スタッフHです。
先日リリースされたNugen Audioの新しいEQ、SEQ-S。Nugen Audioといえばラウドネスメーターで一躍有名になったブランドで、それ以外にもブロードキャストクオリティにも対応する非常に高品位な処理ができる製品をリリースしているブランドです。
このSEQ-S。普通のEQともっとも異なる点が「他のソースの特性を解析して、EQカーブを自動生成する」ということ。ここまでの機能(解析+自動カーブ生成)は、実はこれまでも他のブランドから同じようなものがリリースされており、リニアフェイズ処理ができる事やリアルタイムアナライザーを備えている事を加味しても、「まったく新しい」とは言い切れません。
とはいえ、いくつかのソースで試してみたのですが「もの凄い精度でEQカーブが生成される」という感動があった事は本当です。今日の記事ではSEQ-Sがメインではないため、ここは別の機会に改める事にします。具体的に例を挙げると、
こんなところでしょうか。もちろん、シンプルでハイクオリティなEQである事も大前提です。
ボーカルオートメーションは経験ある熟練のエンジニアのトップテクニックでした(今でもそうだと思います)。通常のコンプで潰してしまってはニュアンスが失われるところを、リアルタイムでフェーダーを動かしながら「埋もれない」ボーカル仕上げをするテクニック。Vocal Riderはボーカル以外のソースをキー・インに入れることで、オケとボーカルを監視しながら「埋もれない」ボーカルオートメーションを自動で書いてくれるプラグインなのです。
さすがにVocal Riderを第一線で活躍するエンジニアさん達にご紹介するのは気が進みませんでしたが、私自身の好奇心もあってとあるエンジニアさんにご紹介してみたのです。お名前は出せませんが、音楽漬けの毎日である、一級のエンジニアさんです。
最初の反応はこうでした。
「え?こんなこと自動でやっちゃうの?これはマズいねぇ。エンジニア泣かせだよ。これを使って仕事をする事には…すこし抵抗があるね」
やはりそうか、と思いました。場の空気が悪くならなかった事だけが幸いでしたが、良いコメントが得られなかったな、という残念感がありました。…ところが、それから10分も触っていたでしょうか。エンジニアさんからの意外な一言で、一気に形成が逆転します。
「ああ、スタッフHくん。これは大きな勘違いだったかもしれない。Vocal Rider、すごくいいプラグインだよ。」
この10分のテストで何が変わったのか、まだ私には分かりませんでした。続けてエンジニアさんは
「Vocal Riderは、『完璧じゃない』ところがいい。例えば今テストしているこの曲は、愛について歌っている曲で、歌詞でもそれについて書かれている。だからこの聞かせたい歌詞について、僕がオートメーションを書くならもっとこの部分を強調して(フェーダーで突いて)書くだろう。でもVocal Riderは歌詞の意味まで分かっているわけじゃない。あくまでオーディオのレベルでオートメーションを書いているものだよね?」
確かにそうです。
「エンジニア達がやっているオートメーション作業の80%は、Vocal Riderだけで同等のオートメーションが作成できると思う。残る20%は、耳で歌詞の意味や表現したいところをチェックしながら、Vocal Riderが書いたオートメーションを手直しするだけでOKだね」
プラグインは非常に便利で、ハイクオリティのものが揃っていますが、楽曲そのものや歌詞、表現したい世界までを理解してくれるわけではありません。「これはベース用のプリセット」というものをロードしても、その音が曲に合っているか、適切なところをブースト/カットしているかは、耳でイイところを判断する経験を積むべきなのです。
とはいえこのVocal Riderも、冒頭でご紹介したNugen AudioのSEQ-Sも、大幅な時間短縮と、経験を踏み出す第一歩のお手伝いをしてくれる事はたしかです。どんなプラグインやハードウェアを使っても、やはり最後は耳で判断できるようになりたいですね。
MIセールスマネージャー。休日はベースを弾くホリデーミュージシャン。最近ちょっとだけいいカメラを買いました。自他バンドの風景を撮影したり、ムービーを撮影してFinalCutProXで処理(もちろん、AUプラグインで音作りも!)の一連の作業が楽しくて仕方ありません。