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序章 地域防災計画における津浪対東強化の手引きの位置付け

 わが国は、四方を海で囲まれ、古来よりしばしば大きな津波災害を経験してきた。明治以降においても、明治29年三陸津波を始めとして、昭和8年三陸津波、昭和19年東海地震津波、昭和21年南海地震津波、昭和35年チリ地震津波、昭和58年日本海中部地震津波、平成5年北海道南西沖地震津波などにより多くの国民の生命と財産が失われている。
 わが国の津波防災は、こうした過去の津波による被害と多くの犠牲から得られた教訓に基づいて発展してきたといえる。当然のことながら被害を被った沿岸地域では、すでに津波に対する防御対策が積極的に進められ、さらに、阪神・淡路大震災も契機となり各地方公共団体においては、地域防災計画の見直し等も進められている。
 しかし、現在の技術水準では、津波がいつどこで発生するか予測することは困難であり、また、津波が発生した場合においても、地域の特性によって津波高さや津波到達時間、被害の形態等が異なるため、津波防災対策の検討が極めて難しいものとなっている。
 さらに、これまでの津波災害は、必ずしも人口稠密な大都市域で発生したものではないため、今後、臨海大都市で発生する危険性がある都市津波災害に対する対策も新たに講ずる必要がある。
 そのため、津波という災害の特殊性を十分踏まえ、総合的な観点から津波防災対策を検討し、津波防災対策のより一層の充実を図ることが必要不可欠となっている。
 以上のことから、本書は防災に携わる行政機関が、沿岸地域を対象として地域防災計画における津波対策の強化を図るため、津波防災対策の基本的な考え方、津波に係る防災計画の基本方針並びに策定手順等についてとりまとめた。この手引きの中では、各種の提言等が示されているが、各地方公共団体においては、地域特性を十分考慮のうえ参考にされたい。なお、ここ本書では地域防災計画における津波対策を総称して津波防災計画という。
 本書の構成は、以下に示す通りである。


   序章
第1章 総論
第2章 津波防災計画の策定
第3章 津波対策の強化

第1章 総論

1.1 津浪防災計画の目的

津波防災計画は、当該治岸地域において平常時ある小は津浪来襲時に実施する津波防災対策について定め、これを推進することにより、沿岸地域の住民の生命、身体及び財産を津波による災害から守ることを目的とする。


【解 説】
 北海道南西沖地震津波では、奥尻島を中心に200名を超える津波の犠牲者を出した。
奥尻島では、ちょうど10年前にも日本海中部地震津波において犠牲者を出していたた め、地震による強い揺れを感じた瞬間からかなりの人が津波の来襲を予想して高台へ避難したが、一方、避難の遅れなどにより多数の人が津波災害の犠牲となった。
 このように同じ沿岸地域で繰り返し津波が襲い、傷ましい被害をもたらすことがある。 このことは、海岸保全施設等の整備水準が未だ低い状況にあることに加えて、地震が発生し、津波が来襲するときの対応が明確化あるいは確立されていなかったり、あるいは低頻度災害ゆえに時間の経過に伴う災害の記憶の風化が進み、過去の教訓が生かせなかつたことなどの問題を明らかにする。
 このような反省点を踏まえ、津波防災に携わる行政機関は、津波災害から沿岸地域の 住民の生命、身体及び財産を守ることを恒久的な目的として、地域防災計画における津 波対策の強化をより一層図り、津波防災対策の積極的な推進およびより一層の充実を図 ることが重要である。
 また、津波防災対策の実施にあたっては、住民、海岸利用者、企業、行政が津波の危 険性に対する共通の理解を持ち、「自分の身は自分で守る」、「自分たちのまちは自分たち で守る」という基本認識のもとで一体的に取り組んでいくことが重要である。

1.2 津波防災計画の位置付け

 津波防災計画は、国民の生命、身体及び財産を津波による次善から守るため、地域防災計画における津浪対東に係るものをより−点強化したものをいう。


【解 説】
 地域防災計画は、災害対策基本法に基づいて、震災、風水害、火山災害、雪害及び各 種事故災害などの各種災害に対して、一定地域に係る防災に関する計画を総合的に定め たものであり、地方公共団体において防災に係わる取り組みが基本となるべきものである。本書で取り上げる津波災害についても、地域防災計画において防災施設の整備や管 理、調査研究、災害予防や災害応急対策に関する計画等について基本的な事項が定めら れているところである。
 しかし、津波災害は、その発生や規模の予測が難しく、ごく近海で発生した場合には、 数分単位の短時間で来襲するなどの特殊性を有していることから、海岸堤防や水門の整備等のハード対策のみならず、いざという時の避難を想定しての避難地・避難路の確保や、情報伝達体制の整備等のソフト対策が極めて重要である。よって、津波災害の危険性が予想される地域においては、津波災害の特殊性を踏まえて、ハード対策、ソフト対策が一体となった機動的な防災対策を確立する必要があり、津波対策の一層の充実、強化が望まれる。
 また、津波対策の強化を図る際には、社会環境等の変化や地震・津波に関する最新の知見等を反映するとともに、地域防災計画としての全体の整合性を図り、必要に応じてその見直しを検討する必要がある。
 以上の観点から、地域防災計画の一部である津波対策についてハード対策、ソフト対策の両面から対策の強化を図ったものを津波防災計画と位置付ける。

1.3 津波防災計画の基本目標

 津波防災計画では、海岸及び背後地の地形や海岸保全施設等の整備現況などの地域の特性を踏まえて、対象とする津波に対して津波防御効果及び被害軽減効果が最大限に発揮されるよう、防災施設、津波防災の観点からのまちづくり、防災体制の3分野の対策を有機的に組み合わせた総合的な津波防災対策を講じるものとする。


【解 説】
 津波防災計画において、海岸保全施設を含む防災施設の整備は、対象となる津波の陸域側への浸入を直接阻止する基本的な手段であるが、施設整備の実施段階においては、以下に示すような危険性が想定されるため、沿岸地域の老朽建築物の改修、建て替えや重要施設の高地移転などによる津波に強いまちづくりを推進するとともに、住民避難、津波予警報や住民に対する避難の勧告、指示の伝達等の防災体制の強化を図ることにより、住民の安全を二重、三重に確保しておくことが重要となる。


[想定される危険性]
○施設整備には一定の工事期間を必要とするため、整備の途中段階において地震津波が発生する可能性がある。
○施設整備後であっても、実際の津波高が計画規模の津波高を上回る可能性がある。
○景観保全や環境保全、海岸の多目的利用、財政事情、施設整備のための土地収用の困難等との関係から、当分の間、施設整備への着手および必要天端高の確保が困難な場合もあり得る。


 これまでの津波被害により得られた教訓から、津波防災の考え方としては、防災施設による対策に頼るだけでなく、津波防御効果及び被害軽減効果が最大限に発揮されるよう、防災施設、津波防災の観点からのまちづくり、防災体制の3分野の対策を有機的に組み合わせた総合的な津波防災対策を講じることが重要である。
 また、計画の前提となる対象津波については、過去に当該沿岸地域で発生し、痕跡高等の津波情報を比較的精度良く、しかも数多く得られている津波の中から既往最大の津波を選定し、それを対象とすることを基本とするが、近年の地震観測研究結果等により津波を伴う地震の発生の可能性が指摘されているような沿岸地域については、別途想定し得る最大規模の地震津波を検討し、既往最大津波との比較検討を行った上で、常に安全側の発想から対象津波を設定することが望ましい。この時、必ずしも最大規模の地震から最大規模の津波が引き起こされるとは限らないことから、地震の発生位置や規模、震源の深さ、指向性、断層のずれ等を総合的に評価した上で対象津波の設定を行う必要がある。
 ここでいう、防災施設とは、防潮堤、津波防波堤、津波水門、河川堤防等の各種施設を指す。
 津波防災の観点からのまちづくりとは、土地利用規制、高地移転、老朽建築物の改修、建て替え等、津波に対する備えを強化するためのまちづくりであり、都市・集落における地域計画的対応による対策の総体を指す。
 防災体制とは、防災組織、予報、避難地・避難路の確保、防災教育・広報、漁業の防災等、津波防災のための諸活動を実施するための組織や体制を指す。

第2章 津波防災計画の策定

2.1 計画策定の手順

対象沿岸地域の津浪防災計画の策定は、次のような手順に従って行うものとする。
 1.計画策定のための基礎調査
  1)調査の視点
  2)既往地震・津波被害の実態把握
  3)津波防災対策の現状把握
  4)対象沿岸地域の現状把握


 2.対象津波の設定と想定被害の評価
  1)対象津波の設定
  2)想定被害の評価
   (1)対象沿岸地域の特性に応じた評価項目の選定
   (2)越流可能性の評価
   (3)浸水域の想定
   (4)想定被害の評価


 3.津汲防災上の課題の設定


 4.津波防災計画の策定


 5.津波防災計画の実行に伴う課題


【解 説】
  わが国の各沿岸地域で津波防災計画を策定するための調査項目、検討項目、検討手順を示したものであり、現在の津波防災対策の進捗状況など地域の実情に応じて策定作 業を進めるものとする。


1)計画策定のための基礎調査
  本計画の対象となる沿岸地域の概略(最終的には、浸水域等の想定を行った後、対象沿岸地域の絞り込みを行う)やその場所での対象津波を設定するにあたって、過去の地震津波の特性や被害実態等を把握する。また、対象津波による沿岸地域の危険性の評価を行うにあたって、各沿岸地域の地形、土地利用、人口、産業等の集積、住民属性、対策の進捗度など、地域固有の特性について明らかにする。さらに、当該沿岸地域で既に予定されている施設整備事業や開発計画などを把握し、都市の将来像についても十分考慮する。


2)対象津波の設定
  津波防災計画策定の前提条件となる外力として対象津波を設定する。対象津波については、過去に当該沿岸地域で発生し、痕跡高等の津波情報を比較的精度良く、しかも数 多く得られている津波の中から既往最大の津波を選定し、それを対象とすることを基本とするが、近年の地震観測研究結果等により津波を伴う地震の発生の可能性が指摘されているような沿岸地域については、別途想定し得る最大規模の地震津波を検討し、既往最大津波との比較検討を行った上で、常に安全側の発想から対象津波を設定する。この時、震源の位置によっても津波の来襲特性が変化するなど、必ずしも最大規模の地震から最大規模の津波が引き起こされるとは限らないことから、地震の規模、震源の深さとその位置、指向性、断層のずれ等を総合的に評価した上で対象津波の設定を行う。
  また、施設整備の検討では、沿岸津波水位のより大きい方を採用することが求められるが、時間的な制約に影響される人や船舶の避難対策の検討などでは、沿岸津波水位の大きさだけではなく、沿岸津波到達時間についても十分考慮する必要がある。


3)想定被害の評価
  対象津波による浸水域を想定し、その結果に基づいて対象沿岸地域の範囲を確定するとともに、対象沿岸地域の地域特性からみた被害の受けやすさ(脆弱性)や現状の津波防災対策による備え(防備性)等を十分考慮して、対象津波による被害の形態、規模などを想定し、危険性の評価を行う。


4)津波防災上の課題の設定
  対象沿岸地域において必要となる津波防災対策を検討するに際して、各種調査や危険性の評価の結果から、津波防災施設、津波防災の観点からのまちづくり、防災体制の各分野ごとに津波防災上の課題を設定する。


5)津波防災計画の策定
  津波防災上の課題を踏まえつつ、各対策の財政事情、防災効果、日常生活へ与える影響や、防災施設、津波防災の観点からのまちづくり、防災体制の3つの分野の対策の組み合わせから得られる総合的な効果等について十分配慮して、当該沿岸地域において必要となる津波防災対策の検討を行う。また、選定された各対策の緊急度、重要性、実現性等を総合的に調整し、実施体制、実施方法、スケジュール、費用など対策実施のための具体的な推進方策について検討を行う。

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地域防災計画  <津波防災計画の策定手順>

2.2 計画策定のための基礎調査

2.2.1 調査の視点

各沿岸地域の地形、土地利用、人口、産業等の集積、高齢者の比率や防災意識の高低といった住民属性、対策の進捗度など、地域固有の特性に応じて、対処すべき課題や必要となる対策が異なるため、基礎調査を行うにあたっては、地域の実情の把握に努める必要がある。また、当該沿岸地域で既に予定されている施設整備事業や開発計画等を十分踏まえ、都市の将来像を明らかにしておくことも重要である。


【解 鋭】
  基礎調査による現状の把握についての視点を以下に示す。


(1) 社会経済特性
    沿岸地域は、物流や生産活動、居住、レクリエーション活動など、様々な目的により多面的な開発、利用が進められており、国土の中でも重要な役割を果たしている。
  以上のように沿岸地域の利用特性や都市形態などの地域固有の特性の違いにより、津波で引き起こされる被害の形態や規模が大きく異なる。
  基礎調査では、このような点について十分考慮して、現状の社会経済特性の把握に努めるとともに、当該沿岸地域において対処すべき課題の抽出を図るものとする。
  また、釣りやサーフィン、ヨット等の目的により、沿岸から近海にかけて観光客・レジャー客が集まることが多くなっているが、このような外来者についても、地域住民と同様に津波防災対策の対象として考えていく必要がある。


