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【社会】

市民感覚 阻害の恐れ 「量刑の公平性重要」評価も

 市民感覚の刑の判断を、最高裁が「重すぎる」と覆した。スタートから五年が過ぎた裁判員裁判で、求刑を大きく超える判決が増える中、過去の判例との公平性に配慮するよう促した形だ。しかしプロの裁判官と異なる判決が出ることは、市民が裁くという趣旨からは当然ともいえる。裁判官の「介入」が強まることに「裁判員制度が形骸化する」との声も上がる。 (沢田敦)

 裁判員裁判での求刑超え判決が、判決全体に占める割合は1%程度。一方、裁判員裁判の対象になる事件で、過去に裁判官だけで行われた裁判では、求刑超え判決は0・1%ほど。裁判員裁判は厳しい判決が十倍近く、厳罰化が強まっている。

 求刑超え判決のほぼ半数は殺人、傷害致死事件。中でも厳しい結果が目立つのが、今回のような幼児虐待事件だ。人命にかかわる結果を、市民が重視している実態がうかがえる。

 二〇〇九年五月の制度スタート当初、最高裁は裁判員裁判の判決を尊重し、「不可侵」ともいえる態度を取ってきた。覚せい剤密輸事件をめぐる一二年二月の判決では「よほど不合理でない限り、裁判員裁判の結論を尊重すべきだ」との考えを鮮明に打ち出した。

 裁判員の判断は刑事司法に新しい風を吹き込んだが、最高裁は一転、今回の判決でその流れにブレーキをかけた。

 白木勇裁判長は補足意見で「裁判官と裁判員の量刑評議が必ずしもあるべき姿に沿った形で進められていないのではないかという疑問がある。評議を適切に運営することは裁判官の重要な職責だ」と指摘した。あくまで今回の事件の評議への意見だが、裁判員が極端な意見に走る場合は、裁判官が適切にリードするよう求めた。

 元東京高裁判事の門野博・法政大法科大学院教授は「他の裁判との公平性の大切さを裁判員に十分示した上で評議や判断を行うよう、裁判官にメッセージを送った判決だ」とみる。その上で「裁判員裁判の結論でも、控訴審や上告審で重大な問題があると思えば、適切に是正しなければならない」と話す。だが、市民感覚を取り入れた判決を、プロの裁判官が「修正」することが当たり前になれば、裁判員制度は骨抜きになる。

 裁判員制度の制度設計に携わった四宮啓(しのみやさとる)・国学院大法科大学院教授も、今回の判決の影響で、先例重視の流れが強まらないかと心配する。「量刑にも民意を反映させるのが制度の趣旨。評議で裁判官が量刑傾向を説明する際は、先例重視に傾かない運用が求められる。説明によって裁判員の自由な意見表明が阻害されてはならず、国民意識から乖離(かいり)してはいけない」としている。

 <求刑> 刑事裁判で証拠調べが終了した後、検察官は「論告」で起訴事実の内容や適用する法律について意見陳述し、相当と考える量刑を述べる。あくまで参考意見との位置付けで、裁判官や裁判員は判断を縛られずに求刑を上回る刑を言い渡してもよい。2008年12月に始まった被害者参加制度に基づき、被害者や遺族も量刑について意見を述べることができるようになった。

 

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