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srpglove

2014-07-25

[][]ブギーポップはバラさない?

ブギーポップ、というキャラがいます。

その名前さえ知らないような人がこんな文章読むとは思えませんが、いちおう簡単に説明しておくと、

少女達の間にだけ流れる噂、都市伝説の中では、その人が一番美しい時に現れてそれ以上醜くなる前に殺してくれる黒衣の死神。

自己申告によれば、「世界の危機」に反応して女子高生・宮下藤花から自動的に浮かび上がる、「世界の敵の敵」。「“ニュルンベルクのマイスタージンガー”第一幕への前奏曲」の口笛がテーマソング。

どちらにしても、なんのこっちゃよう分かりませんね。しかし、このよう分からん芸風を維持したまま生き馬の目を抜くライトノベル業界で15年以上生き延びてきたのですから、やはり只者ではないでしょう。只者ではないんですよ!

さて、そのブギーポップ氏についてですが、Wikipediaにはこういう記述があります。

ブギーポップシリーズの登場人物 - Wikipedia

特殊な鋼鉄製のワイヤーを武器として戦い、対峙した敵の多くはそれによってバラバラに切断される。

うむ、ブギーポップと言えばワイヤー、ワイヤーと言えばバラバラです。何も問題はないように思えます、一見。

ですが、ここで一つの素朴な疑問が浮かび上がる。

ブギーポップが、敵をワイヤーでバラバラにしたことって、実際どのぐらいあったっけ?

改めて考えてみると、直接的にワイヤーを用いる以外の手段で敵をどうにかしてた場合もけっこう存在したような気がしてきます。アレとかソレとか……あああ気になる。

そんな、全人類の99.99999999999999999999999999999%は全く関心がないであろう疑問を解消するため、0.00000000000000000000000000001%代表として、ここではこれまでのブギーポップによる「敵」との決着の付け方をシリーズ既刊から順に抜き出し、並べ挙げてみようと思います。時間と精神に余裕のある0.00000000000000000000000000001%の方々は、どうかお付き合いいただきたい。

注意。必然的に物語終盤のシーンについて言及することになるので、ネタバレ等への配慮は一切ありません。







1.『ブギーポップは笑わない

ブギーポップは笑わない (電撃文庫 (0231))

ブギーポップは笑わない (電撃文庫 (0231))

天から降りてきた男、エコーズと、そのコピーであるマンティコアの戦いを軸に、5人の高校生の物語が描かれる。

・VSマンティコア決まり手:「今だ、士郎君! 射て!」(ワイヤーで動きを封じ、田中士郎に弓で頭部を狙撃させる)

記念すべき第一作。にも関わらずとどめは他人任せ。加えて、この時点でマンティコアはエコーズの“自爆”により深刻なダメージを受けていたため、実質的には三人がかりで倒したと言える。のちの圧倒的な強さを考えると非常におとなしい。一応、炭化していた部分とは言え、マンティコアの手首をワイヤーで切断したりはしている。

再読していて思い出したが、本作ではブギーポップが世界の敵と戦っていることは語られるものの、その具体的な描写は最終話まで存在しない。そのため初読時には、一体どんな戦闘スタイルなんだろうと想像をめぐらせながら読み進めていたのだが、実際のマンティコア戦に至った時は、ワイヤー!?意外と物理的だった!?とちょっと驚いてしまった。

ブギーポップが現れる直前、エコーズの“自爆”によって、マンティコアをかばった早乙女正美が死亡している。後の巻で彼こそがこの状況における真の世界の敵であったことが明かされているが、だとすれば、ブギーポップが世界の敵の死に全く関わらなかった、シリーズでも非常に珍しい例と言えるだろう。


2.『ブギーポップ・リターンズ VSイマジネーター PART 1』

人の「心の花」を見て干渉できるMPLS(能力者)飛鳥井仁が、「イマジネーター」を名乗る少女の幻と出会い、世界を変革しようと動き出す。谷口正樹と織機綺はそこに巻き込まれていく。

・VSスプーキーE‐決まり手:「ぶつっ、という気色悪い音がした」(ワイヤーで右耳を切断。殺害無し)

