その新規事業計画書は「絵空事」ではないか

立派な新規事業計画書でも、そこにビジネスモデルの核心が描かれていなければ絵空事と同じだ。「最初の顧客は誰か」「最初の販売はどう行われるか」をあらゆる側面から問うて明らかにせよ、とアンソニーは説く。


「事業の目的は顧客の創造である」というピーター・ドラッカーの有名な言葉がある。だが多くのイノベーターは、顧客の創造よりも「マイクロソフトの小説」とでも言うべき絵空事を創造している。

 私は最近、あるクライアントとのプロジェクトでこのことを痛感した。そのチームはCEOの指示により、有望な市場での新規事業の開発に取り組んでいた。3名のメンバーが約6週間をかけ、業界の多くの専門家および見込み客と話をして、詳細な調査を行った。そして、チームはマイクロソフトの最も人気のある製品を使用して、自分たちが考えた事業計画を作成した。だが、それは実際のところ、3つの章から構成されるある種の小説であった。驚くべき売上げの可能性が洗練された分析と数値で示された、エクセルのシート。説得力のあるビデオや写真とともに、さまざまなデータや情報が盛り込まれたパワーポイントのスライド。マルコム・グラッドウェルさえ感銘を受けそうなほど明快にまとめられたワードの文書――。

 しかし、顧客を創造しない限り、事業にはならない。プロジェクトチームがこの作品を発表するのを聞き終えた私は、素朴な質問を投げかけた。「誰が最初の顧客になるのでしょうか?」

 チームはマイクロソフトの小説の第2章12ページ、つまりパワーポイントのスライド12枚目を示し、自信たっぷりに人口動態の数字を詳細に説明し始めた。そのスライドには、ターゲット市場の60%が、ある所得層における18歳から34歳の男性であることが示されていた。

 そこで私は再び質問した。データや情報についての説明ではなく、私はチームにもっと明確に答えてほしかった。その顧客の名前は何というのか。彼はどこに住んでいるのか。どんな格好をしているのか。彼の希望や夢、野心は何なのか。彼は何が好きなのか。何に夢中なのか。チームの考える新規事業は、彼の生活にどう組み込まれるのか。

 最初の顧客像をそのように念入りに設定した後、我々は最初の販売がどう行われるのかを検討した。具体的には、次のような問いについて考えていった。

●顧客には、具体的に何が提供されるのか。
●顧客はどうやって我々の製品・サービスを知るのか。
●顧客は何がきっかけでその製品・サービスを購入するのか。
●顧客はいくら支払うのか。いつ、どうやってその金額を支払うのか。
●顧客はどのようにその製品・サービスを受け取るのか。
●その製品・サービスを生産し、提供するには、何が必要なのか。
●顧客にその製品・サービスを初めて使ってみる気にさせるのは何か。

 こうした問いを検討していくことで初めて、現実性のあるビジネスモデル――顧客価値を創造し、それを提供し、自社のために価値を獲得する方法――を描くことができた。

 何かしら提案すれば、物事が進んだものと勘違いしてしまうことは往々にしてある。特に大企業では、経営幹部たちからマイクロソフトの小説が求められることが多い。まずは顧客が誰なのか、その顧客が求める価値は何なのかについて話を始めよう。最初の売上げがどう立つのかも詳細に考えるのだ。実際の事業構築に着手するのは、その後だ。


HBR.ORG原文:Business Plans and Other Works of Fiction November 6, 2013

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スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイトのマネージング・パートナー。
同社はクレイトン・クリステンセンとマーク・ジョンソンの共同創設によるコンサルティング会社。企業のイノベーションと成長事業を支援している。主な著書に『イノベーションの最終解』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションの解 実践編』(ジョンソンらとの共著)などがある。

 

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