政府が来年度予算の概算要求基準を閣議で了解し、編成作業がスタートした。

 国の借金が1千兆円を超えた財政をたて直していくには、税制改革を通じた負担増、経済成長に伴う税収増とともに、予算の徹底した見直しが欠かせない。

 来年10月に消費税の再増税が予定される一方、安倍政権は法人減税を急ぐ。企業を核に日本経済を元気にし、国民全体に恩恵が及ぶ絵を政権は描くが、疑問や反発は根強い。

 納税者の理解を得るには、例年にも増して予算を効果的に配分し、賢く使うことが求められている。

 ところが、疑問符がつく動きが早くも相次いでいる。

 今は2年に1回の薬価改定について、経済財政諮問会議の民間議員が毎年行うよう提言した。薬の価格は、発売から時間がたつにつれ下がっていく。それをきめ細かく反映し、患者の窓口負担や保険料負担、税金の投入を減らすのが狙いだ。

 ところが、医師会や製薬業界、族議員などが「毎年改定では、そのための調査が不十分になる」「新薬開発や医療機関経営への影響が大きい」などと反発。政府が6月に決めた「骨太方針」では、改革するのかしないのか、あいまいな表現にとどまった。国民と業界のどちらを向いているのだろうか。

 公共事業を巡っては、政府は今年度予算の前倒し執行へ号令をかける一方、補正予算編成による上積みが霞が関周辺では当然のように語られている。

 東日本大震災の復興事業や東京五輪の施設建設、景気回復に伴う民間工事の増加が重なり、人件費や資材費の高騰は深刻だ。入札が成立せず、予定価格を引き上げてようやく発注にこぎつける例も珍しくない。「景気下支えには公共事業」と、政府が経費増に拍車をかけてどうするのか。

 高齢化に伴って医療や介護、年金に必要な予算が膨らみ続ける一方、子育て支援など手厚くしたい分野は少なくない。効果や必要性が薄れた給付は、国民に痛みを強いてでも削っていかざるをえない。

 その前に、より少ない予算でサービスを維持する取り組みさえ徹底できないようでは、財政再建など夢物語である。

 予算配分にメリハリをつけるための「優先課題推進枠」も、来春に統一地方選を控え、地方向けに予算をばらまく手段になりそうな気配だ。

 安倍政権には、財政への危機感がないのだろうか。