みんな大好きモテカワ合成人間(人造or改造人間)スプーキーEちゃん(性別:天使)との戦闘は、ブギーポップが終始圧倒したものの結局取り逃している。

そもそも、ブギーポップは本気でスプーキーEを倒す気があったのだろうか。「今回のぼくはイマジネーターの再出現に対応している」「ついでで悪いが、倒させてもらうよ」という台詞から、スプーキーEは少なくとも世界の敵ではないことが伺える。これ以降の巻を見ると、ブギーポップに世界の敵以外の相手を殺すことができるとは思えないのだが。あるいは、本人もそういった性質を自覚していないのかも知れない。


3.『ブギーポップ・リターンズ VSイマジネーター PART 2』

飛鳥井仁の計画は最終段階を迎える。谷口正樹は織機綺を救えるのか。

・VS水乃星透子(イマジネーター)‐決まり手:「君はこれで終わりだ。この先はない」(学校の屋上からの飛び降り自殺に追い込んだ?)

冒頭のシーン、本編の一年前の出来事だが、ちょっと扱いに困る。これ以後二度と使ってる姿を見ないナイフなんか持ち出してるから、ではなく。一応人間としての死を迎えてはいるが、あくまで本人の意志による行動の結果である上に、その後も精神体として存在し続けているし、しかし、真の消滅も結局は本作の終盤で描かれているという……全ては、イマジネーターとの戦いの本編と呼ぶべき『ブギーポップ・ストレンジ』がさっさと書かれないのが悪い。

・VSぬいぐるみ&ピエロ軍団‐決まり手:「こんなものを、ぼくは……真似ていたのか」(ワイヤーで全員を戦闘不能に。殺害なし)

飛鳥井仁の影響を受けた一般人の集団を相手に、閉鎖された遊園地で大立ち回り。世界の敵相手ではないが、一対多のいわゆる「無双」であり、園内のスピーカーからマイスタージンガーが流れる(恐らくはブギーポップ本人がわざわざ行なった)演出もあって、シリーズ中屈指の派手な印象を残す戦闘になっている。

・VS飛鳥井仁‐決まり手:「無理だ、そいつに突破はできない――」(相手の自滅。殺害なし)

本当にブギーポップが何一つ手を下すことなく、勝手に計画が失敗に終わった。加えて、殺していないどころか転落しかけたところをワイヤーで宙吊りにして、むしろ積極的に命を助けている。ブギーポップ本人の「最初から飛鳥井仁本人のことは無視していた」という言葉通り、徹底的に舐められてた飛鳥井先生かわいそう。


4.『ブギーポップ・イン・ザ・ミラー「パンドラ」』

未来を視ることができる6人の少年少女が、やがてその能力故に世界の危機に対峙することになる。

・VS被投与体‐決まり手:「本物の、意志もなくひとりでに動く自動的な存在のようだ、と――」(ワイヤーによる解体)

ある薬品によって肉体の限界を突破し、思考能力を失った人間たち。伝染によって仲間を大量に増やしたこのゾンビめいた存在を、ブギーポップがばっさばっさと斬り捨てる。本文中に「五体バラバラになって崩れ落ちた」というそのものズバリな表現もあるため、これは間違いなく「バラバラに切断」事例の一つとして認定してよいだろう。

一応、ブギーポップひとりで全てを片付けたわけではなく天色優こと合成人間ユージンとの共同作業である。ブラックな死神の仕事に付き合わされて、天色さん涙目(冬眠)


5.『ブギーポップオーバードライブ歪曲王』

バレンタインデー。死亡した伝説的な実業家、寺月恭一郎が遺した奇妙な建築物で、一つの実験が始まる。

・VSゾーラギ‐決まり手:「“バンジージャンプ”のさ!」(ワイヤーによる舌の切断。殺害なし)

ブギーポップと同種の存在である歪曲王によって、8才の少年、橋坂真の内側から引き出された巨大な「怪獣」ゾーラギ。これをブギーポップは「生物における急所のひとつ」である舌への攻撃で倒しているのだが、正確には橋坂真に「倒された」と信じさせたに過ぎない。実際、あくまでゾーラギが真の内面から現実世界に抜け出てくるのを阻止しただけであり、完全な消滅には至っていない。

またこのゾーラギ戦で、ブギーポップは珍しく出血を伴うほどの傷を負っている。これはシリーズ全体で見ても極めて異例のことであり、ファンの間でゾーラギ最強説が流れる原因になっている。

・VS歪曲王‐決まり手:「その言葉はまるで相手を突き刺すナイフのような鋭さだった」(説得。殺害なし)