(2)地形特性
  津波による被害は、海岸地形(海岸線およびその背後地域の地形)、海底地形等の地形条件による影響を受けやすい。
  津波特性と地形条件の関係についてみると、Ⅴ字状の湾地形では、津波のエネルギーが収れんして津波が増幅し、湾全体の津波水位が高くなる傾向がある。岬の先端、背後でも、海底地形の影響や岬による回折の影響により津波が集中して増幅する傾向がある(集中効果による津波の増幅)。
  また、津波先端が陸に近づいて浅い海に到達すればするほど津波水位は高くなる傾向がある(浅水効果による津波の増幅)。
  さらに、湾内あるいは港内の水面変動の固有周期と津波の周期が近い場合には、水の運動が津波によって共振され、湾内あるいは港内の津波水位が増幅される(共振効果による津波の増幅)。
  また、遠浅な海岸が長く続く地域では、非線形効果と分散効果の複雑な干渉により一山の津波が多数の波列に分裂するソリトン分裂が発生しやすくなる。
  以上のような特性は、海岸地形から読み取りやすい。一方、海底地形は測定精度が悪いため、津波を集中させる効果が十分には読み取れないことが多いので、このことに留意しておく必要がある。
 海岸線の背後に低い平坦地が広がっている場合には、一旦陸域側への越流を許すと浸水域の拡大を招きやすくなっている。
  また、海岸線の背後に崖や高台等が立地し、容易にアクセスできる場合には、津波来襲時の避難場所としての利用が期待される一方、海岸線の背後に低い平坦地やなだらかな丘陵地が広がっている場合には、避難するための場所の確保が困難となっている。
  さらに、海岸線沿いに道路が整備されている場合には、その場所の地盤の高さに応じて護岸・防波堤としての津波防御効果が期待されることもある。一方、海に注ぎ込む河川や水路がある場合には、海側に面する開口部から津波が進入してくる危険性がある。
 基礎調査では、このような津波特性と地形特性との関係、あるいは避難場所と地形特性との関係、人工改変地形の特徴について十分考慮して、現状の地形特性の把握に努めるとともに、当該沿岸地域において対処すべき課題の抽出を図るものとする。


(3) 津波防災対策の進捗状況
 三陸沿岸地方などの過去に大規模な津波被害を被った沿岸地域等においては経験から得られた教訓を基として、今後想定される津波被害に対して具体的かつ実効性の高い津波防災対策が検討され、各種対策の実施が積極的に進められている所が見られる。
 その他、今まで津波による被害を受けた記憶が薄れつつある沿岸地域なども、数多く残されている。
 また、過去に津波被害を受けた沿岸地域においても、沿岸地域の開発や都市化が進むにつれて、地域住民の災害自体に対する記憶の風化が進むとともに、従来より実施されてきた防災訓練や地域的な連帯等が新しい世代に引き継がれなくなっている場合もある。
 基礎調査では、このような点について十分考慮して、現状の津波防災対策の把握に努めるとともに、当該沿岸地域において対処すべき課題の抽出を図るものとする。

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表2−1沿岸地域の利用形態と現状把漫のポイント
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表2−2 地形特性と現状把撞のポイント

2.2.2 既往地震・津波被害の把握

 対象沿岸地域の過去の地震特性、津波特性、人的・物的被害(二次的な被害も含む)の様相、被災原因等について明らかにすることにより、津波を伴う既往最大地震を把握し、対象津波を設定するとともに、沿岸地域の危険性を把適する。また、その後の地震研究の成果や最新の地景観測結果等を踏まえることにより、地震空白域の存在や地震の周期性などの地震の動向について把適しておくことが主要である。


【解 説】
   既往地震・津波被害の把握にあたっては、他の地方公共団体の地域防災計画、調査報告、郷土史などの文献調査を活用するとともに、必要に応じて郷土史家や古老などの体験者へのヒアリング調査を行う。文献調査においては、過去の地震、地震による被害、復旧・復興対策についての調査は文献に拠る部分が多く、調査報告、郷土史、古図等が主な拠り所となる。またヒアリング調査においては、過去の地震に関するものについては、郷土史家や古老が主な対象者となるが、古い地震になるにつれて体験者が少なく、伝承的な情報が多いため、必ずしも確実な情報ではない。従って、文献などと照らし合わせて、相互に補完するよう配慮する必要がある。
   調査において把握した項目は、表2−3で示したような計画策定の各段階において活用を図るものとする。

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表2−3 調査項目と調査目的

2.2.3 津波防災対策の現状把握

 対象沿岸地域において従来より進められてきた津波防災対策について、実施の経緯、各種計画上の位置付け、対策の内容、現在の進捗状況等を把握する。また、将来に予定されている対策事業等について明らかにする。さらに・過去に地震津波による被害を被った地域では、被災後の後旧・後興対策の過程についても把握する。 


【解 説】
  津波防災対策の現状の把握にあたっては、防災施設に関する整備計画、港湾・漁港計画を中心とする防災に関する諸計画など体系的な整理を行うとともに、必要に応じて防災担当者、地域住民等へのヒアリング調査を行う。海岸保全施設の整備実態については、対象沿岸地域において津波に対する防御効果が期待される堤防、護岸、防波堤、胸壁等の海岸保全施設、港湾施設や漁港施設を対象として、各施設の整備現況および将来整備計画等を把握する。
  調査において把握した項目は、表2−4で示したような計画策定の各段階において活用を図るものとする。


【調査手法】


○文献調査
 防災施設に関する整備計画、港湾・漁港計画、施設計画書、工事報告書、各種図面等の活用を図る。また、地域防災計画を中心とする防災に関する諸計画、防災関連の調査文献、資料等の有効活用を図る。


○ヒアリング調査
 現況および今後の津波防災対策の方向に関するヒアリング調査は、津波防災対策を検討する上で非常に重要な位置を占める。住民の生活体験を基にした現状対策の評価および今後の津波防災対策への意見、要望は、津波防災対策に欠くことができない情報である。ヒアリング調査の方法は、個人別に行うものと集会の形で行うものがあるが、両方の方法の併用が望ましい。また、対象者の選定にあたっては、地区の代表的立場にある人にかたよることなく、若い世代の人々を含めた幅広い層から選定する必要がある。


○現地踏査
 現地踏査は津波防災対策の検討において必要不可欠な調査と言える。対策策定に携わる担当者がより客観的な判断を行う場合には、文献やヒアリングといった間接的な情報では不充分で、自分の目で直接現地を見る必要がある。過去の津波を踏まえたうえで、土地利用状況、施設立地、施設利用及び防災施設の管理状況等を充分に観察する必要がある。

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表2−4 調査項目と調査目的

2.2.4 対象沿岸地域の現状把握

 危険性の把握にあたって、自然、社会経済及び土地利用の3つの視点から対象沿岸地域とその背後地域の地域特性について把握する。


1)自然特性
 海底地形、海底勾配、水深、海岸地形、海象条件(潮位(特に朔望平均満潮位)、波浪(冬季風浪等))等を把握する。また、背後地域の地形、標高等についても把握する。
【解 説】
 自然特性の把握にあたっては、文献、資料調査を活用するとともに、必要に応じて現地踏査を行う。調査において把握した項目は、表2-5で示したような計画策定の各段階において活用を図るものとする。


2)社会経済特性
 地域住民の属性、建物特性、産業活動等の実態について把握する。地域住民の属性については、人口・世帯の分布、世帯人口を始め、高齢者、障害者等のいわゆる災害弱者分布、防災に関する意識の有無等を把握する。また、建物特性については、地震被害等との相関が認められる構造、規模、建築年数等を把握する。さらに、産業活動については、業種、従業員数、生産規模等を把握する。
【解 鋭】
社会経済特性の把握にあたっては、国勢調査、事業所統計調査などの行政統計資料の活用を図るとともに、必要に応じて地域住民や企業経営者等へのヒアリング調査を行う調査において把握した項目は、表2−6で示したような計画策定の各段階において活用を図るものとする。


3)土地利用特性
 当該沿岸地域の土地・地盤の状況や都市形態、都市施設の立地、分布等について把握する。また、既に実施中の土地利用計画、開発事業等の内容や最新動向、将来の計画についても把握する。
【解 説】
 土地利用特性の把握にあたっては、都市計画関連または地域計画関連の調査等の文献調査の活用を図るとともに、必要に応じて開発事業者等へのヒアリング調査を行う。調査において把握した項目は、表2-7で示したような計画策定の各段階において活用を図るものとする。

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表2−5 調査項目と調査目的
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表2−6 調査項目と調査目的
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表2−7 調査項目と調査目的

2.3 対象津波の設定と想定被害の評価

2.3.1対象津波の設定

 津波防災計画策定の前提条件となる外力として対象津波を設定する・対象津浪については、過去に当該沿岸地域で発生し、痕跡高などの津波情報を比較的精度良く、しかも数多く得られている津波の中から、既往最大の津波を選定し・それを対象とすることを基本とする。ただし、近年の地震観測研究結果等により津波を伴う地震の発生の可能性が指摘されているような沿岸地域については、別途現在の知見により想定し得る最大規模の地震津波を検討し・既往最大津波との比較検討を行った上で、常に安全例の発想から沿岸津波水位のより大きい方を対象津浪として設定するものとする。この時、必ずしも想定し得る最大規模の地震が最大規模の津波を引き起こすとは限らないことから、地震の規模、震源の深さとその位置、指向性、断層のずれ等を総合的に評価した上で対象津波の設定を行う必要がある。
  また、時間的な制約による影響を受けやすい人や船舶の避難対策の検討などにおいては、沿岸津波水位の大きさだけではなく、沿岸津波到達時間についても十分考慮し、対象津波を設定する必要がある。 


【解 説】
 従来から、対象沿岸地域における対象津波として、津波情報を比較的精度良く、しかも数多く入手し得る時代以降の津波の中から、既往最大の津波を採用することが多かった。
 近年、地震地体構造論、既往地震断層モデルの相似則等の理論的考察が進歩し、対象沿岸地域で発生しうる最大規模の海底地震を想定することも行われるようになった。これに加え、地震観測技術の進歩に伴い、空白域の存在が明らかになるなど、将来起こりうる地震や津波を過去の例に縛られることなく想定することも可能となってきており、こうした方法を取り上げた検討を行っている地方公共団体も出てきている。
 本手引きでは、このような点について十分考慮し、信頼できる資料の数多く得られる既往最大津波とともに、現在の知見に基づいて想定される最大地震により起こされる津波をも取り上げ、両者を比較した上で常に安全側になるよう、沿岸津波水位のより大きい万を対象津波として設定するものとする。
 この時、留意すべき事は、最大地震が必ずしも最大津波に対応するとは限らないことである。地震が小さくとも津波の大きい「津波地震」があり得ることに配慮しながら、地震の規模、震源の深さとその位置、発生する津波の指向性等を総合的に評価した上で、対象津波の設定を行わなくてはならない。
 また、遠地津波を考慮すべき場所もある。過去の遠地津波の来襲状況などを整理、検討し、最大遠地津波による沿岸水位が上記対象津波の沿岸水位よりも大きい場合には、対象とする地震を別途設定するなどの措置が必要となる。
 海岸にいる人の避難、また船舶の避難・保護対策では、沿岸の津波水位のみならず、津波の来襲時間も重要な情報である。対象津波の波源と対象沿岸の位置関係で決まるから、こうしたことをも考慮して対象津波を設定する必要がある。
  なお、既往地震の津波規模や特性及び地震の想定等に係わる手法については、「太平洋地震津波手法調査報告書(平成8年度、建設省、農林水産省、水産庁、運輸省)」にまとめられているので参照すること。


1)津波挙動の想定
  近年、津波挙動の想定を行うにあたっては、既往地震の震源断層モデルを用いて津波数値解析計算を行う場合が多い。特に、過去の津波の記録が十分に残っていないような地域では、津波数値解析計算を用いて津波水位、伝播速度等の空間分布や時間的変動等を算定することにより、過去の津波挙動を再現し、記録の不十分さを補うことができる。
  また、津波を伴う地震の発生の可能性が指摘されているような沿岸地域でも、様々な知見に基づいて実現性の高い津波を想定することができる。
  このように対象津波の設定や津波防災対策の立案に際して、津波数値解析計算は有効な手段となり得るが、技術的には開発途上であり、精度あるいは費用の点でも、その汎用性には限界がある。現在においても、波源モデルの妥当性、発生した津波の波形、波先端部の波形や挙動、越流時の挙動、河川遡上の問題等、精度と再現性に関係して未解決の部分が多い。従って、津波数値解析の計算結果は、相対的な評価の基礎とはなり得ても、絶対的な判断を下すにはまだ問題が残されており、このような点について十分考慮しなければならない。

 
津波数値解析計算手法の適用と利用上の留意点について以下に示す。

 
  (1)津波数値解析計算の適用


   ア 過去の津波の挙動
      過去の津波の記録と計算結果との比較により再現性を確かめた上で、実測記録にはない情報(例えば浸水域および流速等の動的な情報)を得ることができる。


   イ 津波挙動の予測
      現在あるいは将来の海岸地形の変化(防波堤、防潮堤、埋立地等)に伴う津波挙動の変化を予測することができる。また、ある程度防災施設の効果を評価することができる。なお、津波数値計算に係わる一般的な手法及び留意事項については、別冊「津波災害予測マニュア」を参照すること。


  (2)利用上の留意点


   ア 計算格子の大きさによる誤差
      時間的・空間的に連続した津波波形を得るためには、1波長の間にできるだけ多くの格子を設定することが必要である。一般的には、1波長の間に少なくとも20点、できれば30点の計算格子が存在する必要がある。


      また、再現が難しい陸上での津波計算(岩崎・真野の方法)では、津波先端部の局所的な一波長の中に、少なくとも50個以上の格子点が必要であるといわれている。例えば、対象津波の一波長を10kmと仮定した場合、ある程度の計算精度を保障するためには最低200m計算格子は必要となる。


   イ 線形性と非線形性による誤差
      津波の挙動を再現しようとする場合、その物理モデルにおいて非線形性と波数分散性が重要なパラメータとなる。非線形性は、その波高と水深との比が関連し、水深が浅くなるにつれて影響を増して、波形の前傾化などの現象が生じる。一方、波数分散性は、その波長に対する水深の比が関係し、波長によってその波速が変化するという性質を持つ。
      以上から、津波を再現する理論としては、50m以上の深海では線形長波理論、 それ以下の浅海では非線形長波理論がだいたいの目安として用いられ、打ち上げ高の再現などが行われている。津波の河川遡上や河川内の津波先端に生ずる波状段波の再現には、波数分散性を考える必要がある。


   ウ 初期条件による誤差
      通常の地震の場合、海底の地盤変動はそのまま海水面の変動になると見なすことができ、震源断層モデルによる海底基盤の鉛直変位量を津波の初期水位として設定している。
      このように津波数値解析計算の出発点である津波の初期波形は、対象となる地震の震源断層モデルの設定に大きく依存しているが、震源断層モデルの設定では、どの地震計を使ったか、また地震波のどの周波数帯域を重視したか、地震波情報のみか津波痕跡値情報も含めて設定されたかなどにより確度が変わってくるため、震源断層モデルの選定いかんによって計算結果が異なることになる。従って、津波数値解析計算を行うに際して、このような点に十分留意する必要がある。


