人件費のコスト削減方法
 
 それは、役所からの一通の文書で始まった。
 役所からの文書の標題は「退職社員(職員)の連絡先・現住所等について(照会)」とあった。
 そして、「滞納者」とあり、住所・氏名が書かれていた。

 要は、退職したスタッフが、特別徴収から普通徴収に変わった市民税を、長期間未納で、なおかつ連絡がつかないので、私のところに照会してきたようだ。給与を振り込んでいた銀行名と口座番号、生命保険料控除の保険会社と証券番号、実家の住所と電話番号等いろいろと記入するところがあった。地方税法第298条等の規定に基づく照会だそうだ。

 地方税法第298条を調べると、「市町村民税に係る徴税吏員の質問検査権」とあった。診察で忙しいときに、職権で関連帳簿の調査に来られてはたまらないので、わかる範囲で記入して、返送した。

 でも、何か腑に落ちない。その退職したスタッフは、別の動物病院で働いているのに、そこが、年末調整や給与支払報告書を提出していれば、また、確定申告していれば、私のところに照会するはずがないはずだが、、、
 税理士、社会保険労務士に尋ねてみたところ、「役所の記録は、私のところまでしかないので、尋ねてきていると思います」ということだった。

 ということは、今働いている動物病院は、年末調整や給与支払報告書を提出していないことになる。 アルバイトでも、2ヶ月以上雇用したり、30万円以上支払った場合は、提出するのが普通である。ということは、給与としてではなく、外注費か手数料か委託料等の名目で処理されているのではないか?そう考えれば、辻褄があってしまう。
 それだったら、年末調整もしなくていいし、給与支払報告書も提出しなくていい、源泉徴収もしなくていいし、社会保険料の負担もない。事業主にとっては、いいことずくめだ。 そんな裏技があったのだ。

 さっそく、ネットで、「非正規雇用」を調べてみた。いろいろと書いてあった。関心のある方は、検索してみるといい。

 税理士に、こういう方法もありなのか聞いたところ、「このやり方ではかなりの確率で、税務調査の時に問題になります」、「契約を委託契約とか、請負契約としていた場合でも、専属的な獣医助手は獣医の指示命令系統の中で働きますので、課税上は給与所得と認定されます」、「雇用事業所の義務を果たしていないことになります」という返答だった。

 私は、公務員、民間会社、学校法人の教員、動物病院の代診等いろいろと職を変わり、様々な経験をしてきたが、私のところのスタッフには、国民年金ではなく厚生年金、国民健康保険ではなく社会保険が、いつまで勤務するかわからないが、将来を考えて、いいのではないかと思ってそうしている。外注費等の経費として落とすと、かなり節約できる と思うが、私にはそんなことは出来ない。スタッフの待遇等を考える、とてもじゃないが出来ない。それに、違法行為だ。

 でも、よくもまあ、そんな裏技を考えたものだ。誰かの入れ知恵なのかな?普通の感覚の人間なら、良心によって、聞いても実行には移さないのが普通だが、それを実行するところが、すごい。
 そういう感覚の人に、診察されるのは、なんか怖いな。

 滞納したばっかりに、ばれてしまったということか。「嘘はいつかはばれる」ですかね。
 正直者は馬鹿を見るとことわざがあるが、まじめに生きていきたいものだ。