歪曲王の能力で飛ばされた異世界の崖にワイヤーで橋をかけて渡るという神業は披露しているものの、それ以外では攻撃らしい攻撃もなく、本当に言葉だけで相手に「自分が世界の敵では“ない”こと」を認めさせることに成功している。同行した新刻敬の言葉も最後の決め手になってはいるのだが。

『歪曲王』は、当時ここでシリーズが完結する可能性も存在しており、一区切り付けるにあたって「これまで変則的にしかやんなかった“ブギーポップの仕事”というやつをまともにやってみようかな、という感じ」*1という意図を込めて企画段階での初期タイトル案は「ブギーポップ・スタンダード」だったそうだ。「変則的」ではない「まとも」な「仕事」において、こういう、見方によってはヌルいとさえ言える決着がついていることは、ブギーポップというシリーズについて考える上で非常に興味深い。


6.『夜明けのブギーポップ

夜明けのブギーポップ (電撃文庫)

夜明けのブギーポップ (電撃文庫)

時間の隔たった五つのエピソードを通して、「正義の味方」としての霧間凪ブギーポップの“誕生”がそれぞれ描かれる。

・VSフィアグール(来生真希子)‐決まり手:「“そうかい”」(ワイヤーによる首の切断)

霧間凪の改造スタンロッドによる電撃でほぼ瀕死の状態にあったところに、最後の仕上げを行なった、という形。それにしたってあまりに一方的勝負だが。

この巻では、直接的な死の原因となったわけではないが、スケアクロウ(黒田慎平)とピジョン、死の淵にある二人の合成人間の前に現れて最期を看取るという、まさに死神めいた仕事もこなしている。というか、この二つの場面が対応している可能性に、今初めて気が付いた。再読はしてみるものだ。




7.『ブギーポップミッシング ペパーミント魔術師

アイス作りに天才的な腕前を見せる、失敗作の合成人間、軌川十助。彼の力に周囲は否応なく巻き込まれていく。

・VSキャプテンウォーカー(景山)‐決まり手:「――ごきっ」(首の骨を折る)

「一瞬でひん曲げられ、脊髄と延髄をねじ切られて即死」とあるが、具体的な攻撃手段は不明。十中八九ワイヤーだろうが。

ブギーポップが積極的に殺しにかかっている以上、この殲滅型合成人間キャプテンウォーカーは恐らく世界の敵なのだろうが、作中の描写からはそこまで深刻な存在には見えない。あくまでブギーポップは軌川十助に対応して出現しているだけで、キャプテンについてはやはり「ついで」に過ぎないのだろうか。ブギーポップの「ついで殺し」があり得るのかどうか、識者の意見を待ちたい。

・VS野々村春人‐決まり手:「――かちっ」(ビル爆破。殺害なし)

あくまでスプーキーEによる洗脳を解くための戦闘、のはずなのだが、タイミングのせいで野々村をビルごと爆殺しようとしたように見えてしまう。実際には、むしろ爆発から守ってあげたようだ。

・VS軌川十助(ノトーリアスI.C.E.)‐決まり手:「……敵だ。本来なら、な」(見逃し。殺害なし)

能力は非常に危険だが、それを持つ者の人格によって危険性が無効化されている、という理由で見逃している。この、能力や強さはそれ自体では良くも悪くも何の意味も持たない、という理屈は、シリーズの中で形を変えて何度も繰り返されることになる。


8.『ブギーポップ・カウントダウン エンブリオ浸蝕』

その声を聞いた者から、眠れる才能を引き出す存在、ジ・エンブリオエンブリオとの接触で能力を得た高代亨は、混乱の中で“最強”の男フォルテッシモと出会う。

・VS本木三平決まり手:「――ゼロ、だ」(能力の消去。殺害なし)

今回の場合は、エンブリオに引き出された〈カウントダウン〉能力だけが問題だと判断されたのか、器用にも能力のみを消している。ただし、その具体的な手段は不明。両耳にワイヤーで斬りつけているのが何か関係あるのだろうか。単なるイジメにしか見えないが。このあたりから、ブギーポップの原理不在なハイスペック化が進行していくことになる。

本木三平に「予告しよう――君の生命はあと二十秒だ」などと宣言しているが、言うまでもなく大嘘。これが『炎生』の伏線だったのだろうか。


9.『ブギーポップウィキッド エンブリオ炎生』

“イナズマ”高代亨と“最強”フォルテッシモが炎の中で激突する。

・VSフォルテッシモ決まり手:「……あの、大嘘つきめぇッ!」(決闘の約束すっぽかし。殺害なし)

