このところよく開かれるIT勉強会。スキルアップのためには行った方がいいのかなと思いつつも、どんな雰囲気なのかわからなくて二の足を踏んでいるという人はいませんか? この記事は、実際に勉強会にお邪魔して「こんな雰囲気でしたよ!」と紹介するのが目的です。こんな感じなら行ってみようかな、みたいに思ってもらえたらうれしいです。(三土たつお)
▲みんな作業してる
「勉強会に行ってみた!」というタイトルではあるんですが、実は今回お邪魔した「Asakusa.rb(読みは「浅草アールビー」)」はいわゆる「勉強会」ではありません。プログラミング言語Rubyにかかわる技術者の集まる、地域コミュニティなのです。
とはいえ、地域コミュニティっていったいどんなものなんでしょう? その雰囲気を知るため、定期的に開かれている「meetup」と呼ばれる集まりにお邪魔しました。毎週火曜日のだいたい 19 時 30 分から開かれているそうで、今回の会場は東京・上野の永和システムマネジメントの会議室でした。時間ぴったりに伺ってみると、何人かの方がすでにノートパソコンを開いて何やら黙々と作業をしていました。
▲松田さん
始まってしばらくの間は、各人がひたすら画面に向かう時間が流れました。その雰囲気はこれまで参加したどの勉強会とも違い、ちょっととまどうところもありました。後でだんだんわかってきたのですが、ここは勉強をするための場じゃなくて、何かを作るための場なんだということなんですね。
30分もすると次第にメンバーが集まり、雑談が混じるようになりました。台湾で開かれたRuby のカンファレンスに参加した人たちが台湾土産を持ってくると、ひとしきり台湾の話が弾みました。現地の屋台で珍しいものを買うんだけど、いざ食べようとすると匂いが独特だったりして食べられずみんな手をつけないので困った、というような話です。
しばらくはそんな雰囲気でしたが、開始から1時間ほどしてAsakusa.rbの発起人の一人である松田さんが会場に入ってくると、空気が変わりました。ここからがちゃんとした始まりのようです。
「Asakusa.rbの第260回のmeetupです」という松田さんの挨拶の後、今回は初参加の人も多いということで全員で自己紹介を行うことになりました。それぞれ、自分の名前と、今やっていることを紹介していきます。
■みんなが自分の開発テーマを持っている
▲栗原さん
栗原さんが今取り組んでいるのは、mrubyです。組み込み用途に特化したRubyとして、今まさに活発に開発が行われています。今日は特に整数の演算に関する部分を開発しているようで、「2つの整数を掛けたときに整数の上限を超えるかどうかをうまく判定する方法ってありますか?」と相談していました。参加者からもいろいろな案が出されましたが、効率的な解決方法はすぐには見つからないようです。いつもは言語を使う立場で、そんなことを考えもしませんでしたが、作る側の苦労のほんの一端が見えたような気がしました。
▲柴田さん
柴田さんは、Rubyのコミッター(中心的な開発者)です。その中でも、柴田さんは、Ruby の開発に使われるサーバーの管理など裏方の作業をいろいろと担当しています。「Ruby2.1.2がリリースされたので使ってください。あと、Readline 6.3でビルドできないというユーザーにビルド方法を案内し続けるのに疲れています」とのことでした。やはりいろいろと苦労が多いようです。
▲ビアンカさん(左)、長永さん
写真右の長永さんは、同じ会社のマニラ支社から研修に来ていたビアンカさんと一緒に参加していました。ビアンカさんは日本語は喋れませんが、松田さんや長永さんたちとマニラのRubyコミュニティなどについて英語でやりとりをしていました。浅草という地域のコミュニティながら、とても国際的なのもAsakusa.rbの特徴です。来日している海外のRubyハッカーたちがふらりと訪れることもしばしばだそうです。
自己紹介を聞いていて思ったのは、それぞれの人が必ず何か自分のテーマを持っているんだなということです。Rubyに積極的に関わるために、このコミュニティに参加しているんだと思いました。
■Rubyそのものを作っている人が集まっている
▲笹田さん
Rubyを使ってなにかを作るだけでなく、Rubyそのものを作っている人が多く集まっているのもこのコミュニティの特徴です。
たとえば笹田さんは、Rubyの根本の仕組みを作り直して、Ruby全体を高速化しました。
▲村田さん
村田さんは、Rubyの数の計算に関する部分の開発を担当しています。
▲小崎さん
小崎さんは Ruby のみならず、Linux カーネルのコア開発者でもあります。
発起人の松田さんはRuby on Railsのコミッターでもあり、そのソースコードはほぼ完全に把握しているそうです。そんなふうに、Rubyのことを知り尽くした人たちもいます。本気で何かを作れば本気の反応がもらえる、そんな場所なんだろうなと思いました。
■コミュニティに参加する理由
meetupの後は、参加者の村田さんがしばらく日本を離れるということもあり、近くのお店で壮行会(懇親会)となりました。
それぞれの方に、Asakusa.rbに参加する理由を聞いてみました。壮行会の主役である村田さんは「楽しいし、ここに来ないと会えない人がいるから」とのことでした。
▲松本さん
松本さんは、コミュニティに参加して約2年になるそうです。その間にRuby 製の Twitter クライアントの開発に関わったり、「大江戸 Ruby 会議」というカンファレンスで発表したりといった経験をしたそうです。
■地域コミュニティを作った理由
最後に、発起人の松田さんと角谷さんにAsakusa.rbを作った動機について伺いました。
▲松田さん
▲角谷さん
—勉強会という形ではなく、地域コミュニティを作ろうと思ったのはなぜでしょうか?
「勉強会というのは、自分へのインプットの場ですよね。そうではなくて、外へのアウトプットの場が欲しいなと思ったんです。2008年ごろ、アメリカのSeattle.rb というコミュニティが良質なアウトプットをたくさんしていたので、それに刺激されました。」
—どんな人にコミュニティに参加してほしいですか?
「Rubyが好きな人、いわゆる『Rubyist』であればどなたでも歓迎してますよ。いろんな人に参加してほしいですね。」
Rubyコミッターも参加していたりしてRubyにすごく詳しい人ばっかりの集まりなのかな?というとそんなことはなくて、基本的にはRubyが好きな人たちの集まりなんですね。
ちなみに集まりが毎週火曜日なのはローリングストーンズの「Ruby Tuesday」という歌にちなんだそうです。しゃれてますね。ふつう、勉強会での話題は言語やツールの使い方ですが、ここでは何をどう作るかの話や自分たちの主催イベントの話も多く聞かれ、まさにアウトプットの場なんだなと思いました。
今回参加した勉強会:
「Asakusa.rb」
http://asakusa.rubyist.net/
ライターとしてはニフティのデイリーポータルZとかで書いてます。
http://mitsuchi.net/