないこと、それほどたくさんのお金を必要としないこと、それほど長い時間を必要としないこと、です。

また、同じ理由から、このシステムを維持するために、手間はかけられません。あくまでも目的は「読書からの収穫を最大化する」であり、システムはそのための手段です。システムを維持するためにたくさんの時間とお金と空間がかかってしまっては、読書から得られる収穫の費用対効果が下がるので、本末転倒です。

最後に、ウェブを活用していることです。電子書籍とソーシャルネットワークを含むウェブの世界は、現在進行形で、読書を大きく変えています。ウェブには、読書からの収穫を、次元が違うレベルに大きくできる可能性があります。

そこで、現時点で総合的な読書システムを組み立てるなら、ウェブを活用しなければもったいないです。

(3) 『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』は、ウェブを活かした個人レベルの総合的読書システムを組み立てるための手引書

このような条件を満たす総合的読書システムを組み立てるには、どうしたらよいでしょうか。

私のおすすめは、『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』(倉下忠憲著)を読むことです。

『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』のテーマは、Evernoteやブログ、ソーシャルネットワークなどのウェブを活用して、個人レベルの総合的読書システムを構築することです。総合的読書システムを構築することで、読書を通じ、情報を扱う力の土台(自軸)を育てることを目指しています。

『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』で、ウェブを活かして個人レベルの総合的読書管理システムを組み立てること。これが、読書からの収穫を最大化するための、私のおすすめです。

これで終わるのが、このエントリとしては一番きれいなのですが、蛇足ながら、私自身の読書メモとして、同書の内容を簡単にまとめます。

2.総合的読書システムを組み立てる手引書としての『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』

(1) 読書の目的は、情報を扱う力の土台=自軸を育てること

総合的な読書システムを組み立てるためには、まず、読書の目的を明らかにする必要があります。

『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』によれば、読書の目的は「情報を扱う力の土台を育てる」ことです。

情報が溢れかえる現代において、「わざわざ」読書することの意義はここにあります。誰でもがアクセスできる情報を右から左に流すのではなく、自分の頭を働かせる機会を持つこと。言い換えれば、情報を扱う力を身につけるために、読書は大きな役割を担えます。

ハイブリッド読書術が、複数の手法を組み合わせて目指す目的はそこにあります。情報を扱う力を底上げする読書法。別の言い方をすれば、情報を扱う力の土台を育てるための読書法です。

p.36〜p.37

そしで、同書は、情報を扱う力を、「自軸」と表現します。

専門性を深く伸ばした縦棒と、さまざまな分野に関する知識、および、リベラルアーツ(教養)を示す2つの横棒。この3つの線を合わせて生まれるものが自軸です。

p.39

自軸.001

総合的な読書システムを組み立てる目的は、自軸を育てることにあります。

(2) 読書前・読書中・読書後

a.読書前:接書戦略を持つ

読む本の客観的な価値は、読書からの収穫を決める大きな要素です。そこで、どのように、客観的な価値の高い本を選ぶか、ということが重要な意味を持ちます。

同書では、本を選ぶためのアプローチを「接書戦略」と呼んでいますが、同書の接書戦略は、「いろいろ見て回り、自分の感覚に引っかかった本を読む」「面白そうな本を選ぶ」というシンプルなものです。

書店の活用法、ブログやソーシャルネットワークの使い方、Amazonとのつきあいかたなど、丁寧に記載されていますので、興味がある方はご覧ください。

b.読書中:さまざまな読み方を組み合わせて、本を読む

どのように本を読むかは、読書からの収穫を決める大きな要素です。そこで、どんな読み方を採用して本を読むか、ということが重要な意味を持ちます。

同書のポイントは、以下の2つです。

まず、本を読む前に、その本を読む目的をはっきりとイメージする、ということです。なぜ、本を読む目的をはっきりさせることが大切なのでしょうか。それは、目的が異なれば、読み方も、読んだ後の行動も、変わってくるからです。

次に、複数の読み方を身につけておき、目的に応じて読み方を使い分ける、ということです。目的が異なれば、適切な読み方は異なります。情報を得るための読書なのか、知識を学ぶための読書なのか、思考力を鍛えるための読書なのか、などなど、目的の違いに応じ、適切な読み方を使い分けられるようにするべき、とされます。

同書では、たとえば、以下のような読み方のバリエーションが紹介されています。

  • ペンを片手にマーキングしながら読む
  • テーマを設定し、類書や関連書籍を複数集めて、差分で読む
  • 「信頼せよ、だが検証せよ」のスタンスの対話型読書
  • 読書中に考えたこと、思ったこと、感じたことをあまさず記録に残す、創り出す読書

c.読書後:本を読んだら、行動する

『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』の真骨頂は、読書後の行動です。読書後の行動をカバーすることによって、同書が指南する読書術は、単なる読書テクニックではなく、読書システムとになっています。

