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人工知能は人の仕事を奪うのか?

7月25日 18時15分

西村敏記者

コンピューターに人間のような知能を持たせる「人工知能」の技術が今、急速に進化しています。
自動車の自動運転、無人機での荷物の配達、会話するロボットなど、機械に人工知能を搭載することで、これまで夢物語だった技術が次々に実用化されようとしています。
一方で、賢い機械の普及は、人間の仕事の多くを奪うことにつながるのではないかという懸念も生まれています。
私たちの暮らしや働き方は、これからどう変わろうとしているのでしょうか。
報道局の西村敏記者が解説します。

急速に進化する人工知能

大手電機メーカーの研究所を訪ねた私を、あいさつで出迎えてくれたのは1体の案内ロボットでした。
開発中のこのロボットは、事前に知識を与えなくても、頭についたカメラで目の前にあるモノを認識し、それが何かを答えることができます。

ニュース画像

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このロボットの頭脳を司っているのが「人工知能」です。
カメラに映った画像をインターネットを通じて1億件のデータから検索。
似た画像と一緒に投稿されている文章から、頻繁に使われている単語を見つけ出し、僅か1秒で名前を推測して答えます。
コンピューターの高性能化により、ビッグデータと呼ばれる膨大な情報でも、瞬時に処理できるようになったことから、こうした仕組みが可能になり始めているのです。
さらに人間との会話でも、ディープラーニングと呼ばれる新しい手法を導入しました。
文章を単語に分解したうえで、段階的な解析を行って判断させることで、認識の精度を飛躍的に向上させました。
例えば、「富士山の標高はどれくらい?」を「富士山ってどれくらいの高さだっけ?」と言いかえたとしても、ロボットが理解できるようになりました。

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日立製作所中央研究所の池田尚司部長は「1から10まで全部教えるのではなく、データを使って、人工知能がみずから学習できるようになってきていることが大きな変化だ。病院やショッピングセンターなどでの案内に、実用化できるようにしていきたい」と話していて、コンピューターに柔軟性や自律性を持たせようとする研究が進んでいます。
こうした人工知能の技術で覇権を握れば、さまざまな産業に応用できることから、アメリカの大手IT企業のグーグルやアマゾンをはじめ、中国のバイドゥなども積極的に投資をして研究を進めていて、世界的に開発競争は激化しています。

ビジネスでの実用化始まる

国内のビジネスの世界では、人工知能の実用化はすでに始まっています。
企業の不正に関する調査や、訴訟の支援をしている東京の会社は、パソコンのデータの仕分け作業に人工知能を導入しました。

(動画:7月25日「おはよう日本」より)

かつて、この会社では、パソコンの中の膨大なメールや文書ファイルから不正の証拠を集めるとき、大勢の弁護士やスタッフを雇って、1点1点人の目で仕分け作業をしてきました。
一方、人工知能の場合は、最初に不正に関係がある文書と関係がない文書を100点程度読み込ませて学習させるだけで、文脈ややり取りの傾向を読み取って、残りの膨大な文書をみずから判断して仕分けられるようになります。
判断のスピードは人間の4000倍で、作業を行えば行うほど傾向を学習して精度が高くなっていきます。

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人工知能を導入したUBICの大西謙二課長は「人の目で見るよりもかなり精度は高くなっている。どうしても人が見ると間違えることがあるが、人工知能を使うと決して間違えないので信頼して使っている」と話していました。

人件費の削減も

人工知能は人件費の削減にもつながっています。
大手日用品メーカーはコールセンター業務に人工知能を導入。

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ホームページ上で利用者が質問文を入力すると、自動で応答できるようにしました。
例えば「健康食品の錠剤を子どもに飲ませても大丈夫か」を質問すると、すぐに「問題がない」と表示されるなど、商品や注文に関する問い合わせをいつでも受け付けられるようになりました。
さらに、入力された内容を集計して分析することで、回答できる内容も増え、日に日に能力が改善しています。
システムの導入で、利用者からのメールでの問い合わせ件数は半数に減りました。

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ライオン通販事業部の浜田勝俊さんは「人工知能で置き換えられる質問に関しては、おおいに人工知能を活用していきたい。コストを抑えた問い合わせ対応が実現できる」と話していました。
また、このシステムを開発しているコールセンター運営会社もしもしホットラインの椎木幹二郎室長は「人で対応する部分と人工知能で対応する部分のすみ分けをしていくことで、利用者の利便性の向上につなげていきたい」と話していました。

人の仕事はなくなるの?

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企業での実用化が進み始める一方で、アメリカでは、人工知能を搭載した機械が、人間の仕事の多くを奪い、社会の格差が広がるのではないのかという指摘も出ています。
アメリカの調査会社ガートナーは「6年後の2020年までには、人の仕事の半数に影響を与え、34%の人で仕事の範囲が広がる一方、17%の人は仕事を失う」とも予測しています。

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ガートナージャパンの亦賀忠明アナリストは「デジタル産業革命というぐらいのインパクトを持つ動きが今起こっていると考えている。人間の仕事がだんだん人工知能を搭載した賢い機械に奪われる可能性はあるので、そういうことを前提に自分の能力をどう付けるかということを考える必要がある」と話していました。
いま、国内では建設や介護、外食産業などで人手不足の問題が広がっていますが、事務作業などのオフィスワークについては、なかなか仕事が見つからない状況が続いています。
人工知能を搭載した機械の導入が進めば、こうしたオフィスワークを含め、さまざまな仕事に影響が広がる可能性もあります。
18世紀中頃からの産業革命以来、人間は機械に従来の仕事を多く奪われてきましたが、その分、新しい仕事も生み出され、世の中は便利になってきました。
ただ、ここ数年の技術の進化は、これまでとは全く違う次元に突入しています。
人工知能の実用化に向けてはまだまだ課題も多く、どこまで進化するか不透明な部分も多いですが、これから人間がすべき仕事は何なのか、考える時を私たちは迎え始めているのかもしれません。


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