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5カ月で利用者は7倍に~ニュースアプリ『NewsPicks』を急成長させた、ある転職者の打ち手

2014/06/20公開

 

ソーシャルニュースキュレーションの『NewsPicks(ニューズピックス)』が好調だ。

“もっと自由な経済紙を”がキャッチコピーの『NewsPicks(ニューズピックス)

ニュースアプリの分野は、スマートフォンという新しい情報取得デバイスの普及に合わせて、この2~3年でさまざまな切り口のサービスが出てきた。

SmartNewsやGunosy、Antenna、Vingow、カメリオといった人気サービスも生まれる中、BtoB向け企業・産業分析サービス『SPEEDA(スピーダ)』を展開するユーザベースは、2013年9月に『NewsPicks』をリリース。経済情報に特化したアプリとして、競争の激しいジャンルに打って出た。

特徴は、独自のアルゴリズムで業界・カテゴリー別ニュースをオススメするほか、各業界の識者を中心とするニュースキュレーターを迎えて「ヒトの視点」によるキュレーションも展開している点だ。

ユーザーは、気になるキュレーターをフォローすることで、彼らのPick(=コメント付きでニュースがオススメされること)を通じて多面的に情報を読み取ることができる。

しかし、リリース直後はこれらの特徴がなかなか理解されず、ユーザー数は微増にとどまる。売りとなるキュレーターの人数も、同じような状態だった。人気ニュースアプリと肩を並べるほどの知名度を誇るようになったのは、2014年に入ってからである。

ユーザー数は非公開だが、2014年1月から同年5月末までの間で約4倍に、DAU(1日あたりのアクティブユーザー)はなんと7倍まで急伸している。

5月にはブロガーのイケダハヤト氏が【「NewsPicks」がFacebook、Twitterを超えて第1位の集客チャネルになったよ】というエントリを記したり、『東洋経済オンライン』の佐々木紀彦編集長が今後新設される編集チームへ移籍するという報道が流れたり(※公式発表は出ていない)と、その勢いを裏付けるような話題も振りまいている。

では、転機となった今年1月に、いったい何があったのか。聞くと、ある転職者の手による改善作業が始まったのがこの時期だという。

金融商品に携わったことで「ニュースの氾濫」に問題意識を持つように

株式会社ユーザベースで『NewsPicks』のサービス開発を行う杉浦正明氏

「Web上に有象無象のニュースがあふれる現代社会には、ほしいニュースを見つけるだけでなく、情報を多面的に読み解くためのツールが必要だと以前から思っていました」

そう話すのは、今年1月にユーザベースに入社したエンジニアの杉浦正明氏。転職前は社内コミュニケーションツール『Talknote』でCTOを務めており、その前はシンプレクス・コンサルティングで金融関連システムの開発を行っていた。

「情報を多面的に読み解くツール」の重要性は、前々職でFX(外為取引)のシステム開発に従事し始めたころから感じていたそう。こと経済情報に関して、メディアやブログに載る断片的な情報を鵜呑みにせず、経済ニュースに詳しくない人たちでも正しく時勢を理解できるようなサービスが必要だと考えていた。

そんな杉浦氏にとって、『NewsPicks』はまさに我が意を得たりなアプリだった。前述の驚異的な成長は、サービスコンセプトに惚れ込んだ杉浦氏だったからこそ実現できたのかもしれない。

ただ、杉浦氏が主導して行った打ち手は、ごく基本的なものだった。大きくは2つ。ユーザーデータをすべて見直して課題を洗い出すことと、開発フローの改革だ。

地道なグロースハックで生まれた「シェアページ」が起爆剤に

朴訥とした話しぶりで、「改革者」とは思えない雰囲気の杉浦氏だが、彼の打った策が状況を変えた

『NewsPicks』の開発チームは、杉浦氏の入社前からユーザーデータの分析に力を入れていた。とはいえ、グロースハックの基本理論とされる「AARRR」すべての指標について精査するまでは至っていなかったという。

「もともと『NewsPicks』はKGIとしてDAUを設定していたので、どうすればアクティブ率を高められるのかについて、日々議論をしていたそうです。でも、例えばユーザー登録ページでの離脱率はどの程度なのかなど、細かな指標については大雑把な分析で終わってしまっていたため、議論の焦点が絞り切れていないように見えました」

そこで杉浦氏は、DAUを「新規ユーザー」、「3日前まで使っていたユーザー」、「ヘビーユーザー」の3指標に分けて測ってみようと提案。かつ、それぞれの指標内でKPIを設定し、数値が日々どう変化しているのかをチェックした。

