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Reading2.0の入り口に立って

公開日: : 最終更新日:2014/07/25

1.『本は死なない』のReading2.0

『本は死なない』に、「Reading2.0」という言葉が出てきます。

今の読書は、Reading1.0。これに対して、電子書籍革命によって実現される新しい世界の読書は、Reading2.0。Reading2.0は、進化した読書を表現した言葉です。

このReading2.0とは、どんな世界でしょうか。『本は死なない』には、たとえば、以下のような記載があります。

私はこの新世界を「Reading 2.0」と呼んでいる。本の著者と会話したり、バーチャルな読書クラブで意見を交換したり、友人からのコメントを受け取ったりすることができる世界だ。location 119

Reading 2.0が実現すれば、読者は本そのものと会話を交わし、ほかの読者とも交流できるようになる。location 2566

『本は死なない』には、もっとたくさんのことが語られています。ただ、他者との交流と読書が密接に絡み合うことが、Reading2.0の特徴のひとつであることは、まちがいありません。

2.『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』の、読書体験の2度の変化

(1) 『本は死なない』と『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』

『本は死なない』を読んでいる間、私がしばしば想起した本が1冊あります。それは、倉下忠憲氏の『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』でした。

『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』のテーマは、Evernoteやブログ、ソーシャルネットワークなどのウェブを活用して、個人レベルの総合的読書システムを構築することです。総合的読書システムを構築することで、読書を通じ、情報を扱う力の土台(自軸)を育てることを目指す点で、同書は、読書法や読書術の指南書だといえます。

「本を読む」という簡単そうな行為の中にも、さまざまな要素が詰まっており、必要な事柄は多数に及びます。それをできるだけシンプルな形で分類してみました。本書を、自分なりの読書システムを作り上げるための手引書として活用していただければ幸いです。
(『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』p.227より)

ですが、同書は、指南書であると同時に、新しい読書の可能性を考察する本でもあります。とりわけ、同書の「CHAPTER-5 新しい読書の可能性」の内容は、ブログやソーシャルネットワークを活用した読書術の紹介であると同時に、『本は死なない』と同じ方向を向いている、読書論です。

そこで、『本は死なない』を読み終えたこの機会に、『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』を再読しました。

(2) 読書体験の2度の変化

『本は死なない』でReading2.0という概念を知った私が、『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』の中でとくにおもしろく読んだのは、読書体験の2度の変化のエピソードでした。

著者の倉下氏のこれまでの読書人生の中で、読書体験が大きく変化したことが、2回、あったそうです。どんな変化でしょうか。

自分の読書人生をふり返ると、「読み方が変わったな」と思った体験が2度ありました。それは読むのが速くなったというような表面的な変化ではなく、もっと質的な変化です。その1度目の体験が「本に書き込む」ことを始めたときでした。
(中略)
すると、これまでよりも「主体的」に本を読んでいる感覚を強く覚えました。「読書をする」が「読書に参加する」という述語に変わったような感覚といえるかもしれません。
(『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』p.103~104より)

1度目の変化は、「本に書き込む」ことを始めたとき、だそうです。

この記載から少し離れたところに、2度目の変化が紹介されていました。

CHAPTER-3で、本の読み方が変わった体験が2回あると書きました。1回目は、本に直接、書き込むようになったときのことです。すでに紹介したように、ペンを持つことによって主体的な姿勢で本を読むようになりました。2回目の変化も、同じように「書く」という行為が関係しています。
自分のブログで読んだ本についての記事を書くようになったこと。それが2回目の変化のきっかけです。これによってさらに積極的な姿勢で本を読むようになりました。
(『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』p.201より)

「自分のブログで読んだ本についての記事を書くようになったこと」が、2度目の変化のきっかけ、そして、ブログで書評記事を書くことをきっかけに、ソーシャルリーディングの世界に入っていったことが、著者倉下氏にとっての、読書体験の2度目の変化だということです。

ソーシャルリーディングは、Reading2.0の重要な一部分です。ブログで書評記事を書くことから、ソーシャルリーディングの世界に入っていき、読書体験が変化する。この読書体験の変化は、完全なReading2.0ではありませんが、まちがいなく、Reading2.0の萌芽といえます。

3.Reading2.0という世界の入り口

(1) 私自身の2度の変化

2度の読書体験の変化のエピソードを私がおもしろく感じたのは、私自身が、この2度の変化を体験しているからではないかという気がします。

「本に書き込む」ことが、私の読書体験を変えたのは、今から10年以上前の、大学生のころでした。とりわけ、齋藤孝氏が提唱する三色ボールペン方式を始めたことは、主観と客観を使い分けて本を読むことを可能にしてくれたので、大きなインパクトがありました。

1度目の「本に書き込む」ことによる変化は、かなり大きな変化でした。しかし、2度目の変化であるソーシャルリーディングによる変化は、もっと大きな変化になりそうです。

最近、このブログに、本と関連した文章を書くことが多くなってきました。書評のような、正面から本を取り上げた文章もあれば(たとえば、「読者のことを考えるって、こういうことだったのか!結城浩著『数学文章作法 基礎編』(ちくま学芸文庫)」や「Evernoteを中心に、知的生産のためのクラウドベースを作る」)、本を読んで考えたことに形を与えた文章もあります(たとえば、「Kindleで読み、Evernoteで書くことで、「空間」という制約要素から自由になる(Kindleで『知的生活の方法』を読んで考えたこと)」や「本を、「思考する場所」として捉える」)。

また、最近はしていませんが、少し前は、Kindleの共有機能を使い、読書に関する小さなアウトプットをTwitterに放流することを、しばしばやってました(参考:Kindle Paperwhiteの「共有」は、読書に関する、ハードルの低いアウトプットを助けてくれる。)。また、読んだ本の感想や考察をTwitterに投げ込むことも、少しずつ試しています。

(2) この先は、きっとソーシャルリーディングに続いている

清水幾太郎氏の『本はどう読むか』を読んで以来、私は、できる限り、本を読んだときは、短くてもよいので自分の言葉でその本についての感想なり考察なりを書くようにしてきました。

私たちは、表現の努力を通して、初めて本当に理解することが出来る、それを忘れて貰いたくないのだ。本を読みながら、「なるほど、なるほど」と理解しても、そういう理解は、心の表面に成り立つ理解である。浅い理解である。本を読んで学んだことを、下手でもよい、自分の文章で表現した時、心の底に理解が生れる。深い理解である。深い理解は、本から学んだものを吐き出すことではなく、それに、読書以前の、読書以外の自分の経験、その書物に対する自分の反応……そういう主体的なものが溶け込むところに生れる。それが溶け込むことによって、その本は、二度と消えないように、自分の心に刻み込まれる。自分というものの一部分になる。受容ではなく、表現が、真実の理解への道である。『本はどう読むか』location 1019

しかし、公開を前提としない自分のEvernoteの中に文章を書くことと、公開を前提とするブログに文章を書くこととは、まったく性質の異なる行為です。この、「公開を前提としない文章を書くこと」と「公開を前提とする文章を書くこと」の違いは、「読むだけで書かないこと」と「読んだあとで書くこと」の違いに、勝るとも劣らないほどの、大きな違いだと感じています(参考:ノート、Evernote、ブログ、そして……)。

自分のブログに、読んだ本についての、公開を前提とする文章を書くようになったこと。このことから、私の読書体験は、2度目の変化をしている途中です。

『本は死なない』や『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』によれば、この先に待っているのは、きっと、ソーシャルリーディングです。私は今、Reading2.0という世界の入り口を覗いているところなのかもしれません。

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