架空診療:生活保護大歓迎…受給者の医療費無料で不正

毎日新聞 2014年07月25日 16時00分

 生活保護受給者は大歓迎−−。診療報酬詐欺事件の舞台となった大阪市西成区では、受給者を巡る不透明な診療報酬請求が後を絶たない。受給者を囲い込もうと、熱心に勧誘する医療機関も少なくない。大阪市は対策を強化するが、不正を一掃するための道は険しい。【津久井達、遠藤浩二、藤顕一郎】

 大阪府警は今月9日、受給者の架空診療などで診療報酬を詐取したとして、西成区の医療法人元理事長の医師、小松明寿容疑者(60)を詐欺の疑いで逮捕した。捜査関係者によると、「受給者は医療費が無料だから診療所に集まってくれる」と供述している。

 小松容疑者は1997年に西成区内で診療所を開いたが、思うようにもうからなかったため、医療費が全額公費負担される生活保護受給者に目を付けた。

 2005年、受給者が多いあいりん地区に新たな診療所を開いた。その後、二つの診療所で架空診療などを繰り返し、約3400万円の診療報酬を不正受給したとされている。

 腰痛で通院していた受給者の男性(55)によると、あいりん地区の診療所の待合室には毎日、同じ受給者数人が顔をそろえ、「また点滴を打たれた」などと首をかしげていた。

 「西成区で受給者の患者を囲い込むのは珍しくない」。西成区内の医院の医師が取材に漏らした。

 「うちに来てよ」。あいりん地区の公的医療施設の前では、ある医療法人の関係者が受給者に次々と声をかけていた。応じた人はマイクロバスで西成区内の診療所に運ばれた。

 この法人が経営する診療所には、ニシキゴイが泳ぐ庭園や最新の医療設備を備えたリハビリルームがあった。通院していた受給者の男性(71)は「無料でジュースが飲める自動販売機もあった。居心地が良くて毎日通った」と打ち明けた。

 最近は、あからさまな勧誘活動を控えるようになったという。

 「生活保護 大歓迎」。軒先にこんなのぼりを立て、冬には使い捨てカイロなどを無償で配り、受給者を誘い込む診療所もあった。

 西成区のある病院経営者によると、行政の目が厳しくなり、目立った勧誘活動は減る傾向にあるが、受給者頼みの医療機関は多い。この病院も全患者の大半が受給者という。

 経営者は言った。「受給者は言う通りの治療を簡単にさせてくれる。受給者なしでは経営は成り立たない」

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