消費税増税が税制・行政・社会保障を歪め財政危機もたらし貧困と格差の拡大と地方衰退まねく

井上伸 | 国家公務員一般労働組合執行委員、国公労連書記、雑誌編集者

二宮厚美神戸大学名誉教授

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

以前紹介した二宮厚美神戸大学名誉教授インタビュー「アベノミクスをどうみるか? - デタラメに飛ぶ3本の毒矢」の続きで、税制・消費税増税問題について語っている部分を紹介します。

二宮厚美神戸大学名誉教授インタビュー

消費税導入で税制が歪められた

財政赤字の原因には、90年代の公共事業費の膨張などに加えて税収減の問題があります。税収減の要因のひとつは税制の歪みです。新自由主義的税制改革が税制そのものを空洞化して、仮に経済が成長しても、税収が上がらない構造をつくってしまった。これをいつから進めてきたかというと、消費税導入時です。消費税を基幹税として位置づけて、他の税金を基幹税から降ろしてしまうという流れが1989年の消費税導入から始まったのです。

税制を歪める理屈はこうです。グローバル化が進行すると企業や富裕層からは税金が取れない。なぜなら富裕層の所得や企業の所得は、いわゆる「キャピタルフライト」と言いますが、逃げ足が速いからです。世界中、安い税金の地域を求め、高い税金の地域を嫌って逃げ回ってしまう。グローバル化時代には、税金から逃げるのは自由勝手ということになりますから、グローバル化が進行すればするほど、企業家や資産家や投資家の所得には税金をかけるのが難しいという議論が、現在、圧倒的に支配的な税制改革の主流にあたる議論になっているのです。

グローバル化時代の消費税増税、逃げ場ない国民

これを前提にしてしまうとグローバル化時代の税収は消費税におかざるを得なくなる。なぜなら消費税は消費する場所で税金をかけるので、日本国民がまさか消費税を嫌って海外で消費するわけにはいかないからです。

国内の一般の暮らしそのものは逃げることができないから、それを直撃する消費に税金をかける。これならグローバル化時代にも逃げられないから大丈夫だとなるわけです。これを課税客体の可動性や移動性といいますが、高い税金をかけたら逃げられてしまう、移動してしまう、動いてしまうという性格の強い税金は結局減税せざるを得ないという論理が主流になっています。

これが税制の歪みをつくっていく。そして、法人税が1990年代からじわじわ下げられました。そして次に下げられたのは資本所得、つまり証券などで手に入れる株式の配当。こうした利益は逃げられやすいから下げなければいけない。その代わりに消費税を上げるんだということです。

税収がまったく上がらない税制

高額所得層も、累進課税であまり高い税金をかけたら、最近のフランスで起きているように、国籍すら変えて税金が安い他国に移ってしまう可能性がある。だから累進課税はなるべくフラット化して、最高限界税率は引き下げていかなければいけない。これをやると、格差社会化では貧困層が増えて、所得税を納めるにも納められない人達が増える一方になってしまう。富裕層の税金を安くするわけですから、企業がボロ儲けして267兆円という内部留保を溜め込んでも、ここに手をつけると逃げられてしまうということで温存する。税金を取ればたっぷり取れるところの税金を安くしてしまったわけですから、構造改革によって政治や経済が発展すればするほど、経済が多少成長しても、税収がまったく上がらないという構造になってしまった。

現在はデフレ不況が進行しているといっても経済規模そのものは今から20数年前と比べて大きくなっています。大きくなっている経済が、なぜ20年前の税収を上げられないのか。それは税制が税金を取らない仕組みに変わってしまったからです。税制改革そのものが税収の落ち込みを招いたのです。だから財政危機を打開するためには、税制を今までの税制改革とは違う方向に逆転しないといけません。逆転して胆税力のあるところに増税をしないと、財政赤字は解決できないということです。