   エ 海底地形による誤差
      津波の高さは、海岸に近づく(海底が浅くなる)につれて増幅される(浅水効果)。また、Ⅴ字湾に津波が入ってくると、奥に進むにつれてエネルギーの集中が発生し、津波の高さが増幅される(集中効果)。
      津波数値解析計算では、このような海底地形や海岸地形による津波高さへの影響は自動的に計算に含まれている。計算に用いられる海底地形データは、浅い場所では比較的精度は良いが、深い場所では信頼性が低いため、計算結果に誤差が発生しやすい。


   オ 津波の共振現象による誤差
      湾内に侵入した津波は、湾地形や湾、港が持つ共振特性により津波高が増大する可能性がある。津波数値解析計算を行うに際して、漁港程度の小地形が考慮されていないと誤差の原因になる。                    


   カ 数値誤差
      津波数値解析計算には誤差が伴う。津波数値解析計算では、使用する微分方程式の種類、差分の形式、対象津波の波長と計算格子の大きさ等に起因して数値誤差が発生する。


   キ 結果の判定による誤差
      計算された津波高の妥当性については、実測値(津波来襲後に測定された津波痕跡)との比較により判定されるが、実測値自体に信頼性の低いものが含まれていることもあるため、計算値の検証にも困難が伴う場合があるということを認識しておかなければならない。局所的な数値の差にあまりこだわらず、大局的な判断を行うことが望ましい。


2)遠地津波
  遠地津波については、日本付近で大きな波高を示す遠地津波の発生頻度が低く十分な検討資料が得られないことから、統計約手法で遠地津波を想定することが困難である。
 現時点では、日本で観測された遠地津波の中で最大級であり、しかも地震の規模から判断しても、太平洋において発生する最大級の津波であると考えられている1960年チリ地震による津波を必要に応じて対象津波とすることが妥当であると考えられる。

2.3.2 想定被害の評価

 過去の津波よる被災実態および現況の土地利用、人口、産業等の集積の実態を考慮し、対象津波から人命や資産を守るという観点から対象沿岸地域における想定被害を評価する。  


【解 説】
  津波防災対策を推進する上において最も基本的なことは、地震津波による被害を想定することである。すなわち、設定された対象津波に対して人命や資産を守るという観点から対象沿岸地域における被災の形態、規模などを想定することにより、津波による危険性を評価する。
  このことは、津波防災計画の策定に際して前提となる条件を明確にするだけでなく、計画自体の内容を大きく左右する。
  想定被害を評価するにあたっては、現況の土地利用、人口、施設等の集積、生産活動及び住民生活の実態等を考慮し、津波数値解析計算を用いて対象津波による沿岸津波水位の想定を行い、その結果と海岸保全施設の現況天端高との比較検討により、越流の可能性を評価することが概略の危険性を把握する有効な手法となり得る。
  ただし、さらに詳細な検討が必要な場合には、陸上遡上計算を用いて対象沿岸地域とその背後地域における浸水域を想定し、被害を想定し、その評価を行う。
  なかでも特に、港湾施設を有する臨海都市では、港湾へのアクセス、荷役作業等に支障をきたさぬように、水門や防潮扉が常時開いているものが多数あり、津波来襲に対して完全閉鎖できるとは限らないものが存在している。したがって、これら開口部からの津波氾濫水の流量を予測することは、背後の低平地における被害を軽減する上で極めて重要である。
  津波の挙動については未知の紛が残されており、また、津波被害では2次災害(漂流物による被害、油類等による被害、火災等)が大きいのが特徴であり、正確な被災想定は困難である。従って、現状では、ここで行われる想定被害の把握は、あくまでも概略の把握にとどまることを認識しなければならない。


1)対象沿岸地域の特性に応じた評価項目の選定
  対象津波による沿岸地域の危険性を評価するにあたっては、各種調査において把握 した地域特性に基づいて、評価すべき項目の選定を行う。




2)越流可能性の把握
  各海岸ごとの想定し得る最大規模の津波高と、各海岸に整備されている海岸保全施 設の現況天端高を比較、検討することにより、その地点における越流の可能性を評価する。


 (1)最大津波高の設定
   各海岸における最大津波高については、対象津波に基づく津波数値解析の計   算結果から得られた沿岸域の最大津波水位を最大津波高として設定する。
   ただし、津波数値解析計算から得られた最大津波水位は、前述した通り必ずしも絶対的なものではなく、地形近似精度等に起因する誤差が含まれていることについて十分考慮する。


 (2)越流可能性の評価
  対象沿岸地域における海岸保全施設の整備水準は必ずしも一律ではなく、海岸保全施設が整備されていない地域も存在するため、越流可能性の評価により危険性の高い地域の抽出を図ることは、津波防災対策を検討する上できわめて重要である。
   越流可能性を評価するにあたっては、上記(1)で設定された最大津波高に各海岸の朔望平均満潮位分の高さを加算し(安全側からみて最悪ケースを想定)、各海岸ごとに想定される津波高を設定する。これと、各海岸に整備されている海岸保全施設の現況天端高を比較することにより、各海岸の越流可能性を評価する。
  また、既往津波の最大痕跡高の分布が精度良く得られる場合には、計算値と実際の痕跡値の差の分布について十分考慮して評価を行うことが重要となる。


  注:津波防炎施設が水際線より海側に建設されている場合には、その施設により施設前面の津波の高さが増大するため、越流可能性が高まることに注意する必要がある。


 (3)水門等が閉鎖できない場合の浸入水量の評価
   水門等が閉鎖できない理由については、1)津波の来襲時間が短い、2)地震によって構造躯体が被炎する、の2つがあげられる。この場合、それほど規模が大きくない津波によっても氾濫水による浸水が境内地で発生する。したがって、各水門ごとに想定津波の来襲時に流入可能流量を評価することが重要である。




3)浸水域の想定
  津波による対象沿岸地域の危険性を把握するためには、対象津波に基づく津波数値解析計算等を参考にして、対象津波による浸水域を想定することが重要であり、地図を活用して津波浸水予測図としてまとめることが効果的である。


 (1)想定の意義
    津波による沿岸地域の危険性を把握するために津波の浸水域を想定することは、津波防を考える上できわめて重要である。
    近年に発生した津波については、比較的、浸水域に関するデータが収集されているが、明治以前に発生した津波については、ほとんどデータが残っていない状況である。過去の津波の記録として残っている資料としては、津波の浸水痕跡が最も信頼し得るものとなっている。
    しかしながら、津波の痕跡のみでは浸水域の境界を点として捉えているにすぎず、水位や流速の空間分布など浸水域全体の様相を把握するのに不十分である。
    従って、津波による沿岸地域の危険性を把握するに際して、対象津波による浸水域を想定することは必要不可欠である。
    また、近年では、今後、津波の発生が予想される地震を対象として、津波防災対策の立案等を行うようなことが多くなっているため、津波痕跡の有無によらず、浸水域の想定が必要となっている。
    また、近年では、今後津波の発生が予想される地震を対象として、津波防災対策の立案等を行うようなことが多くなっているため、津波痕跡の有無によらず、浸水域の想定が必要となっている。したがって、こうした状況を勘案すると、津波による沿岸地域の危険性を把握するに際して、津波数値計算を実行し、対象津波による浸水域を想定することが不可欠である。
    したがって、こうした状況を勘案すると、津波による沿岸地域の危険性を把握するに際して、津波数値計算を実行し、対象津波による浸水域を想定することが不可欠である。こうして把握された浸水域は、津波による被害を受ける可能性の高い地区であり、防災対策は、この地区における人命・資産の防護を主要な目的として講ずることとなる。


  (2)想定手法
     前述したとおり、対象津波による被災の危険性の把握にあたっては、沿岸津波水位の想定による越流可能性の評価を行うことによって概略の危険性の把握が可能である。
     しかし、人口、産業等の集中、地形など背後地域の特性により詳細な検討が必要な場合は、津波数値解析計算(陸上遡上計算を含む)による対象津波の浸水域を想定することが有効な手法と成り得る。津波数値解析計算手法では、以下に示す項目の想定が可能である。


    [想定項目]
      ○沿岸津波水位(沿岸最大津波水位を含む)
      ○津波到達時間
      ○陸域での浸水深
      ○陸域での津波の浸水先端の拡大速度 等


     なお、東京や大阪などのように、歴史的に津波浸水の危険域にあって、かつその浸水危険域の記録のないものについては、高潮等の浸水実績を勘案して、その地域を想定することは可能であろう。




4)想定被害の評価
  過去の地震津波による被害から津波の外力と物的被害の関係を導き出し、その結果を用いて概略的な被害程度の想定を行い、沿岸地域の危険性の評価を行う。
  また、浸水域、津波到達時間等の想定に基づいて、浸水が予想される地域の住民等が、安全な領域に円滑かつ安全に避難できるかどうかを再検討する必要がある。


 (1)津波による被害の想定
    実際に発生する津波被害については、それぞれ原因となる力学的な過程があ  り、その過程を代表する因子で被害程度を表現することが望ましいが、過去の津波被害をそのような観点から分析した研究が少なく、現在利用できるものは、過去の津波資料に基づいて得られた津波高と被害との関係である。このため、外力の大きさとしては、詳細な津波数値解析計算から得られた津波高を取り上げる。
    また、津波の形態は、津波ごとに異なり、同じ津波でも場所ごとにその地形の影響で異なる。このような点にも十分考慮し、ここで行われる被災の危険性の把握は、あくまで概略の把握にとどまることを認識しなければならない。


 (2)避難可能性の評価
    津波による浸水が想定された場合、住民等の安全を確保するために最も重要となるのは、住民等の警戒避難体制の整備である。避難計画は、対象津波が到達するまでの間の限られた時間内に、浸水が予想されている地域の住民等が、円滑かつ安全に避難できるよう、適切な避難地、避難路の設定及び周知徹底が必要である。この場合、津波第一波が必ずしも最大の遡上高となるとは限らないので、複数の来襲津波に対する安全性を検討することを忘れてはならない。


参考 避難計画の検討方法


1)避難場所等の安全な領域の把握
  浸水が予想される地域内の住民等が避難する場合に、歩行避難可能な範囲内に、あらかじめ避難目標地となる安全な領域が存在するかどうかを把握する。安全な領域とは概ね標高10m以上の丘陵地、あるいは浸水が予想される地域外に存在し、地震による市街地延焼火災の危険性が低い施設および空地であるが、こうした安全な領域が存在しない地域にあっては、浸水が予想される地域外の高層建築物も対象として考える必要がある。




2)安全な領域までの到達予想時間の把握
  浸水が予想される地域からその安全な領域までの到達予想時間を算定する。算定にあたっては、以下に示す点について十分留意する必要がある。


(1)安全領域に至る避難路については、道路等の整備実態に応じて最短経路となる避難路を設定する必要がある。安全領域が河川や丘陵沿いにある場合には、その場所まで大きく迂回しなければならないこともあり得る。また、避難途中に狭院な道路や危険箇所が存在する地域では、災害時の通行に支障となる危険性が高いため、避難路の設定を行う際には、十分考慮する。
(2)地域の実情に応じて、人間の歩行速度を設定するが、高齢者等の多い地域では、安全側からみて高齢者等の災害弱者の歩行速度を設定することが望ましい。
(3)安全な領域までの避難距離と設定された歩行速度を基にして、到達予想時間
    を算定する。




3)津波到達時間との比較
  安全な領域までの到達予想時間に避難を開始するまでの時間を考慮したものと、対 象沿岸地域の津波到達時間を比較することにより避難の可能性について評価を行う。
  避難開始時刻の設定にあたっては、その地域における津波情報の伝達体制、避難体制等を十分考慮するものとする。

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表2−8 評価すべき項目と評価の基準

2.4 津波防災上の課題の設定

基礎調査や危険性の評価の結果に基づいて、津波に対する対象沿岸地域の脆弱性、防備性を検討し、津浪防災上の課題について明らかにする。

                          
【解 説】
  各種調査や想定被害の評価の結果に基づいて、防災施設、津波防災の観点からのまちづくり、防災体制の各分野ごとに津波に対する脆弱性、防備性を検討し、津波防災上の課題について明らかにする。特に忘れてはならないのは、臨海低平地における地下空間の利用が活発になっていることである。すなわち、地下街や地下ショッピングセンター、地下鉄などを始め、地下駐車場などに多様に利用されている現状を踏まえ、都市活動に視点を置いた課題の設定も極めて重要であろう。
  防災施設、津波防災の観点からのまちづくり、防災体制の3分野相互の関連および位置付けを行い、対象沿岸地域の中心的な課題を設定するが、その際、検討すべき項目および検討のポイントは、概ね次のとおりである。

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表2-9 検討すべき項目と検討のポイント

2.5 津波防災計画の策定

津波防災対策の検討を行う際には、対策実施上の基本となる津波対策の実施方針を予め地域防災計画に定めるなどして、対策の内容、実施体制、実施方法、スケジュール、費用等を明確に定めるものとする。  


【解 説】
  津波防災対策の実施においては、地域の社会経済条件のもとで、最も有効な対策が展開されなければならない。従って、当該沿岸地域で必要な津波防災対策の検討を行う際には、前項で設定された課題について十分踏まえるとともに、各対策の財政事情、防災効果、日常生活へ与える影響等を十分考慮し、防災施設、津波防災の観点からのまちづくり、防災体制の3つの分野の対策の組み合わせから得られる総合的な効果等についても十分検討を行うものとする。
  また、当該沿岸地域で実施される対策については、実施体制、実施方法、スケジュ−ル、費用などの具体的な推進方策を十分検討し、それらを取りまとめて地域防災計画に定めるなど明確にする。また、実施方法及びスケジュールについては、選定された各対策の経済性、緊急度、重要性、実現性等を総合的に評価し、地域においてより優先度の高いものから重点的に対策推進を図るものとする。
  さらに、防炎施設整備のように用地の取得や施工等に多額の事業費と長い工期を要するものについては、施工後も事業の進捗の是非の検討を含めた段階的な対策推進を図るものとする。

