犯罪被害者には何の補償もなく、その後の生活に困り、高額な治療費までも請求される。待ち受けるのは、不条理な現実である。
長崎県に住む岡本真寿美さん(32)は22歳の時、男に突然ガソリンをかけられ、全身に火をつけられた。加害者は同僚の交際相手で、真寿美さんが交際の邪魔をしているという勝手な思い込みをしていた。
全身の90%に及ぶヤケドで24回の皮膚移植手術をした。治療中の真寿美さんをよそに加害者の裁判は進められた。証人として呼ばれた真寿美さんは、自らタンクトップと短パンで出廷し、厳罰を訴えた。裁判所が下した判決は、懲役6年だった。
法廷で加害者は「一生をかけて償う」「元の体に戻す」と語ったという。しかし加害者は現在に至るまで賠償はおろか謝罪すらない。
真寿美さんは今、後遺症で仕事をすることができないため生活保護を受けている。国は被害者に一時金を支給するが、生活の再建にはほど遠い額である。「犯罪被害者の回復は加害者が行う」という原則のため、被害者は民事裁判で訴えるしかない。しかし、加害者に支払い能力がないなど、賠償金が得られないケースが多い。真寿美さんも民事裁判を断念した。
犯罪被害者に対し公的援助はない。治療費や交通費は自己負担。
一方、加害者の医療費や服役中の食費、衣料費、国選弁護費用などはすべて税金で支払われる。
真寿美さんの事件も、軽いやけどで済んだ加害者は税金で治療し、真寿美さんには、皮膚の移植手術をした病院から高額な医療費が請求された。その額は、およそ465万円。病院で加害者に請求して欲しいと言うと、病院側は「あなたが刑務所に行って加害者からもらってきてくれ」と答えたという。
真寿美さんは「加害者になった方が生活から医療費から国選弁護士もつく。そっちの方がいいと考えたこともあった」
有罪になったことを逆恨みし、加害者が報復にくるのではないか。
真寿美さんは住所が加害者に知られることを恐れ、外出時はバスや電車を避け、生活費を切り詰めガソリン代を工面し、車を使うようにしている。しかし、福祉事務所の担当者から「生活保護は、車を維持するためのお金ではない。どういう理由があろうとも絶対に認められない」と言われた。
真寿美さんは「被害者の人権を野放しにしていた国も許せない」と
悔しさをにじませている。
|