内需不振によるデフレ不況を打開して、国民所得全体の課税ベースを拡大しながら、より担税力のある法人や個人からちゃんと税金が取れるような税制に変えていかないと、現在の日本の財政赤字は永遠に解決できないと思います。これは断固として1日も早くやらなければならないのですが、さしあたり、そうした財政赤字の要因を正確につかんでおかないと、事業仕分けなどで無駄な財政支出を削ったり、国家公務員の総人件費を削減すれば財政赤字を解消できるなどというデマにだまされてしまうことになります。

法人税が高いから海外移転するわけではない

――法人税を上げると企業が海外に逃げていくと言われる中で、税制を変えられるのでしょうか?

現在は、法人税を上げないうちに、企業の言い分に脅かされて法人税は上げられないとする方が一般的には多いと思います。ですが、企業自身が言っているように、法人税が高いから海外に逃げていくわけではありません。逆に法人税を安くしたら逃げないかといったら、逃げるんですよ企業は。つまり、企業が海外移転するかどうかは、経済産業省の調査などが明らかにしているように、立地先の需要が最大の理由なのです。たとえば中国に工場を移す企業は、電気製品であれ衣服であれ、立地先で売れるから出かけて行くわけで、日本の法人税が高いから海外に逃げていくということには実際にはなっていないのです。

それに、税金をかけた結果、実際に逃げる企業が仮にあるとします。しかし、その企業の所得は外国で生み出されるわけです。国内で生み出されるわけではない。ですから外国で税金を払わざるを得ないだけの話です。それでも、本国の本社に環流してきた所得に対しては、高い税率をかけられる。だから、まずは法人税を引き上げたらいいのです。

世界各地を動き回る無国籍企業はあり得ない

これは、ユーロ圏とは若干違います。EUでは労働条件や各種規制がほとんど同一国内市場のようになっているので、ここで動く場合と日本の場合とでは性格が異なる。日本は、たとえばトヨタは昔、数十年もたてば本社を中国に移すという話をしていましたが、それは絶対にありません。なぜかというと、多国籍企業化すればするほど、母国の力が絶対に必要になるからです。たとえばテロにあうとか、財産没収とか、外国で不当な措置を受けた時に、その多国籍企業の支店や出先を守ってくれるのは一体誰でしょうか?

アルジェリアで人質事件が起きましたが、あれは日本企業でなければ、日本政府は何の責任も負いません。社員が外国人であろうと日本人であろうと、それが日本企業の社員であるから、安全が問題にされるわけです。それは、他ならない日本国籍で日本にちゃんと本籍がある企業だからです。

もし文字通り大企業が無国籍企業になって、世界各地を自由に動き回ることになると、誰もそういう企業は守ってくれません。ですから無国籍企業はあり得ないのです。国民国家を単位として世界が成り立っているのは、やはり本国から逃げ出してしまうことができないからです。そのことをおさえた上で、企業の所得に税金をかけなければいけない。それでたとえばトヨタが逃げると言うのなら、トヨタ車の不買運動をやってでも批判すべきです。

欧州では労働組合が勝手な企業移転を許さない

このことになぜ日本人は気がつかないかというと、日本の大企業の労働組合が弱いからです。たとえばフランスやベルギーでは、企業が工場を移すと言ったら労働組合がまず反対して、経営に介入していく。自分達が働いている工場を移転するという時に、働いている労働者達が移転させないという運動をやる。市民もそれはよく分かりますからストライキなども応援します。だから政府も介入するわけです。

そういうことが日本の場合はないばかりか、むしろ連合系の労働組合は企業にやりたい放題やらせているでしょう。だから、企業経営の方向、投資の方向について日本人の考え方がヨーロッパと違うのは、まず企業が逃げるという時に内部の労働組合がしっかりと経営に介入するかどうかというところで大きく違うわけです。これはドイツでもフランスでも、労働組合運動がある程度強いところは、これでがんばっています。それが日本の労働組合にはないから、一般の国民が脅かされてだまされてしまう。ですからこの問題は日本の労働運動の課題でもあるのです。

財政危機をめぐる現代日本の3つの潮流

――この財政危機についての対抗軸をどう考えればいいでしょうか?