2.6 津波防災計画の実行に伴う課題

即に津浪防災計画が策定されている場合でも、時間経過に伴い沿岸域の利用状況や人口構造等の社会状況が変化し、それによって起こり得る津波被害の様相も変わってくるため、既存の津波防災計画を定期的に見直す必要がある。 


【解 説】
  近年、海面の埋め立てや人工島の建設等により沿岸域において広大な用地の確保が図られ、生産施設やエネルギー関連施設を始めとして、空港、レクリエーション施設、住宅、商業施設等の整備による多目的な利用が推進されている。
  また、都市においても、少子・高齢化等を背景として人口構造が変化するとともに、大規模な宅地開発や交通利便性の向上等に伴い人口が急激に増加するなど、社会状況の大きな変化がみられる。
  このため、津波防災計画の策定からの時間経過が長くなればなるほど、津波来襲時に事前に想定されていた被害の様相と異なる被害が発生する可能性がある。
  さらに、コンピューター技術の進歩に伴い、津波に関してより高度な研究が行われるとともに、津波波カの想定等が可能となるなど津波数値解析計算の技術も向上していることから、津波防災計画の策定後、必要に応じて定期的に既存の津波防災計画の見直しを行う必要がある。

第3章 津波対策の強化

3.1 津波防災施投

3.1.1概 説

津波防災施投は津波の陸域への侵入を阻止することを目的とするもので、以下の
 ようなものを指す。
 (1)防潮堤
 (2)津波防波堤
 (3)津波水門
 (4)河川堤防
 (5)その他(防潮林、防浪ピル)
【解 説】
   津波防災施設としては、津波の陸域への侵入を直接阻止する施設としての「防潮堤」、湾口防波堤に代表される「津波防波堤」、河口付近に設ける「津波水門」、河川
堤防(高潮堤)がある(注 防潮堤:高潮、津波による被害軽減のために計画された堤防。高潮堤:河川において高潮に対処するための堤防。防波堤:港や漁港の泊地を波の作用から守るための構造物)
   防潮林、防浪ビルについては、津波の侵入を完全には阻止できないが、過去の災  害の経験から、津波の陸上遡上を減衰させたり、または漂流物を阻止する効果があると考えられる。しかしこれらが津波の陸域への侵入を前提にしていることや、その定量的効果判断が難しいこと、またその整備においてはまちづくりの観点が必要であることなどから、ここでは参考として示すこととする。


a 防潮堤
  防潮堤は、津波の陸上への侵入を防ごうとするもので、津波防災の基礎となる施設である。天端高は、その地域の施設整備水準に合わせて決定すればよいが、万一越流する場合も想定して、防潮堤の効果、堤体の安全性を充分に検討する必要がある。


b津波防波堤
  津波防波堤は、場内の水位上昇等を逓減させることを目的とした施設であり、境内の共振特性を変える効果もある。現在、既に大船渡港で設置されているほか、釜石港、久慈港および須崎港においても湾口部への設置が進められている。
  津波防波堤の効果は、湾の形状、防波堤の設置場所・開口部幅、入射津波の周期・波高によって一様ではなく、津波数値計算及び水埋模型実験を行なって様々な条件の下で検討しなければならない。同時に、津波防波堤での津波の反射や堤内の共振特性が変わることによる周辺地域への影響も充分検討し、これを考慮した対策をとる必要がある。


c津波水門
  津波水門は、河口付近に水門を設け、津波の河川への遡上を防ごうとするものである。河川内の津波の挙動には種々の形態があり、津波波カ、越流等、外力の設定について充分な水理学的検討を必要とする。河口部での水門建設は、過去の津波では氾濫域となっていた河道を締め切ることであり、水門による反射波の隣接海岸への波及、水位増大の影響を検討することが必要である。


d河川堤防
  河川堤防の嵩上げによる方法は、下流部分の堤防を津波の河川内遡上を考慮した高さまで嵩上げし、場内地への越流を防止するものである。
  河川は比較的、津波の遡上しやすい水路である。平坦な浅い場所を、流れにさからって津波が進行するため、津波波形は複雑なものとなって振幅が大きく増幅されることがある。河川堤防は越流を許さない高さになっている必要があるが、予想以上の津波はこれを越える可能性もあるので、嵩上げとともに、高潮防波堤と同じく三面張り等の堤体強化処置も必要である。
  従来は、このような対策による経費増に対処するため、津波水門を設置した例が多い。しかし、地形によっては河川を緩衝地区として利用する方が適切な場合もあるので、全河川に対し津波水門で対処するのはかならずしも賢明な方法ではない。
  この時、津波浸水区間に存在する排水口からの津波の逆流について考慮することを忘れてはならない。


eその他(参考)
・防潮林
  防潮林による津波エネルギーの減殺効果については、現在のところはっきりしない。しかし、津波による漂流物を防ぎ、流された人の命の綱となった例は数多くあり、防災上の役割の一端を担うものである。ただし、浸水深が4mを超えるとほとんど効果が無いことも考慮しておかなければならない。


・防浪ビル
 防浪ビル列は、耐浪設計のビルを水際線に数列並べるもので、津波のエネルギーを減殺し、背後地への海水の流入量を減少させると共に、津波による漂流物(船舶・木材・家屋等)を水際で防止する効果が期待できることは、過去の調査例から明らかである。このように防浪ビルは、沿岸の利用、漁港の利用と防災を両立させようとする対策法といえる。なお、これらについては、3.2「津波防災の観点からのまちづくり」において詳しく述べる。

3.1.2 整備水準

津波防災施設の整備水準の設定に先立ち、2.3で把達した想定被害の評価に基づき、地域ごとの整備の必要度を明らかにする。津浪防災施設の整備水準は、地域の整備の必要度に応じ詳細な調査を行って、地域の実態と防災効果に応じて定めるものとする。また、土地利用形態に変化があった場合や、津波災害に関する新たな知見が得られた場合等においては、必要に応じて津波防災施設の整備水準について見直しを行うものとする。なお、隣接地域間では、防災施設建設の相互間の影強をも考慮し、均衡のとれたものでなければならない。
【解 説】
   津波対策としては、津波防災施設による対応が基本である。ただし、津波防災施設の整備は津波災害を防止する上では最も確実性が高い反面、建設費用と一定の整備期間を要することに留意しなければならない。津波防災施設の整備水準の設定に当たっては、被害想定の評価に基づき地域ごとの整備の必要度を明らかにした上で、まちづくり及び防災体制との整合性を図るものとする。また、土地利用形態に変化があった場合や津波災害に関して新たな知見が得られた場合等においては、必要に応じて、津波防災施設の整備水準について見直しを行うものとする。


  (1)津波総合防災対策は、当該沿岸地域において想定し得る最大規模の津波を対象とするものであるが、防災施設の整備水準としては、地域の実態と施設の効果を考慮して設定するとともに、防災まちづくり・防災体制と組合せて総合的に検討することとし、必ずしも対象津波に対応する水準をとるとは限らない。


  (2)想定被害の評価
     想定被害の評価に基づき、重点的に整備すべき地域を明らかにする。重点的に整備すべき地域においては、以下に示す点に留意して整備水準を明確にする。その他の地域についても、これに準じて整備目標を検討することが望ましい。


  (3)防災施設の整備水準は、a防災施設の現況および将来計画、b背後地の現状と将来(自然条件・社会条件)、c海岸域の利用形態(生産活動・日常生活)等の地域の実態等を総合的に判断して設定するものとする。場合によっては、防災効果、 建設費等を考慮して、段階施工計画を作成し、効果的な計画の実施を図るものとする。


  (4)余裕高の考慮
     整備水準の設定にあたって、地震等に伴う施設の不等沈下や基礎の洗掘、吸い出し、劣化施設の破壊、想定津波高の推計誤差等を考慮し、必要に応じて適切な余裕高を設定するものとする。


 (5)施設の建設による津波の挙動の変化(施設前面での反射・重複による水位上昇など)が他地域へ悪影響を及ぼすことが考えられるため、隣接地域間では、均衡のとれた水準で整備を進めることが望ましい。

3.1.3 防災施設の選定

防災施設の遜定にあたっては、地域の実態、施設の現況、建設に要する費用及び効果等を十分に考慮し、単独または組合せて選定するものとする。
【解 説】
  防災施設は、それぞれの特徴を有しており、海岸域及び海域の利用形態等の地域の実態、防災施設の整備の現況、建設費、防災効果及び段階施工の可否を充分に検討して選定するものとする。選定に当っては、防潮堤又は津波防波堤を単独で行なう場合と、それらを組合せて行なう場合とがある。防潮堤の新設・嵩上げには、堤敷地として広い用地が必要であり、地域の将来の発展及び土地利用等を充分に考慮する必要がある。
  なお、地域の実態によっては、施設の建設により海岸等の利用にあたっての不便や、日当り・通風が悪くなるなどの問題が生じる場合があり、また、津波防波堤の建設においては潮流の変化、湾内水質の悪化及び漁業への影響を考慮する場合があるので注意が必要である。
  防災施設の具体的計画、設計については『海岸保全施設築造基準・同解説』等による。

3.1.4 防災施設の耐震化・耐浪化

  1.防災施設は、津波に先立って発生する地震により防災施設としての機能の障害が生じないように、耐震性の強化を講ずるよう充分に配慮するものとする。
  2.防災施設は、津浪の赴流による欠填、引き汲及び流れによる基礎の洗挽、吸い出し、あるいは藻沈船舶等による衝突などにより破壊されないよう充分に配
慮するものとする。


【解 説】
(1)現在、阪神・淡路大震災を契機として、各沿岸地域において防災施設の耐震性が見  直されるとともに、必要に応じて液状化対策が進められている。津波に対する防災施設は、津波による背後地域の浸水を防護することを目的として計画されるものであるため、地震による慣性カや地盤の液状化によって防災機能に支障を生じることがあってはならない。とりわけ、水門・門扉は、地震による変形や損傷で閉塞・開扉等の機能に障害が生ずることのないよう、設計や施設強化にあたっては、充分な配慮を必要とする。また、過去の地震によっては、海岸部の地盤沈下が報告されている例があり、防災施設を計画するにあたっては、地震による広域的な地盤沈下の可能性を考慮する必要がある。


(2)大津波の規模を正確に求めることは困難で、計画水準以上のものがあることを覚悟  しておかなければならない。計画を上回る津波に対しても施設が破壊されることな く、防災効果が発揮されることが望ましい。このため、防災施設については、津波の越流による欠壊、引き波及び流れによる基礎の洗掘、吸い出し等により、破壊されないように、堤体の保護はもちろんのこと、両側に水叩きを設けるなどの配慮が必要である。また、津波防波堤では堤内外の大きな水位差による堤体の滑動・転倒や越流水による港内側マウンド捨石の破壊などに関しても、設計段階での配慮が必要である。

3.1.5 防潮墳背後の内水排除対簾

防潮墳背後では、以下の現象の生ずる場合もあるので、内水排除対策についても充分に配慮するものとする。
 (1)越流した津波の堤内地での湛水
 (2)降雨の堤内地での湛水


【解 説】
(1)計画を越える津波が防潮堤を乗り越えることはあり得る事態であるが、それでも浸水量の減少、破壊力の減勢等の効果は期待できる。しかし、越流した水が長期間、堤内に湛水し、被害が拡大するのは避けなければならない。


 (2)排水口の不足、排水路の統合、水門幅の不足等による排水能力の不足が原因となり、降雨が速やかに排除されず防潮堤内に湛水する問題は随所で生じており、浸水被害が毎年、繰り返されている所もある。
    排水口、排水路、あるいは、排水機場の整備による内水排除対策を講ずる必要がある。


 (3)津波水門に関しても、津波の来襲が出水期と重なる可能性を考慮して、水門閉鎖時の河道内に貯留される内水の排除対策を確立する必要がある。また、これは、津
   波が水門を越流した場合の排水対策としても重要である。

3.1.6 防災施設の維持・管理

1.防災施故は、老朽化によって機能を損わないように、竣工後の維持・管理を充分に行うものとする。
2.水門・陸閘等は、現地の状況に通した構造とし、故障箇所の修繕、開閉の定期的な点検を行ない、常使用できるように維持・管理するものとする。   


【解 説】
(1)老朽化の実態としては、堤体基礎の不同沈下、中詰盛土の圧密・沈下に伴う堤体の空洞化、前面砂浜の後退、消失の結果生ずる風浪による中詰土砂の吸い出し等がある。
   防災施設の管理者は、これらの実態を把握し、適切な補強、修繕を施す必要がある。


(2)水門・陸間等は、津波来襲時における防潮堤の所要な防災効果を保つ上で重要な施設であり、常に良好な状態に維持・管理しておかなければならない。そのために、次のような諸点に留意することが必要である。


   a三陸沿岸地方をはじめとする寒冷地においては、冬期凍結によって閉鎖が困難とならないような構造の水門・門扉を選定する。


   b津波来襲時における水門等の操作の危険性を考慮し、可能な限り津波水門等は遠隔操作化することが望ましい。


   c人力により開閉を行う小規模な水門等については門扉の軽量化を図る。


   d水門戸当り部の堆砂は除去し、完全に閉塞が可能となるような状態に維持しておく。


   e水門・陸閘の故障箇所、開閉操作の点検は少なくとも毎月1回程度行うことが望ましい。水門・陸閘の故障箇所については、緊急に修繕を行う必要がある。

3.2 津波防災の観点からのまちづくり

3.2.1 概 説

「津波防災の観点からのまちづくり」上の対策としては下記のようなものがあり、地域の実態に即して、土地利用計画・公共施設計画・交通施設計画等の都市・集落におけるまちづくり関係の諸計画への反映を考慮するものとする。


 1 津波に強い土地利用の推進
  1)土地利用ゾーニングヘの津波防災的観点の反映
  (1)安全な地区への土地利用の誘導
   ・既成市街地等における土地利用の誘導(高地移転等)
   ・臨海部の開発整備等に伴う適正な土地利用の推進
  (2)土地利用計画における「防浪地区」およぴ「報帯地区」の考え方の導入
  (3)防災上必要な施投等の保全・整備
      a 防潮林の保全
      b 旧墳の保全
  2)拠点的な公共施設の整備
  3)交通施設等骨格となる都市基盤施設に関わる対策

