どの国や地域であれ、人間の安全と財産、権利を守るのが政治の役割のはずだ。

 中東のイスラエルとパレスチナとの間で今起きているのは、その逆ではないか。政治の思惑で紛争が起こされる。市民が逃げ惑い、次々に命を落とす。

 パレスチナ自治区ガザの紛争は悪化の一途をたどり、23日までの死者は700人を超えた。双方の指導者の責任は重い。

 長く複雑な歴史をくぐってきた紛争である。根本的な解決は容易ではない。だとしても、いま眼前で続く流血を止めるのが何よりも最優先である。

 力の差を考えれば、紛争を収束させる主導権はイスラエルにある。ネタニヤフ政権は無差別の攻撃をやめるべきだ。

 一方のイスラム組織ハマスもこれ以上ガザの市民を危険にさらす行為を続けてはならない。ロケット攻撃などを控え、紛争の収拾を急がねばならない。

 イスラエルが先週から踏み切った地上戦は、流血の規模を一気に拡大した。国内の強硬派をなだめる意図だったとすれば、なおさら無謀というほかない。

 ネタニヤフ政権はしきりに自衛権を主張しているが、いまの侵攻は明らかに自衛の範囲を超えている。犠牲者の大半がパレスチナ人で、23日までに700人余り。そのうち200人以上は子どもや女性だ。

 地上侵攻でイスラエル側も兵士を中心に被害が急増し、死者は30人余りに達した。イスラエル側もこれ以上、痛ましい犠牲を重ねるのは理不尽だ。

 ガザの人口は約170万人。その地域全体がイスラエルの強いる検問と人工壁などで封鎖されており、「天井のない監獄」とも呼ばれる。

 抜本的にはその窮状の改善が必要だが、当面の域内ではハマスの側に重い統治責任がある。市民の犠牲をいとわず戦い続けて内外の同情を集めようとするならば、大きな間違いだ。

 侵攻前の先週、エジプトが停戦案を示し、今週からは米国のケリー国務長官も中東入りして仲介にあたっている。

 ハマスに影響力のあるペルシャ湾岸の国カタールや、トルコも巻き込んで、一刻も早く安定化を図る必要がある。

 このまま悲惨な状態が続けば、もっと過激な勢力がガザに台頭するおそれもある。イスラエル側で誘拐やテロが頻発する事態も考えられる。

 長期的にはイスラエルとパレスチナの共存を探る和平交渉を復活させるべきだろう。そのためにもまず、今は双方が武器を置いて頭を冷やすときだ。