ファンの間でフォルテッシモが「最強(笑)」的な扱いになった決定的な原因だと思われる。堂々と「これまで一度も嘘をついたことがない」などと言ってしまう相手を信用してはいけない。

ブギーポップによる直接のアクションはほぼ皆無な巻だが、他にも、エンブリオをそれまでの器である携帯ゲーム機からエジプト十字架型のアクセサリに、全くの手作業で転送するという謎の見せ場がある。当然、原理は不明。匠の技と言うほかない。


10.『ブギーポップパラドックス ハートレス・レッド』

中学生時代の“炎の魔女霧間凪と、“レイン・オン・フライディ”九連内朱巳の出会い。

・VSフェイルセイフ(内村杜斗)‐決まり手:「心おきなく“世界の敵”として消えるがいい……」(死ぬべき理由を告げる)

九連内朱巳の罠により既に死んでいるはずのフェイルセイフの前に現れるブギーポップ。死者との対話、程度ではもう誰も驚かない。

既に能力を失ったフェイルセイフに対して、それでもお前は世界の敵なのだという宣告がなされる。軌川十助の場合と、ちょうど逆になっていると言えるだろう。


11.『ブギーポップ・アンバランス ホーリィ&ゴースト

成り行きで犯罪者“スリム・シェイプ”の協力者となってしまったホーリィこと濱田聖子とゴーストこと結城玲治。犯罪行為を繰り返し、二人は世界の敵「ロック・ボトム」の存在に近づいていく。

・VSドクター‐決まり手:「確かに使わせてもらったよ――“死神”を」(ワイヤーによる全身解体)

二例目の「バラバラ」。

スリム・シェイプから“死神”の存在について聞かされていたゴーストによりブギーポップが利用された、ということのようだが、どのあたりが利用なのかはよく分からない。

通信回線を通してスリム・シェイプの精神世界に侵入しているが、これもブギーポップのすることならば特段驚くに値しな……さすがに驚くわ。


12.『ブギーポップスタッカート ジンクス・ショップへようこそ』

統和機構の“中枢”オキシジェンが「ジンクス」を売る店に、四つの可能性が集まる。

・VS澄矢雅典(ホワイトライアット)‐決まり手:「そして当然、殺し方も知っている」(ワイヤーによる分解)

第三の「バラバラ」。今回は、相手の再生能力への対抗手段という必然性がある。

「人間に秘められた可能性を、限界まで百パーセント引き出す――その動きは見慣れているよ。ぼくの敵になる者は、たいていそれぐらいは基礎として概ね備えていることが多いからね」と小馬鹿にしているが、『笑わない』時点ではブギーポップの強さの由来もほぼ同様の説明だったはずでは。

・VS仲村紀美香(ギミー・シェルター)‐決まり手:「君に、そこから動けるだけの未来が残っていれば、の話だが――」(高所で鉄骨にぶらさがっている状態で放置)

能力が消えたことを確認して「後は勝手にするがいい」と見逃すようなことを言ってはいるが、この直前に仲村紀美香の右手の人差し指と中指はワイヤーで斬り飛ばされているため、この状態からはい上がることは実質不可能。恐らく、シリーズ中最も性格の悪い殺し方。最終的にとどめを刺したのは、オキシジェンに敗北して更に上の階から降ってきた小宮山愛(スイッチスタンス)だが。

オキシジェンの台詞を見ると、自分が倒したスイッチスタンスは所詮“小者”に過ぎず、ギミー・シェルターのような者こそが真の世界の敵である(それを倒せるのはブギーポップだけ)、ということらしいのだが、正直この二者の間にそこまで明確な格の差があるようには思えない(どちらも小者くさい)。謙遜し過ぎでは。

このあたりから、世界の敵がその本能のようなもので、ブギーポップの知識はなくても「世界の敵の敵」の存在を予感するようになるのだが、それにしても仲村紀美香はビビり過ぎである。


13.『ブギーポップバウンディング ロスト・メビウス

“牙の痕”と呼ばれる場所で、二人の合成人間、織機綺と蒼衣秋良は爆弾の群れと奇妙な子供“ブリック”に出会う。

・VS山下善次‐決まり手:「ついっ、とその両手を振った」(ワイヤーで頭蓋骨を抜き取る)

竜巻と化したバス運転手をその中から頭蓋骨の断片をワイヤーで釣り上げることで倒した、という説明を自分で書いていても不思議な気分になるが、『ロスト・メビウス』自体が非常に分かりにくい話なので仕方ない。