これからの構造改革やアベノミクスの3本の矢とも関わって、つかんでおいてもらいたいのは、財政危機をめぐる現代日本の3つの潮流です。

消費税の問題と関わって現在の構造改革の行方を考える場合、その引き金になっているのはグローバル化を起点にした税金問題なのです。安倍政権やかつての民主党政権、日本維新の会やみんなの党など、いわゆる新自由主義に属する構造改革派は、消費税を基幹税にします。従来の基幹税は所得税と資産税ですが、まず所得に目をつけて税金をかけると、憲法にもとづいて応能負担原則ですから、累進課税で取ることになります。

法人課税についても、法人所得については株主から配当に税金をかけて税収を上げると同時に、法人税も、企業は日本社会全体から恩恵を受けているわけですから税金を取る。そして所得に税金をかけても、所得の格差は残って、それが積もっていくと、今度は不動産や金融資産など資産の格差になるでしょう。ですから高所得の人は、税金を払ってもなお残る所得を貯め込んでいき、資産の中に所得が蓄積されていきます。これを資産課税、固定資産税や金融資産課税で取る。こうした応能負担原則によるのが従来の基幹税です。所得税と資産税を中心にした税制が公平な税制であり、民主主義的税制の伝統的な原則であったわけです。

消費税を基幹税とする新自由主義vs福祉国家型財政

しかし消費税を導入してから、あえて消費税を基幹税にした。なぜかといえば、先ほど話したように、グローバル化していくと金融資産に税金をかけるわけにいかない、高額所得層に税金をかけるわけにいかない、法人所得に税金をかけるわけにいかない、だから消費税を基幹税にするのだというわけです。これが現在の新自由主義的な財政や構造改革の出発点なのです。

この流れは何を呼び起こすでしょうか。いわゆる所得税を典型とした応能負担型の税収で財政構造をつくり上げていくと、財政所得は所得の再分配という効果を呼び起こします。つまり、豊かな人や大企業から税金を吸い上げて、社会保障やたとえば交付税、教育などで公平に財政を支出すると、豊かな所得から低所得層にお金が流れることになります。だから「応能負担型」の所得税・資産課税にもとづいて財政支出を組むと、上から下へ所得が再分配される「垂直的所得再分配」になります。これが福祉国家型財政になっていくわけです。

消費税が中心になれば「水平的所得再分配」

横流し型・国民総痛み分け型になる

ところが、消費税から税金を集めてバラまくと、大衆から税金を集めてバラまくことになるので、所得の再分配は水平型になるのです。右から取り上げて左に回すとか、大衆全体から巻き上げてもう一度大衆に返すという形です。ですから所得再分配の構造は、消費税が中心になれば「水平的所得再分配」になる。横流し型、国民総痛み分け型になってしまいます。

国家公務員の仕事も再編成される

これが進むと、社会保障制度の再編成になっていくのです。もう少し強くいうと、国家公務員のみなさんの仕事の再編成に関わっていくわけです。なぜなら、所得税や資産税で「応能負担型」の税金を取るには、逃げられない地域を単位にして取るしかないでしょう。

だから、もし自治体を単位にしてしまうと、実際には累進課税はかけられなくなります。なぜなら、たとえば豊かな人がある自治体に住んだ場合、ここでものすごく住民税が高くなったら、すぐに住民票を移すでしょう。一国内では、法人税の例より更に移動しやすいのです。ですから「応能負担型」の税金を自治体で採用するのは極めて困難になるので自治体の財源は「応益負担型」にならざるを得ません。「応能負担型」の財政は、中央政府つまり国民国家レベルになるのです。伝統的には、所得税や法人税で累進度の高いものについては、中央政府が集めることになります。これが現在は、「グローバル社会のもとで国すら移動してしまうから自治体と同じように税金が取れなくなる」というのが今の議論なわけです。