 
 2 臨海部の土地利用特性に応じた施設等の安全性向上
  1)共通事項
    (1)建築物の耐浪化
    (2)危険物対策
  2)沿岸の地域特性に応じた安全性の向上
    (1)居住地域の安全性向上
    (2)商業・業務地域等の安全性向上
    (3)産業・物流関連地域の安全性向上
  3)水産業関連地域の安全性向上
  4)ライフライン機能の安全性向上
    (1)通信施設対策
    (2)供給施設対策


【解 説】
   まちづくり的観点からの津波防災の考え方は、住宅等の生命、身体及び財産の保護に重要な役割を有する施設を、津波による被災の危険性のない場所に立地させ、危険性のある場所は、可能な限り被害を少なくする形で有効に利用することである。そのための抜本的な対策は、過去の津波に際しても実施されてきた高地移転である。
   しかしながら、現実の問題としては、全ての住宅や重要な施設を危険な場所から移転させることは不可能な場合が多いので、津波による危険が予想される場所は、中長期的な地域の土地利用計画との整合のもとに、津波災害を軽減しうる構造(土地利用、構造物の強化等)に転換することが重要である。そのためには、住宅等の津波に弱い施設が、危険な場所へこれ以上集中することを制御し、またこのような地区への新規の施設立地を避ける。
   一方、臨海部や背後地は、地域の産業振興や生活環境の向上のために、様々な利用やそれに伴う施設立地ニーズがある。地域計画的対応によって津波に対する安全性の向上を推進するためには、地域ごとに、このような臨海部の利用と共生できる土地利用を進めていくことが重要である。
   このような考え方のもとで危険な場所に立地する施設については、耐浪化に配慮することが望ましい。また、施設そのものの被害を防ぐだけでなく、背後の被害を軽減する構造が望ましい。さらに、以上のような土地利用を誘導し、避難・救援対策を充実させるためには、地域の土地利用の骨格となる交通施設整備や公共施設整備において津波防災対策の視点を盛り込んでいくことが重要である。
   津波発生頻度は大きなものではないから、以上の対策には、対象地域の将来の発展性、日常生活の利便性を充分に配慮する必要がある。また、近年は経済活動、社会活動に急速な質的量的変化が生じているため、過去の記録からは想定もできないような形態の災害が生ずる可能性が増えている。危険な物品の配置やその処置等の新しい問題への対処を充分に考慮しなくてはならない。

3.2.2 津波に強い土地利用の推進

3.2.2.1 土地利用ゾーニングヘの津波防災的観点の反映

1)安全な地区への土地利用の誘導


(1)既成市街地等における土地利用の誘導


  a高地移転


津波による甚大な被害が予想される場所に立地する住宅は、地域の実態に応じて、安全な高地への移転の可能性について検討することが望ましい。
【解 説】
  高地移転は、過去の津波災害の復興対策として各地で実施された対策であるが、現状においても抜本的な対策として有効であると考えられる。
  高地移転を実施するための事業制度として、国土庁所管の防災集団移転促進事業がある。
  防災集団移転促進事業とは、昭和47年12月に制定された『防災のための集団移転促進事業に係る国の財政上の特別措置等に関する法律』にもとづく事業であり、地方公共団体が一定規模以上の住宅団地を整備して移転促進区域内にある住居の集団移転を促進するために行う事業(法第2条2)である。
  なお、本事業は、“災善が発生した地域又は災害危険区域(建築基準法第39条)”においてのみ施行可能であり、災害予防のために集団移転をはかるには、予め建築基準法第39条により災害危険区域を指定しておくことが必要である。


  b計画的な土地利用誘導


津波による被害が予想される場所の土地利用は、土地利用の現状、地域の将来の発展、住民生活の利便性を充分に考慮し、津波による被害をできるだけ少なくする形態へ誘導するものとする。
 【解 説】
   津波による被害が予想される場所は可能な限り被害が少なくなるような形態で土地利用することが、津波防災の観点からのまちづくりの主眼である。そのための有効な対策として前項に高地移転を示したが、その実施が困難な場合には、土地利用規制を中心とした対策によって、被害が少なくなるような利用形態に切換えていく方策が考えられる。
 対策の検討にあたっては、前章で述べた対象津波による浸水域の把握と危険性の把握において行われた検討結果を充分に反映しなければならない。
 以下に、土地利用規制のための現行法制度を例示する。


○ 災害危険区域
  建築基準法第39条は、災害危険区域を、次のように定めている。
  「第39条 地方公共団体は、条例で、津波、高潮、出水等による危険の著しい区域を災害危険区域として指定することができる。2.災害区域内における住居の用に供する建築物の建築の禁止その他建築物の建築に関する制限で災害防止上必要なものは、前項の条例で定める」
   すなわち、第39条に基づき、市町村が条例をつくり、災害危険区域の指定を行えば、それにより防災集団移転促進事業が可能になることは前述のとおりであるが、同時に移転跡地などの特定地域を対象に、建物の防浪化、建築禁止の制限も、第39条により行うことができる。
   一例として名古屋市の場合を示す。名古屋市では条例により、津波、高潮、出水による危険の著しい区域を災害危険区域に指定し、地区内の住宅の規制及び建築物の構造規制を行っている。指定地区面積は6,165haである。


○ 宅地造成工事規制区域
   宅地造成規制法第3条には、「建設大臣は、関係都道府県(又は指定都市)の申し出に基づき、宅地造成に伴い災害が生ずるおそれの著しい市街地又は市街地となろうとする土地の区域を宅地造成工事規制区域として指定することができる。」と定めてある。
   ただし、その場合、「都道府県は、その申し出をしようとするときは、あらかじめ、関係市町村の長の意見をきかなければならない」。本条項に基づけば、津波被災のおそれの著しい区域や緩衝地区として保持したい区域等における無秩序な宅地造成を規制できる。


(2)臨海部の開発整備等に伴う適正な土地利用の推進
  大都市地域等において臨海部の再開発等を行う場合には、当該地域の津波に対する安全性に加え、背後地域の安全性向上に資するような計画とすることが望ましい。




2)土地利用計画における「防浪地区」およぴ「緩衝地区」の考え方の導入
 津波による被害の恐れがある沿岸地域では、都市計画や土地利用計画において防浪ビルなど必要な施設♯席を推進したり、津波防災上緩衝機能が期待される地区の土地利用を抑制するよう、都市計画等の手法を用いて土地利用の誘導を行うことが望ましい。  
【解 説】
  津波対策として、防浪ビルや津波避難のためのビルなど沿岸部における建築物を計画的に整備していく場合、また、対策上必要な空閑地を確保したり、防災施設整備のための用地を計画的に確保していく場合、これらの地区をその地域の土地利用計画の中で明確な位置づけを行うことが望ましい。このことによって、沿岸地域の平常時における利用と津波防災上必要な対策との調和を図ることが重要である。
  ここでは、津波防災の観点から以下に示す「防浪地区」および「緩衝地区」の考え方を、都市マスタープランなど土地利用のビジョンを検討する過程において反映し、都市計画等における制度や手法を用いて、これらの土地利用の実現を担保するようにすることを提言する。


(1)「防浪地区」の考え方
  防潮堤背後の土地利用が進んでいる地域においては、地域の実態に応じて防浪地区を設定し、防浪ビルを並立させることによって、背後の被害を軽減させることができる。
  昭和8年三陸津波の被災調査後、鉄筋コンクリート造りの家屋・倉庫の背後では木造家屋が倒壊流出しなかった例が多く報告されている。
  これは、丈夫な建造物により津波の水勢が緩和されたり、大型漂流物が阻止されたためと判断されている。
  このような過去の効果的な事例を現実に適用する方策としては、危険性の高い海に近い地区を防浪地区とし、地区内の建築物を耐浪化することが考えられる。この場合、ビル群として存在すれば、道路以外の部分は強固な壁として働き、越流する津波の流入を軽減する上で効果的である。防浪ビル群は、単に津波の越流を減少させるだけでなく、木材、船舶等、流出すると危険なものを水際で防止する効果が期待できる。
  防潮堤背後の土地利用が進み、防潮堤に隣接して、水産関係の倉庫や加工場等が並立している地区がある場合は、このような地区を防浪地区とし、建築物の耐浪化を進め、防浪ビルの機能を持たせてゆくことが重要である。現存施設を全て耐浪化することは困難であるが、新築・改築時に耐浪化を図ることが望ましい。
  このことは、今後の土地利用が予想される地域についても同様に考えられる。土地利用上、危険な地区の利用は制限される必要があるが、生産流通に関する施設に
は海浜部に立地する必要のあるものがあり、こうした施設を耐浪化して並立させることにより、将来的に防浪地区が形成される。


(2)「緩衝地区」の考え方
  津波の緩衝機能が高く、土地利用が進んでいない地区を緩衝地区として設定し、土地利用の高度化が進んでいる隣接地区の津波に対する安全性を向上させることができる。
  水際線近くに設けた防災施設で津波を防ぐ場合、これからの反射が、隣接地区の水位上昇に大きく影響する場合がある。これは、本来なら陸上に氾濫する水量が、前面の海域に蓄積されるからである。このような場合、津波の緩衝機能が高く、土地利用が進んでいない地区が存在しているとき、この地区を緩衝地区として設定し、中小津波の侵入は阻止するが、大津波に対しては津波の流入を許し、土地利用の高度化が進んでいる隣接地区の安全性を向上させることができる。現状における一つの対応としては、背後に住居がなく低未利用地しか存在しないような場所では、この地区への流入によって津波水量の一部を吸収し、土地利用の高度化が進んでいる隣接地区の安全性を増加せしめる方法が考えられる。




3)防災上必要な施設等の保全・整備


 a 防潮林の保全


  防潮林の津浪に対する効果は以下のことが期待されるので、現存する防潮林は、伐採せず、将来にわたって維持することが望ましい.
  (1)背後の家屋等の被害を軽減する。
  (2)流木・船舶等の涙洗物の睡上への食入を防ぐ。   
【解 説】防潮林の効果について
  防潮林の効果は、津波の大きさ、防潮林の規模、主木の年齢や配置、下生えの密度などによって異なる。大まかに言って、良く維持され幅のある防潮林は、浸水深4m程度までは、津波流速の減殺、漂流物の阻止の効果を発揮することができる。また、津波に押し流された人が、木に取り付いて一命が助かった例は数多くある。
  近年、ややもすれば土地不足から防潮林を伐採して、土地を造成しようとする動きが一部にあるが、こうした役割を認識し、将来にわたって保存、稚持することが望まれる。
  反面、大津波に対しては全く効果のない事もあり、防潮林に過剰に期待することはできないことは認識しておかなければならない。


 b 旧壊の保全


 旧堤が津波防災上、有効な機能を発揮すると想定される場合には、その保全を図るものとする.  
【解 説】
  これまでの地震津波対策等により施設の整備が進み、新しい防炎施設ができて、かつての防災施設がその役割を失ったかにみえる地域もある。しかし、新しい施設を越える津波も考えられるため、旧施設(旧防潮堤等)が津波防災上、有効な機能を発揮すると想定される場合には、地域の実態を考慮し、その保全を図るものとする。

3.2.2.2 拠点的公共施設の整備

  庁舎・学枚・病院・公民鋸・公四等の公共・公用施設は、次の観点から配置及び構造について配慮するものとする。
 (1)地域の土地利用を誘導する。
 (2)避難・救援の拠点となる。   
 【解 説】
   公共施設は地域の主要な機能を担うものであり、その配置は集落の形成を性格づけるものである。地域内の活動、広域関連の活動などを十分に踏まえたうえで、津波に強いまちづくりを誘導する施設配置を検討する必要がある。また、多くの公共施設は、津波来襲時に避難・救援の拠点となるものなので、安全な位置に立地する必要がある。危険性の高い地区に立地する施設については、耐浪化等の充分な防災対策を施すものとする。
   三陸沿岸地方などでは、過去に津波の経験から、庁舎・学校・病院等の公共施設の多くは安全な高地に立地しているところもあるが、津波危険性が高いと考えられる地域の全てがそのような状況にあるわけではない。
   学校や医療施設など、避難・救援の拠点として重要な施設は、津波による被災の危険のない場所に立地していることが望ましい。また、学校や医療施設が住宅地区から距離のある場合は、緊急時の避難通路として、危険性の高い地区を通過しないルートを確保するよう配慮すべきである。
   また、荷捌所・漁協事務所等、数多くの人々が集合する公共的性格の強い施設で、水際線近くに立地せざるを得ない施設は、津波高を考慮した高さ・構造とし、緊急避難に耐え得るものとなるよう考慮すべきである。

3.2.2.3 交通施設等骨格となる都市基盤施設に関わる対策

  道路・鉄道等の交通施設は、次の点から津波対策のためのまちづくりを行うにあたり、配置及び構造について配慮するものとする。
  (1)地域の土地利用を誘導する。
  (2)避難路となる。
  (3)救護路となる。
  また、災害時における海上交通網の確保の観点から、港内、漁港においては災害時の救援、復旧活動の拠点として活用できる防災機能の向上について配慮するものとする。 
【解 説】
  交通施設は、幹線道路、地区(集落)内道路および鉄道に分けられ、津波防災上、考慮する点を以下に示す。


 (1)幹線道路
   国道・県道などの幹線道路は、地域間の主要な交通施設であり、被災時には救援路として十分な機能を果さなければならない。ノ従って、可能な限り危険性の高い地区を通過しないことが望ましい。危険性の高い地区を通過する場合には、地震、流水等により破損しないよう強化する必要がある。しかし、万一、津波によって沿岸の幹線道路が使用できない状態になった場合にも、緊急交通の経路として迂回路や内陸方向に連緒を確保できる交通ネットワークを形成するために、必要な路線の整備・強化を行うことが必要である。
   一方、地区(集落)が幹線道路に沿って形成される傾向もあることから、幹線道路が津波に対して安全な区域を通過することにより、津波防炎上の安全な土地利用が誘導される。
   また、高架や交通量の多い道路等で沿岸地域を分断するおそれがある場合には、津波に際しての避難路の確保のための対策を講ずることが必要である。


 (2)地区(集落)内道路
   地区(集落)内の道路は、幹線道路と同様に強化が必要であると同時に、避難路として機能することが求められる。そのためには、住民の避難行動に適した山側への直線道路の整備が重要である。また、安全な高地を住宅地として利用するよう土地利用を誘導してゆくためには、漁港等の生産・流通地区とを結ぶ自動車道路の整備が重要である。