・VSリミット(雨宮美津子)‐決まり手:「――まだ残っているぞ」(殺害なし)

リミットの中にあった水乃星透子の残滓との対話。これによって僅かに残っていた水乃星の影響を完全に消した、ようにも見えるがよく分からない。直後にリミットの“エアー・バッグ”で攻撃を受けているが、例によって回避できた理由は不明。


14.『ブギーポップイントレランス オルフェの方舟』

世界の敵である少女、杉乃浦晴海と、世界の謎を暴こうとする少年、須磨貞夫。二人の前にブギーポップが現れる。

・VSフォーリン・グレイス(六嶺美登里)‐決まり手:「ついっ、と空中で何かを手繰るような動作をした」(ワイヤーによる解体)

バラバラ4件目。

ブギーポップがワイヤーを操作する時の正式擬態語は「ついっ」なのか。ついったーなのか。

フォーリン・グレイスの、視線による凍結(停止)能力を真正面から受けているが、当然のようにブギーポップには完全に無効。

・VSワン・ホット・ミニット(杉乃浦晴海)‐決まり手:「こんなに暖かい……火が……」(MPLSの“自壊”)

ブギーポップを倒したという錯覚による達成感と、パートナーの須磨貞夫が死亡したことがきっかけとなって、自壊が始まる。通常の手段では、死の際にワン・ホット・ミニット能力がどこまで世界に影響を及ぼすか分からなかったため、このような絡め手を用いる必要があったらしい。「自動的」「殺すだけ」という自己申告に反して、かなり融通が効くブギーポップである。


15.『ブギーポップ・クエスチョン 沈黙ピラミッド

ブギーポップを探す三人の少年少女が合成人間メロー・イエローと出会い、三年前に終わったはずの事態が再び動き始める。

・VSメザニーン‐決まり手:「――すかっ」(ブギーポップに取り憑こうとして失敗)

詳しく言うと。合成人間フィクス・アップの肉体に取りついた精神エネルギー体メザニーン(のコピー)が、(真下幹也の記憶を持った)セピア・ステインの物体を結晶化させる能力〈ストーンズ・キャスト〉を受けて、今度はセピアに乗り移ったところ、セピアはあらかじめ自分自身に〈ストーンズ・キャスト〉を打ち込んでおり、結晶化して動けなくなっているところに現れたブギーポップにワイヤーで解体されかけたところで、今度はブギーポップへの憑依を試みたが、そこには“何もない”(自己申告)ため失敗に終わった、ということになる。複雑だ。

一応、最終的な致命傷ではないにせよ5つ目のバラバラにカウントしておこう。


16.『ブギーポップ・ダークリー 化け猫とめまいのスキャット

音梨町で、中学校の写真部がブギーポップを探す一方、統和機構最強のフォルテッシモと無敵の能力スキャッターブレインの戦いが始まる。

・VSスキャッターブレイン(真駒以緒)‐決まり手:「――ちっ、ちっ……」(合成人間セロニアス・モンキーの〈モンクス・ムード〉による狙撃)

自分に注意を引き付けて能力を無効化したところで、他人にとどめを任せるという、ややマンティコア戦に近いパターン。こちらでは打ち合わせも指示もまったくないまま、ドンピシャのタイミングでうまく決まりすぎだが。

スキャッターブレインの“定着”能力を受けても、当然のようにブギーポップは動ける。「人差し指が立って、それをかすかに左右に振る」ジェスチャーの印象が非常に強い。完全に舐めくさってる。


17.『ブギーポップアンノウン 壊れかけのムーンライト

ブギーポップと同種の存在プーム・プームとその敵〈バット・ダンス〉の戦いに少年少女が巻き込まれていく。

・VSバット・ダンス‐決まり手:「野生動物の馴れきった無駄のない動作」(コウモリによる捕食)

合成人間メロディ・クールに憑依していた精神エネルギー体バット・ダンスがブギーポップのワイヤー攻撃を受けて生命の危機を感じ、新たな依り代として近くを飛んでいた蛾に乗り移ったところ、ちょうどそこを通りかかったコウモリに食べられた。さすがに動物との連携は初めてである。

バット・ダンスの「対峙した相手を自死に引きずり込む共鳴現象」が、ブギーポップには全く効かなかったことについて言及する必要は、もはやないだろう。

・VS弓原千春‐決まり手:「ぶつっ」(危険な性質の消去)

弓原千春の「“収束”」の「“芯”」としての性質事件に関わる記憶だけを抹消したらしいのはいいとして、描写を文字通り解釈すると相手の夢の中に侵入しているようにしか見えない。何でもありか。




18.『ブギーポップ・ウィズイン さびまみれのバビロン

記憶をなくした少女、不和明日那を含む三人の「ブギーポップ」が、ブギーポップを求めてさまよう。

・VS???決まり手:「そしてもうひとつが――終わり」(水乃星透子の言葉?ワイヤー?)