国家行政がやっているのは垂直型の所得再分配

しかし日本でもヨーロッパでも、それでもまだ中央政府が累進課税をやれる。比例税や応益課税、固定資産税のようなものは動かないので、動かないものに税金をかけるのは自治体がやっても大丈夫ということになります。法人税についても、ある自治体で法人税をものすごく引き上げたら、法人はすぐに場所を移すでしょう。

でも、一国の単位だったら、そう簡単には逃げられませんね。そこで国の行政は、「応能負担型」の税収にもとづくから、国家財政では所得の「垂直的再分配」になるのです。つまり全体としては、儲ける企業や豊かな人から税金を集めて全国的にバラまくことになります。たとえば東京からお金を吸い上げて全国行政に回すと、発展繁栄する地域と衰退する地域の格差を埋めることになります。

だから、垂直型の所得再分配が地域の間でも起きるのです。高い所得の地域から低い所得の地域へお金が回る。個人間でも起きる。産業でも起きます。自動車や電機でものすごく儲けている産業から税金を吸い上げて、農業など弱い所に補助金を出すことになると、強い産業と弱い産業の間に所得再分配が起きることになります。つまり国家行政がやっているのは、多かれ少なかれ、垂直型の所得再分配なのです。

地方分権の狙いは国の「応能負担型」の行政を

自治体に「応益負担型」で押しつけること

自治体は、住民税でも均等割型の比例制です。だから累進課税で取られない。均一の税率なので、所得再分配といっても水平型になります。住民全体が負担して、住民全体、地域全体が利益を受ける。そうした国と地方の役割の違いが出てきます。これが実は、分権の動きを加速していくのです。つまり中央政府の役割、国家行政の役割を縮小して自治体に任せると、地元負担で何でもやらせられることになる。大きくいうと、なぜグローバル化時代に地方分権化で何から何まで自治体に押しつけるかというと、国が「応能負担型」の税収でやっていた仕事を、自治体に「応益負担型」でやらせることができるからです。

社会保障も、たとえば生活保護などは典型です。豊かな人達のお金を吸い上げて無所得・低所得層に分配するわけですから、典型的な「垂直型所得再分配」です。これは生存権がかかっていますから、全国の統一した行政がやらないとダメなのです。どれくらい地元が負担するかとか、負担能力はどうかなどと考えて生活保護行政をやることはできませんから、自治体任せにはできないわけです。「応能負担型」できちんと税金を集めて、低所得層や衰退する地域にとって利益になるような行政をやるというのは、国家行政だからこそできるのです。しかし、これを今度は「応益負担型」に切り替えようと思うと、国はなるべく社会保障の責任を持たず、どんどん自治体に任せるようになります。社会保障は圧縮して、社会保障も地方分権化していく。そのついでに、あらゆる面で国の行政を地方分権化していく。地方分権化する時の福祉関係の行政は住民密着型だから、基礎自治体に任せる。

しかし、現在の国の行政の公共事業や環境行政、地方出先機関などは、東日本大震災の復旧・復興の際に活躍したように、所得再分配の典型的な行政なのです。これを道州にゆだねてしまうと、道州を単位に地元単位でやらざるを得なくなるわけです。

消費税の基幹税化から地方分権化・道州制へ

――道州制という考え方はなぜ出てくるのでしょうか?

