700グラムと450グラム
 
  保護1日目、猫、雄、体重500グラム。左肩に外傷があったため、動物病院に行き、抗生剤とノミ駆除剤を処方される。

保護6日目、体重650グラムに増加。夕方、急にぐったりしたので、動物病院に行ったところ、「横隔膜ヘルニア」の診断。「小さすぎて、手術は出来ない」と言われ、薬を処方される。

 

  保護8日目、体重700グラム。当院受診。
「食欲低下、元気なし。排尿あり。排便なし。嘔吐なし。呼吸がきつそう。」、「他院では、手術出来ない」という稟告だった。

レントゲン写真を渡されていなかったので、こちらで撮影した。

左と上の写真がそれである。
体の中は、横隔膜で、胸部と腹部に分かれているが、横隔膜が破れているため、胸腔に腸がはいりこんでいるのがわかる。

診察終了後に、緊急手術することにした。それまでは、ICUに入れて、管理した。

 

 

  麻酔し、気管チューブを挿管し、人工呼吸器につなげ、手術準備に入った。

上腹部正中切開し、腹腔側から横隔膜にアプローチした。

横隔膜の右側が、4pほど裂けて、そこから、腸、肝臓が胸腔に入り込んでいた。
はいりこんだ臓器を丁寧に元に戻し、裂けているところは、プロリンで縫合した。

  左とその上の写真が、術後のレントゲン写真である。

横隔膜が修復されたので、胸部と腹部が区別できる。

保護10日目、呼吸も安定し、食欲もあり、排便・排尿もあり、おもちゃで遊ぶようになったので、退院となった。

去年も他院で、「横隔膜ヘルニア」と診断された400グラムの子猫が、「手術は出来ない」と言われ、当院に転院してきた。その猫は、横隔膜ヘルニアでなく、「膿胸」だった。 小さいし、状態が悪かったので、胸腔内に何度もチューブを挿入して洗浄するのは、体力的に無理と判断し、1回の治療での完治を目指し、上腹部切開し、横隔膜を切開して、胸腔内の膿、膿苔をサクションを使って、生理食塩水500ml で洗浄し、手術を終えた。その猫は、今、4.6kg にまで成長している。

手術助手、手術まわりのスタッフが、テキパキと動いてくれるので、困難な手術にも立ち向かっていける。

 

  ここまで書いて、去年の別の子猫のことを思いだした。

カルテを検索すると、出てきた。

子猫、オス、体重450グラム。

稟告は、「1週間前に保護、保護した日に動物病院に行き、猫風邪と診断され、インターフェロンなどを注射したが、治らないので、昨日も動物病院に行くが、診断は変わらず、内服薬を処方された。風邪ではないと思うので、診て欲しい。」だった。

診ると、ぐったりしていて、呼吸促迫だった。

レントゲンを撮ると、左と左下の写真がそれである。
お腹がぺちゃんこで、何もない。

「横隔膜ヘルニア」と診断した。

治療は、助けるためには、手術しかないが、あまりにも小さい。診断がつくまで、時間がかかりすぎていてるので、急を要するので、リスクを説明し、手術を行った。

 

  麻酔し、気管挿管し、人工呼吸器につなぎ、手術準備に入った。

スタッフは、テキパキと動いてくれる。

左横隔膜が広範囲に裂けて、肝臓の一部、胃、脾臓、腸管の大部分が胸腔に入り込んでいた。

丁寧に、臓器を腹腔に戻し、横隔膜を縫合し、手術を終えた。

  左の写真が、術後のレントゲン写真である。

横隔膜が修復されたので、肝臓、脾臓、胃、腸管が腹腔に戻り、お腹が膨らんでいる。

翌日には、食欲も出て、排便・排尿もあり、呼吸も落ち着いていた。

術後2日目に、退院となった。

現在、3.9kgになり、元気にしている。

若い生命力には、驚くばかりである。

獣医師、そして獣医師を助けるスタッフ達は、その手助けをするだけである。