すると、『NewsPicks』はAARRRで言うところの【Activation=利用開始】と【Retention=継続】の数値は堅調に推移していたものの、伸び悩む【Acquisition=ユーザー獲得】のカギを握る【Referral=紹介】の面で、効果的な打ち手を欠いていたことが明らかになった。

つまり、ヘビーユーザーはいるものの、彼らがSNSで記事をつぶやいたり、『NewsPicks』をオススメするなどのアクションから、他のユーザーを呼び込む工夫が欠けていたのだ。

理由を全員で考えるうちに、アプリのダウンロード後にユーザー登録を行う際、『NewsPicks』のコンセプトがうまくユーザーに伝わっていないのでは? という仮説が出てきた。

この課題を解消すべく生まれた施策の一つが、杉浦氏が「シェアページ」と呼ぶWebページの制作だった。

これは、『NewsPicks』最大の特徴であるキュレーターのコメントをまとめ読みできる機能(以下のキャプチャの下部)と、記事全文を読み込むリンク(同キャプチャの上部)をセットにした、「NewsPicksと記事提供サイトの中間にあるページ」(杉浦氏)のこと。

今年4月に投入された「シェアページ」の例

このWebページ内にiOS/Androidアプリのダウンロードボタンも設置することで、SNS経由で『NewsPicks』を偶然見つけたユーザーにコンセプトをひと目で伝えながら、ダウンロードまで促すことに成功した。

結果、今年4月にシェアページをリリースした直後から、ユーザーが爆発的に増え始めたという。

「細かくKPIを設定してみんなが注目すべき数値が明確になったので、改善施策について話し合う際も、論点がブレなくなりました。だから、徐々にシェアページのような成功事例が出てくるようになったのだと思います」

「いつの間にか変わっている」のが、正しい改革のやり方

杉浦氏は弊誌が取材した「早朝グローサソン」の第1回で講師を務め、参加者と改善施策について議論していた

ほかにも、緻密な分析をもとに仮説を立て、大小さまざまな施策を打ってきた『NewsPicks』開発チーム。ただし、グロースハックは魔法ではない。すべての策が当たったわけではなく、失敗に終わったものも数多くあった。

そこで杉浦氏は、「それでもユーザーに毎週新しい価値を提供するための開発体制づくり」を同時に進める。アジャイル開発の手法の一つで、すばやく開発・改善を行うスクラムの導入だ。

「転職者である僕が、既存の開発フローを変える時のコツは、上から目線にならないことです。できるだけ周囲に気付かれず、“小さな変化”を積み重ねていくように提案していきました」

このスタンスは、AARRRによるユーザーデータの再検証を進める際も心掛けていたという。

「前々職でシステム開発のリーダーをやるようになったころ、『これからはアジャイル開発だ』、『だからスクラムで開発しよう』とプロジェクトメンバーに伝えても、なかなか浸透しないという経験をしました。一気に変化を求めても、現場はなかなか機能しないものだと学んだんです」

こうした経験から来る配慮もあって、スクラム体制への移行はうまく進んだ。と同時に、ビジネスディベロップメントを行うチームが新たなニュースキュレーターの開拓を続けることで、『NewsPicks』はアプリの質と“ヒトキュレーション”の多様性を飛躍的に高めていった。

「キュレーターとして参加してほしい方々にNewsPicksのコンセプトをご説明すると、かなりの割合で共感してくださると聞いています。やはりサービス自体のコンセプトが魅力的でなければ、成長はしないんだと実感しています」

さらなる躍進に向けて、今、杉浦氏ら『NewsPicks』の開発チームが注力しているのは、7月末をメドに予定している新UIへの移行と、ニュースキュレーションの質の向上。現在は業界専門紙の記事を有料購読にしているだけのマネタイズ面では、ネイティブ広告の掲出を視野に入れてアドテクの研究も進めている。

さらに、冒頭で記した編集チームの新設による、独自コンテンツの配信も構想中だ。

「技術面では機械学習がカギになるでしょうね。広告収入重視で、ユーザーの嗜好に合わない広告を露出させるようなことはやりたくないので。バナー広告の枠売りをPVで評価する従来型の仕組みを脱却したいんです。NewsPicksのミッションは、今もこれからも『情報を多面的に読み解く』サポートをすること。そこはブレずにやっていきたいと思っています」

そう話す杉浦氏は、何度も「かかわるステークホルダー全員が、きちんとコンテンツで食っていけるように」と口にしていた。有能なエンジニアを仲間に加えた『NewsPicks』は、良質なコンテンツプラットフォームとしてさらに進化を続けていくだろう。コンセプトと、彼の志が消えない限りは。

取材・文/伊藤健吾、鈴木陸夫(ともに編集部) 撮影/小林 正


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