民主党の地域主権改革で、主に保育や教育、医療、介護などの社会サービスは、市町村を中心とした基礎自治体に任せて、地元の責任と負担と決定でやってくださいという方向性を打ち出しました。その代わり、国は関与しませんという流れが進められてきたわけです。その上でさらに、今まで国がやっていた震災対応や防災に見られる明らかに垂直型再分配の効果を持っている社会資本の行政をも、国は手放したい。だからその受け皿として、都道府県では狭過ぎるから、さしあたりは広域連合を発展させて道州制に任せてしまえば、国は文字通り、軍事や外交機能に特化できます。

消費税の基幹税化から所得再分配構造が転換して、社会保障の地方分権化と縮小が始まり、今度は産業基盤などの開発行政そのものを、基幹税であった所得税や法人税から外して地方に任せる。そういう流れになってきました。これが新自由主義の現在の主流の考え方です。これは第1次の安倍政権もそうだし、現在もそれが基調です。

多くの人が惑わされる「ポスト福祉国家派」の合流

多くの人がそこで惑わされるのは、「ポスト福祉国家派」と私は名付けていますが、その流れがここに合流する点です。そのきっかけは、グローバル化時代には所得税や法人税の徴収が難しいという論理を出発点にしたことです。これが落とし穴なのです。

具体的に名前をあげますと、民主党時代のブレーンであった神野直彦さんや宮本太郎さんが、「ポスト福祉国家派」の分権化推進論者です。彼らは新自由主義者よりよほど良心派なのですが、結果的に新自由主義者に迎合していく。なぜ迎合するかというと、出発点が消費税を中心にした税金にするしかないという消費税の基幹税化の罠にはまっているからです。

新自由主義者の主張は法人税廃止論

新自由主義者の主張は、法人税廃止論です。なぜなら、企業は株主から構成されているので、企業の利益は基本的に配当で株主に行くはずだから、企業から税金を取ってしまうと、株主の配当に税金をかけて二重課税になるというのが、経団連その他の現在の新自由主義者の典型的な議論です。ですから法人税の減税論者は、突き詰めていくと法人税廃止論になるのです。個人に企業の利益が分配された時点で、個人の所得税で税金をかければいいじゃないかというわけです。

この時、神野直彦さんは個人所得税をかける時には累進課税を残すと言っていますが、新自由主義派は累進課税を極力嫌う。そんなことをしたら豊かな人が逃げてしまうじゃないかと。だからフラット化して、20~30%の同一税率で、全ての税率を一本化するという話になります。

しかしその前に、新自由主義の新たな税制改革論では、所得を勤労課税と金融所得課税の2つに分けて、勤労者は逃げられないから累進税率、金融所得課税は逃げられるから、非常に低い10%といった低率の税金でやろうというのが、今進められようとしている「金融所得一体課税」です。

つまり、法人税を引き下げてゼロにした後で、個人所得税は金融所得と勤労所得の2つに分けて、金融所得はできるだけ安い税金、勤労所得は累進税で残してもいいということです。こうして、だんだん消費税が基幹税として中心にすわっていく、新自由主義に合流していくわけです。

消費税基幹税化に組み込まれると最後は道州制に

神野直彦さんは必ずしもそこまでは言っていなくて、消費税が基幹税になっても、所得税も法人税も残しましょうというスタンスで参画していて、妥協的条件を付けています。ただし、消費税基幹税化に組み込まれてしまっているから、垂直的所得再分配はあきらめているのです。すると「応益負担型」で自分達が負担して見返りにサービスをもらうという行政に変えていかないといけない。だから水平的所得再分配はやむを得ない。すると、消費税がこれにあたります。大衆が払う税金で社会保障をやったら、大衆の負担によって大衆の生活保障が成されることになるから、富める者から貧しい者にお金が流れる仕組みとは違ってきますね。それで、所得再分配の水平化には賛成するんです。そうすると分権化にもっていかれる。何から何まで分権化しようという流れに一端入り込んでしまうと、もう逃れらずに最後は道州制まで行ってしまうのですね。

ただしこの人達は、たとえ消費税を上げても、消費税で多少とも社会保障は豊かにしていかなければいけない、機能を強化していかなければいけないという良心を持っています。新自由主義者は「社会保障などは切れ」ということになってしまいますが、ここは違うのです。

