どんなに事前の対策を講じても、不正や犯罪を100%防ぐことはできない。

 利便性と引き換えに、さまざまな個人情報を電子化してやりとりすることが当たり前の社会に私たちは暮らしている。

 通信教育大手ベネッセホールディングスの子ども情報が大量に流出した事件は、容疑者が逮捕されて、流出の全容解明と今後の対策に焦点が移った。

 とりわけ問題として浮上しているのが「名簿ビジネス」のあり方だ。

 名簿の流通を律する法律としては個人情報保護法がある。だが、名簿を持つ企業は「当事者から求められたら削除する」という条件を満たせば、転売できる。その名簿を仕入れて別の企業に売る名簿業者も「不正に流出したものとは知らなかった」と説明すれば、司直の手が入りにくいのが実情だ。

 そもそも、こうした名簿業者が何社あるのか、現時点ではわかっていない。業界内には、ホームページを設けて大規模に展開する企業もあれば、暴力団などと一体化して不正入手した金融情報などを売買する業者もいるという。

 こうした不透明さも、私たちの個人情報がどこでどう使われているのかわからないという不安の温床になっている。

 政府は名簿業界の実態を把握する手立てをできるだけ早く講じるべきだ。

 そのためには、名簿業者を登録制にすることを考えたい。基準を定めて登録する仕組みがあれば、怪しげな業者を選別する一つの目安にもなるだろう。

 業界の自主的な取り組みだけでは不十分なら、所管官庁を明確にして法律をつくることを視野に入れてもよい。名簿の入手が不正だったり、犯罪性が疑われたりする場合に、立ち入り調査できるようにしてはどうだろうか。

 もちろん、規制を強めれば解決するわけではない。民間のビジネスに政府が過度に干渉することも避けるべきだ。

 そもそも名簿業者の隆盛は、個人情報保護が厳しくなったことと裏表の関係にある。ニーズがある限り、違法とされる行為が水面下にもぐり込んで続く危険も生じる。

 個人情報は、どこまで共有できるか、どこからが守られるべきなのかという命題にも、改めて向き合う必要がある。

 個人情報をもつ企業ができる限りの対策を不断に積み重ねることは当然としても、それだけでは問題を防げないことをベネッセの事件は示している。