ROEが一時もてはやされた20年前から、現在までの変化をどう見ていますか。
柳:金融機関や事業会社同士の株式持ち合いの解消が進み、代わりに海外投資家の保有比率が高まって国内勢を追い抜くなど、日本企業の株主構成は大きく変わった。資本の論理が強まり、金融危機など外部環境の変化もバネにして、日本企業はコスト削減など経営努力を続けてきた。その結果、輸出企業のように1ドル=80円程度まで円高が進んでも耐えられるような動きが出てきた。
2012年末からのアベノミクスによる円安の加速でマージン(粗利益)の改善に弾みが付けた。今後は法人減税で純利益の増加が見込める。欧米の企業に比べて日本企業の売上高利益率はまだ低いが、イノベーションで画期的なモノを作り、コスト構造改革をさらに進めること。そしてM&A(合併・買収)を通じて国内での過当競争をなくしていけば、欧米に追い付くことができる。
今後の課題は。
柳:(自己資本に対する総資産の大きさで、お金のバランスを示す)財務レバレッジの向上だ。主要企業の平均をみると日本、欧米企業とも2倍台後半でほぼ同じ。だが個別にみると、ばらつきが大きい。その要因は自己資本の水準にある。
米企業の自己資本比率は約7割が20%台後半〜70%に集中する。それに対して日本企業は約半分が60%以上か20%以下。余分な自己資本を抱えて経営効率が悪い「過剰資本」、または十分な自己資本を持たず経営が安定性に欠ける「過少資本」の状態だ。
過剰資本の状態になっているのは、企業が稼いだ利益を配当や自社株買いとして十分に配分せず、自己資本に積み上げていることが大きい。純利益の何割を、配当と自社株買いに回すかを示す総還元性向をみると、米国では「100%以上」とする企業が全体の3分の1と最も多い。それに対して、日本企業は「15〜30%」の企業が全体の4割近くを占める。
日本企業は、配当は積極的に出すが、自社株買いには消極的な例も多い。純利益のうち配当に回す割合を示す配当性向だけをみると、日米ともに平均で30%程度。30%程度の配当を出せば投資家から一定の評価を得られる、との意識が働き、「右へならえ」と同様に考える企業が多いこともある。