中国の米国系会社「上海福喜食品」が使用期限切れの肉類を加工し供給していた不正は、組織ぐるみ犯罪の可能性が高い。中国は今や世界の「工場」である。自らの手で不信を拭い去ってほしい。
衝撃的な映像であった。不正を暴いた上海テレビの工場潜入取材で、肉類の「期限切れ」を指摘する従業員に対し、別の従業員が「死にはしないよ」と平然と答えていた。人の口に入る食品を扱う者として、モラルの低下というだけでは済まない悪質極まりない態度だ。
検査の前には安全基準を満たさない肉類を隠し、検査が済むと再び生産加工ラインに戻していた。
上海市の食品薬品監督管理局は工場長以上の指示による「組織的不正」と認定し、市公安当局は社幹部らを刑事拘束した。
一歩間違えば人の命にかかわる重大な犯罪といえる。事件の全容を解明し、厳しく責任者の刑事責任を追及してほしい。
中国で食の安全を脅かす事件の続発は目を覆うばかりである。
工場の待遇への不満から、製品のギョーザに農薬成分を混入させた男には一月、無期懲役の判決が言い渡された。河北省の企業は有毒物質メラミンを混入させた粉ミルクを製造し、少なくとも五人の乳児の命が奪われた。
腐敗した役人と企業の癒着による安全管理の不徹底が、食の安全をめぐる不正や事件の背景にあると指摘される。
李克強首相は国会にあたる全国人民代表大会の閉幕会見で、食の安全について「生活の質と健康に直結する」と危機感をにじませた。中国政府はこうした癒着の問題に鋭くメスを入れてほしい。
今の中国社会をよく見ると、社会的なモラルの崩壊とすらいえるような状況が気がかりだ。
改革開放政策の負の影響ともいえる行きすぎた“拝金主義”のまん延で、自分さえもうかれば他人はどうでもよいと考えるような、自分中心の冷たい価値観を持つ人が増えているように感じる。
一方、日本の農林水産物の輸入は中国からが米国に次いで多く、二〇一三年は約一兆二千億円にのぼる。この会社から調達していた日本マクドナルド、ファミリーマートは現地工場で安全性をチェックしていたが、その裏をかく会社ぐるみのモラル低下と不正を防ぐ手だては見あたらないのが現状だ。厚生労働省は輸入管理体制の調査を始める。水際でのチェック強化も急務だ。
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