中でも、同書が圧倒的なのは、

  • Evernoteを読書管理システムとして利用する方法
  • ブログやソーシャルネットワークにアウトプットすることによるソーシャルリーディング

という2つです。

ただ、この2つのトピックについては、それぞれ書きたいことがたくさんありますので、それぞれひとつずつ文章を書きました。

Evernoteを読書管理システムとして利用する方法については、この文章を書きました。同書CHAPTER-4「Evernoteにクラウド読書ノートを作る」にヒントを得て、自分なりに、Evernote×読書を考察したものです。

Evernote×読書「Evernoteにクラウド読書ノートを作る」(『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』Chapter-4のご紹介)

ソーシャルリーディングについては、この文章を書きました。『本は死なない』のReading2.0という考え方と絡めて、ソーシャルリーディングの入り口に立った現段階で感じていることをまとめました。

Reading2.0の入り口に立って

そこで、この文章では、この2つ以外に私が気に入った2つをご紹介します。

(a) マイ教科書作り

ひとつめは、マイ教科書作りです。

同じテーマの本を何冊も読むことがあります。たとえば、私の場合、「文章の書き方」や「知的生産・知的生活」に関する本を、何冊も読んでいます。私にとって、これらのテーマは、大切なテーマです。

自分にとって大切なテーマの本を複数冊読むのであれば、そのテーマに特化した読書ノートを作るは、いい考えです。

そして、『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』では、このテーマノートを、「マイ教科書」と名づけています。

このテーマノートの作成は、いろんな本に散らばる情報を1冊のノートに集約していくようなイメージです。別の表現を使えば、マイ教科書作りと言えるかもしれません。

p.154

自分で作ったマイ教科書の内容は、たいてい、既存の本にかないません。たとえば、いくら私ががんばって「文章の書き方」のマイ教科書を作っても、そのマイ教科書は、『数学文章作法・基礎編』や『理科系の作文技術』に及びません。

でも、マイ教科書作りは、完成したマイ教科書以上に、マイ教科書を作るプロセスに価値があります。

こうした作業を行っていると、単にノートに情報が集約されるだけでなく、脳内における情報の関連度も上がってきます。そういう意味で、完成されたテーマノートを誰から譲り受けてもあまり意味はありません。自分の手を動かしてそうしたノートを作成する、という過程が大切です。

p.154

(b) 再読することで、自分の古典を作る

ふたつめは、自分の古典を作る、ということです。

『知的生活の方法』の中に、「自分の古典」という考え方が紹介されています。

そしてこの繰りかえしが二十年も続けられて、しかもそれに耐える本や作者にめぐり合ったら、相当に大きな人生の幸福と言ってもよいのではないだろうか。つまりそういう人は、その人自身の、私の古典を発見したことになるのだから。『知的生活の方法』location 766

何度も繰り返し読むことに耐える本は、自分の古典ともいうべき存在であり、また、そんな自分の古典を発見できることは、相当に大きな人生の幸福である、と、渡部昇一氏は語ります。

『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』は、「自分の古典が自軸を強く、太く、豊かにする」といいます。

人生の支えになるような本は、あなたの軸を確実に強く、太く、豊かにしてくれます。そうした本を再読することは、これまでに紹介してきた読書ノートを作成するのと同じくらい大切なことです。

では、自分の古典を作るには、どうしたらよいでしょうか。

同書は、「最重要な読了後の行動」として、「自分の古典』を作る秘訣を教えてくれます。

読書ノートの作成以外に、読了後に行うことが1つあります。それにはテクニックもツールも必要ありません。ただ、もう一度、最初から最後まで読む、つまり再読するだけです。

p.160

自分の古典を作るため、おもしろい本と出会えたら、すぐに再読すること。『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』を読んで、私がまっさきに取り入れた読書後の習慣は、これです。

3.手引書を参考に、自分なりの総合的な読書システム構築を

『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』の「おわりに」に、こんなことが書かれています。

「本を読む」という簡単そうな行為の中にも、さまざまな要素が詰まっており、必要な事柄は多数に及びます。それをできるだけシンプルな形で分類してみました。本書を、自分なりの読書システムを作り上げるための手引書として活用していただければ幸いです。

p.227

『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』は、総合的な読書システムを構築するための、よい手引書になります。

手引書を参考にして、自分なりの総合的な読書システムを構築すれば、読書全体からの収穫は、大きく増えるはずです。

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