 (3)鉄道
   鉄道は幹線道路と同様の機能を持ち、幹線道路における対策の考え方に準ずると ともに、危険性の高い地区を通過する部分については破損を受けないよう強化されなければならない。


(4)二線埠としての役割
  地域によっては、道路や鉄道に二線堤としての効果が期待できる所がある。こうした場所では、路盤の嵩上げ、法面の石張りやコンクリート等による補強等が必要である。特に、築堤盛土と橋台コンクリート翼壁の接合部等の不連続部分は、従来の被災例からみて弱点となることが多い。また、特に鉄道橋などに見られるように橋梁上部工が軽い場合は、漂流物の衝突によって破壊された事例も多いため、津波防災を考慮した構造が必要となる。


(5)港湾、漁港の防災機能の向上
  周囲が山地に囲まれている地域や半島地域、また緊急時の輸送道路が脆弱であるような地域にあっては、災害が発生した場合には緊急物資の輸送、被災者の避難等において海上輸送の果たす役割は非常に大きい。このような地域にあっては、港湾、漁港が緊急物資の輸送、救援、復旧活動の拠点として活用できるように、港湾施設や漁港施設の耐震性の向上、係留船舶や沿岸部を航行中の船舶の安全性の確保、臨海部における防災拠点の整備など、港湾、漁港の防災機能の向上についても配慮する必要がある。

3.2.3 臨海部の土地利用特性に応じた施投等の安全性向上

3.2.3.1共通事項

1)建築物の耐浪化
 津浪による流出・倒壊等の被害を防ぐため、臨海部、特に越流等により漫水のおそれがあると考えられる地域では建築他の耐浪化を検討することが望ましい。 
【解 説】
  堤内の建築物としては、一般住宅、商店、公共・公用施設、水産加工場、漁業関連施設、供給サービス施設等がある。場外では、水産関連施設やレクリエーション施設などがある。漁協、水産加工場、市場等の主要な建築物についてはその耐浪化を図ることが望ましい。これら建築物の耐浪化の方法としては、鉄骨・鉄筋コンクリート化することが有効である。特に、水際線側にある強固な建築物によって、その背後の建築物が保護された例は過去に数多くみられる。なお、建築物の耐浪化等の構造規制については、先に示した建築基準法第39条により、地方公共団体は条例として定めることができる。
 一例として北海道浜中町、愛知県名古屋市では、条例により災害危険区域内の建築制限を行っており、また、東京都では降雨による浸水の危険性のある地域において住宅の構造を高床式にすることを奨励し、事業に要する経費の一部を補助している。津波常襲地域においても、上記の例を参考に建築物の制限、補助等について検討する必要がある。




2)危険な物品への対策
 津波来襲時に二次災害をもたらす恐れのある危険な物品については、保管・配置・管理等に充分な配慮をするものとする。 
【解 説】
  危険な物品としては、木材・漁船・漁具等の浮遊流失物と、石油タンク、ガソリンスタンド等の危険物を扱う施設とがある。前者の場合、特に、場外地から堤内地へ向けて流動して、防潮堤・場内施設・橋梁・家屋等を破壊する可能性がある。こうした流失物の対策としては、これらを防浪化された倉庫等に収納して外部に放置しないことであるが、数量が多いこと、大型のものが多いことのため、現在は抜本的な対策は講じられていない。貯木場の構造の改良等、早急な対策が迫られている問題である。一方、後者の場合は、可能な限り危険性の高い地区に配置しないことが望ましい。それが困難な場合は、タンクを地下に埋設したり、できるだけ内容物の流失を防ぐ措置をとるなど、津波の影響を受けにくいものとすることが望ましい。また、万が一にも内容物が流失した場合や火災が発生した場合には、住民の安全に万全を期すとともに迅速な回収作業や消火作業が可能なよう、予め必要な資機材の備蓄や体制の整備を図ることが重要である。
  これらの施設の管理者と地方公共団体の防災担当部局においては、施設の計画・建設段階から緊密な連携を図り、非常の体制の確保等を図ることが望ましい。

3.2.3.2 沿岸の地域特性に応じた安全性の向上

  沿岸地域は、国民生活や産業活動にとって利便性に富んだ地域である。このため沿岸地域には人口の集積や、様々な産業集積が見られるが、その利用の特性に応じて津浪防災における重点を定めて対策を講じることが重要である。ここでは、次に示す沿岸の地域特性ごとに対策の留意点を示すこととする。
   (1)居住地域
   (2)南丼・業♯地域
   (3)産業・他流関連地域
  なお、港湾の船舶対集およぴ、水産業関連地域での対先については、別項で詳述する。
【解 説】
(1)居住地域の安全性向上
  大都市近郊等で夜間人口が密集している地域にあっては、住民への防災意識の啓発や訓練への参加推進により被害の低減対策を重点的に進めるほか、地権者の合意を形成しつつ、安全な建物への更新や、避難施設等の整備等を促進するための環境整備に努める。


(2)商業・業務地域等の安全性向上
  大都市や観光地の臨海部において、マリンレジャーなど多くの人が集散するような海岸においては、沿岸部地域の連携のもと、利用者の啓発や、避難場所・避難路を明示し、誘導方法の確立などを行う他、大規模な集客施設などにおいては、個々の事業者による避難体制の構築や施設安全性の向上への努力を促がすように努めることが必要である。


(3)産業・物流関連地域の安全性向上
  港湾地域やこれに隣接する地域では、工場等の生産施設や倉庫等の物流施設における安全性を確保することはもとより、最近の地下空間の利用、都市交通施設の地下化、 ウォーターフロントの土地利用の変化に伴い、多くの人が集散するため、その利用に対する安全性に配慮することが必要である。
  また、前面の海域が港湾への航路として利用が錯綜してる場合には、津波による船舶の衝突や陸域への打ち上げによる炎害に対する安全性について配慮することが必要
 である。
  なお、港湾や漁港は津波災害時において救援などの応急対策の拠点として重要な役割を果たすことが期待されるため、地震や津波に対する施設の強化を行ったり、漁具等の浮遊や流出物の堆積によって、必要な機能が損なわれないよう対策を講ずることが必要である。また、防災拠点として物資輸送や緊急船舶の活動拠点機能等の整備を進めることが望まれる。また、災害時における港湾施設等の緊急的な利用の手続き等については、予め検討し、関係者と所要の調整を行い、地域防災計画への盛り込みや協定の締結により明確化していく必要がある。

3.2.3.3 港湾、漁港の船舶対策

1)港湾、漁港の船舶対策
  津波警報の発令等当該水域に危険があると判断された場合には、船舶への会場保安庁から、その伝達あるいは勧告、制限、規制を受けるが、港湾管理者として必要と認める場合、船舶の安全対策について適切な措置を講じるよう関係者に要請することが望ましい。
  なお、港則法の適用を受けない港湾、漁港においては、港湾、漁港管理者は船舶所有者および漁業協同組合に船舶の安全対策について適切な措置を講じるよう事前に協議しておくことが望ましい。
【解 説】
  新潟地震、日本海中部地震等による津波によって、港湾内の船舶・プレジャーボート等の小型船、作業船、引船等多くの船舶が流出、沈没、転覆、乗揚げ等の被害を受けている。
  このため、津波警報が発令されるなど、当該水域に危険があると判断された場合には、港則法(昭和23年法律第174号)の適用を受ける港湾については、港則法に基づき港 長の勧告、規制、指示に従い沖合待避等の安全対策を講ずることとなる。
 しかし、港則法の適用を受けない港湾、漁港については、港湾、漁港管理者が船舶所有者及び漁業協同組合と津波警報が発令された場合等において、船舶の安全対策について適切な措置を講じるよう事前に協議しておくことが望ましい。その措置としては次のようなものが考えられる。
 (1)停泊中の大型、中型船舶は港外に避難する。
 (2)避難できない船舶について、係留を安全にする。
 (3)大型、中型船舶は入港をさしひかえる。
  また、地域によっては、津波等により、内航タンカーヘの影響が予想される場合は、船舶所有者に対して適切な対策を講じるよう協議しておくことが望ましい。




2)漁船の処置
 津波来襲時の漁船の処置については、人命に危験を与えない範囲で実施するものとする。  
【解 説】
  津波来襲時における漁船の処置には、二つの目的がある。第一は、資産としての漁船の保護である。第二は、漁船が2次災害を惹起する大型浮遊物とならないようにすることである。いずれにせよ、津波来襲時における漁船避難については人身の危険を伴うので、一般的な避難指針を作成することは不可能である。
  遠地津波の場合及び近地津波でも津波の到達まで10時間以上余裕がある場合は、漁船はなるべく水深の深い場所(例えば、水深100m程度)へ避難させることが望ましい。
 この場合、気象庁が発表する津波の到達予想時刻の情報に十分な注意を払う必要がある。
 養殖筏の間をあけ、漁船避難用の航路を確保している例もある。
  津波の到達まで時間に余裕がない場合は、漁船の沖合避難は非常な危険を伴うものと考えられる。従って漁船の係船施設を用いたゆるやかな係留と、充分な余裕を持った錨係留の併用により、陸上への漂流をなるべく少なくする日常の努力が必要である。陸上に陸揚げされている小船舶も、時間的余裕があれば、錨を船外におろし、なるべく津波によって動かされにくくする以外に、今の所良い方法は考えられない。係留索を長く伸ばしておくことは、津波先端来襲時の衝撃および浮力による索の切断を防ぐため、効果があると考えられる。漁船の処置に関しては、海中、港内における津波の挙動等が完全に把握されていないので、今後の研究に待たねばならない。
  また、津波により陸上、特に道路上に打ち上げられた漁船の処置について、その手続きや所有者における合意等を予め検討しておくことが必要である。

3.2.3.4 水産業関連地域の安全性確保

1)堤外地の水産関連施設対策
 堤外地の水産関連施設の整備に当っては、次の点に配慮するものとする。
  (1)水産関連施設の配置、利用方法に津波防災を考慮する。
(2)漁港の外郭施設(防波堤・堤防・護岸)、係留施設の整備には、津波に耐える洗掘対策、強化策を取り入れる。 
【解 説】
  (1)防潮堤等の防災施設で防護を固めても、水産関連施設の多くは、利用の便から堤外に設けられる。これらの施設は耐浪性をもたせた建築にするとともに、1,2階部分は、浸水しても損害の少ない利用上の工夫をすべきであろう。
    また、これらの耐浪建築は、防潮堤前面(または背後)に配列して、防浪ビルの役割を持たせ、背後地への津波の浸水、津波の破壊力を減ずる役割を期待することができる。


  (2)防災施設以外の漁港施設についても、耐震化・耐浪化、内水排除対策、維持管理の問題が予想され、同様に耐浪化対策、老朽化対策が必要である。また、漁港防波堤・護岸等の施設も中小規模の津波に対しては減勢効果を期待しうる。




2)増養殖施設 
 増養殖施設を津波から防護することは困難であるが、次のような対策を講ずるよう努めるものとする。
  (1)漁業災害保障制度の活用
  (2)増養殖施設による2次災害の防止
【解 説】
(1) 現状では、増養殖施設を大津波から防護することは不可能である。従って、漁業災害補償制度の活用に努めることが良い。
     本制度は、中小漁業者の営む漁業について、異常の事象又は不慮の事故によって受けることのある損失を漁業者の協同組織を基盤とする共済の仕組みにより補てんすることにより、中小漁業者の漁業再生産の阻害の防止及び漁業経営の安定に資することを目的として、漁業災害補償法に基づき設けられている。
     実施機構は図3−1に示すとおりであり、漁業共済組合が元受けを行い、その責任の一部を全国漁業共済組合連合会が再共済し、さらに国が再共済の一部を補償している。また、漁業者の掛金の一部補助を行っている。
  事業の種類は、表3−1のとおりであり、漁獲共済、養殖共済、特定養殖共済及び漁具共済の4つがある。
  養殖共済は、「養殖水産動物の死亡、流失等による損害及び養殖施設の損壊等」による損害を補償する。
  特定養殖共済は、「特定の養殖業を対象とし、生産金額が減少し、かつ生産数が一定量に達しない場合の損失及び養殖施設が損壊した場合」の損害を補償する。


(2)増養殖施設による2次災害を防止することが重要である。現在までの所、増養施設が漁船や木材のように、陸上の家屋や諸施設に対する破壊力となった例はないが、港口閉鎖、航路障害のような増養殖施設による機能障害も起り得




3)漁具類
  漁港内における漁具類は、津波来襲の際に漂流物とならないよう、日常の管理に留意するものとする。 
【解 説】
 港湾内に漁具類が放置されていたり、廃船やドラム缶が放置されていることがある。これらのうち、大型のものは津波来襲の際に漂流物となって市街地を襲い、破壊力を発揮する危険がある。また、漁具類が流出して港内や港口で堆積し、長期間にわたり漁港機能に障害を及ぼした例がある。このようなことから、常日頃から、漁具類を整理しておくことが必要である。

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図3−1 漁業災害補償制度の機構
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表3−1 漁業共済事業の種類及び事業の性格
3.2.3.5 ライフライン機能の安全性向上

1)通信施設対策
 電話施設等の通信施設は、津波来襲時に機能を損わないように、配置及び構造について配慮することが重要である。 
【解 説】
  電話施設は、津波来襲時の通信手段として重要な役割を担うものであり、ケーブル、交換機等の配置及び構造に十分な配慮が必要である。被災時に地域間の連絡を確保するためにも、主要施設は危険性の高い地区に配置しないことが望ましい。危険性の高い地区内の施設については、地下への埋設あるいは耐浪化等の対策等を検討することが望ましい。




