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連載・かば焼きの行方(1)

北上川で捕れたウナギを焼く佐々木さん

 ウナギが手の届かない食材になりつつある。養殖用稚魚は不漁が続き、価格は高騰。国際自然連合が先月、ニホンウナギを絶滅危惧種に指定する事態となった。店や食卓からウナギは消えてしまうのか−。北上川流域をはじめ江戸時代からウナギの食文化が根付く県内各地を舞台に、業界の今を報告し、ウナギのこれからを考える。(南三陸支局・中島剛、登米支局・肘井大祐)=4回続き

 「北上川産 天然うなぎ 入荷中」。6月下旬の土曜日、登米市登米町の「割烹(かっぽう) 清川」の店頭に、1枚の紙が張られた。
 午前11時半すぎ、4人の団体客がやって来た。天然ウナギを目当てに5日前に予約し、約70キロ離れた仙台から、車で訪れたという。
養殖より5割高
 客の一人、仙台市青葉区の飲食店経営中込隆治さん(55)は「天然ウナギは余計な脂分がない。味が洗練されている。一度口にすると、養殖ものを食べる気がしなくなる」と話す。4人は注文したうな重と白焼きをゆっくり味わった。
 清川は享保元年(1716年)創業の老舗だ。北上川のそばに店を構え、古くから天然ウナギなどの川魚を提供してきた。近年はウナギ料理の専門店として、漁期の6月から9月、週末に数量限定で天然ものをメニューに載せる。
 前日までに入荷した天然ウナギは約20匹。地元の漁師が持ち込んだ。丸一匹を使ううな重は1人前4900円。値上がりが続く養殖ものより5割も高い。
 珍しさゆえ常連客に人気で、翌日の午後には売り切れた。店主の佐々木研一さん(44)は「天然ものは焼いた時の煙のにおい、身の締まりが違う。良さが分かる人に、出し続けたい」と語る。
 天然ウナギは店の看板商品。かつては漁期に毎日出していた。近年、入荷は不定期で、量も年々減っている。絶滅危惧種にもなった。佐々木さんは「この先も扱い続けていいのだろうか」と悩む。
仕入れ年1、2回
 北上川は登米市を南北に横切り、市内を流れる支流も多い。地元で捕れた天然ウナギを販売してきた名残で、ウナギの専門店が今も複数ある。
 同市迫町の「北沢屋」は大正時代に開業した。10年ほど前まで夏から秋に地元で捕れたウナギをかば焼きなどに調理して売ってきた。
 今では、得意先の問屋が天然ウナギを仕入れるのは年に1、2回しかなくなった。安定して量を仕入れられる養殖ウナギを使わないと、商売は成り立たない。
 店主の畠山宏也さん(72)は「天然ウナギは皆無に等しい。いずれ、なくなってしまうのではないか」と嘆く。伝統の食を取り巻く現状に、絶滅の危機を垣間見た。

<まめ知識>
 全国鰻蒲焼商組合連合会事務局(東京)によると、室町時代の記録に「〓(うなぎ)かば焼」の文字があり、かば焼き最古の記録とされる。当時は輪切りにして串に刺す様式が主で、形が蒲(がま)の穂に似ていたことから、「かば焼き」の名が付いたとする説がある。元禄年間(1688〜1704年)発刊の好色本に、露天商が割いたウナギを焼く挿絵が描かれており、現在の割いたかば焼きは約300年前に広まったとみられる。

(注)〓は魚ヘンに壇のツクリ


2014年07月26日土曜日

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