社会保障改革国民会議は、この両派が合同してテーブルに着いている。民主党時代には若干なりとも「ポスト福祉国家派」が発言力を持っていたのですが、今の安倍政権のもとでは完全に逆転です。8月に答申が出ますが、消費税を上げても社会保障は緊縮、社会保障には回さないことになるに違いありません。今までは、消費税は上げるから社会保障をそれで圧縮することまではやらない、多少とも社会保障の機能を強化しますという論が残っていました。今までは併存していたんです。それが、次の参議院選挙を安倍政権が乗り切れば、この「新自由主義派」の社会保障改革になって、先ほどの財政悪化が進行するとますます社会保障にツケが回されるという話につながっていく。大きな流れの中で、2つの潮流は、こういう関係になるのです。

「応能負担原則」を崩さなければ国家行政によるナショナルミニマムは守れる

それは戦後の憲法の原則に照らしてもおかしいのであって、やはり消費税を基幹税化するのは許してはいけません。なぜなら、税制の大原則において「応能負担原則」を崩してはいけないし、この「応能負担原則」を崩さないということは、国家行政によるナショナルミニマム保障を守ることになるからです。「応能負担型税制」によって上げた歳入で、社会保障にしても教育にしても、誰にも平等に最低限の行政水準を保障していくことが大切です。

これは国家がやると垂直的所得再分配になるのですが、地域がやると、その地域で豊かな人にだけ特別な税金をかけることなどできませんから、結果的には分権化されると地域を単位にした受益者負担の形でやらざるを得なくなります。しかし、国家行政が担っている限りはそうはならず、垂直型でかつナショナルミニマム保障を守れるわけです。

分権化は税制の考え方と結びついている

この構図を頭に置いてもらって、国の出先機関の地方への移管や道州制をにらんだ分権化がどういう性格を持っているかを考えれば、国のナショナルミニマム保障責任の放棄に対する対抗軸を持つことができると思います。地域が自分達の負担で防災から産業基盤整備から生活基盤整備までやらなければいけないということになったり、道州になってしまうと、完全にひとつの独立したそれぞれの地方政府になってしまうので、国に頼るということはあり得なくなります。

道州制になったら道州の中のミニマムしかないわけです。そしてそれは道州ごとに違うことになります。そうなったら、戦後憲法のもとでの全国的な公平や「応能負担原則」に基づく行政はもはや保障されなくなります。そこにいま自民党安倍政権は足を踏み入れようとしている。そういう理解を、国公労連のみなさんは大きな構図でつかんでおく必要があると思っています。

分権化という時に一番ポイントになるのは、それが税制の考え方と結びついているので、垂直型所得再分配に基づくナショナルミニマム保障が、どの分野であろうと分権化のもとでは大きく後退してしまうという点です。この点をおさえておくことが最も重要です。新自由主義であれポスト福祉国家であれ、分権化を唱える人達の盲点はここにあるのです。垂直型所得再分配を放棄したり、ナショナルミニマム保障を軽視してしまうのです。そこをしっかり見ておかなければいけません。

2013年5月、二宮厚美神戸大学名誉教授談

▼インタビューの一部を視聴できます

井上伸

国家公務員一般労働組合執行委員、国公労連書記、雑誌編集者

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)本部書記、国家公務員一般労働組合(国公一般)執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、月刊誌『国公労調査時報』編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

井上伸の最近の記事

  1. 消費税増税が税制・行政・社会保障を歪め財政危機もたらし貧困と格差の拡大と地方衰退まねく

PR

個人アクセスランキング(国内)

国内トピックス

オーサー一覧(国内)

個人の書き手も有料ニュースを配信中

プライバシーポリシー - 利用規約 - 著作権 - 特定商取引法の表示 - ご意見・ご要望 - ヘルプ・お問い合わせ
Copyright (C) 2014 井上伸. All Rights Reserved.
Copyright (C) 2014 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.