交換レンズレビュー
EF 16-35mm F4L IS USM
画面の隅まで安定した光学性能
Reported by 曽根原昇(2014/7/25 08:00)
キヤノン「EF 16-35mm F4L IS USM」は、35mmフルサイズ対応のEFレンズの中にあって、優れた描写性能と操作性、堅牢性をもった高性能「Lシリーズ」に属するF4通しの超広角ズームである。
キヤノンのLレンズには、よく似たズーム域と開放F値の「EF 17-40mm F4L USM」がすでに存在しているが、新登場の本レンズでは広角端の焦点距離を16mmに拡大(同時に望遠端も広角よりの35mmとなった)するとともに、4段分の手ブレ補正効果をもつ「IS」を搭載。さらには描写性能にも磨きをかけ、画面の隅々までシャープな高画質を実現しているという。
執筆時点での大手量販店での販売価格は14万9,640円前後。F2.8通しで上位モデルに当たる「EF 16-35mm F2.8L II USM」とは6万円近い価格差があるため、開放F値を1段落としたとしても、使い勝手とコストパフォーマンスに優れた高性能な超広角ズームを望んでいた人にとって朗報だろう。
デザインと操作性
長さは112.8mm、質量は615g、フィルター径は77mmとなっている。従来の「EF 17-40mm F4L USM」の長さが96.8mm、質量475g、フィルター径77mmなので、比べればひと回り長く重い印象である。ただ、フルサイズ機であるEOS 6D、EOS 5D Mark III、EOS 1D Xなどとのマッチングは思った以上によく、フィルター径が82mmの「EF 16-35mm F2.8L II USM」に比べるとやはり軽快性を感じることができる。
鏡筒は、他のLレンズ同様に非常にしっかりとした造りで、ズームリングやピントリングを回す際にガタツキや余計な遊びを感じることは一切ない。リングのトルクや、スイッチ類のクリックは、スムースかつ適度な重さを備えており、Lの称号に相応しい高級レンズの風格を備えたレンズである。
もちろん、粉塵や水滴の侵入を防いで過酷な環境にも耐える防塵防滴構造をもつが、「EF 17-40mm F4L USM」や「EF 16-35mm F2.8L II USM」など、他の超広角ズームLシリーズと同じく、プロテクトフィルターを装着することで十分な性能を発揮するように設計されている。これは、レンズ前群がズーミングによって鏡筒内で前後に移動するためであり(レンズの全長自体は変化しない)、この点は注意して使用するようにしたい。
AF駆動は、大型の光学系の駆動に最適なリングUSMが搭載されているため、AFは非常に速く、静音性に優れ、かつ正確である。AFの動作に関してストレスを感じることは、まずないだろう。当然、AFでピントを合わせた後、スイッチの切り換えなしでピントの微調整を手動で行える「フルタイムマニュアルフォーカス」も可能である。
鏡筒側面にはAF/MFの切り換えスイッチと、手ブレ補正機構ISのON/OFFスイッチが並んでいる。本レンズに手ブレ補正機構が搭載されたことで、キヤノンの超広角ズームLシリーズにおいても、より低ISO感度で、より低速なシャッターを手持ちで切ることが可能となったわけである。これまで以上に表現領域の拡大が期待できるという意味で、本レンズの操作性上の大きなアドバンテージといえるだろう。
遠景の描写は?
今回はEOS 5D Mark IIIに本レンズを装着して撮影を行ったが、撮影時点ではボディ内のレンズ光学補正機能に本レンズは対応していなかった。したがって、撮影結果は周辺光量や色収差などを補正する画像処理は行われていないことに留意していただきたい。
遠景描写について結果を先に述べれば、キヤノンのアナウンスの通り、絞り開放から画面の隅々まで画質の安定した、描写性能の非常に高いトップクラスの超広角ズームであるといえる。
広角端の焦点距離16mmという超広角をズーム域に含みながら、歪曲収差や倍率色収差などの諸収差は高いレベルで補正されており、ズーム全域でLレンズらしい、ヌケがよく気持ちのよい解像感を得ることができる。絞り込むほどにシャープネスやコントラストは向上するのであるが、その差はわずかであるため絞り開放から安心して使うことが可能だ。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
広角端
望遠端
厳密なことをいえば、広角端での絞り開放時に周辺光量がやや低下することと、超広角レンズで発生しがちな倍率色収差が極わずかに見られることが、あえて問題であるといえばいえなくもない。しかし、それを加味しても超広角ズームレンズとして画期的な高性能レンズである評価は変わらない。
また、将来的にボディ内でのレンズ光学補正や、EOSボディに付属のRAW現像ソフト、「Digital Photo Professional」の光学特性補正機能に対応すれば、この評価はますます高くなる。
ボケ味は?
本レンズの最短撮影距離はズーム全域で0.28m。これは「EF 17-40mm F4L USM」および「EF 16-35mm F2.8L II USM」と同じスペックであり、超広角ズームの近接撮影能力として申し分ない。
超広角レンズは背景が広く写るため、二線ボケなどが発生すると前後のボケが目立って煩く写ることがままあるが、本レンズではいずれのズーム域でもそのようなことはなく、素直で柔らかな前後のボケを得ることができた。
広角端
逆光耐性は?
太陽を画面の左上に配置して、太陽を画面内に入れた場合と、太陽が画面にギリギリ入らない条件で撮影をした。いずれもゴーストやフレアが最も発生しやすい厳しい逆光条件である。
その結果、太陽が画面内に入っているか否かにかかわらず、広角端では画面を覆うような緑色の広いゴーストと、太陽周辺で虹色のシャワー状ゴーストが、望遠端では画面右下に赤色の玉状のゴーストが発生した。ただし、ゴーストが発生しても画面全体のコントラストはよく維持されている。
広角端
望遠端
光源の位置によっては比較的ゴーストが発生しやすいようではあるが、少し光源の位置をずらすだけで発生の頻度や画面に占める大きさの割合は劇的に変化するので、作画時に気をつけて撮影するようにしたい。また、付属のレンズフードは常時装着した方がよいだろう。
作品
まとめ
引きの取れない場所で広く写すことができたり、近いものは大きく、遠くのものは小さく写して遠近感を強調したりできるなど、独特の表現ができるのが超広角ズームの醍醐味。標準ズームや望遠ズームとともに、一眼レフのレンズシステムにおいて中核を担う存在といって過言でない。
そのような超広角ズームにおいて、本レンズの特筆すべき点は、画像処理に頼らずとも画面の隅々まで安定した高い光学性能と、新たに搭載された手ブレ補正機構にある。実際、今回の試写中でも、その画期的な画質の高さと手ブレ補正機構の効果は常に実感することができ、撮影に安心感を与えてくれた。
描写性能・操作性・価格をトータルで考えたとき、そのバランスは現行同種のレンズラインナップの中でも抜群によい。実に実用性の高い、一押しの一眼レフ用超広角ズームである。
URL
- EF 16-35mm F4L IS USM
- http://cweb.canon.jp/ef/lineup/wide-zoom/ef16-35-f4l-is-usm/index.html
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