「北極におけるロシア包囲網」という被害妄想? 軍事化急ぐ口実に


小泉悠 (こいずみ・ゆう)  財団法人未来工学研究所客員研究員

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に『ロシア軍は生まれ変われるか』(東洋書店)。ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

メディアから読むロシア

(画像:iStock)

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近年、ロシアは北極の防衛に神経を尖らせている。

 後述の記事翻訳中でも触れるように、ロシアはすでに既発見エネルギー資源のおよそ半分を採掘済みであるとされている上(2010年にエネルギー安全保障をテーマとして開催された安全保障会議では、ロシアはすでに石油資源の50パーセントを採掘済みであり、天然ガスについては165兆立方メートルが残されていると報告された)、西シベリアの主力エネルギー資源地帯が生産のピークを過ぎつつある中、膨大な天然資源が眠るとされる北極は次なる重要資源地帯と目されている。

 しかも、近年、北極を覆う氷が年々減少傾向を辿っていることで、こうした資源の開発が容易になってきたという事情もある。このため、2008年に公表された「2020 年及びそれ以降の期間における北極についての国家政策の基礎」と呼ばれる政策文書において、北極は「ロシア連邦の戦略的資源基盤」と位置付けられるに至った。

 また、氷の減少は、これまで閉ざされた海であった北極海を航路として利用する可能性をも開きつつある。ロシア政府は、自国沿岸の北極海を通る北方航路がアジアと欧州を結ぶ最短航路となることを期待しており、最近では北極の航行を管理する専門官庁や監視・救難体制の整備などを急ピッチで進めている。

 北方航路については、通年で利用できないこと、ロシアによる砕氷船のエスコートを受ける必要があること、航路上に大都市が存在せず、中途で貨物の積み卸しが出来ないために柔軟性が劣ることなどのデメリットが指摘されるものの、北極を通過する商船の航行は徐々に増加しており、最近では我が国の商船三井が2018年から北極航路を使用してLNGの定期航路を開くことを決定したばかりだ。

北極での防衛力強化を急ぐロシア

 しかし、ロシアは、北極の利用をただ手放しで歓迎しているわけではない。以下に引用する国営ノーヴォスチ通信の記事に見られるように、北極を「対立の海」と捉え、防衛力の強化を急ぐべしとの意見もロシアでは頻繁に見られるようになってきた。

* * *

翻訳記事「ロシア海軍は“恵まれないアメリカ”から北極を守る 専門家見解」(国営ノーヴォスチ通信2014年4月22日付)

 北極におけるロシアの軍事的プレゼンスは、“恵まれないアメリカ”がロシアの領土や天然資源を要求することを許さない。

 元・黒海艦隊司令官で現・下院国防委員長のウラジミール・コモエドフ提督は、ウラジミール・プーチン(大統領)のイニシアティヴをこう解説する。

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小泉悠(こいずみ・ゆう)

財団法人未来工学研究所客員研究員

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に『ロシア軍は生まれ変われるか』(東洋書店)。ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

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