ロシア分離派の代表(左)と文書を交わすマレーシア国家安全保障会議の幹部 REUTERS

 ウクライナ東部で撃墜されたマレーシア航空17便の犠牲者の遺体とブラックボックスを回収できたのは、マレーシアのナジブ首相が、どんな欧州の指導者も取らない危険な賭けに出たためだった。政府関係者を戦闘地域に派遣し、ほとんど誰も知らない武装集団と直接顔を合わせたのだ。

 チェックポイントを抜けてウクライナ東部の戦闘地域に入った派遣団は、武装集団の拠点であるドネツクで分離派のリーダーと面会。ここで武装集団はブラックボックスと遺体を引き渡した。遺体はウクライナ政府が支配する領土を通ってオランダに戻された。

 欧州の各国政府は分離派の法的地位を認めないまま戦闘地域に入り、安全上のリスクを取るという行動を取りあぐねていた。ただ、ナジブ首相は外交上の常識と安全をかなぐり捨て、派遣団を投入した。

 首相に近い関係者は「彼にとって重要なのは結果だった」とした上で、「彼は地上を支配する人々を見ていた。その地上には私たちの航空機があり、遺体があり、ブラックボックスがあった」と述べた。

 派遣団の成功はナジブ政権にとって政治的勝利をもたらした。今年3月にマレーシア航空370便が消息を絶ったばかりの相次ぐ事件で、ナジブ政権は大きく動揺していた。

 一方、ドネツクでマレーシア政府高官と協定に調印したことは、分離派にも恩恵をもたらすことになった。この協定では墜落現場が「ドネツク人民共和国の領土」だとされた。これは一定の支配を明確に承認するという提案で、分離派の最大の支援者であるロシアでさえ避けてきたことだ。

 分離派の指導者アレクサンドル・ボロダイ氏の側近、セルゲイ・カフタラゼ氏は「悲しい時だが、私たちが政府間合意に従うことができると証明された」と述べた。

 ドネツク人民共和国の「承認」はウクライナや米国政府の反感を買う可能性がある。両政府とも、ロシア市民が指導部の中枢を占め、周囲との関係をほとんど持たない分離派の法的地位を全く認めていない。

 米国務省のハーフ副報道官は21日の会見で、分離派との交渉は「全く正当化できない」と指摘した。ウクライナ政府の報道官はコメントを控えている。ナジブ首相に近い関係者は、分離派との取り決めが「承認」のレベルまでは行っていないと述べた。

 とはいえ、ナジブ首相の介入は外交的に難しい状況に風穴を開け、遺体の帰還と調査開始に道を開くうえで重要な役割を果たした。

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