はっ!?
 
 最近、「御侍史」と宛名に書いた文書を3通受け取った。
 「御侍史」とは、脇付で、
医師同士の親書や医療機関の発行する紹介状(診療情報提供書)では、宛名を○○先生御侍史、あるいは御机下とすることが慣例となっているようだ。
 獣医師の分野も、人の医者と同じようになってきたのかな?
 古い言い回しなので、シンプルに書いた方が、すっきりする気がする。

 3通のうち、1通はまともなことが書いてあった。
 あとの2通は、「はっ!?」と思ってしまった。

 1件は、飼主が急病で入院して、猫を預かっているが、食欲がなく、嘔吐と血便をしていて、対症療法を希望されて来院したとのこと。
治療内容を読むと、10日間、見事に対症療法だった。下痢には下痢止め、嘔吐には吐き気止め、血便には止血剤。検査は一切していなかった。かかりつけの病院に行くので、今日だけ対症療法をと依頼されたら、1日だけだったら、私はすると思うが、原因も追求せずに、10日間も対症療法とは、「はっ!?」と思ってしまった。 でも、いい商売になったんだろうな。
 預かっている人が、仕事の関係で、福岡を離れることになり、別の人が預かることになり、私のところに転院して来た。
 経過が長いので、血液検査等をさせてもらった。検査結果、症状、今までの治療内容から、治療を変えたところ、翌日から、症状が改善し、食欲旺盛になり、嘔吐も血便も見られなくなった。

 もう1件は、今までで一番最低の文書だった。土曜日の夕方に、交通事故にあった野良猫を保護し、私のところが終わっていたので、開いている動物病院で、緊急入院して、治療してもらい、月曜日に私のところに転院して来た。
 来院して診たところ、膀胱はパンパンに張って、尿が漏れていた。御侍史と書いた文書を見たところ、「自力排尿可能」、「レントゲンはCD−R参照」、「 ノミと瓜実条虫を確認したため駆虫実施」と書いてあり、何を使ったか 、所見も何も書いてなかった。それで、診療明細書を見せてもらったところ、「レボリューション」と書いてあった。
 「はっ!?」と思ってしまった。レボリューションは、条虫の駆除は出来ないのだ。 猫の耳を診ると、黒い耳垢がたくさんあり、鏡検すると「耳疥癬虫」が元気に動いていた。またまた、「はっ!?」と思ってしまった。 いったい、どんな診察をしていたのか、疑問に思ってしまった。
 明細には、X線診断料か読影料まで、請求していながら、読影所見を何も書いていないのも気になった。連れてきた人には、口頭で、「尾が骨折していて、 神経が切れている、将来、すれて化膿したら、断尾しないといけない。大腿骨骨折の足は、断脚しないといけない」といったそうである。
 私が、レントゲンを診たところ、左仙腸関節脱臼、左大腿骨斜骨折、尾椎の骨折ではなく、仙骨の尾側の骨折だった。仙骨の尾端の骨折は、排便障害、排尿障害を起こす。それなのに、文書には、「自力排尿可能」と、自信ありげに書いてある。大腿骨骨折した足の指は、反応があるので、整復すれば、歩行可能と判断した。
 高額な診察料・治療費をもらいながら、全然診ていない。3日間も入院させていたのなら、排尿障害ぐらいは、世話をした動物看護師でもわかるはずだが、、、、  診ていてこれなら、先が思いやられる。
 副業が忙しくて、そこまで手が回らなかったのかな?
 野良猫を連れてきた人に、私の診察・診断内容を説明したところ、前のところと、かなり違うのに、憮然としていた。「お金のことばかり言われ、内金を入れたのに、領収書もくれなかった」と文句を言っていた。

 治療内容は、「御侍史」という文書を書くくらいなら、正直に書いてもらいたいものだ。これで駆虫したとか、自分の読影所見は、こうですと書いてあれば、助言もできるのだが、ただ呆れ果ててしまった。 恰好だけ気にしても、意味が無い。でも、恰好つけるのが、意味がある人もいるんだろうな。

 その猫は、私のところで、仙腸関節、大腿骨の整復をして、歩けるようになって、退院した。ただ、排便障害、排尿障害は、仙骨の骨折のため、改善は出来なかった。

 そこで以前帝王切開をしたという犬を、私のところで、この前、帝王切開することになった。腹膜を切開すると、「はっ!?」とびっくりした。もう子宮の中なのである。よく見ると、子宮と腹膜が広範囲で癒着していた。どんなやり方をすれば、こんなに癒着するのかと思ってしまった。二度目、三度目の帝王切開を今まで、何度もしてきたが、どんなに上手な先生がしても、癒着するときは、癒着する。癒着しても、大網が子宮を切開したところに癒着していることは、多々あることである。でも、今回のように、腹膜と子宮が広範囲に癒着しているのは、初めてのことであった。

 おもしろい経理をするところは、治療もおもしろいことをするものだと思ってしまった。 そういうところに、問い合わせても、まともな文書を書かないのだから、まともなことは言わないだろう。