2)供給施設対策
 電力施投、水道施設等の供給施設は、津波来襲時に機能を損わないように、配置及び構造について配慮することが望ましい。 
【解 説】
  電力施設は、電話施設と同様に、危険性の高い地区内には主要な施設の配置を避けるものとし、危険性の高い地区内の施設には耐浪化を施す必要がある。
  また、避難・救援の拠点となる施設への供給については、被災時にも確実に供給される体制が整えられていなければならない。
  水道施設も同様に、被災時における確実な供給体制が必要である。避難・救援の根拠となる施設においては、井戸水・沢水などの補助的な供給施設を考慮する必要がある。
 また、取水を河川から行っている場合、津波の河川遡上によって取水施設が被害を受けた例もあり、その恐れのある地域では配慮が必要である。
  下水道施設に関しては、終末処理場が沿岸部にあるため津波による被害を防ぐための対策を行うことが望まれる。また、海岸の放流施設から下水管を通って津波が遡上し、 市街地に浸水した例があることから、放流口に遡上防止の措置を講ずるなどの配慮することが望ましい。

3.3 防災体制

3.3.1 概 説

  防災体制は、一般的に災害対策基本法等において、それぞれ定められており、本節は津波災害の防止という両から見た防災体制のあり方について検討すべき主要な項目を示したものである。その項目は概ね次の通りである。




 (1)防災組織の整備
   a災害対策本部・防災関係諸機関
   b自主防災組織
 (2)予報等の伝達、情報通信体制の整備
   a津波の観測
   b量的津波予報の利用
   c予報の伝達
   d情報通信系統の確保・充実
 (3)避難
   a住民避難
   b避難路
   c 避難場所
   d災害弱者への配慮
   e外来者対策
   f交通対策
 (4)水門・門扉の開閉
 (5)防災知識の普及
   a過去の津波災害記録の発掘および表示
   b防災教育
   cマニュアル等の作成
   d防災広報
 (6)津波防災訓練
 (7)応急体制
   a応急体制
   b一般住民の動員体制
   c防災施設管理体制の確立     

 
【解 説】
  災害対策基本法は、国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護し、社会の秩序と公共の福祉に資することを目的とした我が国の防災・災害対策の基本となる法であり、総合的かつ計画的な防災行政の推進のための防炎に関する必要な体制の確立、責任の所在の明確化、防災計画の作成等が規定されている。
  (1)防災基本計画
    内閣総理大臣を会長とする中央防炎会議が作成し、我が国における防災行政の基本となる計画であり、防災体制の確立、防災事業の促進、災害復興の迅速適切化、防災に関する科学技術の研究の推進及び防災業務計画、地域防災計画において重点を置くべき事項について基本的な方針を示している。
  (2)防災業務計画
    指定行政機関及び指定公共機関が防災基本計画に基づき、その所掌事業又は業務について作成する防災計画であり、この作成及び実施にあたっては各防災業務計画が一体的かつ有機的に機能するよう十分な配慮がなされている。
  (3)地域防災計画
    地域防災計画は、地方公共団体の地域に係る防災に関する計画であり、都道府県又は市町村の地域について、それぞれ地域の実情に即し、国の機関、地方公共団体、公共機関等が防災に関して処理すべき事務及び業務等を広く定める計画であり、各地方防炎会議が防災基本計画に基づき作成するものである。


  本節では、現行の防災体制の検討を進めるにあたり、津波災害対策という視点から見た防災体制の主要な項目について対策を示すものである。

3.3.2 防災組織の整備

1)概 説
  津波総合防災を促進するため、津波防災に関わる防災組織のより一層の整備を図るものとする。
【解 説】
  災害対策基本法は、防災対策を推進するための諸防災組織を定めている。
  国においては、防災に関する重要事項を審議するため、内閣総理大臣を会長とし、指定行政機関の長等を委員とする中央防災会議を設置し、総合的な防災対策の推進に努めている。
  同様に、都道府県には都道府県知事を会長とし、都道府県・指定地方行政機関・市町村・警察・消防機関・指定公共機関等の長または職員を委員とする都道府県防災会議を設置し、市町村には市町村防災会議を設置し、災害対策の中枢機関としてその推進に当っている。
  さらに、防災に関する責任を有する機関として、国では指定行政機関に総理府・農林水産省・建設省等29機関、指定公共機関としてJR・日本電信電話株式会社等37機関を指定している。




2)災害対策本部・防災関係諸機関
 津波予警報の発令時、または津波災害の発生時には、情報の収集・伝達その他の災害応急対策を速やかに確立するとともに、迅速に職員の動員を行うことが重要である。 
 【解 説】
 津波予警報の発令時、または津波災害の発生時には、迅速に職員の動員等が重要であるため、組織の体制や災害対策要因の動員配備について、様々な状況を想定し具体的に定めておく必要がある。
 このなかで災害対策本部の設置及び廃止に関することについては、設置の場所や代替え拠点等も含めてその設置及び廃止の基準について具体的に定めておく必要がある。
 また、災害対策本部会議の役割をも含めて組織としての意志決定手続きや災害対策本部を構成する各部、各班の長等が不在の場合の対応等も明確にしておく必要がある。
 さらに、災害対策本部は、各地方公共団体の組織体制をベースに組織構成する方が円滑に機能しやすいと考えられるが、災害対策本部運営の主管課等は、縦割りの弊害を防ぎ、 横断調整機能の強化や特別班の設置等による機動性の確保にも十分配慮するとともに、職員それぞれの役割分担を明確にする。
  災害の状況によっては、災害地において現地災害対策本部を設置し、機動的な対応を図ることも考慮しておく必要がある。




3)自主防災組織
 自主防災組織の育成に努めるものとする。
 【解 説】
   災害が発生した場合には、地域住民が防災関係機関と一体となって活動することが被害の拡大を防ぎ、円滑な災害応急対策を行う上で極めて重要であり、このような観点から自主防災組織の育成が望まれる。
   自主防災組織の活動を日常化させるとともに、情報の提供、防災センターの整備等により自主防災活動の条件整備を図ることが必要である。


  津波災害に対する自主防災組織の果たす主な役割として次のようなものが考えられる。
・津波災害においては、高台や堅牢な建物の上層階への早急な避難が重要であるが、その際の災害弱者の避難介助を行う。
・平常時からの避難訓練等を行うなどして、防災意識を高め、避難地・避難路を認知できるようにする。   

3.3.3 予報等の伝達、情報通信体制の整備

1)津波の観測
  個々の海岸における津波の特性を把握し・津波対策の強化を図るため、各地域において津波の観測体制を確立することは重要である。


【解 説】
  気象庁を中心として、地震・津波観測の強化が図られてきているが、津波は地形の影響を強く受けるため、場所によって、気象庁の蜘値より津波が高くなることがある。
 このため、各地域において津波の観測体制を確立し、個々の海岸における津波の特性を把握することは、後述する津波浸水予測図の整備という観点からも、津波対策の強化にとって重要である。
  具体的には、以下に示す方法が考えられる。


 (1)潮位計等の整備
 (2)漁民からの情報入手体制の確立
 (3)安全な高台における望潮楼の設置


 また、同時に、津波記録の収集、保存に努めることも必要である。




2)量的津波予報の利用
  気象庁が導入を計画している量的津波予報は、都道府県程度の範囲を対象として具体的な津波の高さ等を予報するもので、これらの情報を、津波対策に効果的に活用することが重要である。このような観点から、特に、予報内容に対応した津波浸水予測図をあらかじめ整備しておくことは効果的である。
【解 説】
  気象庁が平成11年の導入を計画している量的津波予報は、地震による津波の発生及び伝播を数値モデルによって計算し、都府県程度の範囲を対象として具体的な津波の高さ、到達時間等を予報するものである。これらの情報を適切に利用することにより、避難、水防等の津波対策をより的確に実施することができる。
  気象庁が発表する量的津波予報は、都府県程度の範囲を対象とする広域的・平均的なものであることから、個々の海岸における津波対策については、あらかじめ津波予報内容に連動した津波浸水予測図を整備しておくことが効果的である。津波浸水予測図の作成手法及びその利用方法については、別冊の「津波災害予測マニュアル」を参考とすること。




3)予報の伝達
 津波予警報の伝達が、迅速かつ正確に伝達される体制の整備に努める。
【解 説】
  気象庁は、気象業務法により、津波予報を行うことが義務とされている。
  津波予報の種類は津波注意報と津波警報に具体的に分けられており、伝達にあたっては、充分考慮する必要がある。
  また、気象庁からの津波予報伝達は、図3−2の系統により住民に伝達されるよう定められている。
  気象庁本庁、管区気象台等の津波予報中枢では、地震発生後ただちに津波予報を発表し、消防庁、警察庁、都道府県、海上保安庁、NTT、日本放送協会等へ伝達している。
 現在、津波予報に要する時間は3〜5分程度まで短縮が図られている。
  しかし、平成5年7月に発生した北海道南西沖地震津波では、地震発生後3〜5分程度で10mを越える津波が奥尻島に来襲したと考えられており、また、住民避難、水門の閉鎖などの津波来襲時の対応にも数分程度の時間を要することから、津波伝達に携わる機関は、より一層、迅速かつ正確な伝達を実施する体制を確立する必要がある。
 なお、津波予報の伝達には、次のような問題点がないか検討する必要がある。
   ・各集落への連絡が取りにくいことがないか
    ・ラジオ・テレビの聴取不能地区がないか
    ・有線放送難聴地区がないか
    ・津波予報に住民が慢性化し、津波予報に注意を払わない傾向がないか
    ・漁船への伝達が十分なされる態勢かどうか


  都道府県、市町村においては、これらの検討を踏まえ、津波予報の伝達については、同報系、移動系、地域防災無線からなる防災行政無線の整備拡充を図るとともに、平成6年度から運用を開始した緊急情報衛星同報システムの受信装置の整備を図り、津波予報中枢からの情報を直接入手できるようにする


 また、都市近郊の海岸や観光地などでレクリエーションの利用が盛んなところでは、観光客などの外来者に対しては、上述のような地域住民のための連絡系統では情報伝達できなかつたり、津波に対する認識が十分でないために予報や警報が有効に伝わらないことが懸念される。このような地域では、海浜利用客への呼びかけによる意識の向上や安全情報伝達施設等の整備を推進する必要がある。
 さらに、庁舎、学校、病院等の防災関係機関、生活関係機関を結ぶ地域防災無線の整備により、情報伝達体制の充実を図る必要がある。




4)情報通信系統の確保・充実
  津波による人的な被害を極小化するためには、迅速で確実な情報伝達が最も重要である。このため、予報・警報等の情報を伝達する通信システムの強化や多重化を進めることが必要である。 
【解 説】
  津波予警報の伝達については、以前は電話による人手を介した伝達方法が主流であったが、その後次第にオンラインによる伝達が用いられるようになり、また平成6年度から運用を開始した緊急情報衛星同報システムでは、静止気象衛星「ひまわり」を利用し、ほぼリアルタイムで津波予報を受信することができるようになっている。
  このような状況を踏まえ、災害時の通信系統の確保に向けて、有線系の通信はもとより、衛星系や移動系などの通信を適切に組み合わせて通信システムの強化や多重化を図つていくことが重要である。

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図3−2 津波予報及び地震・津波情報の流れ

3.3.4 避 難

1)住民避難
  市町村は、避難勧告が出された場合における住民の避難が迅速かつ安全に行われるような体制を確立するものとする。
【解 説】
  災害が発生し、又は避難の必要性が予想される気象警報が発せられたとき等は、市町村長は避難の勧告又は指示を行う。しかし、津波被災履歴のない地域や、三陸沿岸のような被災の履歴がある地域においても、津波予報に対する意識の慢性化、津波体験が薄れているなどの理由により、避難勧告が出された場合の住民の避難行動への移行が低下し、すみやかに行われないことが懸念される。このため、3.3.6に示す防災知識の普及、3.3.7に示す津波防災訓練の実施等により、住民の避難が迅速かつ安全に行われるような体制を確率することが重要である。また、予報発表後の防災行動は、予報の内容に対応して行われるべきである。
  津波注意報が発表された場合には、津波の高さは高いところでも数十センチメートル程度の見込みなので、特に津波に脆弱な地域以外は、陸上では住民避難などの防災行動を取る必要はなく、情報の伝達だけで十分であるが、海水浴客、磯釣り客等の避難は必要である。また、海象の監視や門扉の閉鎖準備等も必要であろう。
  これに対し、津波警報が発表された場合には陸上でも各種の防災行動が必要になる。
 なお、避難体制の確立にあたっては、各種の避難モデル(建設省建築研究所研究報告書第78号)を参考に机上におけるシミュレーションを行う方法もある。
  しかし、地震発生後数分程後で津波が来襲した事例も過去に存在しており、大きな揺れを感じた際や弱い地震でも長い時間揺れを感じた時は、警報等を待つことなく直ちに住民による自主避難が行われるよう平常時から啓発に努める必要がある。
  また、「強い地震等を感じたら、住民等は海浜から離れ、安全な場所に避難すること、船舶は港外に避難すること」を基本として、以下の広報文の例により、津波警戒に関する周知徹底を図るものとする。



                津波に対する心得
<一般編>
1 強い地震(震度4程度以上)を感じたとき又は弱い地震であっても長い時間ゆっくりとした揺れを感じたときは、直ちに海浜から離れ、急いで安全な場所に避難
2 地震を感じなくても、津波警報が発表されたときは、直ちに海浜から離れ、急いで安全な場所に避難
3 正しい情報をラジオ、テレビ、広報車などを通じて入手
4 津波注意報でも、海水浴や磯釣りは危険なので行わない
5 津波は繰り返し襲ってくるので、警報、注意報解除まで気をゆるめない




2)避難路
  次のような点に配慮し、避難路の整備を図るものとする。
   (1)ルートの適切な選定
   (2)道路の幅員
   (3)避難道路の表示
   (4)街路灯の設置
   (5)住民への周知   
【解 説】
  居住地と避難地を結ぶ避難路の整備にあたっては、避難時間の短縮等、避難の円滑な実施とともに、日常生活を考慮した整備が必要である。
  避難路に関しては、次のような問題がないか検討する必要がある。
   (1)ルートの選定が適切でない。
   (2)道路幅が狭い。
   (3)避難道路表示が不十分である。
   (4)街路灯が設置されていない。
   (5)住民への周知が十分でない。
  特に、夜間に津波が来襲する場合を想定すると、避難を安全かつ確実に行うため、街路灯の設置や避難路指示標の設置が必要である。地震による停電に備えては、非常電源付街路灯の設置も有効である。
  津波の場合、迅速に安全な地域に到達することが極めて重要であるため、安全な一次避難場所までは直線的に最短の経路で避難できる様にすることは最優先すべき課題の一つである。したがって、地形条件などによって適切な経路がとれない場合にあっては、緊急時における民地通行の合意形成や、経路をはばむ崖地への緊急避難階段設置などの積極的な避難路整備について検討すべきである。
  また、外来者など当該沿岸地域に土地勘がない人に対する津波警告・啓発のために、津波の危険性や避難のルート等をわかりやすくデザインした看板等のサインシステムの整備を図るとともに、避難標識等の統一化を図っていくことが必要である。
 さらに、日本語に不慣れな外国人のためにも、わかりやすい看板等の工夫が望ましい。