最新作なのに、本作の世界の敵がどうやって倒されたのかについての記憶がいまいちはっきりしなくて、こ、これこそまさに“忘却”を植え付ける能力〈パラダイム・ラスト〉!?ではなく。再読して確認してみたが、やはりよく分からない。

タイミング的に(狭間由紀子の記憶に残っていた)水乃星透子の言葉で引導を渡されたとも取れるし、人の姿を失い粒子のような状態になりブギーポップに覆い被さった敵の「その表面に無数の亀裂が走る」とあるのでブギーポップが内側から何かをしたようにも見える。「こなごなに砕け散」っている以上「バラバラ」として数えるべきかどうか迷うが、とりあえずは保留。




以上、シリーズ既刊18作におけるブギーポップの“仕事”を一通り見てきました*2。まとめると結論としては、

「意外と『バラバラ』してない」

ということになるでしょうか。

まずそもそも、単純な殺害以外の手段で決着をつけているケースがそれなりに存在します。死神のくせに。そして、相手が死亡・消滅している場合に限っても、「バラバラ」にしているのは、16件中5件。決して少なくはありませんが、「対峙した敵の多くはそれによってバラバラに切断される」と言い切るには、少々ためらわれる数です。

では何故、ブギーポップ=ワイヤー=バラバラというイメージが、読者の間で定着したのか。理由として、すぐに思い付く仮説は二つほどあります。

一つ。「初期の名作である『パンドラ』の印象が強かった」

前述のように、『パンドラ』でのブギーポップの戦いぶりは、人の形をした大量の相手をワイヤーで五体切断していくという、バラバラofバラバラ、バラバラ無双と言うべきものでした。加えて、『パンドラ』はシリーズ中でも比較的人気が高い巻であり、その印象が特に強く残ったとしても決して不思議ではありません。

二つ。「他作品の『ワイヤー使い』のイメージが混入している」

言うまでもなく、フィクションにおいてワイヤーやその類似品を武器として使用する登場人物はブギーポップだけでも、ブギーポップが最初でもありません。菊地秀行魔界都市ブルース』の秋せつら、萩原一至BASTARD!!』の魔戦将軍マカパイン、平野耕太HELLSING』のウォルター・C・ドルネーズ……これら古今の「ワイヤー使い」達のイメージがブギーポップに重ね合わせられた結果、「バラバラ」の印象が強化されたということもあり得るのではないでしょうか*3

ともあれ。理由が何にせよ作品の実態とはやや異なるイメージが、ファンコミュニティの内外を問わず定着してしまうことは決して珍しくありません。たとえば「リナ=インバース(『スレイヤーズ』)の竜破斬(ドラグ・スレイブ)」などもこれに当たる可能性があるでしょう*4。あるいは、「アニメ「ゲーム」ライトノベル」といった分野そのものについても似たようなことが言えるのではないかと思います。

こうした、大げさに言えば「誤った」イメージは、時には積極的に修正していくべき場合も当然あるでしょう。が、ここまで長々と書いておいてなんですが、この「ブギーポップ=バラバラ」については、別に放置しておいても特に問題はないんじゃないでしょうか。誰も困らないし。そんなに目くじら立てる必要もないだろう。はい、解散解散。















とか、世界に対していい加減な態度取ってると、黒衣の死神に世界の敵認定されてバラバラだからな!気を付けろよ!



(ほしいものリスト)

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*1:『活字倶楽部 2001年夏号』掲載の『歪曲王』プロット案より。

*2:未読の短編と『ビートのディシプリン SIDE2』は除いた。

*3:ここで挙げた各作品における「ワイヤー使い」の実際の「バラバラ」率については、どれもよく知らないので、全くの的外れな推測に過ぎない可能性はある。

*4:少なくとも原作長編シリーズでの竜破斬の使用頻度は、世間的なイメージよりもずっと低い。

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