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生活保護のリアル みわよしこ
【政策ウォッチ編・第70回】 2014年7月25日
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みわよしこ [フリーランス・ライター]

外国人の生活保護受給は是か非か
最高裁判決を読み解く「共同体」というキーワード
――政策ウォッチ編・第70回

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「一緒に生きる仲間」と考えることから
始めるしかない

 話を、今回の最高裁判決に戻そう。外国人に対して「健康で文化的な最低限度の生活」の保障を行うことを止めたら、日本はどうなってしまうだろうか?

 「外国人を労働者として使いながら、最低生活保障を行わないとすれば、19世紀の労働者と同じ状況を作るだけです。グローバル化が進んでいますから、国内だけでなく世界中で同じことが行われるわけです。日本資本が外国で、外国人労働者を日本人より低い賃金で雇用してきていますけれども、簡単に企業が『ボロ儲け』はできませんよね。労働問題も起これば、賃上げ要求もされます。それと同じことです」(笹沼氏)

 では、現在日本に居住している外国人の人々については?

 「外国人の人々、かつて『日本帝国臣民』であった旧植民地の人々は、今、ともに日本に居住して生活しているわけです。旅行者ではないので、すぐにどこかに行く可能性はありません。一緒に暮らさざるを得ない存在です。

 2008年、『派遣切り』に遭ったブラジル人の中には、帰国支援制度を使ってすぐに帰国した人もいましたが、さまざまな事情から、日本に引き続き居ざるを得ない人々もいました。その人たちが『一緒に居住している共同体の仲間なんだ』ということから考え始めるしかないと思います」(笹沼氏)

 そもそも、憲法の及ぶ範囲そのものに、数多くの解釈の可能性がある。

 「日本国憲法25条が『すべて国民は』という文言を使っているから生存権保障から外国人を排除していると解釈する文言説は既に否定されており、権利の性質によって外国人にも保障されるという「性質説」が通説とされています。地方参政権であれば外国人にも保障されるという考え方もあるわけですから、生存権が外国人に保障されるという考え方には説得力があると思います。したがって、憲法25条の理念に基づく生活保護法が外国人にも保護受給権を保障しているという解釈も成り立つはずです」(笹沼氏)

 結局は、「外国人」や「生活保護」という面だけに注目していたら、建設的に次のステップに結びつく理解はできない、ということだろう。「社会保障」とは? そもそも「社会」とは? 「共同体」とは? 「公共」とは? という根本的な問題から考え続ける必要がありそうだ。

 次回は、見直しが検討されている住宅扶助に関して、引き続きレポートする予定である。

<お知らせ>
本連載に大幅な加筆を加えて再編集した書籍『生活保護リアル』(日本評論社)が、2013年7月5日より、全国の書店で好評発売中です。

本田由紀氏推薦文
「この本が差し出す様々な『リアル』は、生活保護への憎悪という濃霧を吹き払う一陣の風となるだろう」

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みわよしこ [フリーランス・ライター]

1963年、福岡市長浜生まれ。1990年、東京理科大学大学院修士課程(物理学専攻)修了後、電機メーカで半導体デバイスの研究・開発に10年間従事。在職中より執筆活動を開始、2000年より著述業に専念。主な守備範囲はコンピュータ全般。2004年、運動障害が発生(2007年に障害認定)したことから、社会保障・社会福祉に問題意識を向けはじめた。現在は電動車椅子を使用。東京23区西端近く、農園や竹やぶに囲まれた地域で、2匹の高齢猫と暮らす。日常雑記ブログはこちら


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急増する生活保護費の不正受給が社会問題化する昨今。「生活保護」制度自体の見直しまでもが取りざたされはじめている。本連載では、生活保護という制度・その周辺の人々の素顔を知ってもらうことを目的とし、制度そのものの解説とともに、生活保護受給者たちなどを取材。「ありのまま」の姿を紹介してゆく。

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