3)避難場所
  津波に対する適切な避難場所の整備を図るものとする。
【解 説】
  避難場所は、市町村地域防災計画において予め指定しておく必要がある0指定に際しては、第2章で示した方法などにより浸水域を想定し、地形・標高等との地域特性と対照して津波に対し安全な高地を選定する。避難場所は、住居等の分布や避難対象世帯数、避難経路、誘導体制、避難所が小中学校の体育館などである場合は、耐震性が十分であるかなど避難地自体の安全性を勘案して、一時避難場所、広域避難場所、避難所に分けて指定を行う。避難所の多くは、小・中学校、公民館、寺社、保育園、公園等の公共的場所である。しかし、阪神・淡路大震災の例では、このような公共施設以外にも民間施設等が避難所として活用された例もあり、地域の地形特性や避難経路の特性によって、民間の高層ビルなどが避難場所として必要な場合には、住民や企業の合意と協力の下にこのような民間施設の緊急的な利用の方策も検討すべきである。
 業務地や商業地などで夜間人口に比べ昼間人口の割合が大きな地域、また観光地などでは、これらの外来者を考慮した避難場所の検討が重要である。
 旧市街地や古い集落では、避難場所の選定は適切であり、住民の認知率も高い傾向にある。これに比べ新市街地では、住民の認知率が低いこともあるので、避難場所を設定する市町村は、場所選定の適正化や表示板の設置等に十分な配慮を加えることが必要である。
  なお、遠くから見ても分かるように、避難場所には、夜間照明を設置するとともに、地震による停電時にも機能が損なわれないよう、非常用電源装置を設置するなどの対策を講じておくことが望ましい。
  また、食料、毛布等の計画的な備蓄や備蓄倉庫、防災資機材倉庫の整備を検討すべきである。


(1)一時避難場所
  広域避難場所へ避難する前の中継地点で避難者が一時的に集合して様子をみる場所又は集団を形成する場所とし、集合した人々の安全がある程度確保されるスペースを持ち、また、ボランティア等の活動拠点となる公園、緑地、学校のグランド、団地の広場等をいう。


(2)広域避難場所
  大地震時に周辺地区からの避難者を収容し、地震後発生する市街地火災や津波から避難者の生命を保護するために必要な面積を有する公園、緑地をいう。


(3)避難所
  家屋の倒壊、焼失など現に被害を受けた者又は現に被害を受ける恐れがある者を一時的に学校、公民館など既存建築物に収容し、保護するところである。




4)災害弱者への配慮
子供・老人・病人等の避難に対し、十分な配慮をするものとする。  
 【解 説】
   子供・老人・病人等のいわゆる災害弱者の避難に関しては、青壮年者とは異った特別な配慮を加える必要がある。
   三陸沿岸地方では、小・中学校や保育所は山側の高地に設置されている場合もあり、住民の避難場所に指定されている場合、幼児や児童については、在園中、在校中は安全といえる。ただし、一部の保育所・小中学校は既往最大津波の浸水域に立地している場合もあり、今後は、より安全な高地へ立地させるよう努めることが必要である。
   下校後の子供については、今後は、隣り近所による相互扶助など、コミュニティの結び付きを強化することによって対応することが現実的方策であると思われる。
   老人に関しては、家族が自動車により、避難を行うなどの例が散見されるほか、特別な配慮が見られないため、子供の避難と同様、コミュニティレベルでの対策が必要となる。
   病院・診療所については、多くが安全な高地に立地しているが、中には津波に対する危険性が考えられる低地に立地している診療所もある。低地の診療所でありながら、医療従事者や入院患者も含め、避難マニュアルが作成されておらず、また避難訓練に参加していない所が散見されるため、こうした問題点の解消が必要となる。




5)外来者対策
 観光客等の外来者に対し、津波防災広報を行い、適切な避難体制を整備するものとする。 
【解 説】
   沿岸地方には、夏期を中心に観光客などの外来者が多いため、海浜部における情報伝達のための施設整備を図ると同時に、これらの外来者は、津波に対する知識および避難等の知識が一般的に少ないので、適切な津波炎害に対する広報を行い、外来者のための避難対策を講じる必要がある0特に、住民がはとんどおらず、しかも、防災施設が皆無という全く無防備の海水浴場・キャンプ場も存在するので、これらの外来者に対して津波に対する知識、万一の際の避難の方法を知らせるとともに、津波予警報の伝達方法を確立しておかなければならない。
   一部の海水浴場や港湾等では、防災行政無線の屋外拡声装置を通じて津波情報を外来者や住民に伝達するなどの対策を講じており、これらの例を参考にして津波情報の伝達、避難誘導体制の整備を行うとともに、民宿等の宿泊施設やレジャー施設に避難地をはじめとする避難経路要領を明示するほか啓発に努める必要がある。




6)交通対策
自動車による避難は、原則として禁止するものとする。
【解 説】
  市町村の地域防災計画では、一般に、津波に限らず、地震、火災などの避難においても、避難の円滑な実施を考慮し、自動車による避難は原則として禁止している。特に、津波避難のように、避難時間が限られている場合は、自動車による交通混乱を招くだけでなく、人命にも影響を及ぼすため、原則として禁止するものである。
  ただし、時間的に余裕があると予想される遠地津波の場合は、特例として自動車による避難を禁止する必要はない。また、近地津波の際でも自動車路と歩行避難路とが交差しない場合には、自動車避難を禁止する必要はない。

3.3.5 水門・門前の開閉

 津波来襲の恐れがある場合、水門・門扉閉鎖の操作が可能な取り迅速に行われるような体制をとるものとする。 
【解 説】
  地域防災計画では、津波予報発表に伴い、水門・門扉の閉鎖をすることとしている例がある。しかし、近地で津波が発生した場合には、沿岸域への到達時間が短くなることも想定されるため、津波来襲の恐れが有ると判断した場合には、各施設の管理者によって直ちに水門・門扉を閉鎖するなどの体制を確立する必要がある。
 また、津波来襲の恐れがなくなった場合には、迅速に水門、門扉の開放が可能な体制も確立する必要がある。

3.3.6 防災知識の普及

1)過去の津波災害記録の発掘及び表示
  過去の津波災害記録を発掘し、表示を行うものとする。その主な内容は次の通りである。
  (1)津波災害記録の発掘
  (2)津波記念碑の整備・修復
  (3)浸水域・浸水位の表示
【解 説】
 (1)津波災害記録の発掘
   地域の古老を始めとする津波体験者からの聞取り調査を行い、地域防災計画に災害記録として掲げるほか、「○○村の津波」「××町津波誌」といった津波炎害資料の作成や、津波に関する古記録の収集を行う。


 (2)津波記念碑の整備、修復
   津波被災の履歴がある地域では、被炎記録、津波防災の教訓を刻み込んだ記念碑などを整備し、住民や外来者の意識を啓発することも効果がある。
   また三陸沿岸地方の各地に見られるように、記念碑が建設されているものの、その維持・管理状況は必ずしも良好ではない場合がある0今後は、これらの記念碑の修復、あるいは、説明板の設置、公園化等の周辺整備を行い、いろいろな方法で津波知識の普及を図ることが必要である。


(3)浸水域・浸水位の表示
   過去の津波の浸水域・浸水位の表示は、過去の津波に関する認識を深め、防災意識を向上させ、住民の津波防炎への関わりを深める。表示方法としては、図面として表示(パンフレット・掲示板等)、現地に浸水位を掲示するなどが考えられる。




 2)防災知識の普及
住民に対する防災知識の普及啓発を図るものとする。  
【解 説】
  防災教育の基礎は、過去の津波体験の伝承である。津波体験の伝承を軸に各家庭での津波防災教育や、小中学校における社会科の中で津波防災教育の推進が望まれる。今後は、これに最新の研究成果、防災対策の現状に関する情報を付け加え、地域における津波防災教育を組織的に展開し、継続して行くことが必要である。この場合、行政機関の実践のほかに、町内会・青年団・婦人会等の地域の自治組織を中心とした活動を活発化することが必要である。




3)マニュアル等の作成
わかりやすく記載したマニュアルを作成し配布する。  
【解 説】
  津波に関する知識はもとより、津波に対する家庭での備えや地震・津波発生時の対応事項等については、地域住民等への周知徹底を図ることが重要であるため、それらをわかりやすく解説、記載したマニュアルを作成し、地域住民等に配布することが望ましい。
  地方公共団体の中には、避難場所及び避難路の配置図や、避難体制や避難行動の規範等を具体的に解説、記載した避難マニュアルを作成し、地域住民に配布しているところもある。




4)防災広報
 地域住民の防災意識の維持・向上を図るため、津波防災に関する広報を行うものとする。
【解 説】
  防災広報には、情報伝達機関を通した広報と地域内の常設施設における広報とがある。
 前者の場合、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌等の広範囲に及ぶ広報と、市町村の広報誌、自治組織の回覧等の地域内の広報とがある。後者の場合は、津波記念碑の補修・設置、津波資料館の設置、公民館・防災センター等の公共施設における写真・記録の展示等がある。地域住民の防災意識の維持、向上を図るためには、防災広報が重要である。
  防災は、行政と住民の連帯により達成されるものであり、住民の防災意識の低下は、波防災を進める上で大きな支障となるため、地域における情報伝達方法及び常設施設を利用した広報の充実を図る必要がある。
   (1)情報伝達機関、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、広報、回覧板等
   (2)常設施設、津波記念碑、津波資料館等
   (3)記念行事、シンポジウム、講演会等

3.3.7 津波防災訓練

 津波災害による被害の軽減を図るため、下記の「解説」に示した点に考慮し、次のような津波防災訓練の実施を図るものとする。
  (1)津波監視訓練
  (2)情報伝達訓練
  (3)住民への広報訓練
  (4)不特定者への広報訓練
【解 説】
  防災は行政と住民の連帯により達成されるものであるが、津波は、その発生額度は小さく、数年・数十年に一度起るものなので、津波来襲時における防災が円滑に実施できるかどうか懸念される。このため、官民共同による津波防災訓練を定期的に実施し、防災体制の活力の維持・向上、現行の防災体制の不備の発見とその改善、情報伝達の精度向上と迅速化、住民の適切な避難の実施、災害時の応急・動員体制の向上等の充実を図る必要がある。
   (1)津波監視に係わるもの
    ・津波監視の方法の習熟
    ・津波監視の指示や結果の伝達の方法への慣れ
   (2)情報収集に係わるもの
    ・非常用電源の起動、切り替え方法の習熟
    ・津波予報文への慣れ
    ・被害・津波来襲情報の収集方法の習熟
   (3)情報伝達、広報に係わるもの
    ・サイレンの周知
    ・広報内容の周知
    ・広報ルートの確認と所要時間の測定
    ・広報車・携帯ラジオからの情報入手
    ・同報無線の可聴範囲測定
    ・緊急放送システムを使用した訓練
    ・広報ポイントの確認と所要時間の測定
    ・遠足等児童への伝達        

3.3.8 応急体制

1)応急体制
 津波による被災時に備え、食料供給・給水・医療等応急対策に関する体制を整備するものとする。
【解 説】
  津波による被災直後、市町村等の災害対策本部は次のような体制を直ちにとることができるよう整備を図る。
  (1)災害状況等の収集・伝達体制
  (2)道路交通網確保のための体制
  (3)食料・飲料水・薬品等の供給体制
  (4)緊急医療体制
  (5)救助・救難体制
  (6)被災地衛生状態を確認し、疫病を予防する体制
  (7)特殊火災消防体制(化学火災に対する消防)
  (8)緊急水難救助体制(漂流者の空・海からの救助)
  上記のような体制をとるため、国・都道府県・市町村・消防・自衛隊・警察・海上保安庁・医療機関・土木建設業者等官民が密接な協力関係を築き、合同での演習を通じて体制の円滑な作用を図る必要がある。




2)一般住民の協力体制
津波による被災時に備え、一般住民の協力体制を整備するものとする。  
【解 説】
  津波による被災直後、現地において必要な救援・応急対策は次の通りである。
   (1)津波終了時の堤内水排除
   (2)火災の消火
   (3)負傷者・漂流者の救出・救急
   (4)行方不明者の捜索
   (5)救援本部への現地事情の伝達
   (6)正確な情報の広報による民心の安定
   (7)夜警・火の番等、治安維持・相互扶助のための協力体制
   (8)飲料水・食料・薬品等の供給
   (9)被災状況の確認
   (10)住居の確保
 上記のように、津波による被災直後の救援・応急対策は多岐にわたる。特に被災直後には、災害にあわなかった近郊からの救援が人命救助に極めて有効であるので、こうした協力が得られる体制を日常より整備しておく必要がある。




3)防災施散管理体制の確立
  海岸の防災施設は、その管理主体ごとに平時および災害時の保守・管理体制を確立することが必要である。さらに、津波対策上一貫した対応が必要となる海岸において複数の管理主体が関与している一合、それぞれの主体が相互に連携した対応がとれるように平時より協調した体制を確立することが望まれる。 
【解 説】
  海岸の防災施設については、津波による災害から国民の生命、身体及び財産を守るための基幹となるものであるため、老朽化等に伴う施設の機能喪失を未然に防ぐことが重要である。このため、防災施設の管理者は、平時より定期的に施設の診断、点検を行うとともに、適正に欠陥部分の補強、修繕を行えるような体制を確立しておく必要がある。
  また、複数の管理主体が関与し、津波対策上一貫した対応が必要となる海岸においては、被災後、機能の回復に向けて迅速かつ総合的な対応が図れるよう、情報窓口の一元化や関連機関とのネットワーク化を図るなど、関連のある管理主体が相互に連携のとれた体制づくりを行っておくことが重要である。