「宇宙開発の新潮流」

なぜオバマ大統領は「撃墜はロシアに責任」と言えたのか

米国の早期警戒衛星システムの一端が明らかに

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2014年7月25日(金)

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 7月17日にオランダからマレーシアに向かっていたマレーシア航空17便(MH17)がウクライナ・ドネツク州グラボヴォ付近に墜落した。7月24日現時点では、親ロシア派の「ドネツク人民共和国」が発射したロシア製地対空ミサイル「ブーク」が同機を撃墜した可能性が濃厚だ。

 この事件の被害者へ哀悼の意を表すことと、事件解明を切に願うことは当然として、当コラムでは宇宙関連という面から見てみたい。

米政府高官の“意図的な”リーク

 まず興味深いのは、米航空宇宙専門誌のAviation Week誌が事件発生直後に米高官の発言として「MH17はミサイルにより撃墜された」と伝えたことだ。

 同誌は高官が「アメリカはミサイル発射を検知するシステムを持っている」と発言したとしている。これは明らかに、アメリカが保有する早期警戒衛星システム「DSP(Defense Support Program)」と、現在構築中の次世代早期警戒衛星システム「SBIRS」のことだ。

 今までアメリカは、早期警戒衛星システムの能力について公式、非公式を問わずその性能が分かるような情報をほとんど出していない。今回の発言で、米早期警戒衛星システムが、少なくとも到達高度25kmのブーククラスの地対空ミサイルの発射を高い精度で検知できることが明らかになった。

 このことは、冷戦時に構築された早期警戒衛星システムが、地域紛争や低強度紛争の監視にも使えることを意味する。さらに、政府高官が発言したということからは、アメリカ政府が、早期警戒衛星システムから得た情報の一切を秘匿した冷戦時代とは異なり、地域紛争を巡る国際関係の駆け引きに使う意志を示し始めたと考え得る。

宇宙から小型ミサイルも常時監視

 早期警戒衛星は冷戦時に大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を検知するために構築されたシステムだ。静止軌道上の衛星から地上を監視し、ミサイルの噴射から発生する赤外線を検知する。アメリカは1970年代から早期警戒衛星網「DSP」を赤道上空3万6000kmの静止軌道に展開した。DSPは、本来冷戦において大型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を検知して、報復核攻撃を行うための衛星システムだった。が、1991年の湾岸戦争では、ICBMよりは小型の短距離弾道ミサイル(SRBM)であるイラクのスカッド発射を検知して、現地で迎撃するパトリオット部隊にデータを流したとされている。

 現在アメリカは、ミサイル防衛構想(MD)に対応した次世代の早期警戒衛星システム「SBIRS(Space-Based Infrared System)」を構築中だ。すでに7機のSBIRS衛星が打ち上げられている。

 冷戦時、DSPの観測能力に関する情報は完全に秘匿されていた。「なにがどれだけ見えるのか分からない」ということが、抑止力として機能していたからだ。冷戦終結後もこの方針は堅持されていたが、今回“米国防省御用達リークメディア”とも言われるAviation Week誌に高官発言として、早期警戒衛星システムの能力に関する発言が出たということは、その方針が覆る可能性を示唆する。


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